ラッドやゲートなどの捏造設定が盛られています。
八神視点の一人称
家の消耗品や必要品を買い足したり、シーツを干したり、ダンボールを片付けたり、悠一とデートしてたりと休みを過ごしていた。
まだ休み期間だが狙撃訓練をこれ以上休むのは不安なので、渋る悠一にキスをしてからボーダー本部へ向かった。
トリオン体になって狙撃訓練をしていれば当真くんが近づいてきたので、一時中止する。
「何かあった?」
「いんや。てっきり迅さんとまだバカップルしてると思ってたから居るのが意外で」
「バカップル……そんなに目立つかな…? いや、これ以上訓練サボるとマズいと思って」
「真面目だねぇ」
私は天才でも秀才でもないからね。上も下も才能ある人間ばかりで油断してたらすぐに私の居場所なんて無くなってしまう。というか、当真くんだって訓練に来てるんだからそっちも真面目じゃないかな。的に弾丸でお絵かきする様は不真面目だけど。
隣で撃ち始めた当真くんに倣って、私も自分に課したノルマをこなしていく。
「そういえば、帰ってきた日に迅さんと戦闘したんだよ。太刀川隊、オレ、風間隊、三輪隊で。ちなみに迅さんの味方に嵐山隊が入ったから迅さんの相手は太刀川さんと風間隊と三輪隊のスナイパー」
ああ、情緒不安定になった日か。
「遠征行く前に迅さんとは何度もやってたから勝てると思ったんだがよ、完敗だったねぇ。オレも木虎にやられるし」
「へぇ」
「玲さん居たら勝てた?」
「結果までの時間が延びるだけで、結局トリオン切れにされそう」
あ、外した。やれやれもう1セット追加だな。
「玲さん居てもそれか~黒トリガーヤバいな」
「黒トリガー、と、サイドエフェクトの組み合わせが、強いからね」
アイビスに銃種を換えて撃ち込みを始める。
距離は300m。ヒット。動きは40度に予測。ヒット。バネの動きで的が跳ねると予測。ヒット。
「でも迅さんに何度か当ててるじゃん。あれどうやってんの?」
ヒット。悠一への狙撃か。
「当真くんには無理なやり方だから参考にならないよ」
「え~」
「それは俺も気になります」
当真くんとの会話に割り込んできたのは三輪隊スナイパーの奈良坂くん。同じチームの当真くん相手ならともかく、他隊の後輩と顔を見せずに話すのは失礼だろうとアイビスを降ろそうとしたが、その当の本人から「そのままでどうぞ」と許可が出た。
それにせっかくなので甘えまして、口と耳と思考を割く。視線は的に、手は引き金へ。
「本当に参考にならないよ?」
「構いません」
「勿体ぶると余計気になるぜ」
「うーん、あれはね"絶対に当てないように撃ってる"んだよ」
驚く2人が動きを止めたがそれに釣られず引き金を引く。ヒット。順調。
私が悠一を狙撃する時、狙っているのは急所ではなく体のラインギリギリ外。
悠一は攻防の中で可能性の高い未来を取捨選択して戦闘をしている。精密射撃や近接戦闘なんて危険度が高すぎる可能性だ。一瞬の攻防故に悠一は可能性の低いまたは危険度の低い未来は切り捨てる。だから"絶対に当てないようにスレスレを狙う"狙撃など余裕のある時しか考慮しないのだ。
しかし、切り捨てられた私の弾は悠一の選択肢から外れるが消えるわけではない。当真くんや奈良坂くんの精密射撃や実力の高い接近戦など"避けなければならない"攻撃をされた時、避ける動作を起こし意識から捨てられた私の弾に当たってしまうのだ。
もちろんこれは当たらないことを前提にしているから成功するのは極稀だし、誰かと合わせる必要がある。外す弾を撃たない当真くんには出来ないやり方だ。
当真くんも理解出来たようで「そりゃムリ」と諦めていた。
そもそも悠一には精密射撃ほど避けやすい弾はないのだ。ピンポイントに急所を狙撃するのだから早い段階で未来確定が起こるし、わざと隙を見せて撃たせ引き金を引くタイミングをコントロールすることもやろうと思えば出来るだろう。
