三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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もしかしたら、一部の方は反応に困る話かもしれません。
恋愛成分過多でもある拙作をここまで読まれている猛者の方々なら大丈夫だとは思いますが、苦手な方は苦手だと思われます。

※ええ、この話を明け透けに纏めると
『セックスアピールポイントは男だろうが女だろうが注目する』
ということです。


前半は八神視点の一人称
※後半は主に男性陣を軸とした三人称


どこを見るのか

 「何の用ですか」

 

 

 挨拶も何もなしに、木虎ちゃんから冷たい視線を開口一番にもらってしまった。木虎ちゃんに嫌われているのはわかっているがここで別れるのも印象が悪い。誠意を持って話せば会話は成立するはずだ。

 

 

「こんにちは木虎ちゃん。訓練用トリガーでトリオン兵と交戦したという話を聞きたくて」

 

「それはもう終わったことです。報告書は見てないんですか?」

 

「見たけど懸念事項が浮かんだので確認したいんだ」

 

「私は暇じゃないのでさっさと話して下さい」

 

 

 冷たい視線ながらも、なんとか許可を貰えて安心する。

 

 交戦した訓練用トリガーはレイガスト。武器の種類も気になるところであるが重要なのはそこではない。交戦した後、三雲くんの様子はどうだったのか。

 

 

「っなんで私が三雲くんの様子なんか!」

 

「様子というか、怪我の有無を聞きたい」

 

「それならはっきり怪我って言って下さいよ!」

 

「ごめん」

 

 

 めっちゃ睨まれたので素直に謝ると、木虎ちゃんは少しの間考え込む。凛々しい美少女が考え込む姿って絵になる。男性ファンも多いけど、女性ファンが多いのも納得だ。

 

 

「……頬を怪我してたと思います」

 

 怪我、か。なるほど。

 

「うん。ありがとう。あとは本人に訊くよ。忙しいところをごめんね」

 

「ちょっ、そんなあっさり……なんでもないです。思ったより早く終わって見直しました」

 

「あ、うん」

 

 

 ぷいと顔を逸らす木虎ちゃんに、私は嫌われているのではなく、ツンデレを見せられているんじゃないかと希望を持った。うん、木虎ちゃんは小悪魔だ。

 

 

 木虎ちゃんと別れて、本部の外へ向かった。目的地は閉鎖された市街地。

 

 立ち入り禁止とされていたが、許可証はちゃんと出してもらった。トリオン体になってボロボロの建物内を彷徨(うろつ)く。

 

 瓦礫に埋まったままの部屋。

 ぽっかりと、穴の空いた天井から射す夕日。

 薄汚れて綿が飛び出たぬいぐるみ。

 脱ぎ捨てられた片方だけのサンダル。

 

 

「……こわいな」

 

 

 幽霊とかホラー系の"こわい"ではない。日常が一気に逆転した恐怖。

 

 大侵攻で受けた傷は大きい。人が死ぬ、建物が壊れる。この二つが怖いのは当たり前だ。

 

 でも一番大きい傷は心の傷だろう。大侵攻を目の当たりにした三門市民は飛行機にもビクつく。空を飛ぶ物体をトリオン兵ではないかと不安に思うのだ。

 

 カツリ、と足音が背後から聞こえて慌てて振り返った。

 

 

「や。元気?」

 

「──悠一、なんでここに」

 

 

 悪気なく片手を挙げて話し掛けてくる悠一に脱力した。なんだって気配を殺して近づいてくるんだ。

 

 

「ここで黄昏てるのを視たからね」

 

 

 黄昏ていたわけではない。ちょっとセンチメンタルになってただけだ。

 

 脱力した私の頭をポンポンと叩く。だから黄昏てたわけじゃないって。

 

 

「こわいなら俺が守るよ」

 

 

 悠一の言葉に顔を上げる。優しい表情のくせに、悲しさとか諦めとか色んな感情を宿した目だった。

 

 カチンときた。

 

 

「迅悠一」

 

「なんでフルネーム、ぉ?」

 

 腕を引くが体幹がしっかりしてて動かなかったので、仕方なく抱きつく。不意打ちだったのか固まる悠一にちょっとスッキリ。

 

 

「こわがってるのはそっちだろ」

 

「……あー」

 

 

 なんか納得したらしい、頭を掻く悠一。で、こっちを見てくるので体を離して、左手同士を繋いで顔の前まで持っていく。

 お互いにトリオン体だから婚約指輪は見えないけど、察してくれるでしょ。

 

 

「いいか迅悠一。夫婦はお互いに支えて助けていくもの。つまり、1人が一方的に頑張るんじゃなくて、2人で一緒に向き合うことが必要だ。二人三脚だ。そっちが私を守る気なら、私にだって守らせなさい」

 

「……かっこいいねハニー。顔赤いけど」

 

「茶化さないでよ。ちょっと恥ずかしい」

 

 

 手を解いて顔を背ける。遅れてくる顔の熱をどうにかしないと。

 

 話している途中で「なんで廃墟でこんな会話してんだろ」って冷静になってきて恥ずかしくなった。全部悠一が、いや、ここにやってきたのは私だから、半分だけ悠一が悪い!

