三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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時系列は スナイパー亜種と布石 の前。

需要があるのかさっぱりだったのと、本編に全く関係ない話なので。
でも迅と八神を本編でデートらしいデートをさせていないことに気づいて執筆。

作者はコーディネートが苦手なので服の色を描写していないのはわざとです。

オリキャラ?
只野イルカ。八神が高校の頃に家族旅行で購入したイルカのぬいぐるみ。でかい。


番外編2 お互い様だと自覚しろ!

 

 

 

 「明日、半日でいいからデートしない?」

 

 

 ベッドの上でゴロゴロしながら八神が誘いを掛けた。迅はじゃれあうように八神を毛布と一緒に抱きしめて、目を細める。

 

 

「いいけど。半日でいいの?」

 

「十分だよ。だって私は休みだけど悠一は色々と忙しいでしょ?」

 

 

 腕と毛布の中で心地良い温かさを甘受して、八神はクスクスと笑う。

 その笑みにつられそうになった迅だが、腑に落ちない点があったので唇を尖らせる。

 

 

「恋人に時間を使えるくらいの甲斐性は持ってますぅ」

 

「えー。わっ、ごめっやめ!」

 

「ゆるさーん。くらえ!」

 

「あはははは!!」

 

 

 擽りの刑に処された八神は笑いながら逃げようとするが、しっかりと毛布と腕で拘束されていた為に無理だった。

 

 

 「あついよ……ばか」

 

「ごめんごめん」

 

 

 笑い疲れて息絶え絶えとなった八神に、ナイトテーブルに置いていたペットボトルを差し出す。

 

 迅を軽く睨んでそれを受け取り、冬の気温で常温でも冷たい水を喉に流し込んだ。

 

 

「それで、どこに行くか決めてるの?」

 

 

 白い喉が動くのを眺めながら迅が問えば、八神が口からペットボトルを離して頷く。キャップを閉めてナイトテーブルに置き、代わりにスマホを掴んで操作する。

 

 1分と経たずに見せられた画面のページに迅はなるほど、と頷いた。

 

 

「水族館か」

 

「うん。短時間でも十分に楽しめるでしょ」

 

 

 三門市は海に面しているからか、水族館の内容も充実している。かなり大きいというわけではないが、小規模でもないから県外からも人気があるようだ。

 

 

「年始はお休みするからクリスマスは普通に出勤だし、だから今のうちにどうかなーって」

 

「いいね」

 

「イルカショーもあるけど、ここのアシカが芸達者で有名なんだって」

 

 

 同意を得られた八神がニコニコと、水族館の見所情報を迅に宣伝していく。おそらく情報を知った時から行く機会を狙っていたのだろう。

 

 ご機嫌な八神につられて迅もゆるゆると笑顔になりながら、ベッドの傍らに鎮座しているイルカのぬいぐるみに目をやる。約80cm。ぬいぐるみの中でもそこそこの大きさではなかろうか。

 八神が先にベッドに入っている時、結構な頻度で抱きしめられているので迅がたまに嫉妬を覚える複雑なぬいぐるみだ。

 

 

「今度はアシカのぬいぐるみでも買うの? 名前は只野アシカ?」

 

「あ、バカにしたな。只野イルカは語呂が良かったんですぅ」

 

 

 今度は八神が唇を尖らせた。それに迅がキスをすれば、驚いたのか後ろへと倒れる。

 

 ベッドの上とはいえ勢いがあれば痛い。さり気なく頭とベッドの間に手のひらを差し込んでキスを続ける迅に、八神も腕を伸ばして受け入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同棲している2人だが、今回のデートはバス停で待ち合わせをすることにした。

 先に迅が支度を整えて家を出たので、八神も予め用意していた服に着替え、いつもは三つ編みにしている髪をハーフアップにして家を出た。

 

 

「お待たせ」

 

「お、新しい髪型。似合うじゃん」

 

 

 ナチュラルにウェーブが入っている黒髪を軽く撫でて微笑む迅に、八神ははにかんで応えた。

 

 浅いVネックのニットにショートダッフルコート、柔らかいフレアスカートから伸びる足は黒いタイツを纏っている。ただ、このタイツは肌の色が見えるような見えないような薄さで、絶妙に男心を擽る仕様だ。

 

 

「悠一も雰囲気が全然違うしカッコイイよ。もっと私服増やせばいいのに」

 

 

 迅の服装はインナーにケーブルニットを着込んでモッズコートを羽織り、トリオン体でも好んで履いているカーゴパンツ。

 全体的なチョイスは変わらないのだが、ニットなどを普段は着ないので印象が違う。

 

 

「デートの時にだけ解禁するからいいんだよ」

 

 

 へらっと笑った迅は八神の腰を軽く抱き寄せ、甘い香りが漂う首筋に唇を落とした。

 

 

「こら、くすぐったい! あと外だからそういうのナシ!」

 

「えー。デートだからいいじゃん」

 

「う…………ほどほどにお願い、します」

 

 

 迅は顔を赤くして大人しくなった八神に気分を良くしながら、バス停のベンチへ促した。

 

 しばらくしてバスがやってきた。2人は無意識に運転手と他の乗車客を煽りながら、目的の水族館前まで到着。降りる際に運転手がギリギリとハンドルと握っていたが、2人は気づかなかった。

 

 

「おお、あったかい」

 

「ホントだ」

 

 

 館内は空調が効いており、外から来た客はもちろん2人も自然と表情を弛ませた。

 

 クリスマス前だからか想定より客は少なかったが、迅も八神もしっかりと手を繋いで受付に並ぶ。

 

