℃月¶日
自動車学校の教官がウザい。とうとう公道を走ることになった。助手席に教官が座って私が運転。道順は教官が口頭で指示する以外にルートを知らないので従うのだが、指示が遅くて慌ててウィンカーを出すのが何度か。
いい加減にしろ、とも思うのだがそれよりも雑談をマシンガントークしてくるのがアウト。
こっちは初めての公道走行で緊張しているんだ。運転に集中させてくれよオッサン。返しにくいギャグを言うし、雑談の合間にポロッと指示を寄越すから無視するわけにもいかず。
さらにブレーキを踏んで停まる拍子に来る小さな衝撃に敏感に反応して「あーあ~」と言ってくる。ストレスがマッハ。
最近の癒やしは任務の待機時間に隊室でジグソーパズルしてることだ。何も考えず無心になりたくて。あとたまに冬島隊長が愚痴を聞いてくれる。
さっさと実習終えてあのオッサン教官にサヨナラしたいよ。
℃月¶日
林藤支部長の誕生日。なぜか動物園に玉狛支部のみんなと行った。
ふれあいコーナーで陽太郎くんが動物に話しかけたり首を振ったりと忙しそうだった。最近お友達も増えてきたしおしゃべりが好きになったのかもしれない。
動物に話しかける様子は微笑ましいと思ったのだが、みんながしきりに「なんて言ってんの?」と質問するのを疑問に思ってたら、迅が「動物と話せるサイドエフェクト持ちなんだ」と説明してくれた。
なんてロマンのあるサイドエフェクトなんだ、と陽太郎くんを見れば得意げな顔をしていて桐絵ちゃんに「ハイかイイエしか分からないのにどや顔すんな」とため息を吐かれていた。どうやら想像してたロマン能力とは違うらしい。
でも動物の言ってることも多少伝わってくるなら結構羨ましい。まぁ、動物園とかだったら人混み&動物混みのような喧騒を味わうのかも。忙しそうなのも納得だ。
とりあえず不思議な誕生日だけど、林藤支部長おめでとうございます!
℃月¶日
昼休み。どうしても眠たくて空き教室の壁にもたれて昼寝してたら、いつの間にか迅に膝枕してた。
口を半開きで眠る無防備さに思わず頬に手が伸びて触ってた。そりゃ幼児の頬より硬かったけど弾力があった。ついでに頭も撫でる。何気に迅の髪は柔らかい。
寝顔をなんとなく観察してたら尻を撫でられる感触。頬を抓ると「イテテ」と全然寝ぼけてない声音で言うものだから、半眼になった。
起き上がった迅が私の脚を撫でてくるから手を抓ろうとして、脚の痺れを感じて顔をしかめた。
ぎこちなく脚を伸ばす私に迅が「無防備に寝るからだよ☆」とふざけた物言いをすれど、目が笑っていなかったように思う。お前は何を心配しているんだ。漫画みたいな変な事態になるわけないだろうが。
そう思ってたけど、なんかヤバかったかも。さっき風呂場で鎖骨の下と内腿に赤い斑点を見つけた。あの有名なキスマークらしいぞコレ。迅が電話して言ってきた。
鎖骨はまだ分かる。けど、内腿って……タイツの上からつけられるものなんだな、と感心したら迅に笑われた。
℃月¶日
チェスにハマった。クラスメートからアプリをオススメされてダウンロードしてみたら面白くて、何故か文芸部の部室にチェス盤と駒が放置されていたから自動車学校のバス待ち時間の間、色んな人に相手してもらってた。
互いの読み合いも楽しいし、将棋と似たようなルールだけど駒がオシャレなのがポイント高いよね。
冬島隊長にそれを伝えたら花札と麻雀を教えられた。こういう室内ゲームは結構好きだ。三門に来る前に花札は妹と、麻雀は兄と遊んでいたので一応わかる。役を狙い過ぎて負けちゃうパターンが多かったな。
冬島隊長から「見た目に似合わず俗っぽいよな」と言われた。そんなに私の見た目って真面目っぽいのかな?
