三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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前話と同日の話です。
もともと、同じ回だったのですがあまりにも字数が多かったので分けました。


三人称


交渉か脅しか取引か

 

 

 「レイさんは本部所属なんでしょ。近界民(ネイバー)のことどう思ってんの?」

 

 

 パーティーの中盤。帰る烏丸を見送り、眠気に負けた陽太郎が部屋へ引っ込んで空気が変わった時、空閑が問いかけた。

 

 八神はそれに「異国の人間かな」と答えてショートケーキを一口。

 

 

「ふーん」

 

「こっちの世界でも色々な人間がいるように、あっちにも色々な人間がいる。その人が善人であれ悪人であれ、私たちに危害を加えないなら容認できるよ」

 

「ナルホド」

 

 

 付け足された説明に空閑は納得した。確かに人は千差万別。善か悪かでは判断し難く、同じ国内でも争いは起こる。しかも弱肉強食の世界では負けた方が悪なのだ。

 

 ならばいっそ、人種差別より危害を加えるか否かの判断がわかりやすい。

 

 

「私も質問。中学校でモールモッドを倒したのは空閑くん?」

 

 

 紅茶を飲み込んだ八神の問いに、空閑の隣にいた三雲が動きを止める。分かりやすく冷や汗を掻いている様子に、空閑はやれやれと首を縦に振った。

 

 

「その時の状況を細かく知りたい。今後に関わってくるから偽りなく教えてほしい」

 

 

 カップをソーサーに置き、スッと姿勢を正した八神が体ごと空閑へと向き直る。

 

 大きな動作もなく声音も普通。けれど、八神の瞳はしっかりと空閑に狙いを定めている。覚えのある空気に空閑はほんのりと口角を上げた。

 

 

「……へぇ。おれが断ったら?」

 

「断るの? 意外だね」

 

「いや、断らないケド。レイさんてすごく冷静だね」

 

「空閑くんは思ったより手応えないね」

 

 

 交渉か脅しか。

 

 会話の入り口に追いやられたのは空閑の方だった。そう、これは逃げられない。

 

 隣で聞いていた三雲と雨取が殺伐とした雰囲気に戸惑う。

 何が何だか分からないが空閑を止めようと口を開きかけた三雲の目に、ジェスチャーでストップを掛ける迅がいた。木崎と小南、宇佐美も見守る姿勢のようだ。

 

 

「おれがもしウソ言ったら?」

 

「ウソ次第で対応を変える。この問答に意味はないと思うけど?」

 

 

 わざとらしく小首を傾げてみせる八神に空閑は降参した。もともと空閑はこういった問答より実戦派なのだから。

 

 

「うん。レイさんはこわい人だ。さすが迅さんの女」

 

「悠一を引き合いに出されても複雑かな……偉大な師匠は他にいるし」

 

 

 苦笑した八神に、空閑も顔を緩ませた。自然と強張っていた全員が息を吐く。

 

 

「レプリカ、レイさんに見せてやってくれ」

 

『承知した。はじめましてレイ。わたしはユーマのお目付役のレプリカだ』

 

「あ、はい。玲ですよろしく」

 

 

 にゅっと出てきたレプリカに八神はピクリと反応しただけで、普通に挨拶を返した。

 

 

『情報を映像化しよう。音声は?』

 

「んん、とナシで」

 

『うむ』

 

 

 レプリカからコードが延びてテレビに接続される。

 

 2体のモールモッドが出現して校舎を破壊。生徒が逃げる。三雲が空閑と離れて場面が変わり、三雲が戦闘体を失う。そして空閑が助けに入ってボーダーの訓練用トリガーで討伐。

 

 映像が終わると、八神は静かに三雲へ視線を向けた。三雲の反応で映像が事実であることを知り、そして立ち上がって空閑に頭を下げる。

 

 

「協力感謝します」

 

「イエイエ」

 

 

 頭を上げた八神は迅の前へ進み、肩を掴んだ。

 

 

「ん?」

 

「服返せアホ。ちょっと本部行ってくるから」

 

「今から?」

 

「今から! これ絶対情報漏れしてるでしょ! なんか対策立てないと危ないじゃん!」

 

 

 ガクガクと揺さぶって訴える八神に迅は「おぅんおぅん」と唸るしか出来ない。

 

 八神の言葉に、冷や汗をかきまくっている三雲が恐る恐る質問した。

 

 

「さっきの映像に、悪いことがあったんですか?」

 

 

 映像の内容は自身が完膚なきまでにやられてしまったものだ。しかし三雲は実力が劣っていることを自覚しており、勝手にトリガーを使用した罰についても既に終わったことだと思っていた。しかし正隊員の八神の慌て様は深刻である。

