三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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今後の更新につきましては活動報告の『三門市に~ 更新について』をご覧下さい。

前提として、展開は原作に依存。
原作とほぼ変わらない部分や進行に関係しない場面は描写していないので、読みにくいと思われます。


作戦開始

 

 

 1月20日の昼。ついに侵攻が始まった。

 

 

『ゲート発生、ゲート発生。大規模なゲートの発生が確認されました。警戒区域付近の皆様は直ちに避難して下さい』

 

 

 突然の暗雲により警戒区域全体が薄暗くなった。

 

 

「ふむ……黒い雲の原理は密度が高くて太陽光を透さないからだったはず。ゲート発生によるエネルギー爆発に影響して気圧の変化があったから雲が一気に出来たのか、それとも落雷のようにゲートが降ってるように見えることから濃密な敵のトリオンの塊が雲に見えるのか」

 

『すっごく気になる考察だけど! 作戦開始だから余計なことに思考リソースを消費しないで集中!』

 

「あ、はい。サポートお願いします円城寺(えんじょうじ)さん」

 

 

 通信で届いた円城寺の声に八神は思考を止めて切り替える。

 

 現在地点は基地から北東の市街地。冬島隊とは別の仕事で警戒区域と、市街地の境界線を回っていた八神は1人である。

 

 本来なら冬島隊の真木と連携するところを、その別仕事のために元オペレーター現エンジニアの円城寺がサポートに就いている。

 

 

「行動を開始します。繰糸(そうし)起動、介入(アクセス)

 

 

 八神がスパイダーのオプショントリガーを起動する。トリオン体に指貫の形で装着している物だ。

 

 普段、八神は両手とも親指と人差し指以外の指先に着けているのだが、今回左手は5本とも装備しており更に指先だけでなく基節骨(きせつこつ)の中ほどにも装着。右手は人差し指以外に左手と同じように配置。数にして計18の繰糸だ。

 

 無線LANのように、近くのスパイダーから八神の管理下に置かれる。

 

 

『八神隊員、基地を中心に東・南・南西を優先しろ』

 

「八神了解。接続(コネクト)

 

 

 円城寺とは別に忍田の通信が入り、指示通りの方角に設置したスパイダーを管理する。

 

 

『遠視覚支援完了。感度異常なし。思考リソースの誘導を開始』

 

 

 俯瞰的に己を()ることを意識して指先と、北東から離れた遠い場所に張られたスパイダーへ意識を移した。

 

 八神が行っているのはスパイダーの繰糸による超遠隔操作だ。

 起点がスパイダーとなる為、事前にスパイダーを設置しておく必要があるのだが、ここのところ毎日念入りにスパイダーを張っていたので問題ない。

 

 

「東部の境界線に向かいます」

 

 

 繰糸を使用したまま八神は場所の移動を開始した。

 

 初動は迅速であり、予測していた通りの規模の戦場だ。B級部隊も次々に到着して無理なくトリオン兵を掃討できていた。だからこそ、大型トリオン兵の中から新型が出てきた時も部隊長たちは不敵に笑った。

 

 油断がなかったかと訊かれたら、少しはあったのだろう。

 

 南部の(あずま)から通信が入る。

 

 

『こちら東! 新型トリオン兵と遭遇した! サイズは3m強。人に近いフォルムで二足歩行。小さいが戦闘力は高く、アイビスを弾く腕の装甲持ち!』

 

 

 東隊の前衛連携を難無く崩し、緊急的に発砲した東のアイビスを近距離で受けたのに傷一つない装甲だった。

 

 東は奥寺と小荒井へ攻撃しながら下がるように指示すると、観察を開始。

 情報であった『捕獲型』もしくは『超攻撃特化型』の可能性を加味して戦う必要がある。

 

 だが事態は一刻を争う。東隊は南部で一番に現場へ到着した部隊だ。トリオン兵1体に集中し過ぎれば市街地への被害が考えられる。しかし新型に背を向けるのも危険な状態だ。

 

 そして、東部にて諏訪隊の報告を受けた本部から警告が走る。

 

 

『諏訪隊員が喰われた! おそらくその新型はトリガー使い捕獲用のトリオン兵"ラービット"と思われる! 各隊、単独で挑むな!』

 

 

 仲間が1名やられたことに動揺が走った。しかし油断は出来ない。

 

 東隊は戦線を徐々に後退させて柿崎隊と合流する。

 

 

「忍田本部長、こちら八神。市街地の防衛は任せて下さい。ラッド一匹たりとも市街地には出しません」

 

『! 通常トリオン兵は八神がくい止める! 新型と交戦中のB級部隊はA級部隊が来るまで戦力の維持を最優先しろ!』

 

 

 蜘蛛の巣に捕らえられた虫のように、通常トリオン兵がスパイダーに吊られ、イーグレットの狙撃が核を破壊。

 新型が飛び出す大型トリオン兵は吊らずに警戒区域へ放り投げられて距離を稼ぐなど、地味に警戒区域街の破壊をしていたが市街地は平和だ。

 

