穢翼のユースティア 遡時のカイム   作:山屋

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その後の話、ノーヴァス・アイテルの救済

 ノーヴァス・アイテルは救われた。

 フィオネの黒羽との接触はカイムの予想以上の成果をもたらしたのだ。

 フィオネの黒羽との接触にはティアを連れて行った。ティアならば何か出来るはず。天使の子であるティアなら出来ると確信があってのことだ。

 カイムの助言で黒羽が兄・クーガー・シルヴァリアだと知っていたフィオネは黒羽に語り掛けた。一回目を知るカイムの助言が効いたのだろう。あるいはなんらかの力があってのものか、黒羽は、クーガーは正気を取り戻しかけたのだ。

 そこにティアが語り掛けた。天使の娘であるティアの言葉が黒羽に響き、黒羽は正気を取り戻した。

 カイムはティアにクーガーの浄化を依頼した。ティアは自分にそんなことは出来ないと言ったがカイムは出来ることを知っていた。火事場の馬鹿力でティアは黒羽を浄化し、元の人間、クーガー・シルヴァリアに戻った。

 この事実はティアのことを伏せて、カイムとフィオネの口からルキウスに伝えた。ルキウスはティアのことだけを知らないままシルヴィアと共に対応を協議し、クーガーを自身の屋敷に匿うことにした。

 これはかなりカイムの誘導が効いた。流石のルキウスも一回目の経験があり、未来と相手の性格を知り尽くしたカイム相手では分が悪かったのだ。システィアのルキウスのことになると短慮に走る性格もカイムは利用した。

 フィオネは兄を救ってくれたカイムに心の底から感謝し、今後の協力を誓ってくれた。

 そうして、ルキウスの口から黒羽は討伐が完了したとの発表が牢獄中にもたらされ、黒羽事件は一回目を遥かに上回るスピード、そして、良い方向での解決を見た。

 ルキウスは匿ったクーガーからギルバルトの計画を聞き出すことにしたようだ。

 次の事件、風錆と不蝕金鎖の抗争でルキウスの動きは一回目より鈍かった。一回目と同じくジークに付き添ってルキウスとの会談の護衛をしたカイムだが、深謀遠慮の持ち主のルキウスが以前程、完全に事を進められていないことはルキウスの口ぶりやルキウスの護衛のシスティナの態度からも明らかであった。

 何度目かの会談の護衛の際に、宿敵、ガウ・ルゲイラとも会敵し、一回目と同じように戦ったがあしらわれてしまった。やはりガウは強い。カイムの全てにおいて上を行く。なんとか対抗策を練りださなければと思うが、そう簡単にいく話でもない。

 一回目と違ってルキウスの動きがそこまで信頼ならないのだ。風錆との抗争を戦うカイムに余裕はなかった。

 しかし、良い方向での一回目との違いもある。フィオネがカイムに恩義を返すために積極的に協力してくれているのだ。

 これはルキウスが一回目より的確な采配が出来ないことを補ってあまりある助力となって風錆との戦いをカイムは制した。

 風錆との戦いで犠牲になった不蝕金鎖のメンバーもほとんどおらず一回目と違った圧勝で風錆との戦いを終えた。

 風錆・頭目ベルナドはやはり一回目同様、下界に追放の計となってしまったが。

 その後も一回目と同じである。聖女イレーヌの使いラヴィリアがカイムたちのところを訪れたのだ。この頃にはカイムはメルトが崩落で犠牲になることを防ぐために転居を勧めておいた。いきなり何を言っているのか、という目で見られたが仕方がない。土地も家も平均給与に比べて高すぎる牢獄で転居など夢を見る話だからだ。

 それでも、カイムはメルトを犠牲にしたくなかった。一回目と違って絶対に救ってみせるという想いがあった。その思いから何度も強く転居を勧めた。メルトは不審がっていたが、カイムの並々ならぬ様子に何かあると察したようで考えておくとの返事を寄越してくれた。