 

 三雲の言葉に、迅を揺さぶるのを止めた八神が振り返る。困ったように眉間を寄せた八神が答えを返した。

 

 

「……三雲くんの行いは間違っていないし結果的に空閑くんの助力を得られて死者はいない。でも、三雲くんの行いは褒められない。なぜだと思う?」

 

 

 三雲の求めた答えとは少しズレた発言はワザとなのか、それとも本当にこの問いが関係あるのか三雲には分からない。

 

 

「それは、ルールを破ったから……」

 

「うん、それも悪いけどね。自分を守れない者に他人を守る資格はないんだよ。君がこの時死ねば、家族や友人は悲しむ。心に消えない傷を与える。それを三雲くんはわかっていないから褒められない」

 

「でも、だからといって僕は見捨てることなんて出来ません!」

 

「じゃあ強くなって。三雲くんのやり方で、自分も他人も守れるくらい。幸いにも環境は整っているから努力次第だよ」

 

「っはい!」

 

 

 会ったばかりの八神のことは分からない。求めた答えも得られなかった。

 けれど重みのある言葉に、三雲は大きく返事をした。

 

 それを受けた八神はくるりと迅に向き直って再度「服」と迫った。また揺さぶられそうになった迅は慌てて八神を抱きしめて拘束する。

 

 

「まあまあ落ち着いて。別に今から行かなくてもいいでしょ。それにさっきのまま報告されるとメガネくんのB級が消える」

 

「え"」

 

「大丈夫だよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 唸る三雲と考え込み始めた八神に向けた言葉。迅はニコッと新人3人に笑顔を向けて八神の頭を撫でた。

 

 玉狛の3人もいつもの迅の甘々な雰囲気を察して、甘いショートケーキと一緒に紅茶で飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティーに最後まで残っていたメンバーは玉狛支部へ泊まることになり、八神も迅の部屋で泊まることになった。屋上を開く音が聞こえた八神は迅に一言断って、屋上へと向かった。

 

 扉を開ける前から刺すような寒さが八神を襲うが、躊躇わずに扉を開けた。そこには空閑とレプリカの姿。

 

 戦場育ちの空閑は足音で八神だということをわかっていたし、特に嫌ってもいなかったから変わらない調子で挨拶をする。

 

 

「さむい……隣、いいかな?」

 

「ドウゾ」

 

 

 屋上の縁に外へ足を投げ出すように座る空閑の隣に、内側を向いて八神が座る。

 

 しばしの沈黙。

 

 

「ねぇ、なんでおれが倒したって思ったの? 現場にもいなかったしトリオン兵も見てないんでしょ」

 

 

 沈黙に耐えかねた、というわけではなく純粋にふと疑問に思ったことを空閑はぶつけた。宙をふよふよと飛ぶレプリカを目で追っていた八神が空閑へ顔を向けて口を開く。

 

 

「報告書は見たよ。倒し方が綺麗すぎた。三雲くんが何か理由があって実力を隠していたとかだったりしても別に良かった。ぶっちゃけ空閑くんか三雲くんが倒したかどうかなんて、どうでも良かったんだ」

 

「フム?」

 

 

 どうでも良かったのに情報を探ってきた八神の意図が空閑には分からず、思わず顎に手をやって唸る。それを面白そうに笑った八神が言葉を続けた。

 

 

「でも色々な懸念が重なって、調べようと思ったのが始まり。報告書と現場にいた嵐山隊に訊いて疑問に思った。三雲くんが頬を怪我してたり擦り傷を負っていたことと、爆撃型トリオン兵が出現した時にトリオン切れを起こしていたこと。

 もしかして、戦闘体をやられたんじゃないかと。では、どうやって2体もモールモッドを倒したのか。そこで三雲くんの近くにいる近界民(ネイバー)の空閑くんに思い至った」

 

「おお~」

 

 

 小さなピースを集めて関連付け、真実にたどり着いた八神に空閑は感嘆の声を上げた。三雲の頬についてはトリオン兵ではなく不良の仕業だったのだが擦り傷については本当だ。

 

 八神はそんな空閑を視界から外して空を見上げる。白い息が八神から漏れた。

 

 やがて、八神が空閑へ顔を向けた。

 

 

「取引がしたい。空閑くん」

 

 

 今度は取引。

 

 次は空閑が有利な場面。

 

 

「……へぇ。さっきは席に座らせなかったくせに」

 

「無駄な攻防をする気はなかったし、こちらがほぼ確定情報を持っていたからね。むしろ私が気づいたまま報告してればそちら、いや三雲くんが困っただろう」

 

