アレクトールの能力は、弾に当たったトリオンをキューブにするものだった。
C級への初撃は八神がスパイダーとバイパーを当て、逃した分は迅がスコーピオンを犠牲に凌いだ。
米屋・緑川も武器を犠牲にしたが、対峙していたラービットの追撃を受けて緑川が
「こんにゃろう……新型と連携してきやがる……!」
『玲、あいつが指揮官だ』
「っC級! 総員ベイルアウトせよ!!」
迅の内部通話に、八神は一瞬躊躇って指示を下した。
八神には基地内の人型がどうなったのかも不明で、敵におそらくワープ使いがいるとも想定している。
それでも、あの複雑自由な動きの弾を操る
鳥の次に魚へ形を変えた弾丸が全員を襲う。
躊躇いを見せる雨取を三雲が強い口調で逃がしたことで、雨取は無事にベイルアウト出来た。だが、数人のC級が脱出する前にキューブとなってしまった。
『やられたな……金の雛鳥に逃げられた』
対するハイレインは、ポーカーフェイスを保ちながら苦く呟いた。
『内部に侵入いたしますか?』
『……いや、やめておこう。エネドラを倒す使い手が居ては情報のないこちらが不利だ。幸い雛鳥を数人捕らえた。その確保と玄界の戦力を調査するとしよう』
内線で通信してきたミラにハイレインは応え、ミラには待機を命じた。
奇しくも八神の指示はタイミング良く、基地内のエネドラを忍田が無力化した後であった。ミラがエネドラを始末したすぐ後のことだった為に、ハイレインはやむなく基地襲撃を諦めざるを得なかったのだ。
またもや、鳥や魚に形を変えて弾丸が飛ぶ。
「出水くん!」
「ハウンド! ヒヨコ一匹通すかよ!」
八神の声に答えるよりも早く、出水は誘導弾で目視した弾丸を次々と撃ち落としていく。
その間に、迅は出水が撃ち合いに集中できるように2体のラービットを受け持ち、八神はスパイダーを器用に編んで転がっていたC級キューブを拾って三雲へ渡した。
「三雲くんはこのまま本部基地へ!」
「はい!」
三雲が駆け出すと同時に、バチッと音が鳴って出水が崩れ落ちた。飛ばしてきた弾丸は派手な囮で、足元からトカゲの形の弾丸が這い寄ってきていたのだ。
「意外とやらしーじゃねーか……」
両足がぐにゃりと歪む。幸い、弾丸の大きさが足りなかったのか、それとも頭や胸の核に当たらなければいいのか、キューブにされることはなかった。
だが、機動力を削がれたことは未知のトリガー使い相手にかなりの痛手だ。
これ以上の攻撃を受ける前に、出水は弾を生成して撃ち出す。同じ轍を踏んではやらない。
「バイパー!」
後方から八神も出水の誘導弾の軌道を辿って撃ち込んだ。どちらの弾も相殺されてトリオンキューブがパララと地面に転がる。
「出水くん微々たるものだけどフォローするよ」
「ありがたいッス。とりあえずアイツに一発お返ししなきゃ気が済まないんで」
『お待たせ~! 基地内の人型は倒したよ! スナイパーたちが屋上に集っているから射線確保をお願い』
『こちら円城寺。お待たせ! 思考リソースを近距離に集中。思いっきりやっちゃって』
「!」
突然繋がったオペレーターたちの通信に、出水と八神は内心ニヤリと笑む。
「出水くん、私に足くれない?」
「八神さんその言い方こえーッス。お願いします」
極細サイズの糸が雁字搦めに片足ずつへ絡む。ギブスを嵌めたように固定された両足で出水は立ち上がった。
「ほう……器用なものだ」
固めた両足から八神の指先へ糸が伸びている。
人形師のように繋いでいるが、見た目ほど容易なことではない。
出水の重心移動や意思を把握して動かさなければならない、繊細なコントロールが必要だ。動きの激しい戦闘では決して試みようとも思わない選択。
常人には出来ない。
だが、
『すげ! 天才かよ』
『凡人だけど。私のトリガー構成じゃあ建物破壊は無理だからよろしくね』
『了解』
内部通話で会話を終えると、アレクトールから蜂が生成される。
「蜂の大群とか寒気がする」
「あそこまで細かくとか有りかよ」
繊細なコントロールを両手で行っている為、八神は弾丸が飛ばせない。その分、出水が撃ち落としていくが、同時に全ては落とせない。
八神の操作で避けながら地道に落としていくが、反撃が出来ないことが現状だ。
米屋も迅も近接武器なのでハイレインとやり合うのは不利。ハイレインの弾丸が2人に行かないようにも、出水たちは配慮しなければならない。
『どうします?』
『スナイパーたちの射程には十分に入ってるよ。もうちょっと建物の多い場所で破壊したいところだけど、これ以上下がっても着いてきてくれないだろうね。あの塀を越えた所でお願い』
既に2人はハイレインの弾丸が、トリオンにしか効果がないことを見抜いている。
だから目くらましついでに、周囲の弾丸を瓦礫で蹴散らすことを目論んだ。流石に本体はトリオン体なので瓦礫ではダメージは入らないはず。
「どうした? 一発お返しするんじゃなかったのか?」
『よろしく』
「……余裕こいてんじゃねーぞ、このわくわく動物野郎。わかってきたぜ。てめーのトリガーは、トリオンにしか効かねーと見た」
「!」
「メテオラ!!」
炸裂弾が左右の住宅を派手に破壊する。砂塵と瓦礫がハイレインと2人を襲う。
派手な爆発にただの煙と、ハイレインが纏っていた弾丸からのトリオンの煙が辺りを覆った。
「──トリオン以外での攻撃か。目の付け所はよかったが、俺を生き埋めにするには少々瓦礫が足りなかったな」
「あらら……もっとビルとかあるとこに誘導できてたらなあー…………なんちゃって」
「……!?」
死角からの狙撃が、ハイレインの脇腹に風穴を開けた。
「!! なに……!?」
原作と比べ、エネドラの退場は早い。