 聖女の使いとして接触してきたラヴィリアの対応を後回しにしてでも、カイムはメルト救出のために動いた。ジークにも相談し、メルトの店の転居の話を勧めた。

 門前払いを喰らう形になって帰ったラヴィリアは憤ったし、カイムもこれで聖女イレーヌとのつながりが消えるのではないかと不安になったが、まずはメルトからであった。

 風錆との抗争の時にメルトの家に住み込んでもらっているティアもカイムの味方をした。

 その時にカイムの家に居候していたエリスは一回目の経験があるからか、カイムへの依存をこの時期で断ち切っており、一人の人間として、牢獄で転居することの難しさからメルトの転居に反対していた。エリスの気持ちも分かる。しかし、メルトの店が崩落で下界に崩れ落ちることは事実なのだ。真実を話せず、何故、転居をそこまで勧めるのか、というエリスの当然の問いに答えられないでカイムはメルトとの話し合いを進めた。

 一回目の真実など何も話せない。何度、真実を話して「このままではお前は崩落で死ぬから引っ越してくれ」と言いたかったか分からない。だが、それだけは言ってはいけない気がして、カイムはそこを隠して話を進めた。ティアもカイムの様子から何かあると察していたようだが、カイムを信用していたようで何も訊ねずに中立の立場でカイムとメルトの話し合いを見守った。

 エリスは一貫して転居反対であったが、ジークはメルトの店の位置が縁起が悪いことを気にしていて転居に賛成してくれた。それが大きくメルトは店を転居することを決めた。

 それを見届けたカイムは満足したが、そこをガウに襲われる想定外の事態を迎えた。ギルバルトが不蝕金鎖に妙な動きがあればガウを斥候に突っつくことを命じていたのである。ガウの攻撃を受けて、カイムは危ういところになったが、一緒にいたティアが必死で叫ぶとカイムの力が増し、ガウを撃退出来たのだった。

 数日後、あれは天使の力だ、と確信していたカイムにラヴィリアが再び接触して来た。一回二回メルトとの話し合いを優先して門前払いにしたことで聖女イレーヌはラヴィリアを接触させる気をなくしていたようだったが、ガウの襲撃時にカイムに力を与えた天使の奇跡を感じ取り、再びラヴィリアを使いに寄越したようであった。

 ラヴィリアに招かれ、カイムはティアと共に上層の聖域に行った。ティアは流石に自分に何かの力があることはこの時点で把握しているようだった。黒羽――クーガーを治したこととガウとの戦いでカイムに力を与えたことが実感としてあったのだ。

 聖域で聖女イレーヌと出会ったカイムとティアは一回目同様の待遇を受けて聖域でしばらくの時を過ごすことになった。聖域の平和だが、退屈過ぎる日常をなつかしむような、ものたりなく思うような時間を過ごし、聖女イレーヌとは一回目同様のイベントをこなしていった。

 聖女イレーヌはその気になればノーヴァス・アイテルを転覆させうる力を持っている。物理的な力ではなく政治力でだ。聖女イレーヌ、コレット・アナスタシアは自分の外見が魅力的に映ることを知っているし、それを利用する。カリスマ性もあるコレットは自分の目的、上層のノーヴァス・アイテル王家に囚われた天使を助け出すために反乱軍の実質的な発起人となったのだ。

 不蝕金鎖の頭目、ジークフリード・グラードを総大将としていたが、あれはコレットが率いる反乱軍だった。反乱軍は怒涛の勢いで牢獄から下層、上層に攻め寄せついにノーヴァス・アイテル王家を転覆させてしまった。

 ノーヴァス・アイテルという究極の格差社会。上層に下層は敵わない。下層に牢獄は絶対に敵わない。そんな理屈、いや、常識すらひっくり返す力がコレット・アナスタシアにはあるのだ。

 カイムとしても最大限に警戒するところだった。

 聖域にいるコレットはまだそこまでの野心を抱いていない。野心というか宗教心か。天使がノーヴァス・アイテル王家に囚われていることを知らず、聖域で聖女の務めを果たすことが自分が信じる宗教、イレーヌ教に殉じる行いだと信じている。

