ドラゴンクエストⅦ ~俺もエデンの戦士~   作:ユキユキさん

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次は、俺の系譜だなぁ~…。


第4話 ~マチルダ/帰還

ーユーキスー

 

その言葉通り、マチルダは何もしない。斬ってくれと言わんばかりに棒立ちだ、流石のハンクさんも苦悩しているようだ。襲い掛かってくるならば、迷うことなく討てるというのに何もしないから。それどころか、…彼女は死を望んでいる。望んでいるからこそ、討つ決心がなかなか出来ない。

 

俺も夢のせいか、彼女が小さな女の子と重なって見えてしまう。禍々しい骸骨戦士であるのに、悲しそうに此方を見る小さな女の子に。兄を殺され、その姿を魔物に変えられ災いを運ぶ。心優しき彼女をこのような姿に変えた者が許せない、討たなければならないこの現状がとても辛い。だがそれでもハンクさんは、そして俺達は彼女を討たねばならないのだ。

 

俺は決意を固める為に、彼女から貰った木の人形を取り出す。マチルダの兄の想いが込められた木の人形、彼女の想いが込められたお守り。想いの宿ったこの木の人形を持ち、彼女を呪縛から救ってあげよう。それが、これを託された俺の役目だと割り切るしか…。そう決意しマチルダの前に立つ、彼女はそんな俺を見て、

 

「……その人形、まだ持っていて下さったんですね。」

 

そう呟き剣を構える。何もしないことは俺達に、俺に苦しみを与えることに気付いたのだろうか? 彼女との一騎討ち、木の人形が立ち合ってくれる。マチルダもそこに思い至り、不甲斐ない姿を兄に見せるのを止め、兄と同じく戦士として…。彼女は魔物の姿から人の姿へ、そして…。

 

 

 

 

 

 

俺も剣を構えようとしたのだが、

 

「お待ち下さいユーキスさん、貴方に苦しみを与えるわけにはいきません。」

 

そう言って剣を構えようとする俺を止める。一体何を? …剣を構えなければ一騎討ちが、

 

「皆を解放する為には私の命が必要です。ですから……。」

 

覚悟を決めた顔の彼女を見て、俺の方が思い至った。マチルダは自らの手で命を…!? 俺は彼女を止めようとするが、間に合うことが出来ずに……。

 

 

 

 

 

 

倒れる彼女を寸前で抱き抱える、自らを傷付けた彼女は、

 

「…ユーキスさん、貴方はとても優しい方です。」

 

力無く、そして儚い笑みを浮かべるマチルダ。

 

「……初めて私と出会ったあの森を覚えていますね? …あの森の奥をもう一度、…お訪ね下さい。…さすれば。」

 

そう言いながら消えていくマチルダ、俺は何も言えずに見ているだけ、…その手を握るだけしか出来ない。

 

「……もし、…出来るのなら。…普通の少女として、…普通の生活を。そして……。」

 

消えゆく彼女を強く抱き締め、

 

「…出来るさ、…きっと。心優しいマチルダ、…君なら!」

 

そう言った俺の背に手を回し、

 

「……ありがとう、…ユーキスさん。……生まれ変わるなら、…貴方……と。」

 

その言葉を残し、彼女は消えてしまった。俺の手に、微かな感触を残して…。

 

光が解き放たれていく、この塔から……。呪縛から解き放たれた少女の魂が、闇を払って…暗い空が晴れ渡っていく。この地は平和になるだろう、なるだろうが…何とも言い難い悲しみは消えない。俺達は無言のまま、塔の外へと向かう。取り戻した太陽を、そして青空を。この身で浴びて、この目で確かめる為に…。

 

 

 

 

 

 

塔の中からでも確認はしていたが、外へ出てみると全然違うな。…この太陽と青空はとても眩しく美しい。

 

「空が…、綺麗に晴れ渡っていますな。しかし心までは晴れた気分にはなりません、それは仕方のなきこと。…愚痴を言っても始まりませんか、…戻りましょう…村へ。」

 

ハンクさんの言葉に俺は頷く、キーファ達も同じ気持ちのようだ。この地は救われたけど、やりきれない気持ちは拭えない。澄み渡る青空の下、俺達は重い足取りで村へと戻った。

 

 

 

 

 

 

村に戻った俺達が見たものは、女性達が戻ってきており活気に満ちた姿だった。それはとても喜ばしいことではあるのだけど、その影で犠牲となった兄妹がいると思うとな。そう思いながらハンクさんの家、パトリックの待つ家へと向かう。…マチルダのこと、パトリックにどう説明すればいいか考えてしまう。

 

ハンクさんの家の前にて、パトリックが俺達を迎えてくれた。父親であるハンクさんに抱き着き、無事に戻ってきたことを純粋に喜んでいる。ハンクさんは晴れぬであろう心を誤魔化し、パトリックの頭を撫でて笑みを浮かべる。魔物の脅威は無くなったと、魔物に怯える必要は無くなったと。それを聞いたパトリックは飛び跳ねて喜び、俺達に礼を言ってきた。

 

そしてやはりというか…、

 

「…そうだ! お父さん達、外でマチルダに会わなかった? マチルダにも教えてあげないと! 魔物に怯える必要は無いんだってことを!」

 

と言ってきたのだ、言葉に詰まるハンクさんの代わりに俺が…、

 

「マチルダには会えたよパトリック、キミとの約束通り…お父さんは礼も言った。」

 

それを聞いたパトリックは更に喜び、マチルダを探しに行くと言い出す。しかしそれは叶わない、彼女は何処を探してもいないのだから。だから…、

 