 スパイダーの色は気にせず、太さと強度を瞬時に変えては絡め捕り、時には鞭のようにしなり、イーグレットで撃ち抜かれる。

 狙撃後は早々に位置を変えて、同じ作業を繰り返される。

 

 煩わしい程のバドを撃ち落としていく中、八神の視界に新しいトリオン兵が現れた。

 

 

「! こちら八神。爆撃型トリオン兵を目視! 数は5! まっすぐに基地を目指しています!」

 

『爆撃型トリオン兵接近!!』

 

 

 八神が資料で確認したイルガーの装甲はイーグレットで落とせるものではない。警告するしか出来ず、本部基地も砲台を出して迎え撃つも、先頭2体の内1体が基地の外郭に直撃。

 更に追加の3体も基地を目指す。

 

 確実に1体を砲撃で墜とすも、2体が直撃する、となった時、間に合った太刀川が1体を斬り墜とした。

 残りの1体が基地に直撃するが、目立った傷はない。

 

 空をサッと見渡して、イルガーがもういないことを確認した八神は思考を切り替える。

 考えることは敵の動き。

 

 通常トリオン兵を八神が対応している以上、ラービット1体で部隊規模の隊員を捕獲するのは苦しいはずだ。更なるラービットの追加を危惧していたところでイルガーの襲撃だったが、基地の破壊まではしなかった。

 敵の余力はまだ残っているのに、だ。

 

 

「ん?」

 

 

 通常トリオン兵が増えたことに八神は繰糸に集中する。モールモッドの刃に切られない強度のスパイダーだが油断しては剥がされるからだ。

 

 繰糸に集中しながら思考を戦場へ。

 

 イルガー襲撃後、兵が追加された。

 これは何の意図か。

 

 

「敵の動きはずっと戦力の分散。目立つ本部基地への攻撃はイルガーだけ。戦線は混迷」

 

『何かわかった?』

 

「もしかしたら、敵は本部基地にC級隊員がいると思っていたのかもしれません。本部襲撃で反応がなかった為、兵は一気に市街地へ向かうと思われます」

 

『玲ちゃん捌ける?』

 

「ラービット相手だとスパイダーは危険ですね」

 

 

 円城寺と通信を介して情報を整理すると、今度は本部へ通信を繋ぐ。

 

 

「例の作戦を開始します」

 

『了解だ。直ちにベイルアウト持ちのC級隊員は5人一組で走れ! 他はトリガーを解除して誘導しながら避難だ!』

 

 

 囮作戦の開始だ。

 

 現在、警戒区域から脱したトリオン兵はいない。だからこそ一般人と避難するC級隊員を目撃される心配がない。ベストなタイミングで作戦は開始された。

 

 けれども問題はある。

 B級隊員は未だに新型と交戦中な上に、3部隊以上固まって戦線に出ているため、当初の予定より囮のC級は危険だ。

 

 最低限の情報しか配られないC級隊員には当然、余計な混乱を防ぐために伏せられる。だが、C級の中で囮に選ばれた隊員は訓練とは違う危険をきちんと察知した上で動き出した。

 

 作戦開始は全隊員に知らされる。B級隊員たちは出来るだけ囮のC級の補助へ向かいたいが、向かってくる敵が多すぎて予定通りの動きは出来ていない。

 

 三雲は雨取がいるC級チームの元へ急ぐ。

 空閑は(ブラック)トリガー使用中なので同行が本部から許されなかったが、代わりに頼れるA級隊員の木虎が着いていることが心強かった。

 

 B級隊員が自由に動けない以上、C級隊員のサポートも八神は請け負った。

 東部で差し向けられた色違いのラービットを翻弄しながら、東部・南部・南西部の通常トリオン兵の拘束とC級チームの護衛を同時進行で行っていた。

 

 本部基地内でそれを聞く忍田はその異常性に目をみはるも、事前会議にて八神の『私なら全方位を同時にサポート可能です』が虚偽でも誇張でもなかったのだと改めて知る。

 味方側故に、信用しているが故に、彼は深く考えなかった。

 

 城戸は静かに鬼怒田へ視線をやる。視線に気づかない鬼怒田は、八神の活躍に冷や汗をかきながら「当然だ」と拳を握っていた。

 城戸には何の報告もあがっていないが、エンジニアと八神が結託して何かをしていることは知っている。おそらくそれが関係しているのだろう。

 

 そこで、事態は次の段階へ動いた。

 

 

 




進行優先で駆け足気味なので展開が早いです。
しかし、原作で"大規模侵攻は2時間程度の出来事"なので。


  八神のトリガー構成
スパイダー(改造)・繰糸・バイパー・イーグレット
スパイダー(改造)・繰糸・繰糸(改良)

・繰糸(改良)
単純に超遠隔操作を可能にする為の機能が加えられただけ。

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