 だから、今ならまだ説得出来るかもしれない。その一縷の思いを賭けてカイムはコレットと話すことにした。

 結果は無残な失敗というしかない。コレット・アナスタシアの信念は一回繰り返したくらいやカイムが説得したところで揺らぐものではなかった。

 天使への篤い信心は何も変わらなかったし、少し火が灯ればそれだけで一気に大炎上してコレット・アナスタシアという洗練なるイレーヌ教の信徒は大暴走して走り出す。

 その確信を強めさせられるだけであった。

 エリスは一回目の記憶をおぼろげに覚えているのか、風錆との抗争の際に成長した様子を見せてくれたが、聖女イレーヌは、コレットは何も変わらない。

 一回目の国家転覆で反省などしておらず、正義の行いをしたと心の底から信じているのだから、性格や思想が変化するなど期待する方が愚かな行為であるとカイムは諦観の念を抱いた。

 敵わない、と強く思わされる。聖女イレーヌ、コレット・アナスタシアは強すぎる。

 一回目のカイムの大失敗。無残な悲劇に終わった最後はコレットのせいであるのが大きいのだ。彼女があんなタイミングで大反乱を起こさなければいくらでも手はあった。ティアを助けてノーヴァス・アイテルを救う手立てなどいくらでもあったのだ。

 ある意味、二回目を送るカイムの最大の敵。それが聖女イレーヌ、コレット・アナスタシアだ。

 コレットの使い人、ラヴィリアも一回目同様、コレットのためなら何でもする人間のようだった。これは非常にまずい、とカイムは頭を悩ませた。

 コレットとラヴィリア。この二人が組むとどんな暴走をするのか知れたものではない。

 神官長ナダルに協力を依頼しようにもナダルは牢獄出身のカイムとティアを信用していない。無理な話だった。

 二回目、すなわち今回で一番上手くいっていない自覚がありながらカイムは聖域での日々を過ごした。

 雨の日の友とも会い、情報を交換した。ルキウスは対ギルバルトの計画を精力的に進めているようだ。風錆との抗争では動きが一回目より鈍かったルキウスだが、今回は一回目より速い。匿っているクーガーの治療が進んで彼からギルバルトの治癒院などの情報を引き出せているようだ。ギルバルト対策に余念がない。

 結局、聖域での暮らしは芳しい成果を得る事が出来ないまま終わりを告げた。ラヴィリアが羽化病を患っていることが判明し、それをティアが治療。ついにその時を迎える事になる。

 崩落である。

 ラヴィリアを治療したティアの力をノーヴァス・アイテル中に伝える聖女イレーヌの演説が迫っている。この時に崩落は起きるのだ。

 ルキウスが起こすのだ。ティアの力を執政公ギルバルトに隠すために。

 カイムはルキウスを止めようとしたが、止めれるものでもない。中継役のシスティナにそこまでの話は出来ない。この時のカイムの焦りは最高潮に達していた。

 なにせ、この崩落でメルトが犠牲になってしまう。牢獄の数多くの死者が出てしまうのだから。

 精神状態は荒れに荒れてしまいティアにも厳しい態度を取ってしまった。これから聖女イレーヌのお披露目会で自身の力をノーヴァス・アイテル中に知ら閉められるティアに、である。こういうところが俺は本当によくない、と反省する。カイムの悪い癖だった。全てが順調な内はいいが、歯車が一つでも狂い、上手くいかなくなると露骨に焦りと短慮が顔を覗かせる。その上で後手に回る癖まで出てしまうのだから最悪であった。

 とはいえ、もう信じるしかない。

 聖女イレーヌの演説の前に牢獄に一旦、帰ったカイムはメルトの店が引っ越し完了していることを見届けて少しの安堵を覚える。

 まだまだ油断は出来ないが、これで聖女イレーヌの演説を多少は穏やかな気分で迎える事が出来た。

 そして、聖女イレーヌの演説の最中。

 一回目同様、崩落は起きた。ルキウスが起こしたのだろう。

 大パニックになるノーヴァス・アイテルの中を駆けて、カイムは牢獄に焦り着いた。

 メルトの店は無事であった。メルトも無事だった。

 カイムはどのような顔をしていたのだろう。無事なメルトと顔を合わせる開口一番メルトは言ったのだ

 カイム、私は大丈夫よ。そんな顔をしないで、と。

 メルトにしても再度の崩落が起きて動揺しているはずだ。なにがなんだか分からないはずだが、こう言ってくれたのだ。

 リリウムの三人娘も無事だった。ジークもだ。

 流石にジークにはメルトの店を執拗に転居させたがっていたのは崩落が来ると分かっていたからだな、と追及された。エリスにもだ。

 元・メルトの店があったところは跡形もなく下界に落下しているのだから、当然だ。

 絶対に説明は後でするから今は聖女イレーヌ救出に力を貸して欲しいと返したカイムだが、そう上手く乗せられてくれるジークではなかった。こういうところは短慮が出て相手の機嫌を逆撫でしてしまうカイムである。

