三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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♧月、∞月

 

 

♧月〆日

 

 

 とうとう卒業式。両親が出席して、迅の方は林藤支部長が保護者席に。

 料理開拓部の後輩はもちろん料理教室に参加してた生徒や先生に泣かれ、お世話になった色んな人たちから花束をもらって驚いた。両親も心底驚いてた。

 

 いつの間にか両親と林藤支部長は仲良くなってたけど、父は迅を"娘の友人"という体で接していた。あとから母に聞いたら迅が正式に挨拶しにこない限りは認めないとのこと。

 

 たくさん写真を撮って、昼食を食べに行くことを迅が提案。既に予約をしていたらしい。迅が案内して趣のある料亭だった。こんなお店があったのかと店員さんに案内されて奥の部屋へ。

 

 「改めまして、迅悠一です。玲の彼氏です」

 と迅が前置きして、父が何か言う前に

「娘さんを俺に下さい!」

 と勢いよく頭を下げた。確かにそんな雰囲気だったけど知らされていなかった展開に吃驚。

 でもそれを面に出せる雰囲気ではなかったので、ちょっとだけポカンとして顔を引き締めましたとも。

 

 両親も林藤支部長も事前に知ってた──迅と母が連絡先を交換してたから。なんで当事者の私に知らせてないんだ。──ようで、父は泰然と構えてまず仕事や収入、住まいなどの現実的な部分を尋ねた。それに迅はスムーズに答えて何の心配もないことを説明する。また、己が防衛隊員としてもし殉職した場合の万が一にも答えた。

 

 そこまで説明されて父は「婚約は許す。結婚は少なくとも君が成人してからだ」と結論して「娘をよろしく頼む」父と母は頭を下げた。「ありがとうございます!」と頭を下げる迅にならって私も頭を下げた。

 

 タイミング良く、というか林藤支部長が指示してたらしく料理が運ばれてきて店員さんに祝福の言葉をかけられた。どうやら障子越しに聞いてたようだ。障子に耳有りってね。

 

 父と迅と林藤支部長は仲良くなってた。昼間だし酒は入ってないはずだけれど父は妙にハイテンションでご飯を食べてた。食事が終わると両親はあっという間に帰って行った。夜、母に電話するとどうやら父は複雑な心境だったようで、帰りの車内でかなり落ち込んでたんだと。

 

 迅になんで知らせててくれなかったのか、と問えば私が知ってたら卒業式どころじゃない上の空になってる未来が視えてたらしい。ウン、ソウダネ。

 

 

 

♧月〆日

 

 

 本免取ったぞー! 教官に報告して自動車学校も卒業。

 

 そして引っ越しも完了。住所変更を申請して寮を引き払い、ご近所さんに挨拶をして──バタバタしてた。新居でやっと落ち着いて互いの顔を見て、自然と笑顔になった。

 

 さて、学生ではなくなったし近い将来に私も"迅"になる。というわけでたまにしか名前で呼んでいなかったけどこれから「悠一」と毎回呼ぶ練習をしなくては。

 間違えて呼ぶとかなり拗ねるし、こっちからキスしないと機嫌を直してくれないしで困った。日記でも間違えないように気をつけよう。

 

 もう一度さて、緊張してきた。

 3つある部屋の一つは寝室だ。共同の。ベッドは一つで枕は2つ。なんだナゾナゾか、いいや明白だバカ。ダメだ緊張して日記の文体がおかしい。

 

 迅は任務で今はいないけど、そろそろ帰って来るはずだ。しかし顔を見合わせてからベッドに入るってなんか今以上に恥ずかしくないか!?

 いや、でも「おかえり」って言いたいし!

 

 よし「おかえり」って言ったら速攻でベッドに入って寝よう。そうしよう。

 

 

 

♧月〆日

 

 

 現在の季節は冬だ。だから暖を求めるのは仕方ないよね!

