三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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少しずつ文字数を増やしていこうと思います。
喋らせたい登場人物が増えていくので、会話文が多くなります。


迅を軸とした三人称
八神の一人称
玉狛支部を軸とした三人称


光を望む

 

 

 「八神と連絡がつかなかったんだが大丈夫か?」

 

「俺の仕掛けたトラップにハマって連絡に気づかなかっただけですよ」

 

 

 風刃を本部に渡して、忍田の心配に答えた迅に全員が白けた視線を送る。お前は婚約者に何をしてるんだ。

 

 迅は意に関することなく「じゃ、失礼します」と会議室を出て行った。

 

 途中、本部の廊下で太刀川と風間に会い、納得していない2人に説明をしてから玉狛支部へ向かった。

 

 宇佐美と新人の三雲修と空閑遊真に出迎えられる。

 

 

「鍛えろよ若者。あっという間に本番がくるぞ。じゃ、俺は帰るよ」

 

「あ、お疲れ様です……って、迅さんここに住んでるんじゃ?」

 

「おつかれサマです。たしかに、どこに帰るんだ?」

 

 

 手を振る迅に三雲と空閑は首を傾げた。だが、次の宇佐美の言葉に驚愕する。

 

 

「おやおや~玲さん帰ってきたんだ。2人共、迅さんは彼女さんと同棲中なんだよ」

 

「え」

 

「え!?」

 

「そういうこと。今日遠征から帰ってきたんだ。指輪は伊達じゃないぞ。おやすみ~」

 

 

 左手薬指の婚約指輪を見せつけて、迅はさっさと玉狛支部を後にした。

 

 婚約者が支部の近くを、と考えてくれたおかげで玉狛支部からそう離れていない自宅が見えてくる。明かりが漏れる自宅に安堵の息を吐いて家の扉を開けた。

 

 

「ただいま~」

 

「! お、おかえり」

 

 

 玄関からリビングに入れば携帯を握って焦った顔の八神が迎える。次のセリフを予知した迅は、内心噴き出すのを我慢するのが大変だった。

 

 

「どうしよう……本部よりぼんち揚げを優先しちゃった」

 

「っく」

 

「わ、笑うな! 電話に出れなかった理由に『ぼんち揚げを片付けるのに夢中で気づきませんでした』って言っても信じてもらえるか、信じられても残念な視線をもらう未来しかないじゃん!」

 

 

 真面目に頭を抱える八神に迅は我慢出来ずに笑った。ムッとする八神が携帯を置いて近づいてくるのを笑いながら逃げる。

 

 ご機嫌で笑い声を我慢しない迅を捕らえようと追いかけていた八神だが、廊下に出た所でハッと気づいて足を止めた。

 

 

「残念」

 

 

 ニコニコ笑顔のまま肩を竦めた迅に、八神はこれまた残念なイケメンを見る目でリビングへと一歩下がる。

 

 

「……私はもうお風呂入ったからね」

 

「うん。一緒にどうかな~って」

 

「変な策練ってないで入って来なさい」

 

「いえっさー。あ、本部にはもう連絡しなくて良いよ。俺が伝えてきたから」

 

「へ?」

 

 

 ポカンとする八神の頬に一歩で近づいてキスをした迅は、サッと風呂場のドアを閉めた。少しして思考を取り戻した八神はうなだれる。己が迅の策略にハマって右往左往していたことを知ったからだ。

 

 熱いシャワーを頭から浴びながら迅は深く、深く、息を吐き出した。

 

 

「……大丈夫……」

 

 

 目を瞑って新人たちを通して視た未来を思い出す。希望の光は健在だ。

 

 

「大丈夫」

 

 

 以前まで絶望しかなかった未来は確かに変わっている。ボーダーにも自分にも、三雲たちは新しい流れを運んでくれたのだ。先輩として助けたいことも本当だが、迅にとっては微かでも希望をくれた恩人だった。

 

 風刃を手放した喪失感はあれど、これから起こる未来の為に必要なことだと確信しているから。

 

 風呂から出た迅がリビングへ行くと「はい」とタイミング良くホットミルクが出された。ソファーに座って一口飲んだ迅は、自然と心が緩むのを実感する。

 

 しかし、その隣に座った八神がジッと見つめてくるのでさすがに気になる。何かな、と口を開こうとした迅の右頬を八神が摘まんだ。

 

 

「ん?」

 

「策にハメた罰。あと、帰ったらいっぱい抱きしめてって約束破った罰」

 

 

 本部の玄関で交わした約束を思い出して迅は頬を緩めたが、片方が摘ままれたままで上手く出来なかった。

 

 マグカップをテーブルに置き、八神に向かって腕を広げるが、一向に入ってこない。けれど、八神は不満げで迅も困る。

 

 

「それと」

 

「まだある!?」

 

「……情緒不安定のくせに甘えてこない罰」

 

「!」

 

 

 衝動のままに迅は八神を抱き寄せる。

 抵抗せず迅の膝に乗せられ、頬を摘まんでいた手はぎゅうぎゅうと抱きしめてくる迅の背中に回された。

 

 

「──……風刃を手放したんだ」

 

 

 しばらくしてぽつんと零された言葉に、八神は反応することなく迅に身を預けたまま。

 それだけで、温かさで、匂いで、迅の心は弛んでいく。

 

 

「未来は、いい方向に動き出してる。俺は最上さんを渡したことを間違いだと思わない。けど……やっぱ、寂しいな」

 