 聖女イレーヌのせいで崩落が起きたと信じるジークは崩落を起こした聖女として処刑されるコレット・アナスタシアを助ける気はないようだ。

 それどころか、カイムに疑惑の目を向けて来る。当たり前なのであるが。

 カイムはついに全てを白状した。ジークとエリスの二人に。

 自分が未来から来たこと。未来ではこのノーヴァス・アイテルは悲惨な結末を迎えることをカイムは打ち明けたのだ。

 最初はカイムが頭のおかしいことを言い出したと聞いていた二人だが、話の内容のすさまじさ、全ての辻褄が合っていることから、カイムが未来から来たことは事実だと信じたようだ。

 流石にほら話・空想の嘘話で話すには無理が有り過ぎる内容だ。作家なんて職業はノーヴァス・アイテルでは廃れたが、どんな大作家でも思い付かない内容であった。

 ジークとエリスは納得して頷いてくれたが、そこからも都合良くカイムの味方をしてくれるジークではない。

 エリスはカイムと共に悲劇の未来を止めようと思ったようだが、ジークは本来の未来、ノーヴァス・アイテルが地上に着地し、自分たちが政治の主導権を握る未来を悪いものではないと考えたようだ。

 その未来にするのが良いのではないか。その未来にしよう、とカイムを信頼するジークは提案した。

 カイムは心を決めた。

 ジークフリード・グラードを殺す。

 それをするしかない。

 ここで殺すワケではない。ナイフで暗殺するワケではない。

 全てが終わった後か終わる直前だ。

 一回目でジークを殺すしかない。そう決意したことを実行に移さなければならないのだ。

 ジークはノーヴァス・アイテル王家から実権を奪って権力を握りたがっている。そのために天使を見殺しにし、ティアを見捨てて、ノーヴァス・アイテルを地上に下ろす気なのだ。

 なら……殺すしかない。

 一回目のノーヴァス・アイテルの最終局面で決意したことだ。実行出来なかったことだ。

 カイム・アストレアはジークフリード・グラートを殺す。

 それしかない。

 そうするしかない。

 これは運命の選択だ。

 ティアか、ジークか、だ。

 両立は出来ない。どちらかしか救えない。

 ティアを救うためにはジークを殺すことが必須。

 ジークと共に親友として生きるためにはティアを見捨てるのが必須。

 なら、俺は――――とカイムは自問する。

 すぐに決意した。

 ティアを救おう、と。

 ジークの言葉に頷いたふりをして、このまま一回目同様に進めてノーヴァス・アイテル王家に反乱を起こそうとカイムは誓った。ジークは笑ってくれた。どこまでカイムのことを信用したかは定かではないが。

 ジークは馬鹿ではない。カイムがティアを救うことを諦めていないことなど見抜いているのだろうが、今は共闘関係が維持出来るようだ。

 カイムとジークの微妙に含みを帯びたやり取り、既に化かし合いとかした三十分前には親友同士だったはずのふたりにエリスが怪訝そうな顔をしたが、もはや事態はただの町医者、エリスが関われる領分を遥かに超えている。

 そこからは一回目同様に上手くいった。聖女イレーヌと付き人ラヴィリアの処刑を助け、不蝕金鎖が二人を匿う。

 カイムはジークと結託し、一回目同様、ルキウスの勧めに従い、上層の王宮に向かい伝手を付けることにした。

 ジークから王宮を上手く掻き乱して弱体化させてくれ、との言葉を受けて、カイムはしっかりと頷いたものの、そんな気はどこにもない。ヴァリアスを味方に付ける。そして、ヴァリアスは死なせない。あれだけの男を死なせるものか。ヴァリアスさえいればかなりノーヴァス・アイテルを救うのが楽になるのだ。

