^月÷日
天気は小雨模様。傘を差してたらヒョイと迅が「入~れて」と雨宿りしにきた。鞄から予備の折りたたみ傘を出して渡すと「……準備いいね」と言われた。まぁね。只でさえ1人でも濡れるのに2人で傘を使用するなど緊急時以外は御免被りたい。濡れるのは替えのある靴下だけで十分です。
影浦くんじゃないけど、傘越しに迅から視線を感じて見上げると神妙な顔でこっちを見てた。また未来でも見てるのかそれとも情緒不安定なのかと考えて脇腹を小突いてやった。ちょうど肋骨の間に入ったようで悲鳴をあげられた。すまん、私も指が痛かった。
「情緒不安定なら頭撫でてやろうかと思ったが、傘が邪魔だったので脇腹にいった」と話せば迅は脇腹をさすりながら溜め息を吐いた。どうも私の思い違いだったようだ。紛らわしい迅が悪い、と断言しておこう。
「未来の分岐点が1週間以内に来るんだ」ポツリと零した迅。そうなんだ、と相槌を打てば迅はまた「5日後、八神に話したいことがある」と言ったので私も「わかった」と答えた。
5日後どんな話が迅から出るにせよ、今まで情緒不安定だった迅に関係することだろう。悪い未来かもしれないのはいただけないが、一人で抱え込ませるのは親友としてほっとけないからな。
^月÷日
木崎さんの誕生日。先日お会いした時に「物はいらないから飯を頼んで良いか?」と言われたので、玉狛支部へ料理をしに行った。
・豚ロース肉のトマト煮込み
・タコとレモンのマリネ
・ほうれん草メインのキッシュ
・冷製コーンスープ
タコは林藤支部長が知り合いから貰ったそうだが、他の材料は迅が揃えてくれた。ケーキは桐絵ちゃんがお気に入りの店で買ってきた。
木崎さんの鉄壁のポーカーフェイスが綻んで料理を褒めてくれた。やはり料理人として食べる人が喜ぶ顔が一番のご褒美だ。あれ、木崎さんの誕生日なのに私が褒美を貰っている不思議。申し訳ない。
木崎さん、誕生日おめでとうございます!
^月÷日
ランク戦。影浦くんの対策を練ったが他の隊員がいると邪魔なので前回と同様の手順でポイントを取っていく。
今回は冬島隊長が私の近くに転送されたのでアドバンテージは充分。機動力が前回とは段違いに上がった私たちは短時間でポイントを重ねた。百発百中の当真くんが頼もしい。隊の誰も落とされることなく冬島隊vs影浦くんの形に持って行けた。ポイント差に余裕がある私たちはこのまま勝ち逃げしても良かったが、せっかくのフォーメーションなので挑戦することにした。
狙撃手として遠距離に着く。当真くんと私はそれぞれ左右に分かれて位置している。みっちり練習した狙撃を当真くんと同じタイミングで行う。視線は2方向。トリオン量を調節してどちらも同じ威力と速度の弾。
影浦くんの戦闘ログに狙撃手とまともに戦っているものは少ない。それはサイドエフェクトが当時知れ渡り、初期の段階で狙撃を簡単に避けたことで『影浦くんに狙撃は効かない』と判明したからだ。
しかし、それは"狙撃手との経験が少ない"という意味でもある。さらにほとんどのチームに狙撃手は1人しかいない。倒す為、というより相手の牽制や誘導が主な役割だ。
覗いたスコープ越しの視線で着弾箇所を察知出来る影浦くんはシールドのフルガードをしない。その箇所だけを守る。狙い通りだった。
影浦くんの肩口からトリオンの煙が上がったのを確認して、驚愕する影浦くんにもう1度挟撃。肩口の負傷で広めのシールドを張られたが、今度は右太股を射抜いた。挟撃。左肩ヒット。挟撃。ヒット。
思考する暇など与えず当真くんと戦闘体を少しずつ削っていく。少しでも油断すれば怖いくらい精密な当真くんの狙撃の餌食だ。そして最終的にフルガードになった影浦くんをアイビスで挟撃、半拍後にイーグレットの弾が影浦くんのトリオン供給機関を射抜いた。
冬島隊の圧勝である。タネを明かすと佐鳥くんのツインスナイプを借りました。もともと一緒に考える時に私も練習したし、私はどちらの手でも撃てる。
今回、イーグレット&ライトニングorイーグレット&アイビスなど重さが全然違う銃でかな~り苦しんだが、そこは特訓した。