そう考えると悠一の天敵は不確定な未来を乱立する素人丸出しの狙撃だね。
さて、アイビスも終わったし今日はここまでかな。
「……時々八神先輩はサイドエフェクト持ちじゃないのかと思います」
口を動かしながら片付けを始めると、奈良坂くんがそんなことを言う。会話の流れからおかしくないか。
「え? なんで?」
「そりゃ2個も3個も違うこと同時進行で出来るし」
当真くんまで参戦してきた。
「並列思考とかのサイドエフェクトですか?」
「いや持ってないよ。ほら男性より女性の方が並列思考能力が高いって言うよ?」
「勉強も仕事も真面目だし、ワーカーホリックのサイドエフェクトなんてどうだ?」
「それはエンジニア全員が持ってそうだね」
隈の濃いエンジニアたちを思い浮かべる。苦しみながら嬉々として新しいトリガーに飛び付く、まさに狂気のような魔窟が開発室だと思う。冬島隊長もたまに壊れるし。
遠征に行っていた間の出来事を纏めた書類を見せてもらった。正社員としては下っ端だけど、本部設立から居る立派な防衛隊員だからかそれなりに優遇してもらっている。
先日、玉狛支部に所属した
一つ目はイレギュラーゲートを開く小型トリオン兵ラッド。
二つ目は訓練用トリガーで交戦。
三つ目は新種の爆撃型トリオン兵。
四つ目は爆撃型トリオン兵によって破壊された街や建物の地形変化。私にとって地形変化はかなり怖い。普段戦闘を行わない市街地だが、戦闘が確実に起こらないなんて有り得ない。罠の設置可能点と狙撃ポイントと射線の有無を早めに把握しなくては。
一つ目は既に終わったこととされているが、事は繋がっている。もともとラッドは偵察機だと記してあるのだ。
「すみません八神です。ラッドの件で質問したいのですが」
「はいはい」
開発室を訪ねて適当に声を掛けるとヨレヨレ作業着の
平均的なトリオン量の人間からラッドが集めるトリオン量は1時間でどのくらいなのか尋ね、イレギュラーゲートが最初に開いたとされる日から逆算して潜伏期間を想定する。思いの他長期間偵察を許していたようだ。
「では、爆撃型トリオン兵の映像は観れますか?」
「はいよ。こっちだ」
案内されたモニターの前に座って、本部基地から市街地上空を撮影した映像を確認する。出現から爆発までをしっかり収めた映像を何度かズームして観る。
「───爆発の威力と規模はこれが最小だと考えますか?」
私の疑問におっちゃんは後頭部をガシガシと乱暴に掻く。おっちゃんが思考を働かせる時の癖なんだけど、後頭部が絶対に将来禿げるから止めた方がいい。
「そーだな~、コイツを解体出来たわけじゃねーから正確なのはわからん。んでも、トリオン兵の内部を簡単に弄れる技術を持った国なら数日で威力も規模も変えてくるんじゃね? そこんとこどうよ?」
「……私が見聞きした限りでこれ以上の爆発を起こすトリオン兵は見たことがないですね。でも内包したトリオン量で変動する」
「可能性は高いわな」
三門市で一番目立つボーダー本部を狙われた場合、半壊くらいかな。あれだけ高密度のトリオン爆発は本部基地にも損害を与えられるだろう。
「メテオラ何発分だろ……」
「個人のトリオンで再現出来るわけねーだろ!」
「そうか。集団規模のトリオンの収集……ラッドの長期潜伏はイレギュラーゲートで撹乱や戦力の偵察もあったけど爆撃型トリオン兵の充填もしていたのかも……そもそも帰りの艇のトリオン燃料も集めていただろうし」
「おい、その話詳しく」
「え?」
ガシッと肩を掴まれて思考が途切れる。どうやらブツブツ思考を呟いていたらしい。変人じゃないか。
しかし変人のレッテルを貼られる前に肩を掴んだおっちゃんだけでなく、部屋に居たエンジニアたちのほとんどが私の方を凝視している。助けて影浦くん。
