三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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 シューターに麒麟児が現れた。今までで一番のトリオン量に、天性のセンスで弾道を描いて的に当てる様子は、訓練室を湧かせた。まだ中学生だしこれからまたトリオン量も増えそうだ。シューターは数が少ないからすぐにチーム勧誘が始まるだろうね彼は。

 

 ここ最近また任務が増えてきた。出現するトリオン兵が多くなってきて、巡回する人数を増やしたからだ。ソロ活動中の私だけど任務ではほとんど臨時チームに入る。前からそうだったので私はあまり気にしないが、今回組んだ隊員はやりにくそうだった。

 

 アタッカーの烏丸くんとガンナーの北添くんとスナイパーの私。所属年数から私を暫定隊長として任務に就いた。ポジションバランスは良かったのだけど、2人は最近C級からB級に昇格した初任務。つまり今まで個人戦ばかり訓練していたせいでいざチーム戦になると動きがぎこちなかった。

 

 アタッカーの烏丸くんはそれほど違いがないから良いのだが、北添くんは援護にするか討伐するかで迷い、さらに援護しようにもタイミングが悪く空回りしてしまう。ぶっちゃけ想定内だったし、烏丸くんもどんどん突出しているのも悪かった。

 

 烏丸くんにヒット&アウェイスタイルに切り換えてもらい、北添くんには敵の誘き出しと烏丸くんが引いた直後に弾幕を与えるように指示。私は初撃と2人のコンビネーションがズレた時にフォローする役割を負った。こういう慣れない戦闘員では罠をかけるより直接戦闘フォローした方が新人さん達が動きやすいからね。指示を素直に聞いてくれる子たちで良かった良かった。

 

 任務後、2人からお礼を言われてくすぐったかった。チーム戦について訊かれたので、個人戦との違いを簡単に説明。ソロも良いけど任務はチーム戦が多いから隊を作ったり入ったりを、それとなく推奨しておいた。

 

 

 

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 気分が乗ったので今日は甘い玉子焼ではなくだし巻き卵を作って弁当に入れたら、迅が「今日はだし巻きだよね。ちょうだい」と言ってきた。もうサイドエフェクトを隠さなくなってきたなお前。

 

 体育のバレーボールで右人差し指と中指を骨折(ヒビ)した。最初は突き指かと思ってたら腫れ上がって青紫に変色したので骨折(ヒビ)と暫定。保健室でテーピングで固定して、放課後病院に行くとやっぱりヒビが入ってた。

 

 利き手だけど親指が無事なら残りの三本でイケるし、左手でも十分に活動出来るから問題ない。中学の部活で指や足の怪我が多かったので両利きもどきなんだ。

 

 迅が本人以上に慌ててたがそんな様子の私を見て「なんでそんなに冷静なの」と呆れていた。不便なのは皿洗いくらいだと伝えたら、今日の夕飯は玉狛支部に誘われた。ミネストローネだった。おいしかった。

 

 桐絵ちゃんが骨折を見て我が事のように痛がり、その様子を見た陽太郎くんが泣き出してカオスだった。

 

 とりあえず玉狛支部の訓練室を借りて左手で狙撃の練習をする。たまにやってたけど、本格的に行っていなかったせいで的には当たるが狙いは外れという結果だった。物になるまでか、骨折が治るまでスナイパーからシューターにポジションを変えとかないと。

 

 

 

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 林藤支部長が「カルシウムを取れ」と言ってきます。原因はわかっている。

 

 陽太郎くんの腕の関節が抜けてしまったらしく、慌てて病院に連れてきた林藤支部長。ちょうど私もその病院でレントゲン待ちしていたのだ。

 

 泣いて泣きまくってた陽太郎くんだが先生が『ぽくっ』と音を立てて填めるとキョトンとして「いたくない!」と笑った。どうやら幼い子供によくあることで、弱い力でも腕を掴まれると抜けてしまうらしい。

 

 防止として"腕を引く"ではなく"手を繋ぐ"なら手首の関節がクッションとなり抜ける心配はなくなるのだとか。林藤支部長はもしもの為に先生からハメ方を学んでいた。そのすぐ後に私が呼ばれ、レントゲンを撮った。

 

 陽太郎くんが私と一緒にいたいと駄々をこねたので林藤支部長も一緒に居てくれることになり、レントゲン結果を見た。ら、林藤支部長が戸惑いの声を挙げた。私のレントゲン写真は、薄い。骨が細く、骨密度が低いせいで骨の色がぼんやりとしか出ないのだ。骨粗鬆症予備軍ですね。

 

