三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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 A級ランク戦。待ちに待った挑戦だった。それ故に、あっさりと終わった。隊の名前はあえて表記しない。うん。

 

 搦め手が非常に弱いチームだった。もともと挑戦権がこちらにあるので事前に、執拗なまでに入念な準備を真木ちゃんと練っていた。何回もログを見て癖を見抜き、使ってきた戦術や行動パターンを把握し、私たち3人誰が落ちても対応出来るように作戦を組んだ。

 通常のランク戦とは違いチームvsチームという地力が顕わになる対戦だったことも大きい。その結果が圧勝。

 

 素直に喜んでおこうか。目指していたA級チーム入りを果たし、冬島隊は隊室にて簡単な祝勝会を開くことにした。1人を除いて全員未成年なので各々好きな飲み物を持ち寄って乾杯。正式な祝勝会はもう少し後にすることにした。

 

 

 

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 何回かランク戦をした。A級ランク戦の詳細は日記に書かないことにした。下手したらB級ランク戦の3倍くらいの量になりそうだし。ランク戦をするうちに冬島隊は"運が良い""まぐれ勝ち"という評価から『スナイパーとして理想の隊』だと実力を認知されるようになった。

 

 そんな中、私にとっては2回目の近界遠征任務が冬島隊にやってきた。A級チームとしては新入りだけど今までの戦功と、遠征任務に行ったことがある冬島隊長と私を擁している為だと思う。

 「どんなとこだろ~」と暢気な当真くんと緊張している真木ちゃん。私も気を引き締める。見知らぬ土地は怖いし、戦争地帯だってある。遺書だって書かないと。

 

 今回迅は行かないので「行ってきます」と伝えたら、ぎゅうっと抱きしめられて額にキスされて「行ってらっしゃい」と微笑まれた。

 玉狛支部の前だったんですけど! たぶん顔が赤かった。

 

 行ってきます。

 

 

 

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 ただいま。五体満足で帰って来れた。

 

 迅に「ただいま」を言いに行ったら「おかえり」って言われて、すごくホッとした。いつもは私が迅の頭を撫でるけど、今回は代わってもらった。

 

 遠征先は戦争真っ只中だった。もちろん私たちはどちらの国にも加担せずひっそりと隠れていた。

 戦場に落とされたトリガーやエネルギー源に使えそうなトリオン兵の確保の為に、静かになった戦場へ赴いて瓦礫の下に埋まったトリオン反応を掘り起こす。壊れているのがほとんどだけど、優秀なエンジニアにかかれば機能を呼び起こせるかもしれないから。

 

 戦場跡には、トリオン兵の残骸だけでなく人間の死体も当然あった。ぐちゃぐちゃになった肉体にみんな少なからず顔を強ばらせた。死体を見るのは初めてじゃない。大侵攻の時だって、あったのだ。

 

 問題は何度目かの戦場跡に向かった時。生き残っていたトリオン兵が不意に襲いかかってきて数人が戦闘体を失う。艇から離れ過ぎて緊急脱出が起動しなかったのだ。

 A級チームと言ってもそれはトリオン体があるからこその階級。恐怖に固まる隊員に容赦なく襲いかかろうとするので私は咄嗟にスパイダーを伸ばして彼らを後ろへ投げ飛ばした。着地失敗して打ち所が悪ければ彼らは死んでいたかもしれないが、残っていた隊員が上手くキャッチして艇へ走ってくれた。

 

 撤退も時間稼ぎも得意だったから引き受けた。でもそれは既知のトリオン兵相手のこと。初見で対峙する敵にどれだけ通用するのか不明だった。

 

 結果として私は戦闘体の維持出来るギリギリまで追いつめられたが、勝った。

 片足と脇腹と肩に黒い重りがくっついてどうにも動けなかったが、救出に来た当真くんに戦闘体を解除して運んでもらった。トリオン兵は一部を切り取って保管し、後は帰りのエネルギーとして使った。

 

 ギリギリの戦闘体験だったが、良い経験になったと思う。初見の敵なんてこれからどんどん出てくるはず。今回はトリオン兵だったが、トリガー使いだっている。戦闘しながらの対処は覚えておいて損はない。

 

 とにかく、ただいま。

 

 

 

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 エンジニア統括の鬼怒田さんから、話の折にブラックトリガーについて訊いた。好奇心で「ブラックトリガーは量産できないのか」と。そこで残酷な真実を知った。

 

 命を使ったトリガー。誰かが命を賭して残したからこその強力な武器。迅がS級になったと報告して来た時の複雑な表情を思い出した。古株の迅は知っていて、それでいてブラックトリガーの人物と親しかったのかもしれない。

 

 そう思うと我慢出来ず、迅に会いに行った。待ち構えていたような迅を抱きしめて、自分勝手に泣いてごめんなさいした。

 迅はそっと微笑んで風刃の本当の名前を教えてくれた。最上さん。私が風刃を使うことはないけど、改めて迅と組む時はよろしくお願いします。

 

 

 

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 1日休みを挟んで冬島隊室を訪れると、冬島隊長と真木ちゃんがPCの前にかじりついてキーボードを叩いていた。冬島隊長は遠征任務から持ち帰ったトリガーやトリオン兵の解析で、真木ちゃんは報告書作成っぽかった。

 集中を邪魔するわけにも、と思ったが静かにしてたら問題ないだろうと冬島隊長の周りに散らばった書類データを拾って読み始める。そこで当真くんがやってきた。

 

 「俺、これから当たる弾しか撃たないことにする」

 

 唐突な宣言にみんな手を止めて当真くんを見た。当真くんは真剣な顔でふざけているわけではなく本気で"牽制も誘導もしない。仕留める時だけ撃つ"と言っているのだ。

 これは誓いであり、プライドであり、自分へのプレッシャーなのだと思う。遠征任務にて当真くんはいつもならしない狙撃ミスをしていた。それを深刻に捉えていたのだろう。

 

 冬島隊長は「敵を倒せるならいいさ。任せたぞエース」と言い、真木ちゃんは頷き、私も了承した。

 もともと当真くんの精密射撃で敵を倒す為に作戦を組んでいる。これからもっと特化するだけ。決意表明はしっかり受け取った。エースが十全に実力を発揮出来るように周りがサポートするよ。

 

 

 


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