 幸いなことにジークの権謀術数に普段ほどのキレがない。ジークは自分一人で考えて行動しているからだ。流石に不蝕金鎖の幹部メンバーにもカイムが未来からやって来たこと。その未来知識を当てに自分がなり上がろうとしているなど話すことが出来ないようであった。

 ジークも孤立無援。未来の真実など知りたくなかったと思っているかもしれない。カイムはタイムリープしての孤独を味わう仲間が出来た気分で薄く笑ってしまった。ジークにとがめられたが、俺たちの未来を思った、と胡散臭くごまかしておいた。

 ルキウスの手引きで上層のルキウスの邸宅に厄介になることになったカイムはそこでティアと再会した。聖女イレーヌお披露目会からカイムとは離れ離れになっていたがシスティナが保護し、ルキウスの屋敷に置いておいたのだ。

 カイムはもうすぐお前を救える、とティアに言葉をかけてしまった。未来のことを知っている自分は何も言ってはいけないのだが、ついこぼれた。もうすぐ、もうすぐ、だ。

 クーガーとも再会した。

 黒羽だったクーガーの治療は順調に進んでいるようで、ルキウスの屋敷で過ごしているようだ。

 ルキウスが決起する際には旗頭の一人になるのだろう、とカイムは思った。

 ギルバルトの治癒院。その最大の犠牲者と言っていいのだから。

 ノーヴァス・アイテル宮殿に入るのには一回目同様、ルキウスの補佐官となることで潜入することにした。これ以上に良い手はないのだ。狙いはノーヴァス・アイテル王家リシアとの接触。そして、リシアを立派な王に育てることだ。

 一回目同様の関係を築くのは困難だったが、本当に運が良く上手くいった。一回目のカイムとリシアの関係は偶然に偶然が重なった奇跡のようなものだ。カイムがリシアを王女と知らず接触して不遜な態度を取った所からのスタートだ。

 しかし、一回目でもカイムはかなり打算でリシアを乗せていた。牢獄の悲惨な実情を語らず、暮らしやすい所だと思わせて、上手く信頼を勝ち取り、事実を述べた。

 それをもう一回、繰り返した。一回目と同じように牢獄の大道芸人の話をした。大道芸人が人に見えないところでどう苦労しているか、地獄の日々を送っているかを伏せた上で大道芸人の面白さを伝えた。

 一回目同様、牢獄の料理も持ってきて、これまた同様にカイムが毒見をしてリシアに与えた。リシアはカイムに信頼を置くようになっていき、ここからはカイムの計画がスタートした。

 リシアを乗せに乗せて、自分依存の王女にするのだ。一回目以上に。

 簡単だった。

 リシアは無邪気な王女だ。一回目の経験を踏まえたカイムが舌先三寸を弄すればカイム依存にすることは簡単なことであった。

 ルキウス、システィナとも話し合った末の計画だ。システィナが難色を示したが、この方向で行くことをカイムと合わせた三人は決定した。

ノーヴァス・アイテル最強の近衛騎士団団長ヴァリアスとの関係も一回目同様に築こうとしたが、これは上手くいかなかった。

ノーヴァス・アイテル王家に篤い忠誠を誓っているヴァリアスだ。リシアを傀儡にして操ろうとしているカイムの目論見などすぐさま看破されてしまった。お前は絶対に信用しないとまで言われてしまったのだ。

一回目ではそれなりに良好な関係を築けていたカイムにとってはショックであったが、仕方がない。場合によってはジーク同様、見捨てることもやむなしと思った。

そこからルキウス決起までは一回目と同様の流れだ。

病に伏せっている王の治療にエリスを連れてきて、王との接触を図り、そこで王からのメッセージをリシアに伝えた。閉鎖された地下施設をカイムはティアと一緒に訪れて調査したが、ここは一回目と違った。

