三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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→月、¥月、=月

 

 

 

→月γ日

 

 

 林藤支部長の誕生日だが、好きな物は不明だ。と思ったら迅から「塩ラーメン食いに行こうってさ」と林藤支部長からのお誘いを伝えてきた。祝われるのはくすぐったいから自分の好きな物をご馳走するスタンスらしい。

 

 本当に、非常に、大変申し訳ないがお断りした。残念ながら私はラーメンが苦手なのだ。その代わりに迅にはプレゼントの眼鏡拭きを林藤支部長へ渡すようにお願いした。それなりに高い眼鏡ショップで購入したので、こだわりがなければ使ってもらえるだろう。

 

 ラーメンが苦手な理由。味が濃い。麺が上手く啜れない。食べるスピードがゆっくりで麺が伸びてしまう。

 

 迅は分かってたみたいで「やっぱり?」と笑ってた。林藤支部長、本当に申し訳ない。

 

 

 

¥月→日

 

 

 間があいた。年末に向けてのシフト調整から始まり、年始、さらに私たち高校生は修学旅行なるものがあるので三門市から離れる為、その分のシフトや新人育成に掛かりきり。年末年始は1日しか帰っていないよ。

 

 迅なんて「修学旅行? 俺は三門市から離れたくないから行かないよ」とか幹部の前で言っちゃうからお説教&旅行から帰って来るまで任務禁止令を出されてた。迅の「しまった」って顔は傑作だったけど奴の任務がこっちに回って来て大変だった。

 

 進路相談についてボーダーでも面談があり、なんと城戸司令が私の担当でビビった。高校卒業したらボーダーに就職したい、と伝えると城戸司令は

「機密事項も多くあるのでこちらとしても就職は歓迎する。だが現状ではA級の戦闘員である君を事務員にする気はない。君の戦闘スタイルなら多少トリオン器官が衰えても十分に戦えるだろう。

 高校卒業して就職した場合、戦闘員を続けてもらう。そのままアルバイトから正社員として枠組みが変わると思いなさい。もちろん給料も多少上がるがね」

 と言ってくれたので肯定すると

「何らかの理由で戦闘員が不可能な場合はオペレーターへの道もある。どうかこれからもボーダーに力を貸してほしい」

 と仰られて強く首肯する。

 

 もし気が変わって進学するとしてもボーダーに所属する限りは提携校に推せるからな、とも太鼓判を押してもらった。

 

 城戸司令は顔怖いけどめっちゃ良い人やん。高校3年の夏にもう一度面談があり、今度は親を交えてのものだ。未成年者で危険な仕事だからね。

 

 

 

¥月→日

 

 

 修学旅行の行き先は北海道だ。やったね!スキーをしたことないので今から楽しみだ。

 

 不安そうに街を歩く迅を捕まえて修学旅行準備の買い物に付き合わせる。着替えは基本的に学校の制服と体操服だが、寒いのでコートを購入。購入する際、迅のサイドエフェクトに頼ってみた。後悔しない買い物っていいよね! 迅の防寒着も買って、カメラを買う。思い出作り。

 

 夕飯は迅が自家製の肉じゃがをリクエストしたので玉狛支部へ向かった。もう常連だね。帰りは断ったが迅と木崎さんが送ってくれた。

 

 

 

=月¥日

 

 

 旅行からただいま!

 

 スキーは1時間も練習すれば滑れるようになって楽しかった。さすがに急勾配は覚悟しないと怖いし速いのは躊躇したけど、ちゃんとコース通り滑れましたとも。

 

 現地に着くといつも通りに楽しんでいた迅だけど、帰ってくると早々に街を練り歩いているらしい。そんなに悪い未来でも見えたのかと不安に思ったが、どうもルーチンワークにしすぎてサボると落ち着かないんだとさ。怪しい言い訳だ。なんだその縄張りを見回る犬猫みたいな理由は。まあ私が気にしても仕方ない。

 

 明日はお土産を配らなきゃ。

 

 

 

=月¥日

 

 

 写真をプリントアウトして迅にも渡した。家族に送ると「好きな人いる? この茶髪の男子?」と恋バナに持っていかれそうになった。普通の声音で「いないよ」と言えば残念がられた。

 

 ついでに高校卒業後ボーダーに就職する旨を伝えて、夏休みにこちらへ三者面談にきてほしいと言うとOKをもらった。母は進学しても大丈夫だと言ってくれたが、時間が拘束される学業よりそれなりに融通の利くボーダー隊員の方がもしもの時対応出来る。これは迅も同意見らしくアイツもボーダー就職にするようだ。

 

 母は「あなたが稼いだお金だから好きにしなさい」と全面的に受け入れてくれた。父はどちらかいえば放任気味だけど「辛くなったら頭冷やしにいつでも帰って来い」と言ってくれた。言質取ったぞー!