片方のスコープを覗かないで感覚だけで撃つこの方法はきっちり影浦くんに有効だったようで安心した。当真くんの油断出来ない狙撃に意識を割けれたのも大きい。
影浦くんを相手する為にトリガー構成を変えて罠が二の次になったが、そこは冬島隊長がカバーしてくれた。影浦くんに狙撃中はバックワームが使えないのでそこも冬島隊長に頼った。やっぱりチームって楽しい。
さて、次のB級上位も頑張りましょう。
^月÷日
どうしよう。思考がまとまらない。けど、まとめる為にも日記に吐き出そう。
迅から「恋愛的な意味で好きだ。付き合ってほしい」と告白された。
思ってもみなかった告白にポカンとしてた。とりあえず嘘でもイタズラでもないのを確認して「1日考えさせて」と返すと、迅はふにゃりと笑って頷いた。
まず私が迅をどう思っているか。好きか嫌いかなら好きだ。likeとloveなら……likeだと思う。今まで恋愛経験をしていないし迅に限らず誰かをそういう対象に見たこともなかった。好き=likeしか私の中にはなかったんだと思う。でも下ネタは通じるし兄貴のそういう本も見たことがあるので、いわゆる耳年増という奴か。
では、直球だがもしも迅と恋人になったとして、その先にあるキスやら性行為やらをどう思うか。書籍や聞いた知識などを使って想定してみると単純に、超絶に、恥ずかしい。体温がぐわーっと上がった気がする。なんだコレうわあああ。もの凄く恥ずかしいぞ!
けど、嫌悪感はない。恥ずかしいけど! 嫌、ではない。
他の男子と考えてみると「ないわー」と体温が下がるので、この叫びたい程の羞恥心は迅にだけ起こるようだ。
では、迅悠一が好きか?
曖昧だ。でも他の男子よりは、好き、だ。でもそれって親愛とかじゃないの。恋愛の意味なの。
わからん。もう1日じゃあ全然足りない! でも返事は明日だ! もう今日じゃん!?
落ち着け。迅は良い奴だ。私のいつだかの"理想のタイプ"にもきっちり当てはまる男だ。とりあえず、落ち着け。好きか嫌いなら、好き。ならば付き合ってみるのも良いんじゃないか。お試し、とか。でもそれは告白してきた迅に失礼だろ。むしろなんで私が好きなんだ、とも思ったが迅の笑った顔が浮かんできて……なんというか、嬉しい。
うん。アイツの悲しい顔とか嫌だ。でも曖昧な態度も卑怯だろ私。なら正直に「迅悠一が好きだ。でも恋愛的な意味で好きかはわからなかった」と告げるべきだ。いやいや、それじゃあ受け身すぎるな。結局は迅に選択を委ねているぞ。どうす
^月÷日
いつの間にか寝落ちしてた。昨日の日記を読み返すに、私は迅悠一が好きだ。昨夜は混乱に混乱が乗じてパニクってたが、朝の現在にお弁当を作りながらそう結論した。返事は決まった。行ってきます。
「好きだ」と告げて迅が安心したように笑った。ギュッと抱きしめてくる迅に私も返した。で、ちょっとした迅の問題発言。
「未来の分岐をちゃんと掴めて良かった。このまま最期まで離さないから。玲の花嫁姿が今から楽しみだよ」
未来視を持つ迅が誘導してただの、『逃がさない』だの、初の恋人が既に旦那と確定しているだの、いきなり名前の呼び捨てだの、色々ツッコミたいことがあったが嬉しそうな迅に負けた。これが惚れた弱みってことか。
名前で呼ぶことを強請られたが、言い慣れない上に人前で呼ぶのは恥ずかしい。高校卒業までは『迅』呼びだと宣言したら、しょぼんとされた。可愛いと思ったのは内緒だ。
好きだと自覚してからなんか私チョロくないか。すぐにB級上位ランク戦なんだから浮ついていられないぞ、気を引き締めろ私。
^月÷日
迅と付き合っても日常はほとんど変わらない。まだ2日だけど、そのことに安心した。たぶん私のペースに迅が合わせてくれているのだろう。
加わったのは増えたお弁当と、登下校を出来るだけ合わせて手を繋ぐくらい。クラスメートには雰囲気で分かるらしく「おめでとう」と言われてキョドってしまった。そんなにあからさまだったかな。
