三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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当真を軸とした三人称


隊と組織からの認識

 

 

 冬島隊にとって八神は、"緊急時の懐刀"のようなものだ。

 

 得意とするスパイダートラップを始めとしたフィールド形成、的の誘導、隊員の援護、時間稼ぎからの逃げや突破など、サポートにこれでもかと特化した戦術を好む。完全に攻撃を当真に任せているからこその戦術だ。

 

 居てくれると非常に心強く、実際の戦闘能力よりも精神的な安定感が強い。

 

 常でも、冬島の頭脳的サポートを行い、同性で年下の真木が溜め込まないように配慮し、当真の悪戯や遊びに付き合うような隊の緩衝材だ。

 

 見た目から真面目系だと思っていた当真はそのギャップに驚いたものだ。

 書類整理の息抜きに八神を冗談半分でモンハンに誘った時、まさかソフトを持っていて、しかも高ランクまでやりこんでいるなんて思わない。

 

 また戦闘面でも柔軟に当真のやり方を受け入れ、その上で作戦を練るのだ。当真と冬島は"真面目系モドキ"と内心命名している。

 

 以上が冬島隊での"緊急時の懐刀"だが、ある近界(ネイバーフッド)遠征任務からボーダー内でも大きく評価されるようになった。

 

 忍田を指揮官として遠征任務に行き、3つほど国を渡った時である。

 

 入国した国は、小国に類され、他国からの侵攻を受けている最中だった。どの国へ入国する際も細心の注意を持って入るのだが、どういうわけか遠征艇が見つかり乗組員は全員拘束されたのだ。

 

 敵対国の者ではないと判断されたが、外部の人間故に拘束が緩められることはない。トリガーを奪われて大人と子供に分けられ、さらに男女で分けて牢に入れられる時。

 戦争中だからトリオンの塊である遠征艇を解体されるのでは、と戦々恐々としていた時だ。

 

 

「私たちを傭兵として雇いませんか?」

 

 

 八神が拘束されているにも関わらず、堂の入った態度で背筋を伸ばして口を開いたのだ。

 

 戦力に困っていたのだろう。

 相手はほんの少しだけ反応を見せた。そして何故先ほどまで主導で話していた忍田ではなく、小娘がそう提案してきたのか興味が湧いた様子だった。

 

 それを見逃すことなく、八神は事も無げに『外部に接触する際、小娘の己より大人が主導の方が信用されるから代理を頼んでいた』と宣ったのだ。

 

 忍田への暴言にも等しい言葉だが、それ故に相手の興味を更に引きつけた。

 そして傭兵としてPRをして言葉巧みに上官を喚ばせ、"対等な契約"の場として自分のトリガーを取り返して席に座った。

 

 実力を疑う相手に「では証明しましょう」と国の実力者と忍田を手合わせするように要求して、忍田のトリガーを取り返す。もちろん忍田が1vs1で負けることはなかった。

 

 そして一騎当千の戦力として認められ、次は契約金を法外な額を最初にふっかけて、八神は値引き交渉を始めた。

 流れを見事に掴んだ八神だったが、当然、最初から全員が解放されるわけではなかった。

 

 

「一騎当千と言うのなら2000の敵を相手にしてみよ」

 

 

 無理難題と謂わざるを得ない要求に、八神はやれやれとジェスチャーをして当真を指して「2000ならば彼と2人で十分です」と言った。

 

 驚愕する相手から当真のトリガーを取り返し、戦場を聞き出し、敵の兵器と地形と最近の気候を掘り下げて3日で片付けると宣言。

 驚きっぱなしの相手に、自分たちが失敗するまで遠征艇にも部下(仲間)にも手を出さないことを確約させて見せた。

 

 

「ひどい役割を任せて、ごめん」

 

 

 当真はいざ戦場へ2人で向かう時、ぽつりと零した八神の声を聴いた。

 

 

「いいさ。そんだけ信頼されているってことだろ? オレの腕にかかってるとか燃えるじゃねーか」

 