 

 

 

=月¥日

 

 

 通学路が凍っていて、登校する時に思いっきり転んでしまった。タイツはビリビリになるし、足が血みどろになる。

 

 だけど転んだ拍子に放られた鞄が勢いよくトラックに跳ねられて顔が引きつった。一歩間違えればあの鞄は私だ。

 散々な登校に憂鬱になってたら何故かトリオン体の迅が駆けてきた。詳しく聞くと私はもう少し先の交差点でさっきのトラックに跳ねられる可能性が高かったらしい。あぶなっ!

 鞄さんありがとう、私は無事です。

 

 鞄の中の弁当箱が割れて中身が飛び出し、水筒は凹み、筆箱に至っては中身が粉々。あと鞄のポケットに入れていた桐絵ちゃんからもらったヘアゴムの椿も割れていた。

 物凄く悲しかったが、代わりに私の命を救ってくれたのだと迅に励まされて思い直す。そうだね、ありがとう鞄さんの中身たち。

 

 トリオン体を解除した迅に少しだけ頼って高校の保健室で足を手当てして、制服もちょびっと汚れていたのでジャージに着替えて授業を受けた。昼食は購買の菓子パンで済ませた。

 

 迅が始終優しくてさらに嬉しそうに笑ってたのにはイラッときたが、よく考えたら迅は私の事故を未来視してたのだとしたら最近の徘徊は納得する。もしもの為にトリオン体になってまで待機してたのだろう。私が五体満足なのは迅のおかげでもあるのか。

 

 メールで何か好きな物をリクエストをどうぞ、と送れば「角煮」と返ってきた。肉とか木崎さんの得意料理っぽいのに変な奴。

 

 

 

=月¥日

 

 

 もうすぐ3年生の卒業式だ。それが終われば春休みが来て、とうとう私たちも3年生になる。正直、実感はない。でも、こんなにのんびり出来るのは学生だからこそなんだろうと思っている。私の知っている社会人はみんな忙しなく時間に追われているし。

 

 なんかセンチメンタルに書いてしまったけど、学生時代はまだ後1年ある。まだまだこんな気持ちは早いね。

 

 調理実習があった。品目はハンバーグとポテトサラダと卵スープ。班決めの日は臨時任務でいなかったからクラスメートが決めてくれていた。

 

 家で一人で作る方が好きにやれるから楽だけど、たまに大勢で作るのも楽しい。ホワイトボードに書かれた分量をチェックしながら味付けし、味見をすると普通の味。

 絶品ではなかったけど調理実習ってそんなものだし、と結論してたら別の班だった迅が「やっぱり八神の味が美味しい」と評価してくれた。褒めてくれるのは嬉しいけど、先生やクラスメートと一緒に作った料理を前にして言うセリフじゃない。

 

 気まずい空気が流れ、注目を浴びてしまった私は「次の土曜日のお昼、材料費を出してくれるなら調理室で食事会を開く」と言ってしまった。即決だった。先生にもOKを出された。

 

 約20人前の料理とかさぁ……恨むぞ迅。

 

 

 

=月¥日

 

 

 もう疲れた。材料を切るのは先生と早めに来てくれた女子たちにお願いした。フライパンや鍋、コンロが複数あったのが何よりの時間短縮だよ。

 

 私が日頃作っている家庭料理が主な品目だ。女子たちから聞いたが、今まで迅が私の弁当をつまんでいるので全員味が気になっていたらしい。先生に至っては「あんなに男から評価されるなら食べたい」だった。

 

 ・肉じゃが

・餃子

・チンゲンサイのおひたし

・味噌汁

・ハンバーグの5品。

 

 ハンバーグは以前の実習と比較する為に絶対入れてという要望だった。種類とか彩りに偏りがあるのはアンケートを取った為だ。肉じゃがor筑前煮を多数決を取ったし、餃子と春巻きで争ったし、土曜日の前から大変だった。ちなみに私作のおひたしは塩茹でした後絞って保存し、食べる時に砂糖+醤油+ゴマを混ぜたゴマ醤油を掛ける方式だ。

 

 食事会の結果、クラスメートの半数以上が泣き出して焦った。迅がうんうんと頷いてみんなを慰め始めて理由を答えてもらった。

 

 私の味付けや調理法は大侵攻で亡くなったご両親や祖父母の方が食べさせていた料理にそっくりなんだとか。確かに今日作った品目は三門市に来て仲良くして下さる主婦の方々に教わったレシピだった。おひたしは私の祖母からだが。大侵攻は多くの子供からお袋の味まで奪ってしまったらしい。

 

 とりあえず卒業までに覚えている範囲のレシピを教えることを約束して、女子のみんなとはたまに料理教室をすることにした。機会があればご近所の主婦様たちもご招待しようと思う。

 

 

 


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