 

 昨夜は書いた通りに実行して只野イルカを抱きしめて寝たはずだった。だけど目が覚めると迅、じゃなくて悠一に密着してた。そーっと離れて布団を整えてから顔を洗いに行った。うん、慣れない。

 

 朝食を2人分作っているとボーッとした悠一が起きて来たので「おはよう」と声を掛けたら後ろから抱きしめられて耳元で返事をされた。くすぐったい上に背中がぞわぞわしたので顔を洗ってこいと引っ剥がした。うん、甘い。

 

 エンゲージリングを買いに行った。あまりの煌びやかさに気後れしてると店員さんと話してた悠一から呼ばれて、皿に5つのリングを並べられて「この中から選んでほしい」と。値札を取り払われていて悠一のスマートな気遣いにビックリだ。さらにどのリングも私の好みで、かなり迷った。

 

 結果、シンプルデザインリングにダイヤと小粒のトルマリンが埋め込まれた物を選んだ。ダイヤは悠一の誕生石でトルマリンは私の誕生石。かわいい。嬉しい。幸せだ。

 

 一般的に男性は婚約指輪をしないらしいが、悠一は今回買ったリングを後に結婚指輪へアレンジする予定とのこと。今はお互いに婚約した証が単純に欲しいのだとか。

 一般的かそうでないかは私たちには関係ないし、悠一が真剣に私と一緒になることを考えてくれてるのが目に見える形で顕わにしている。こんなに嬉しいことはない。

 

 

 

♧月〆日

 

 

 正社員としての出勤はまだだけど色んな書類を作成しないといけないし、訓練もあるからボーダー本部へ向かった。

 

 最初はチェーンに通して首に掛けようと思ってたが、悠一から「リングを外したら怒るから」と宣言されたので指にそのまま。

 やはり目を惹かれるらしくエンゲージリングについて訊かれて照れた。ちなみに戦闘体へは着けていない。戦闘中に気を取られたら致命的だから。着けてることが自然に思えればいいんだけど、まだ意識してしまうから。

 

 訓練中は当然戦闘体だったんだけど噂で知ったらしい東さんにも尋ねられた時は動揺して狙いを外した。

 書類を完成させて事務局に持って行く途中で二宮さんと出水くんに遭遇して、二宮さんは固まるし出水くんには悲鳴混じりに仰天された。

 

 なんかエンゲージリングでかなりボーダーを引っ掻き回している気がしたけど、同じくらい祝福をもらった。ちょっとした嫉妬もあったけど、特に気にならなかった。

 

 帰り際にお揃いのリングを指に着けた悠一が迎えに来て、また悲鳴(祝福)が上がりいつかのように当真くんが写メって拡散してた。キス写真より恥ずかしくないからOK。みんな、ありがとう。

 

 

 

∞月♧日

 

 

 ボーダーに正社員として就職。新人育成部署に配属され、入隊予定者の名簿を整理したり訓練の日程を調整したり部署間を飛び回る伝言役を請け負ったりなどなど新入社員として働いている。防衛隊員でもあるのでシフトの調整もまずはやってみろと任された。

 

 婚約指輪のお返し、いわゆる半返しをしようと思う。婚約指輪の半額の値段で現金ではなく物品を贈る。調べてみるとブランドのスーツやネクタイ、カフスなどが出てきた。

 でも悠一がスーツやネクタイをしている姿を見たことないしそもそもクローゼットの中に無い。1着はあった方がいざという時良いだろうが、それより普段使いの物が良いと思った。腕時計や財布などが候補に出てきたので、そちらにしようと思う。

 

 半額の値段と言うが、買う時値札を取られていた状態だったし相手に訊くのも憚られる。

 購入したショップで似たデザインを見つけて、大体のお値段を探る。悠一、スマートな男だなと思いました。

 

 

 

∞月♧日

 

 

 もうすぐ婚約者の誕生日である。半返し用の腕時計は購入したけど誕生日プレゼントはどうしようかと悩んでいる。

 いや、まぁ、婚約したし思い切ってアレをしようと考えているけど、言い出すタイミングをどうしよう。シミュレーションしてみるべきか。

 

 朝、ご飯作って挨拶と「おめでとう」言って朝食

→お互いに準備して出勤

→出来るだけ早く退勤して買い物して夕飯作り

→「おかえり」して2人の誕生日パーティーして腕時計(半返し)を渡す

→私お風呂

→悠一を風呂に追いやって着替えて待機

→"テンプレ台詞"(誕生日プレゼント)。

 

 ……"テンプレ台詞"って……文字に書くのも躊躇うのに本番で口に出せるのかな。ノリと勢いでなんとかイケると思い、たい。

 "テンプレ台詞"って書かなくても"ベッドにさそ"あ、ダメだ書けない。本番の私に期待しようそうしよう。

 

 

 

∞月♧日

 

 悠一の誕生日。よし、覚悟はOK。準備も昨日済ませた。

 

 大好き。誕生日おめでとう。

 

 行ってきます。

 

 

 

 俺も大好き。ありがとう。幸せだよ。

                          迅 悠一

 

 

 

∞月♧日

 

 

 え!?

 マジか。

 

 

 


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