B級上位ランク戦。影浦くん程わかりやすい天敵はいないけど、上位なだけあって一筋縄ではいかない。木虎ちゃんという新人が入ったことによりB級に落ちてきた嵐山隊、当真くん並の狙撃手を擁した最もチームバランスの高い三輪隊が相手だ。
人数的には嵐山隊が上だけど、連携力は三輪隊で、どちらも私の戦術スタイルを知っている。三輪くんなんて以前ずっとランク戦で競り合ってたし。やりにくい相手であるが、遠距離&機動力は冬島隊が上だ。
先ずは外野潰しではなく、前衛潰しにかかった。狙ったのは三輪くんだったが割り込んできた槍使いの米屋くんの左腕を吹っ飛ばした。当真くんは嵐山の頭を撃ち抜いてた。さすが。
すぐさま移動後に罠を張り、最初の地点をピンポイントで狙撃する弾道から三輪隊の奈良坂くんの位置を割り出し、そこからの移動経路を絞って後を追う。
嵐山隊狙撃手の佐鳥くんともう1人の三輪隊狙撃手の古寺くんは残りの転送ポイントから考えて射程圏外にいると分かっていたので開始時点では無視。
当真くんには三輪隊の前衛を狙ってもらい奈良坂くんの援護には誰も来ない。追ってる途中でバックワームを発動させた木虎ちゃんが奇襲を仕掛けてきたけどトラップにかかって体勢を崩したので、すかさずアステロイドを撃ってポイントゲット。
しかしそのせいで自力で奈良坂くんを追うのは難しくなり、古寺くんの狙撃がやってきたので作戦を替えて罠地区の作成に取りかかる。今回作る予定ではなかったが、奈良坂くんに逃走を許したので狙撃手をあぶり出す戦法にした。
結果として、冬島隊4-三輪隊3-嵐山隊1だ。
生き残ったのは当真くんと三輪くんと奈良坂くん。危なかった。当真くんがやられてたら生存点で三輪隊に負けるところだった。
何気に時枝くんが三輪隊前衛と当真くんの猛攻を受けてなお米屋くんを仕留めたのは凄い。ガンナーなのに凄い。
ランク戦後木虎ちゃんが、めっちゃ睨んできた。そんなに怒らないでほしい。謝ったが「そんなに腰が低くてどうするんですか。ソロでA級とか言われてるならもっと堂々と勝ちを誇って下さい」とツンデレられた。はい。
A級チームの挑戦権は得た。精鋭チームと並ぶためにも、連携をもっと頑張ろう。
^月÷日
夏休みの三者面談に母が三門市に来た。いつ警報が鳴るか分からないので長居はさせたくなかったが、せっかくなので泊まると言う。母も防衛隊という仕事に少しは心配しているのだろう。色々聞かれたが、詳しくはボーダーの人に聞いた方が早いと説明。早速ボーダーの指定したホテルの会議室へ向かった。
会議室には根付幹部と忍田本部長と沢村補佐官がいた。三者面談と銘打ってるが人数的には五者面談だね。
一般公開出来る範囲のボーダーについてと就職待遇の説明を根付幹部が行い、日頃の任務活動中の私を忍田本部長と沢村補佐官が褒めていく。お世辞だと分かっても照れた。母は「ちゃんと頑張っているのね。良かった」と安心したようだった。
防衛隊として命の危険はもちろん伴うが、今のところ紛争地に赴く自衛隊隊員よりも危険性は低い。この点が母にとって良かったポイントらしい。これで保護者からの容認もしてもらえた為、就職に向けての書類に押印をしていく。学校にも内定をもらったことを報告できる。
帰り道、食品の買い物をしてたら迅と遭遇した。あれは待ち伏せしてたな。「ども~娘さんの彼氏の迅悠一です。同じクラスで所属は同じくボーダーです」と自己紹介する迅に恋バナが好きな母は目を輝かせた。
「写真に写ってた子でしょ!? やっぱり付き合ってるんじゃな~い。どうして教えてくれなかったの~」とはしゃぐ母を宥めて近くのカフェに誘導する。
写真の頃は付き合っていなかったこと、最近付き合い始めたことを説明。根掘り葉掘り聞こうとする母に迅は面倒がらずに答えていた。最終的に「出逢いは教室からでずっと同じクラス。同じバイト先で社内恋愛っぽいし、やだ~ドラマみたい! 悠一くんイケメンだし良い子だし、これからも娘を宜しくね!」と母がまとめていた。
笑顔で「もちろん」と応える迅を横目に私は黙々とケーキセットを食べていた。ものすごく居たたまれない。