三つ編みだけど、おさげではない。単純に一つ結びをすると癖っ毛のせいで広がっちゃうから1本の三つ編みにしてるだけなんだけど。
℃月¶日
3回目の遠征任務。前回危ない場面があったからチーム内のメンタル面を心配してた。特に当真くんと真木ちゃん。
しかし当真くんは気合い十分と言った感じで、真木ちゃんは己より戦闘員の方が危ないからと達観して常と変わらない様子だった。年下組のメンタル強い。
迅は今回も留守番だけど、木崎さんが参加するらしい。心強い。
食材の消費期限を確認して、近い物は玉狛支部に寄付。
ではでは、行ってきます。
‡月℃日
ただいま!
帰ってくると一気に街がクリスマスになってて置いてかれた気分ですよ。恋人にクリスマスプレゼントを何も用意していないからそりゃ焦る。
クリスマスが残り数時間で終わることにどうしようとスマホを見つめてたら「だーれだ。ヒントは連絡しようか迷ってる人だよ」と目隠しされた。答え言ってるだろソレ。
恋人の名前を言えば正解だと目隠しを外されて互いに姿を確認。同時に「メリークリスマス」を言った。
「サンタさん。俺、今年は恋人からのキスがほしいです」と言われたならするしかないだろ。背伸びをしてキスしたけど、目を瞑ってたのが悪かった。唇ではなく顎にしてしまった。
しかし改めてするのも気恥ずかしく「サンタさん、私もキスがほしいです」と誤魔化したら、ちゃんと唇同士でさらに深い奴をされた。
口笛と拍手が聞こえてそこで本部玄関に近い道端だったことを思い出した。ボーダー隊員の通り道だよアホ。はい、バカップルでした自覚します。見せつけるように深い奴してたとか、明日からどうしよう。また城戸司令に声かけられたら何て言われるのか……想像するだけで恐ろしい。
‡月℃日
遠征任務で多少間が開いてしまったが、運転実習で特に問題は起きなかった。速度メーターを法定速度でズレることなく維持し、衝撃を丁寧に殺した運転でしたとも!
教官に「おお~!」と言わせることができて大変満足した。遠征中に運転免許証持ちの先輩たちにコツを聴いて回ってたからね!
しかし、教官は私の運転を見て"もう慣れた"と感じて更に雑談を振ってくるようになった。助手席で座っているだけだから暇だとは分かるけどさ……
そんなに親しく喧しく話しかけないでほしい。友人になったならここまで嫌とは思わないけど、教官と友人になる予定なんてこれっぽっちもないから。
次は高速道路を走るらしい。教官の担当する他の実習生も一緒で行きと帰りにわかれて運転実習だと。高速道路かぁ、トラックがいっぱい走ってるイメージだ。あとバス。公道よりスピードが速いだけで基本は変わらないだろう。
‡月℃日
高速道路を走ってきた。小雨で道路が濡れていたので控えめな速度で走ることを指示された。イメージ通りトラックが多かったぜ。
慣れた運転手のオッサンはどんどん追い抜いて行くんだけど、かなり近い距離で車線変更をしやがる。教官もさすがに「あのトラックはヤバいからもう少し車間とろう」と言った。止めろよこっちは練習中なんだぞ。
トラックの近くは、引力が働いてこちらの車が引っ張られる。一緒の実習生も「なんか、吸い込まれそう…」とハンドルをしっかり握って呟いてた。
トラックはデカくて重いのに、速く走る。スピードがなければバムスターみたいだ。バムスターがトラック並みのスピードで突っ込んできたら、正面から受けると簡単に吹っ飛ばされそうだが横や後ろに人間がいた場合は体を引っ張られて巻き込まれそう。
ちょっと怖い想像だ。でも近界は広いから、そんなトリオン兵もいるかも。速すぎる敵をトラップにかけるのは難しい。対策を考えておこうかな。
自動車学校の話は、作者の経験談です。
運転に集中したい。雑談の中に経路指示をポンと混ぜないでほしい。
運転手は心を平静に、と説明を受けました。あれは平静を培う試練だったのだと勝手に決めつけてます。