「闇は払われ、全ては元に戻ったんだ。それを確認したマチルダは、…旅立ったよ。パトリックに別れの言葉を言えない、それを残念に思いながらも旅立ったんだ。笑みを浮かべて、…遠くに旅立ったんだよパトリック。」

 

俺は嘘を吐く。パトリックに悲しい気持ちを抱かせてはいけない、彼女も気にしていたことだから。

 

ガッカリするパトリックに俺は、

 

「ショボくれるなよパトリック、マチルダに笑われるぞ? …この先会えるかどうかは分からないが、彼女の為に前向きにな。…そうだな、お父さんやマチルダのような戦士になるのもいいんじゃないか? 平和になったとしても何が起きるか分からない、そうすれば…。」

 

強くなれば、何処か遠くでマチルダの耳に入るかも。パトリックがいれば彼女も安心する、彼女が守った村を守るんだ。そんな感じの言葉をパトリックに言う、…ある意味洗脳みたいだがこれが一番良いことだと思う。彼には酷なことだからな、真実よりも偽りを。それが俺の出来ること、この地を去る俺のな。ハンクさんも言わないだろうし、俺達が去れば真実はこの地から消える。

 

 

 

 

 

 

俺の洗脳紛いの励ましによりパトリックは元気に、そのまま棒切れを持って外にへと飛び出していった。あの様子は…、素振りでもしに行ったのだろう。パトリックの姿を見たハンクさんは、俺に頭を下げた。そしてマチルダの残した想いを忘れることなく、この村を守り続けると約束してくれた。俺もキーファ達もそれを聞いて安心し、彼女の最後の言葉に従いあの場所に行くことにする。

 

俺達からもハンクさんに礼を言い、この村を後にする。途中パトリックにも会い、餞別として俺愛用の木剣と木の人形をあげた。かなり喜んでくれたな、あげた俺も嬉しい。村の入口で手を振り見送ってくれるパトリックに、俺達も手を振り返しながらあの場所へ。きっと何かがある筈だから…。

 

 

 

 

 

 

あの場所、森へとやって来た俺達の目に入ったもの。…あの墓の周りには、彩り豊かな花達が咲き乱れていた。…こんな短時間でここまで咲き乱れるとは、…マチルダの想いがそうさせたんだろうな。種をあげたマリベルも嬉しそうだ、勿論…俺も嬉しいしキーファとアルスもな。

 

花のお陰で少しは気分も良くなった、最後に良いものを見れたと、三人共々奥へと向かう。そして…、

 

「あの光の渦は何だろう?」

 

アルスが見付けた光の渦、初めて来た時には無かったもの。…これがマチルダの言っていたものなのだろうか? だが…、得体が知れないもの故に警戒はしてしまう。四人で固まりつつも近付くと、光の渦が広がって俺達を包み込む。…これは、…あの神殿の時と同じではないだろうか? そう思いながら、俺の視界は白に染まっていく。不思議と大丈夫、…そう思った。

 

 

 

 

 

 

視界が元に戻った時、俺の目の前には見覚えのある光景が…。キーファ達も同じようで、周囲をキョロキョロと見回している。そしてあの変な奴を見た瞬間、戻ってきたのだと確信した。変な奴は冒険が出来て良かっただろ? とか言ってくる、それは良かったのだがそれ以上に…。ただ単純に、先程までの冒険は夢だったのでは? と思ってみたり。

 

そうは思っても現実であったことは分かる、俺愛用の木剣が無いのだから。マリベルも俺と同じようで、花の種が無くなっていると興奮している。四人揃って同じ夢も変だとアルスが言う、キーファも結局現実であったと納得した直後、

 

ゴゴゴゴゴ…ッ!!

 

物凄い揺れが俺達を襲う、地震かとパニクるキーファ達。俺は冷静を保ちながら三人を宥めつつ、この揺れが治まるのを待った。

 

…暫くして揺れは治まった、キーファ達は未だに興奮中。まぁ何にせよ、無事だから良かった。とにかく今は帰ろう、こっちでは何も起きていないと思うがな。キーファ達の家族も心配しているだろうし、そんなわけでまずは解散。何かあった場合、再び集まるってことでね。

 

「とりあえず、俺は先に行くぞ。お前達より先に説明しておくよ、色々と隠してな。だから安心して戻ってきな、…俺に任せなさい!」

 

と言えば喜ぶ三人、…怒られたくはないもんな。

 

 

 

 

 

 

先に戻った俺は、フィッシュベルの村にてアルスとマリベルの親に事情を話しておく。何が起きるか分からんから、サバイバル的なことを教えていたと。アルスとマリベルの親は一応心配はしていたようだが、俺が一緒だというのは分かっていたらしく大丈夫だろうと思っていたようだ。そして姿を消していた理由を聞けば納得、むしろよろしくお願いすると言われた。俺の信用度がハンパない、…罪悪感があるぞ。

 

その話の過程で聞かされたのは、何やら突然…島が現れたらしい。その島についての会議が行われるから、俺に城へ来てくれという伝言があったようだ。…………島? 何それ気になる。…少しでもいいから、マチルダを失ったことによるモヤモヤを何とかしたい。そんな想いと共に、俺は城へと向かう。キーファの件を説明する為に、島についての会議へと参加する為に。

 

そこから何かが変わっていく気がする。それは良いことなのか、悪いことなのかは分からんけども。…世界が変わっていく、…そんな気がするんだ。




『なろう』中心に考えてますので、これより先は亀投稿になります。

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