 

 ニッと笑った当真に、八神はぎこちなく笑ってからすぐにポーカーフェイスを作った。戦果の監視に選ばれた人間が来たから。

 

 宣言通り2000の軍勢を2人で討ち取った。

 3日間で、というより戦場にいたのは1日だけ。

 

 最初の2日間、八神は情報収集に専念して必要なことだけ当真に渡していた。書面や口頭での情報だけでなく、戦闘が行われる戦場にまで行って細かく調査しており、動かない八神に国も当真も焦れていたが八神は「調査を怠れば勝てる戦いも勝てない」と切り捨てた。

 そして約束の3日目、脅してくる国を鼻で笑い、八神は当真と監視を連れて戦場へ立ち、戦果を上げたのだ。

 

 身を隠すことを当真にお願いして、八神は沸き立つ国の上層部へ間を置かずに乗り込み「契約は果たした。報酬を頂こう」と全員分のトリガーを取り返した挙げ句、補給物資と近界(ネイバーフッド)の金銭と遠征艇をもぎ取る。

 

 国は仲間の身柄を質に、更なる要求をしようと考えていたが、腕利きのスナイパーがどこにいるのか不明であり下手すれば自分たちが狙われると断念したのだ。

 遠征艇で逃げる際も、八神は国の地形を上層部以上に把握していたおかげで無傷で脱出し、戦場で拾っていた小国と他国のトリガーを忍田に献上し、それから、土下座した。

 

 上を蔑ろにした挙げ句に、独断専行で全員を危険に晒したことを誠心誠意詫び始めた八神に、忍田は逆に感謝していることを伝えて褒めていた。

 

 それからも遠征はトラブルが何度か起こり、その度に八神は知恵を絞って窮地を脱してきた。

 本来なら窮地へ陥る前に対処すべきなのだが、どれだけ対策を練っても知らない国への遠征は危険が付き纏う。

 

 それらを乗り越える八神の手腕にボーダー上層部も"智慧(ちえ)"として認め、今回の大侵攻でも意見を求められていた。

 

 

「にしても今回ばかりは玲さん、ムリし過ぎだろ」

 

 

 イーグレットを構えながら呟いた当真に、通信で冬島と真木が同意した。

 

 基本的に八神の行動を隊では制限しないし、今までの功績から信頼も置いて受け入れている。

 しかし、何でもかんでも肯定しているわけでもなく、文句がある時は遠慮なしに言う。

 

 八神も「自分は凡人だから」と言って憚らず、間違いや納得出来ないことは言ってほしいと提言していた。

 

 八神は良く言えば慎重で、悪く言えば臆病な性格だった。作戦を練る時は出来るだけ隙なく重ねて動けるように作るのだ。

 

 けれど、今回の作戦はどこか強引に進めていた節がある。

 

 

「迅さんからも直々に頼まれたし、我らが隊の参謀も頑張ってるし。いっちょ、やるかー」

 

 

 気の抜ける声音だが、視線はスコープの先に在る的から離れることなく、神経を尖らせた指先で引き金を引いた。

 

 

 




作中の描写参考は、伝説のフィンランドの白い死神様です。
彼の戦績は、末恐ろしい実力もさることながら、祖国で慣れ親しんだ戦場だったこともあると思います。
白い死神様は隊を率いての戦功だったのですが、今回はサポート特化の八神を代用して範囲をカバー。白い死神様の代名詞でもある散弾銃はシュータートリガーで面を取ったことにしております。


  PRとアピールのチョイスで悩む
・PR(=public relations)
宣伝、広告。官公庁や企業の告知・宣伝などに多く使用される。
・アピール
訴えること、強調して関心を引くこと。

どちらが使い方として適切なのか……
この2つの前に「自己」がつくと更に意味合いが違ってくるようなので、かなり悩みました。
この話では組織の力を示す(説明する)ニュアンスだったので"PR"を取ったのですが、合っているかは不明です。

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