「まぁね」

 

 

 ニヤリと空閑が笑うのに、八神もフッと笑む。

 

 そして同時に、互いに笑みを消して目を合わせた。まどろっこしい問答が苦手な空閑は流れを歓迎する。

 

 

「私が欲しい情報は爆撃型トリオン兵を所有し、こちらの世界に1ヵ月から2ヵ月は接する軌道を持つ大きな国について。ボーダーの蓄積資料では現在接している国で該当しない。けれど、空閑くんもしくはレプリカさんならこちらにはない情報を持つと踏んだ」

 

「うむ。持ってるね」

 

「……出してくれたら、私に出来る範囲で君を本部から庇う」

 

「ふぅん? 庇えるの?」

 

 

 八神の言葉に嘘はない。しかし"出来る範囲"とは曖昧な表現だ。

 

 それを察した八神が言葉を付け加える。

 

 

「庇えるが、断言は出来ないな。私は玉狛支部の精鋭に遠く及ばない凡人だから上層部から切り捨てられることも有り得る」

 

「……ウン? 凡人なのにA級なの?」

 

「それに答えたら取引の席にきちんと座ってくれる?」

 

 

 純粋な疑問だったのだが焦れた──ように見せる──八神の問いに空閑は座り直した。腕を組んで、欲しいものを考える。

 

 取引は互いに対価を渡すものだ。対価の価値はそれぞれ。

 

 

「フーム……じゃあ、レイさんのトリガー構成を教えてくれたらいいよ。迅さんがレイさんは『強いんじゃなくて上手い』ってのを知りたい」

 

「いいよ」

 

「じゃあ、成立だ」

 

 

 空閑はそう言うとレプリカに目配せした。レプリカはそれに応えて八神が出した条件で国を絞り込む。

 

 接している国は複数あれど、八神の出した条件に該当する二つの国を挙げる。"アフトクラトル"と"キオン"。どちらも強く大きな国だ。

 

 レプリカから7年前の古い情報だと前置きをされて情報を貰った八神が、情報を整理する為に一度黙った。

 集めた微かな事実情報と貴重だが古い情報を摺り合わせて予測を立てる。

 

 

「うん……凄い情報だ。で、私のトリガー構成だね。メインとサブの括りは聞いた?」

 

 

 思考にある程度区切りをつけた八神が空閑へ問うと肯定が返ってきた。

 

 

「そっか。私のトリガー構成はね───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ありがとな遊真」

 

 

 屋上を去った八神と入れ替わりに迅がココアを持って来た。

 

 

「なにが?」

 

 

 お礼を言ってココアを受け取った空閑が首を傾げる。

 

 空閑にとって八神とのやり取りは"取引"を名目としたものだ。お礼を言われる覚えはない。けれど、一つ思いついて迅に問いかけた。

 

 

「そういえば迅さん、レイさんにおれがウソわかるの教えた?」

 

「いいや、教えてないよ。アイツは自分の目で判断して嘘を吐かないって決めたんだよ」

 

「そっか」

 

 

 空閑もそれを察していたようで、ただ納得した。嘘が絶対にダメだと空閑は言うつもりはない。だが、くだらない、己の不利となる嘘が嫌いなだけ。その点、事実だけを"取引"に用いた八神は救われた。

 

 迅はさっきまで八神が座っていた場所の隣に座った。

 迅の座った場所は空閑と八神より距離が近い。それは迅の方が八神より大きいから、などの理由ではなく、単純に心の距離を表していた。

 

 八神と空閑の間は、人間2人分の距離が開いていた。迅は人間1人分。

 

 ソッと八神がいた場所を指先でなぞる迅の瞳が甘い。空閑は宇佐美が言っていた『ベタ惚れ』を今日の数時間で何度も垣間見ていた。

 

 

「それで、何でお礼を言われたんだおれは?」

 

 

 答えてもらっていないことを思い出して、空閑が再度問いかける。

 

 

「俺の『未来視』(サイドエフェクト)は色んな未来の可能性を教えてくれる」

 

「うん」

 

「未来はいつも動いててちょっとした事でも大きく動くことがある。今日、お前らと玲が会話しただけで未来の可能性がどんどん生まれた。遊真が玲と取引に応じてくれたからな。良い未来をありがとうってこと」

 

 

 サイドエフェクトの有用性も苦労も知る空閑は、迅の心が少しだけわかる気がした。もちろん同じ能力ではないからほぼ解らない。常人よりは解る程度。

 

 空閑は雰囲気を緩めて「どういたしまして」と親指を立てて熱いココアを啜った。

 