「素直に甘えてくれば良かったのに」

 

「俺だって好きな女には見栄はりたいの」

 

「すぐバレるのに?」

 

「……なんでわかるの?」

 

「内緒」

 

 

 クスリと笑った女に男は負けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、私は壁一面のぼんち揚げダンボールをベッドの上から睨んでいた。久々だったからか見事にベッドの上から動けないのが情けない。腰痛つらい。

 

 迅はキッチンで朝食の準備をしている。遠征明けで数日の休みをもらった私だが、こんなことで休みを潰す予定はなかったのに。

 

 

「玲~大丈夫?」

 

「……大丈夫」

 

「じゃないね。腰揉んでやろうか?」

 

「遠慮します」

 

 

 妙にリアルな手の動きだ。その動きは腰より尻を揉む動きだと思うんだがどうなんだ。

 

 目覚めた時よりだいぶマシになった痛みを引きずってリビングへ向かう。テーブルにはトーストとスクランブルエッグと、昨夜に下拵えしてたポテトサラダ。

 席に座るとコーヒーまで出てきて、なんだか溜め息が出た。

 

 

「どうした?」

 

「いや、なんでこんなイケメンと同棲してんだろうと思って」

 

「……特に格好つけてない時に褒められて複雑なんだけど」

 

 

 微妙な顔でコーヒーを飲む悠一をしり目に、私もコーヒーをいただく。冬場の温かい飲み物は格別に美味しい。コーヒーで食欲が刺激されて食事を始めた。

 

 

「おいしい」

 

「そう? 俺は玲の方が好き」

 

 

 意味を深く考えてはいけない。私も悠一が美味しそうに食べてくれる姿が好きだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「迅さんの彼女さんはね~君たちが目指す遠征部隊に何回も抜擢されてるベテランなのだ」

 

 

 玉狛支部で夕飯を食べている中、宇佐美は得意気に胸を張る。その態度にも言葉にも興味を惹かれて新人3人は質問を重ねた。

 

 

「玉狛支部所属なんですか?」

 

「ううん。玲さん、あ、フルネームは八神玲さんだよ。玲さんは本部所属でA級2位のチーム」

 

「ほう、2位」

 

「ポジションは千佳ちゃんと同じスナイパーなんだけど、ソロでA級まで登った実力者なんだ」

 

「スナイパーで……すごい」

 

「純粋なスナイパーとは言い難いがな」

 

 

 三者三様の反応に宇佐美はフフフと笑い、ちょうど夕飯のオムライスを作り終えた木崎もその会話に加わる。

 

 

「狙撃だけを見れば天才ではない努力家だ。基礎がしっかりしてるからこその実力だな」

 

「ふぅーん。じゃあ他は? それも含めてA級の強さなんでしょ?」

 

「俺の婚約者は強いんじゃなくて、上手いんだよ」

 

「迅さん!? いつの間に!?」

 

 

 玉狛支部の1階に、昨夜と同じく顔を出した迅に空閑と木崎以外が驚いた。空閑は気配を察知しており、木崎は迅の登場に慣れているからだろう。

 

 迅は食器棚からカップを出してインスタントコーヒーを作り始める。木崎が食事の有無を聞けば、件の婚約者と食べてきたと返ってきた。

 

 

「上手いって?」

 

 

 空閑の問いに三雲と雨取も首を傾げる。空閑はともかく2人は戦闘なんてド素人なので当たり前の疑問だろう。

 

 それに迅は一つ頷いてコーヒーに口をつける。

 

 

「ちょっとした隙を作ったり不意を突くのが上手い。自分が納得するまで訓練するし、真面目だし、すっごく料理が美味くて可愛い」

 

「迅、最後はただの惚気だ」

 

 

 木崎の突っ込みに迅は親指を立てた。

 

 迅の八神への評価に三雲は思う所があるのか考え始める。

 

 

「自分が納得するまで……」

 

「当たり前のことだけど大事なことだよ。ま、玲に会いたいならクリスマスに支部へ来るといい。今年のクリスマスパーティーはこっちに参加するつもりだから」

 

「それ本当迅さん!? ならアレ用意しなきゃ!」

 

「おう、頼んだ」

 

 

 テンションが上がった宇佐美に迅はニヤリと笑い、コーヒーをぐいっと飲み干す。

 

 

「じゃ、任務行ってくる。そのまま直帰だから、またな若人たち」

 

 

 後ろ手を振って出て行く迅を何とはなしに見送った全員だったが、雨取の「なんか、迅さん嬉しそう」と零した言葉に宇佐美がニヨニヨと笑みを浮かべる。

 

 木崎は変わらないポーカーフェイスを保ったまま「まぁな」と同意した。

 

 

「迅さんは玲さんにベタ惚れだからね~!」

 

「迅さんが?」

 

「うん。2人で居るところ見たら空気が甘いのなんの」

 

「宇佐美、それ以上はこいつらが実物を見てからにしておけ」

 

「はーい。というわけでクリスマス暇だったらおいで~。戦い方もその時に訊けるからぜひぜひ」

 

 

 クリスマスをいまいち理解していない空閑が良く分からないながらも頷き、三雲と雨取も特に用事を入れていないのでその場で出席を伝えた。

 

 ますますテンションを上げた宇佐美がクリスマスに向けて気合いを入れた。

 

 

 

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