数分の空の旅を終え、シュヴァンフヴィードと4人の妖精を乗せたクレーベⅠは第1航空戦闘群旗艦、軽空母鳳翔の艤装甲板に着陸した。
甲板に降り立つと、クレーベⅠのメインローターの風圧で軍帽が飛びそうになり、右手で押さえる。甲板を見渡すと、武装した妖精4人が降りてきたため甲板員は警戒して固まっていた。
そこへ、一人の女性が艦橋から出てくる。艦娘の鳳翔だ。
薄い紅色の和服を動きの邪魔にならないように袖をタスキで縛り、紺色の袴を履いている。長い髪をポニーテールにしている。
おっとりとした顔立ちが印象にのこる人だ。
メインローターの風圧を背に、鳳翔が立つ場所まで4人はいことすると、シュヴァンフヴィードは呼び止め「ここで待っていて。何かあったら通信で呼んで」と護衛の妖精に厳命していく。
しぶしぶではあるが艦長の命令に「了解」と答えた。
これは、こちらが情報共有を提案しておいて武装した者を連れて行くのは礼儀に反するとシュヴァンフヴィードの矜持に反するからだ。
そしてもしも、鳳翔がこちらを危険とみなして拘束するなら移動手段のクレーベⅠを押さえてしまえばそこで終わりだ。そのために4人を待機させ異常時は彼女らだけでも速やかに退避させようと算段していた。
「ウィルキア王国海軍近衛艦隊旗艦シュヴァンフヴィードです。当艦への乗艦を許可していただき、感謝します」
「日本帝國海軍第12空母戦闘群旗艦鳳翔です。こちらこそ乗艦していただき感謝しています。ここではなんですので艦橋までお越しくださいませんか?」
「わかりました」
「ではこちらです」と先導する鳳翔に付いて、艦橋と甲板を繋ぐ扉をくぐり、狭い階段を上り、艦橋内に入る。周囲を見渡すと、内装から電子機器の類が古いことに気が付く。
用意したのか木製のテーブルと椅子が用意されており、鳳翔は着席するように促し、シュヴァンフヴィードは椅子に座る。
周りには妖精が囲むようにしていて、まるで尋問される側だなとシュヴァンフヴィードは感じた。
互いに向き合い、緊張するの中、話の発端を開いたのはシュヴァンフヴィードだった。
「まず初めにこちらから質問させてもらってもいいですか?」
「はい」
「先ほど通信で貴女が仰いました、私の祖国、ウィルキアを存じないと言うのは本当ですか」
「はい、本当です。この世界にはウィルキアという国は恐らくですがありません」
鳳翔の表情から嘘ではないと読み取ったシュヴァンフヴィードは落胆したが気持ちを切り替える。今は、落ち込んでいい時ではない。
「次はこちらからよろしいですか?」
「どうぞ、答えられる範囲でなら」
「貴女はアルフォンシーノ方面から来ましたね?」
アルフォンシーノ方面? おそらくアリューシャン方面の事だろうとすぐにわかり頷く。
「実はアルフォンシーノ方面は深海棲艦の勢力圏です。貴女はどこから祖国を目指してきたのですか?」
「北緯57度30分、東経176度17分、ベーリング海海上で私は艦娘として目覚め、祖国を目指して南下していました。約24時間前です」
「24時間前! 実は私たちは深海棲艦の艦隊を追撃中に、貴女に遭遇しました。その敵艦隊と遭遇しましたか?」
「はい、遭遇し、戦闘をして全艦を撃沈しました」
「お一人でですか?! 戦艦級2隻を含んだ航空戦闘群を?!」
「そうです」
鳳翔と取り巻きに妖精たちは顔見合わせながら驚いた。
そして戦慄した。目の前の艦娘は単艦で、航空戦闘群と渡り合える戦力であることに。
もしも、その矛先が、自分たちに向けられたことを想像した鳳翔の額から一粒の汗が流れ落ちた。
「被害のほどは?」
「皆無です。私は航空戦力に対抗するための手段を持っています。貴女の国では、三式弾でしたか? その類を装備しています」
「……そうですか。遅れながらお礼を申し上げます」
鳳翔は深々と頭を下げる。
「鳳翔さん、よければ貴女の知っている範囲でこの世界のことを教えてもらえませんか?」
「わかりました」
数十年前。突如として全世界の海域に現れたなぜの生物。彼らは沿岸部の都市や、通商船などを無差別に攻撃し、世界は一時に混乱を来すも、結束、連合軍を組織。この謎の生物の呼称を深海棲艦として戦うこと宣言した。