 

「レイさんのこと嫌いじゃないし、逆にオサムやチカみたいな奴より馴染みがある。よく考えて行動するタイプだよね」

 

「まぁな~今も遊真から貰った情報を整理するのに夢中だろーなぁ」

 

「おや、シットですかナ?」

 

「俺は結構嫉妬深いよ。でも、あんまり押せ押せは玲が逃げるから調整中なの」

 

「フム?」

 

 

 恋愛よりも戦闘や食欲優先な空閑には解らない感覚に、空閑は改めて迅を年上だと感じた。嫉妬深いと言うが、ドンと構える余裕が見えているのも一因だろう。

 

 

「迅さんはレイさんのどこが好きなんだ?」

 

「全部」

 

 

 純粋な子供の疑問。

 

 それに即答した迅の表情はどこまでも優しい。

 

 

「惚気てもいい?」

 

「いいよ。どうせ夜は暇だし」

 

「じゃあ、遠慮なく。俺な、最初は玲のこと好みじゃなかったんだ」

 

「え」

 

 

 惚気と前置きをされていただけに、そんな発言をされた空閑は驚いた。そしてムクムクと何故あんなに『ベタ惚れ』になるのか興味が湧き上がる。

 

 

「迅さんの好みって?」

 

 

 心持ち身を乗り出した空閑が問い掛ける。

 

 

「可愛くて明るくて元気をもらえる子、だったんだけど今は玲一択。嫌いとかじゃなくて、学校のクラスメイトで親友みたいな感じだったんだ。弁当食べて、会話して、悪ふざけとかもしてたな」

 

「ほうほう」

 

「きっかけは色々あったけど、任務こなして学校で笑って、一緒にいるうちに親友より恋人になりたいって思った。その矢先に玲が事故でいなくなる未来が視えてもう焦りまくった」

 

「なんと」

 

「それを回避してもまだ色々あって情けない話落ち込んでたんだよね。そしたら玲に『自分の力なら自分の為に使え』って言われてからは遠慮しなくなった。

 普段はクールなのに真っ赤になった時がエロ可愛いし、飯が美味すぎるし、俺が落ち込んでたらすぐに察してフォローくれるし、何かと俺のツボを突いてくるし──うん、言葉にすると止まらないくらい惚れてるね」

 

 

 年下の空閑に遠慮なく惚気る迅。宙に浮いていたレプリカがそっと空閑の隣に落ち着いた。

 

 

「飯がウマいのか。そういえば今日の唐揚げはレイさんが作ってたな。言われてみればいつもよりウマかったような……?」

 

「レイジさんと同じくらいだけど、料理によってはレイジさん以上に美味いよ。何故かインスタントラーメンに失敗するけど」

 

「お湯をいれるだけなのに?」

 

「うん。作るのも食べるのも苦手だね。お湯の温度をミスったり待ち時間を間違えたり調味料入れるタイミング間違えたり、食べるのがゆっくりだから麺を伸ばすし濃い味が苦手だからスープもちょっとしか飲まないし」

 

 

 空閑は料理初心者の自分でも手軽に食べれるインスタントラーメンを、便利で美味しい物と認識していたから、八神の失敗例にはビックリだった。

 

 インスタントラーメンを失敗しても唐揚げはウマいのだから空閑にとって謎である。

 

 

「玲の肉じゃがは絶品だよ。味噌汁も出汁が効いてるし、俺が好きって言った料理とか味付けとかこっそりメモしてるの可愛い」

 

 

 それはこっそりと言えるのか、と首をひねる空閑に迅は如何に八神の飯が美味いのかを語っていく。育ち盛りであり、事情ある肉体の持ち主である空閑はそれに食いついた。

 

 近界(ネイバーフッド)にない料理ばかりで想像の材料は乏しかった空閑だが、迅の本心から漏れる料理の数々に興味が尽きない。

 

 知らぬ間に婚約者が手料理信者をまた増やしたことを、当の八神は知る由もなかった。

 

 

 




学校に何者かが侵入した場合、の避難訓練がありますが複数犯を想定した避難訓練はしたことないです。
大きな施設への単独犯はニュースで見かけたりしますけど、複数犯の可能性は低いのでしょうか。計画性のある者なら表と裏の出入り口を塞ぎそうですけど。人間でなくとも危険物を設置したりとか。イメージです。
トリオン兵が学校に侵入した際、生徒が屋上にいたり運動場にいたり校舎内にバラバラでいたり、としていたので、やはり三門市に点在する学校の避難訓練課程を見直すべきかなと思ったりします。話を書くかは未定。
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