三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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#月

 

 

 

#月&日

 

 

 円城寺さんがエンジニアに転属することになった。もともとエンジニア希望でボーダーに入ったが人手不足故にオペレーターを請け負っていたらしい。人手が増えた現在、エンジニア転属希望が受理されたのだ。もちろん前々から私たちは承知していたので「おめでとう!」とお祝いした。

 

 円城寺さんの代わりに新人のオペレーター宇佐美ちゃんが仲間入りした。ある程度の下地は円城寺さんが教えており、沢村隊の作戦行動も教えると試行錯誤しながらちゃんと実践してくれた。沢村隊長も宇佐美ちゃんのサポートをするべくオペレートを学び始めた。

 

 宇佐美ちゃんは円城寺さんに教えを請う為に開発室へ何度も赴き、その際にエンジニア関連も勉強しているらしい。たまに訓練で改造した訓練室を構築されてびっくりした。もしかしたら宇佐美ちゃんって天才なのかも。

 

 

 

#月&日

 

 

 中隊規模の侵攻が起こった。

 

 平日の昼間だったこともあり学生が多い隊員は現地へ直行することになった。一番近い現場へと赴こうとしたところで沢村隊長から無線が入り、隊員が少ない現場へと促された。本部にいるオペレーターが少なく、戦闘員だがオペレート知識がある沢村隊長がやむなく中央でオペレーションを要請されたとのこと。

 

 戦闘員であり、もともと沢村隊は数種類の作戦行動を同時に行う隊の隊長だったこともあり、沢村隊長は私への指示以外にも他のオペレーターと連携して他隊にも指示を出していた。その手腕に忍田本部長も舌を巻いたとか。

 

 特に人命被害も行方不明者も出さずに討伐を終えた。沢村隊長、さすが自慢の隊長だ。

 

 

 

#月&日

 

 

 前回の功績を評価されて沢村隊長は中央オペレーターに抜擢された。本人の意思でも「忍田本部長の役に立つ!」と張り切っていたので仕事も恋も応援したい。

 

 というわけでA級部隊の沢村隊は解散した。

 

 風間さんは新しい部隊を作ってまたA級を目指すらしい。部隊に誘われたが、嬉しかったけどお断りした。しばらくはソロ活動をしようと思ったのだ。

 

 私の撤退戦術は大部分がオペレーターに頼っている。幾度かオペレーションなしの模擬戦をしていたのでまるっきり頼っているわけではないけど精度は落ちる。基本的に実戦はオペレーターがいるからあまり気にならないけど、前回の緊急時みたいに私個人に情報提供を出来ない場合が今後もあるかもしれないのだ。オペレーターがいる時といない時とをシミュレーションしていくべきだと考えた。

 

 

 

#月&日

 

 

 東隊もいつの間にか解散していた。いや独立が正しいのかな。

 

 東さんは新人育成に集中するらしく、隊員もそれぞれ人を集めて部隊を作ることにしたらしい。月見さんは一番若い三輪くんのサポートに回るみたいだ。

 

 それぞれが心機一転のスタートを切っている。

 

 

 

#月&日

 

 

 学校でボサボサ頭のマスクの後輩に声を掛けられた。最初は全然思い出せなかったが、あのスポドリを渡した少年だった。今年から入学して高校生になったようだ。

 

 目つきは相変わらず尖っていたが、元気そうで何よりだと喜ぶと頭をわし掴まれて顔を強制的に逸らされた。何事かと戸惑っていたが少年がボソボソと喋り、その様子から照れ隠しだと察する。ちょっと暴力的だが可愛い奴め。

 

 ちなみに迅が私の隣にいたのだが親友の首の危機よりマスク少年の登場にテンションを上げていた。初対面らしいのだが「ねぇ君、昼休み俺と話さない?」となんか怪しい誘い文句を言ってマスク少年に胡散臭そうに見られていた。ざまぁ!