 ティアが強かったのだ。人を襲う謎の粘液をティアは浄化して倒れることはなかった。

 ティアが強くなっている。一回目より遥かに。

 それを喜ぶべきことなのか、嘆くべきことなのかの判断はまだカイムには付かなかった。

 しかし、ルキウスの逮捕を目論んだギルバルトに対してルキウスは決起し、クーデターが勃発。二回目の今回はクーガーを旗頭の一人にし、ギルバルトの非道を訴えて戦いを優位に進めた。一回目とは違いルキウス軍が不利になることもなく、カイムも最初からルキウス軍に参戦していた。ギルバルト軍の主力ガウとカイムは相まみえた。

 全ての力はガウが上回っているが、カイムはルキウス軍の選りすぐりの精鋭と連携してガウと戦った。

 ガウ対策をカイムは練っていた。ルキウスの配下の実力者と鍛錬を組むことでガウを倒す算段を立てていたのだ。

 その目論見は上手くいき、ガウをここで討ち取ることが出来た。

 ノーヴァス・アイテル王宮に通いながら、ルキウス配下と一緒に鍛錬した成果であった。

 このためにカイムは自分がルキウスの弟であることをルキウス配下には早々と打ち明けていたのだ。ルキウスの実弟というハクがなければルキウス配下の将も兵もカイムを信用しなかった。

 ルキウスの屋敷に住まうことになった時には既にルキウスにカイムの方からあんたは俺の兄だな、と真実を暴き話す機会を設けていた。

 ガウを討ち取ったルキウス軍は勢いに乗り、ギルバルト軍を圧倒。リシアがヴァリアスに命令して、ヴァリアスは一回目とは違い、不本意にルキウス軍に参戦しギルバルトと戦った。

 ギルバルト軍は一掃され、天使の塔に一回目同様、逃げ込んだギルバルトは一回目とは違い、天使の力を無駄に開放することも出来ずにカイムの手で討ち取られて、クーデターはルキウス軍の勝利で終わり、ノーヴァス・アイテルの主導権は宰相に任命されたルキウスが握ることになった。

 ここまでくれば流石にカイムも強気だ。

 これで上手くいく。ようやく救えるノーヴァス・アイテルを、いや、ティアを。ユースティアを救える。

 その実感にカイムは打ち震えた。

 全ての努力、地獄の努力が報われる。叶う。ティアを救える。

 ルキウス軍の祝勝会では人目もはばからずティアを抱きしめてしまい、ティアに怪訝な顔をされてしまった。

 ギルバルトに、いや、ノーヴァス・アイテルが捕らえている天使は一回目同様、痩せこけたミイラのような姿をしていた。

 そこからは一回目とはかなり違う帰結を迎えた。

 ギルバルトが天使の力を解放していないので、牢獄で崩落は怒らず人を襲う粘液も現れなかった。

 時間に猶予がある。

 そう判断したカイムはティアに告白した。

 カイムは真実と自分の想いをティアに伝えた。未来から来た真実。お前を助けに来たこと。それら全てを打ち明けて自分と共に未来を掴もうと伝えた。

 ティアは半分くらいは訳が分から兄ようだが、頷いてくれた。

 そして、カイムとティアは天使を蘇らせるために二人で天使の前に立った。

 ティアが祈ると天使はミイラのような姿から美少女の姿に戻り、天使の枷から解き放たれてカイムとティアの前に降りた。

 そして、天使の強力を得て、ノーヴァス・アイテルを永遠に空に浮かび続ける楽園にすることにした。

 大成功に終わった。

 反乱は起きなかった。牢獄が真の地獄になることはなかった。国家転覆は起きなかった。

 ジークは生き延びた。コレットは生き延びた。ラヴィリアは生き延びた。エリスは生き延びた。フィオネは生き延びた。リシアは生き延びた。クーガーは生き延びた。ルキウスは生き延びた。システィナは生き延びた。ヴァリアスは生き延びた。ナダルは生き延びた。

 カイムは生き延びた。ティアは生き延びた。天使も生き延びた。

 それぞれ全員が生き延びて幸せになる。未来。

 それをカイムはついに掴むことが出来たのだ。

 ティアと共にカイムは栄光の幸福にあふれた未来に歩み出すのだった。

 永遠の空の楽園、ノーヴァス・アイテルで。

 地獄から楽園に変わったノーヴァス・アイテルで。

 

 

 

 

 了

 

 

 

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