 

 

「八神玲」

 

 

 フルネームで呼ばれて顔を向けると唇を塞がれた。お互いにトリオン体のくせに、ほとんど肉体が再現されていてなんだか複雑である。舌の感触って。

 

 唇が離れると、頬擦りするように密着。

 

 

「俺を選んでくれてありがとう。愛してる」

 

 

 深くて甘い声が囁かれた。

 

 

「!?」

 

「わっ」

 

 

 トリオン体のくせに、腰が砕けた。

 

 

 

 

  *

 

 

 

 クリスマスになるとどこの店もイルミネーションが輝き、ケーキとチキンが飛ぶように売れる。

 

 私もそれに乗っかって鶏肉を購入。自宅で唐揚げを大量生産してから玉狛支部へ向かった。

 クリスマスケーキは木崎さんが作ってくれるらしいので、とても楽しみだ。

 

 久しぶりに玉狛支部へ向かうと雷神丸に乗った陽太郎くんに迎えられた。

 

 

「れいちゃん、メリーくりすます」

 

「メリークリスマス陽太郎くん、雷神丸」

 

 

 唐揚げの匂いを嗅ぎ付けた陽太郎くんがヨダレを垂らすので、もうちょっと待つように言った。みんなで食べた方が美味しいよ。

 

 

「あ、玲さん!」

 

「メリークリスマス桐絵ちゃん。久しぶり」

 

 

 2階から降りてきた桐絵ちゃんから笑顔を貰った。悠一のことを訊かれたので、任務だからもう少し後に来るはずだと伝える。なぜか桐絵ちゃんが悪どい笑顔を浮かべて……嫌な予感がした。デジャヴ。

 

 唐揚げをキッチンに運んで調理中の木崎さんと烏丸くんへ挨拶。確か烏丸くんは途中で帰ると言っていたはず。余計なお世話かもしれないが唐揚げをパックに分けてきた。

 

 

「烏丸くんこの小分けの分、良かったら持って帰ってくれる?」

 

「いいんすか? ありがとうございます。喜びます」

 

 

 鉄壁のポーカーフェイスまでも師匠の木崎さんから引き継いだ烏丸くんだが、食べ物を与えた時はキラリと目を輝かせるのが面白い。最近すごく頑張っているご褒美も兼ねてだ。

 

 餌付けしてる感が否めないけどね。桐絵ちゃんもよくデザートで釣れるし、陽太郎くんなんてお菓子をくれる人間は善人だと信じて疑わない。変な人に攫われないか心配だ。

 

 でもいざとなったら木崎さんの鉄拳が輝くはず。危険な未来が視えたら悠一が離すだろうし、桐絵ちゃんの純粋すぎる心はこれからも守られるだろう。

 

 

「どうぞどうぞ。木崎さん何か手伝うことありますか?」

 

 

 1人納得して木崎さんへ振り向くと、軽く首を横に振られた。

 

 

「あとは盛るだけだ。朝から籠もってる宇佐美の様子を見てきてくれ」

 

「朝から? はい、わかりました」

 

 

 風邪でも引いたのかとも思ったが、木崎さんの言い方では違うだろう。また何か新しい開発でもしているだろうか。

 

 2階へ上がって栞ちゃんの部屋をノックする。すると中から桐絵ちゃんの声が返ってきて、咄嗟に扉から離れたのだが。

 

 

「捕獲」

 

「!?」

 

 

 離れた先で背後から姿の見えない人物、声からして悠一に確保された。

 扉から出てきた桐絵ちゃんの姿に、顔が引きつる。

 

 

「よくやったわ迅」

 

「うん、よろしく」

 

「まさか」

 

 

 任務だから後で行くって嘘か。それともそのカメレオンが任務なのか。

 

 色々と言いたいことはあったけど、嬉々とした桐絵ちゃんによって私は栞ちゃんの部屋へ連行されるのだった。未来視がなくても桐絵ちゃんの恰好から私の未来がわかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇佐美の部屋へ八神を送り出した迅は、カメレオンを解除して上機嫌で1階へ降りた。こうでもしないと全力で逃げる八神もどうかと思うが、それはそれで好いと考える迅も相当だ。

 

 

「八神もかわいそうに」

 

 

 降りてきた迅を見て木崎は呟く。本気で言ってるわけではないが、嫌がる八神が目に浮かぶので同情した。

 

 

「レイジさんもノってましたけど」

 