その後、迅を荷物持ちに任せ食材を買って家で私が料理して3人で食べて、ゆっくりした後迅は帰っていった。
玄関で見送った後に母が「あなた、彼と結婚するわよ」と言ってきた。母は直感で父と結婚している。なんでも初対面の時に直感で結婚相手だと解ったらしい。そんな母が言うし更に迅からも宣言を受けているので「知ってる」と返した。
母は私よりも早くに寝たのでこうして日記を書いている。思ったより長い文面になった。私もそろそろ寝よう。
^月÷日
家でゆっくりしてから簡単に周辺や学校などを見て回ってから母を駅に送った。帰り道またひょっこり現れた迅がデートに誘ってきた。デートプランなんてものはなく、ただ手を繋いでのんびりと歩くだけ。老人の散歩の付き添いのようだとは思ったが口には出さない。カフェに入って昼食をとるくらいがデートっぽい。
「この散歩も俺の仕事なんだ」と。未来視のサイドエフェクトだからトリオン兵の襲撃で一般人に被害が出ないか、ボーダーの不利にならないかなどの分岐点を捜す。一方で未来有望な隊員も探したりスカウトしたりとなんだかんだで重要な仕事だった。
会ったことも見たこともない人間や物にはサイドエフェクトが働かないからこそ自らの足を動かすしかない。日々いろんな未来を視る迅の精神力が心配だ。そりゃ情緒不安定も有り得るだろ。
アウトドアよりインドア派の私だが、迅とのんびり歩くのは嫌いじゃない。若者っぽいデートではないけど、アレしたいコレしたいって性格ではないから迅との関係はこういうので良いんだろう。
^月÷日
桐絵ちゃんの誕生日。前々からおねだりされてたのでまたパフェ屋さんになった。気に入ってくれたらしい。新しいパフェグラスをプレゼントしてパフェを作ってみた。今年はクレープでも定番のチョコバナナパフェだ。バナナが変色しないうちに素早く作るのがポイント。
1本を斜めに半分に切って、皮を剥いて、3枚にスライス。もう半分も同じようにスライス。少しズラして広げて生クリーム・イチゴが盛られたグラスに挿して上からチョコソースと粉砂糖をかけて完成。
1分ほどで完成したパフェに桐絵ちゃんは驚くけど、パフェは切って盛っていくだけだと納得して美味しそうに食べてくれた。桐絵ちゃんが作ってみたいと言うので一緒に作った。
木崎さんもパフェを作ってくれるけど、やっぱり特別な誕生日に食べるのが美味しく感じるらしい。喜んでもらえて何より。ちなみに桐絵ちゃんにはパフェグラスと一緒に赤いリボンの装飾がついたパフェスプーンも上げた。
^月÷日
迅からメールで玉狛支部でご飯を誘われたので、玉狛支部へ向かうとニーッコリ笑った迅に迎えられた。嫌な予感がした。
木崎さんがイカ飯とメニューを決めていたので私も手伝っていると迅も手伝いにきて完成。帰ってきた桐絵ちゃんが、私と迅の近い距離に眉根を寄せて、それに迅も怪しげな笑いを出した。
林藤支部長が帰宅して食事の準備が出来る。玉狛支部に所属する全員が今日は夕食に間に合うようでいつもより多くテーブルを出していた。
全員が揃うと迅が立ち、私を立たせて「付き合いました。ちなみに嫁さん確定です」とにこやかに宣言。嫌な予感はすれど未来視を持たない私には想定不可能だった。桐絵ちゃんの悲鳴や支部のみんなに祝福や拍手を受けて私は真っ赤になったさ。
木崎さんが「愚痴や相談を受けていたから普通に嬉しい」と言ってきて衝撃を受けた。愚痴と相談って何。木崎さんに恋愛相談していたのもびっくりだけど、思えば迅っていつから私のことを好きになったんだ。
なんだかんだと私たちのカップル成立を祝い、酒を開けだした大人組に囃されながら迅と2人で支部を出た。「突然でごめん。でも皆に報告したかった」と言われたら怒れないし、大事にしてもらってるんだと嬉しかった。支部のみんなも驚いていたけど否定はなかった。心から迅を祝福している様子だった。
繋いでいた腕を引いて「ありがとう」と笑うと抱きしめられた。
街中でちょっとだけ恥ずかしかった。