 医師も苦笑して「一応、ここにヒビが入ってます」と指差すがうっすらで分かり難く林藤支部長は首を傾げたのだった。

 

 それから林藤支部長に会うと結構な頻度で煮干しを貰う。猫ですか私は。カルシウムと言えば牛乳だけど、牛乳はあまり好まないと言ったのを覚えてくれてたのだろう。

 

 

 

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 本部の訓練室で狙撃の左撃ちを練習していると、隣で鳩原ちゃんが10回連続で的の中心を射抜いてた。私の利き手でもそんな芸当は出来ないので思わず拍手して「いてっ」とマヌケなことをしてしまった。鳩原ちゃんが慌てて「て、テーピング! します、かっ?」と訊いてきたのが可愛かった。いえ、自業自得です。

 

 東さんの弟子仲間。狙撃手の中で上位の精密射撃を得意とする鳩原ちゃんだが、模擬戦の戦績は芳しくない。腕は良いけど、なかなかC級から脱せない。

 

 理由は『人を撃つのに抵抗があるから』だ。トリオン兵相手の訓練では好成績を叩き出すけど、対人戦になると動けなくなる。人が撃てないなんて別に珍しくもないし、伸び悩むならエンジニアやオペレーターの道もある。けど鳩原ちゃんは狙撃手で居たいらしい。

 

 実戦で人を撃つ機会はぶっちゃけ無い。ミスして味方に当てるくらいじゃないか?

 トリオン兵を倒せるなら十分戦力だ。ネイバーが相手だと難しいと思うが、ならばチームの誰かに任せれば良い。トリオン兵専門の隊員としてでも鳩原ちゃんの精密射撃は活きるはずだ。まぁ、任務に出るにはB級に上がらないといけないんだけど。

 

 「対人戦の時、武器破壊すれば? 長期戦になるけど武器を破壊し続けてトリオン切れを狙って勝つ、とか。仕留めるわけじゃないから、即時移動が不可欠だけど」と思いつき半分で言ってみたが、鳩原ちゃんの精密射撃なら十分にこなせるし根気強さもある。鳩原ちゃんは藁にも縋りたいとでも思っていたのか「はい! やってみます」と意気込んでた。

 

 

 

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 シューターの麒麟児、出水公平くんが勝負を仕掛けてきた! 勝った!

 

 任務前にシュータートリガーを調整していると声を掛けられた。結果は上記の通りなんだけど、麒麟児と言われるだけあって実力は感じられた。訓練室のトリオン無限ルームじゃなかったら任務時間ギリギリまで戦ってたかもしれない。

 

 出水くんは負けても「アレどうでした?」「あの時は回りこませた方が良かったッスよね!?」とハイテンションで迫ってきた。グイグイ迫ってくるのは勘弁して欲しかったが、きちんと自分の負けた要因を理解しているのは感心した。

 

 任務から帰還すると出水くんがまだ訓練室に居て、疲れを知らないかのように弾丸を飛ばしまくってた。キラキラしてるねぇ。

 

 

 

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 影浦くんからお好み焼きは好きかと問われたので頷くと、家に招待された。家はお好み焼き屋さんだった。お好み焼き屋さんに入るのは初めてだった私はテンションが上がった。

 

 影浦ママからスポドリのお礼を言われた。お礼を言われる程のことではない。いえいえ、と手を振ってお好み焼き屋さんは初めてだということと、オススメは何か、と尋ねると影浦くんが焼いてくれるから気にするなと言われた。アレルギーも何もないし嫌いな物もない。

 

 ふわふわアツアツのお好み焼き。影浦くんの焼き方を観察して家でも再現出来ないかと考えるけど、おそらくあれは鉄板だからこその焼き加減なのだと思う。あと何より特製ソースがおいしい。代々受け継いだソースらしいから、あのソースの再現は諦める。

 

 美味い! と感激してたら北添くんがやってきた。どうやら影浦くんとは幼なじみで同じ高校のクラスだとか。じゃあ私も同じ高校の先輩だね、と言えば驚かれた。いや、私も同じ高校なのは驚いたけど。

 

 北添くんは私のテーピングに気づいて骨折したと聞くと「だからカゲが焼いてるんだ~」と言ってきて、影浦くんに小突かれてた。私が気づかなかっただけで気を遣わせていたようだ。やっぱり影浦くんは良い子だ。照れ隠しに紅生姜たっぷり入れられた。生地が紅い、だと…!

 

 

 




この時点では、三門市に人型ネイバーが登場していないので八神は「人を撃つ機会はない」と断言しています。
ですが、ネイバーの存在は知っているのでトリオン兵専門、と言っています。

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