「まあな」

 

 

 烏丸の指摘に、木崎は誤魔化すことなく頷いた。宇佐美の部屋へ行くように誘導したのは他ならぬ木崎だ。やはり本気で同情しているわけではないのだろう。

 

 料理を皿に盛っていると新人3人がやってきた。

 

 最初から居る迅に少しだけ驚いたが、ここで迅が『宇佐美が用がある』と雨取を誘導。嘘ではないから空閑のサイドエフェクトは働くことなく、雨取は言われるままに宇佐美の部屋へ向かった。これで準備は整った。

 

 料理を並べて、陽太郎がうずうずと八神作の唐揚げを狙うのを阻止しながら女子勢を待つ。

 いったい何があるのかわかっていない新人2人に「玲さんが来てるけどたぶん手間取っている」と伝えた烏丸に、さらに疑問の視線を向けた時だった。

 

 

「お待たせしました~」

 

「お、おまたせしました」

 

 

 陽気な声で扉を開けたミニスカサンタ衣装の宇佐美と、少しだけ恥ずかしそうにした雨取が入ってきた。

 

 

「なっ」

 

「お、チカ。着替えてたのか」

 

 

 チームメイトのコスプレに三雲は瞠目し、空閑は赤い衣装の意味をわかっていない。

 

 

「小南と八神は?」

 

 

 残りの2人が一向に出てこないことを怪訝に思った木崎が宇佐美へ尋ねた。

 

 

「それが、玲さんが」

 

「嫌だ! ミニスカなんて嫌だ! 拒否! 断固拒否! せめてロングスカートに!」

 

「ロングのサンタコスなんてダサいじゃない! 料理が冷めちゃうってば!」

 

 

 廊下から聞こえてくる叫びに一同沈黙。特に三雲と空閑は知らない声に首を傾げるしかない。

 

 

「という、ね?」

 

 

 困ったように眼鏡の位置を戻した宇佐美が、にやにやした迅へ目を向ける。心得たように親指を立てた迅が廊下に向かって話し掛けた。

 

 

「おーい、大人しく出てこいって。今なら写真の拡散を阻止しても良い」

 

 

 それに叫びが止まる。シーンとなった廊下を歩いてくる2人分の足音。

 

 そうしてやっと赤と白のファーに身を包んだ小南と八神が姿を現した。

 

 ほぼ毎日パンツスタイルの制服と隊服に身を包み、私服でたまにロングスカートか膝丈にタイツしか着用しない八神の脚は白い。程良く肉がついた脚はどこか性的で、それが惜しげもなく露出されている。さらに付き合いの長い玉狛支部の者も知らなかったが、それなりに豊かだった胸元が柔らかなファーに縁取られて逆に強調されていた。

 

 胸元まで羞恥で真っ赤になって俯く八神に、男性陣(空閑と陽太郎以外)に衝撃が走る。

 

 

「……変態……」

 

 

 八神は迅へ向けたつもりだった。なんせ八神の衣装を用意したのは婚約者なのだから。

 

 しかし、思わず男としてガン見してしまった男性陣(2人以外)にもダメージが入った。サッと一様に目を逸らす。涙目の視線を貰った迅など「くっ」と胸を押さえて身悶えしている。

 

 なんておかしな光景だろうか。女性陣の冷たい視線が刺さる。

 

 

「うん……うん、悪かった。ごめん。これ着て」

 

 

 なんとか衝動を抑えた迅が己のコートと膝掛けを差し出す。

 それを受け取ろうとした八神だったが小南に止められた。せっかく着たからもったいないし膝掛けだけにしろ、と。

 

 八神も慣れない脚の露出が嫌だっただけなのでそれに従って迅の隣へ座った。

 ちなみに八神はそのまま生身でのコスプレだが、他の女性陣はトリオン体でのコスプレだ。何の罰ゲームかと八神が涙目で訴えたが、取り合ってもらえなかった。

 

 やっとクリスマスパーティーが始まる。

 

 

 




トリオン体の操作イメージの為に、八神だけでなく戦闘員の女性陣は(那須さん以外)ストレッチとか小マメにしてると思います。ただ八神は普段露出しないので。

伏線回と言いますか、描写の補完の為とかありましたが、この話を入れた理由はちゃんとあります。
私の技量が足らず、描写に入れるとテンポが悪くなったので、反則的ではありますがこちらで述べさせていただきます。
読んでも読まなくても、展開上は問題ありません。

八神がコスプレしてるのは、三雲や雨取に威圧感を与え過ぎないように迅が狙ったからです。八神の顔が怖いわけではありません。
また、生身でのコスプレ理由は迅の下心がメイン、ではないです。少なからず有りはしますが、大きな理由は空閑に敵対意思や武器がないことを示す為でした。


次話もクリスマスの回です。

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