しかし、湯水の如き湧いてくる深海棲艦に連合軍は終わりが見えない泥沼の消耗戦に突入した。開戦から2年が立つ頃には各国は、自国の防衛に専念し、連合軍は解散。
それ以降、徐々に深海棲艦たちに海域と空域を奪われ、各国への通信網は切断され、孤軍奮闘状態で戦闘を強いられ、すり潰されていった。
開戦から10年、海域を偵察していた巡視艦が少女が操る軍艦を発見。深海棲艦に効果のある装備を操る戦艦の少女たち。
彼女たちを艦娘と称し、各国は全海域で艦娘を捜索して深海棲艦との戦闘に投入。被害を出しながらも深海棲艦の勢力を押し返すかと見た。が、艦娘に対抗するかのように人型の深海棲艦が出現。
艦娘同様に戦艦を操り、人間のような戦術を使い始めた。
そして一進一退の戦況が今日である。
「私たち日本帝國もできるだけのことをしています。けど、戦況は芳しくありません。南は小笠原、北は択捉までの海域を防衛するのに精一杯の状況です」
「……わかりました」
世界情勢を聞き終え、シュヴァンフヴィードは深い息をついて整理していく。
深海棲艦は十数年前に世界各地の海域から現れた。
各国は団結するも疲弊して2年で空中分解。空域を制圧された地域とは連絡が取れないことから、電波妨害が可能と推測される。
艦娘が現れてから巻き返すも、近年になって人型、ル級1たちのような存在が確認され膠着状態と。
厳しい世界に転生させられてしまったものだと天井を仰いだ。
「もし、行く当てがないのなら、日本に来ませんか?」
見計らったように鳳翔は提案してきた。
「日本にですか……」
「貴女の国はありませんけど、生前は同盟国と仰いました。我が国に落ち着くのも一つの手かと。その時は手厚くもてなすと思います」
つまるところは自分という戦力が欲しいのだろう、察したが行く当てもなく海を彷徨(さまよ)うことは乗組員たちに申し訳が立たない。
敢えて、自分から言うことでこちらに選択肢を与えないことから彼女たちも必死なんだろう。
「わかりました。その申し出お受けします」
「本当ですか?!」
「はい、日本にお世話になろうと思います」
鳳翔との会談を終え、艤装に帰還したシュヴァンフヴィードが向かったのはやはり医療室であった。
やや疲れがたまっていたが、彼女たちにも重要な決断を自分は下してきてしまった。
後に回すことはできなかった。
医療室に入ると、シュヴァンフヴィードを待っていたかのように2人は一つのベッドに座っていた。
「カエッテキタカ」
「驚いた。もう包帯が取れたんだ」
「アア……妖精ノオカゲダ」
「そう。よかった」
「………実ハオ前ニ話ガアル」
神妙そうに顔をしかめる二人に、シュヴァンフヴィードは「なに?」と優しく答える。
「オマエハ言ッタナ、傷ガ癒エタラ開放スルト」
「ええ」
「ソノコトナノダガ……ワタシタチハカエレナイ」
「なぜ?」
「…………旗艦ヲ失イ、アマツサエオ……貴女ニ、艦娘ニ助ケラレ帰還シタナドト知ラレレバ……ワタシタチハ殺サレル」
微かに震える彼女は妹に抱きしめられながら続ける。
「ダカラ、ドウカ私タチヲココニ居サセテ欲シイ! 知ッテイル事ハナンデモ言ウ。雑用デモナンデモスルダカラ……頼ムッ!」
「私モナンデモシマス! ダカラ居サセテ下サイ!」
頭を下げ2人は懇願する。
そんな2人にシュヴァンフヴィードは微笑みながら答えた。
「私は言いました捕虜でなくゲストだと。帰るのが無理ならここに居ても結構です」
「本当カ?!」
「はい。しかし、私たちは日本に行きます」
「日本ニ?」
2人は顔を見合わせる。
「最初の目的地、祖国ウィルキアが無いと知りました。このまま当てもなく航海を続けるより一度腰を落ち着けるところに居座ろうと思います。けど約束する――貴女たち2人を決して受け渡しはしないと」
強い声音で言い切るシュヴァンフヴィードに心打たれたのか、ル級1の瞳がキラキラと涙で光る。
「ワカッタ。貴女ヲ信ジル。ダカラゲストトシテデハナク私タチヲ僚艦ニシテ欲シイ!」
「私モネエサント同ジデス!」
「わかりました。貴女2人を私の旗下に加えます、ようこそ我が艦隊へ」
差し出されたシュヴァンフヴィードの右手を2人は両手で強く握りしめた。
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