 

 ちなみにマスク少年は影浦雅人くんと名乗ってくれた。

 

 影浦くんは迅をジッと見てたが、少し考えてからあっさり頷いた。交流を深めようと迅がはりきって昼休みに1年生の教室へ向かって行った時は「あいつ、どうした」と思わず呟いたほどだ。

 

 さすがに私は知らない学年に行く勇気はなかったので今日は迅とは違うクラスメートと弁当を食べた。クラスメートには「迅が1年生をナンパしに行った」と説明したので、帰ってきた迅から抗議を受けたが聞き流した。

 

 

 

#月&日

 

 

 ボーダーで影浦くんを見つけた。ボーダーに入隊していたことにも驚いたが、何より医務室から出てきたことに慌てた。トリオン体で主に活動する為ボーダーでは医務室の利用者が少ない筈なのだ。それなのに、と心配して駆け寄ると影浦くんは面倒そうに診断票を見せてくれた。

 

 サイドエフェクト。別名・副作用。トリオンを多く所有している為か何らかの要因かは不明だが、通常の人間より突出した能力を発揮している。中には所有者に負担を掛け、日常生活に不自由している者もいる。

 

 影浦くんは『感情受信』のサイドエフェクト持ちらしい。視線を通して向けられる感情を察知する能力で、視線がチクチクと刺さるイメージなんだとか。あまりにも刺さると受信機能がオーバーヒートして体調が悪くなるらしい。小説とかの表現で"視線が刺さる"というのを体現した副作用だ。学校生活では前に出て発表したり自己紹介したりで視線の針のムシロ状態とかツライ。社会人になっても前に出ることは当たり前にあるわけで、ツライと思う。

 

 視線が刺さるなら私はサングラスとかゴーグルした方が良いか? と質問すると「悪感情じゃなけりゃそんなに気持ち悪くない」と応えてくれた。それでも刺さるのは気になるだろうに、優しい奴め。とか色々内心が伝わるようなので、影浦くんの前では下手に取り繕わずそのままストレートに表現することに決めた。

 

 日常生活ではストレスマッハな副作用だけど、戦闘面では少しだけ有利だと思う。攻撃する時、誰でもその部分に視線をやるからだ。特にスナイパーなんてスコープを覗いて狙いを定める。影浦くんはまだ入隊したばかりで戦闘に慣れていないから狙撃でも仕留められるが、このまま成長すれば遠距離攻撃が効かないアタッカーになりそうだ。

 

 

 

#月&日

 

 

 迅もサイドエフェクト持ちだった。マジか。

 

 影浦くんと仲良くなり学校やボーダーで会えば普通に会話するのだが「あの人のサイドエフェクトも結構苦労するな」と迅のことを指して言ったのだ。初耳だった私はすぐに迅の元へ向かって問い質すと「イエス」と返ってきた。

 

 迅のサイドエフェクトは『未来視』。良い未来も悪い未来も平等に視えて、しかも可能性が高い未来ははっきりと、可能性が低いけど有り得る未来はぼんやりと視えるとのこと。

 

 なにソレ規格外。つか、前から電波っぽいこと呟いてたのは未来視のことか。納得した。納得したついでに「宝くじ買いに行こうぜ!」と誘うと微妙な顔をされた。なんでも可能性の高い当選番号を買っても確定した未来ではないので今の時点では外れる可能性の方が高いのだとか。ついでに己の知らない事柄や人間の未来は視えない。なるほど。

 

 ならば成人したら競馬に行こう。馬と騎手を直接視ればいいじゃん。「八神って意外と金に執着するね……」と呆れられた。当たり前だ。この時代で余裕ある生活をするには金銭が必要不可欠だから!

 

 悪い未来を視るって悪夢みたいだ。例えば未来視で友人が死んだ場面を視て、現実で元気な友人を見る。その友人がゾンビに思えたり、どっちが現実か曖昧になったりとかある? と問えば苦虫を噛み潰したような顔で「小さい時は、あったよ」と正直に答えてくれた。

 

 ナイーブな質問なのに答えてくれた迅におやつのぼんち揚げをあげて

「少年漫画の主人公みたいな苦労しているなぁ」

「……確かに。え、主人公とかカッコイイな俺」

「ボーダーがあるからジャンルはアクション系か」

「ヒロインは?」

「沢村隊長」

「それ完全に俺が当て馬役じゃん。一気に主人公から脇役だよ」といつの間にかいつも通りの会話になっていた。

 

 さてさて、ヒロイン沢村隊長は憧れの忍田本部長を落とせるのか! こうご期待!

 

 

 


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