「帰りの艇って?」
「え? え? はい」
戸惑ったけど、なんとか思考能力を取り戻して口を開く。
「えっとですね、あくまで私が資料を読んで立てた仮説なんですが近い内にどこかの強い国がこちらに来るんだと思います」
「そりゃ何で」
「新種のトリオン兵なんて、今までもあったろ?」
エンジニアたちは頭が良いけど戦略なんて勉強してないから想像しないのかもしれない。でも戦争関連でなくとも商業戦略はテレビとかで観ないかな? あ、テレビ見るより研究したいんですね納得です。
「前とは違い、今回は計画的なんです」
今までは突発的なゲート発生だった。それは惰性的にこちらが"弱い"と思われていたからこその行いだ。たいした戦力もないし偵察するまでもないと舐められていた証。
けれど今回の出来事は慎重にこちらの戦力を探る計画性がある。そのやり方は弱い国か強い国のどちらか。強い国と考えたのはラッドと爆撃型の技術力と運用方法。戦争を"し慣れている"からだ。
「ラッドのイレギュラーゲートは誘導できない。誘導装置より内側にいるから。さっきの解体資料では『ゲートを開く』機能しかなかったので単純にトリオン兵をこちらに送ると誘導装置に掛かるはず。でも掛からない。トリオン兵を送り出す拠点、想定では遠征艇もこちらに侵入していると思いました。
ラッドが開くイレギュラーゲートは
ゲートをボーダー側が誘導できるのは爆発的なエネルギーが外側からぶつけられるからだ。本部基地から蟻地獄のような形で膜をほんのちょっとだけ歪めている為、その外側からぶつけられたエネルギーは蟻地獄の中心にある基地周辺へ誘導できている。
この原理からラッドは膜の内側でエネルギーを発生させているのでイレギュラーゲートの誘導はできない。しかし、内側からゲートを発生させると言っても小さなラッドが内包するトリオンエネルギーでは
だからこそ、ラッドはせいぜい
そう考えるとゲート発生までに満たないラッドが集めた余剰トリオンとかは、トリオン兵の卵を孵化させたり艇の燃料に変えたりとか使い道色々あって相手も良く考えてるよね。
「……」
「……」
「……」
無言が続く。
こういう方面でエンジニアたちから同意を得られたなら自信が持てるけど、この無言の意味は何ですか。呆れて物言えないくらいの酷い仮説でしたか。それならそうと言ってほしいが、エンジニアたちの表情はかなり深刻だ。
「あの、あくまで私を立てた仮説ですからそんなに」
無言にならなくても、と言いかけたところでピッと電子音がおっちゃんの手から聞こえた。見れば黒い、ボイスレコーダー。
「おい、録音したのすぐに室長に送るぞ」
「はーい」
「これから忙しくなるな」
「おれラッドの解体資料もっかい見るわ」
「基地の強度調査も」
静まり返っていたのが嘘のように慌ただしく動き始めたエンジニアたちに唖然とするしかない。何か、私のこねくり回した仮説で大事になってないか。
おっちゃんに抗議しようと見ればめっちゃ真剣に録音した私の音声を再生している。止めて! そんな厨二病の羞恥刑止めて!
「よし、音声は良好だしオレらの雑音もないから室長も文句ねーだろ」
「いえ、私が文句あります!」
「これは必要処置だ。八神の仮説が間違ってたって対策立てといて損はないだろ」
それはそうなんですけど、出来れば音声ではなく文書にしたい。しかしそう言っても「二度手間だから」と取り合ってもらえなかった。あの厨二病じみた音声を鬼怒田さん、もしかすると上層部の人らに聞かれるとか恥ずか死してしまう!
どうにか破壊出来ないか目論むも、用が終わったなら邪魔だと追い出された。終わった。
仕方ないので訓練場に行くとしよう。
玄界 │ 狭間 │ 黒い空 │ 狭間 │ 国
という感じです。
これからどんどん捏造過多となります。