 

「ショーは10時からだって」

 

「あと2時間か。経路順ならあっという間に回れるんじゃない?」

 

「そうかな~? 大きな水槽とか見応えバッチリで悠一が魅入っちゃうかも」

 

「じゃあ玲は俺に魅入ってくれたらいいよ」

 

「わぁ、イルカの写真の方が魅力的かも」

 

「ひどい」

 

 

 軽くじゃれ合いながら受付を済ませ、パンフレットを片手に床や壁に示された経路に従って歩む。

 

 入口から近い水槽は浅瀬や川に棲む生き物たちが迎えてくれた。

 

 

「小さいね」

 

「でも色鮮やかな魚が多いよ。あ、メダカ」

 

「玲は珍しい魚より身近な魚の方が好きなの?」

 

「好きってわけじゃないけど、知ってる名前の生き物って反応しない?」

 

「マグロとかサーモンとか?」

 

「それはお寿司ですね」

 

 

 小さな生き物たちのコーナーを抜けると早速ショースタジアムに出たが、まだ時間に余裕がある為2人はそのまま経路を進むことにした。

 

 次に見えたのは群れになった魚たちの水槽で、先ほどとは打って変わった大きな水槽に2人は思わず魅入る。群れの鱗が館内の照明を反射させてキラキラと輝いている。

 

 

「わあ……」

 

「すごいね」

 

 

 感嘆する2人に構うことなく群れは大きな水槽を泳ぎ回る。

 

 しばし足を停めていた2人だが、後ろから流れてきた客に気づいて歩みを再開する。

 

 

「やっぱり大きな水槽は注目しちゃうね」

 

「家じゃ無理な規模だもんな~」

 

「あ、あっちはエイだって!」

 

 壁に書かれたコーナー名に反応した八神の表情がわくわくと変わる。やはり自分で言ったように、知っている名前はテンションが上がるのだろう。

 

 普段落ち着いた様子が多い八神の、こういうふとした時に見せる表情が迅は好きだった。

 

 八神に引かれた手に従って足を動かせば、またもや大きな水槽。

 

 

「こっちも大きいね」

 

 

 エイやウミガメ、小さい魚に大きな魚といった様々な種類が一緒の水槽に入れられて悠々と泳いでいる。

 

 

「ウミガメも一緒なんだ」

 

「え、どこ?」

 

「ほら」

 

 

 迅が指差す方を八神の視線がキョロキョロと動く。ちゃんと見つけられたようで視線がウミガメを追い始めて、そして顔ごと上へと上げられるのに迅は笑った。

 

 見られているのに気づいた八神が迅の笑顔にムッとする。

 

 

「水槽を見なさい、水槽を」

 

「はーい」

 

 

 大人しく水槽に向き直った迅に倣って、八神も大きな水槽を眺める。広い水槽だから案内に書かれた全ての魚を探そうにも時間がかかる。八神は既に知っている名前を探すより、悠々と泳ぐ生き物たちを眺めて楽しんでいるようだ。

 

 迅も久しく来ていなかった水族館という場所を大いに楽しんでいた。ボーダーに戦力として参加して以降、遊びより訓練に集中していたから。昔来たのはいつだったかな、と思いを馳せようとしたところでポケットのスマホが震えた。

 

 

「ショーが始まる10分前だね」

 

「わ、思ったより時間経ってたんだ」

 

 

 八神の手を引いて伝えると、驚きに目を見開く。気づけば周囲の客も少数になっていてショースタジアムに流れたのだと知る。

 

 2人も少しだけスピードを上げて来た道を戻る。スタジアムへ着くとまばらに席が埋まっており、八神が背伸びして席を探そうとしたところで迅が手を引いた。

 

 

「あっちに行こう。こっち側は濡れる」

 

「さすが」

 

 

 未来視で水が飛んでくることを察した迅が先導して、空いている、且つ水に濡れない特等席に八神を座らせた。

 

 

「ビニール持ってきたけどいらなかった?」

 

「俺が居るから玲を濡らすわけないでしょ」

 

「よしよし、褒めてつかわす」

 

「ははーっありがたきしあわせ」

 

 

 ふざけて鷹揚に頷いてみせる八神に、迅も演技がかって応えた。そして同時に噴き出して笑った。

 

 ショーの最初はアシカからだった。鼻先に棒を載せてバランスを取ったり、ボールを載せたり、はたまた棒の上にボールを載せたりと力強さを見せてくれた。

 前足で拍手するのもなかなか上手く、トレーナーと息の合った輪投げショーも観客を沸かせた。

 

 

「床をスイーッて滑るの面白いね。カーリングみたい!」

 

「バランス力よりそっちなんだ。寒くない?」

 

「大丈夫。ポケットにカイロ入れてきたから」

 

 

 ほら、とポケットからカイロを出す八神に迅は「良かった」と言って腰を抱き寄せた。八神は腰に添えられた迅の手にカイロを当て、その上から手を置いて温もりを共有する。

 

 

「イルカショーは定番だから色んな水族館で観れるけど、アシカショーって初めて観たよ。来れて良かった」

 

 

 微笑む八神に、迅も笑みを浮かべた。

 

 迅は水族館へ行くとなってから、未来視でショーの内容はいくつか視ていた。けれど実際の場所へ訪れて、そして八神の反応を直に体験して、心の底から「来て良かった」と考える。

 恋人と一緒に体験して感情を共有出来ることが嬉しかった。

 

 

「あ、観て。あんな高い場所までジャンプするんだって」

 

 

 イルカショーは既に始まり、スタジアムの上から吊されたボールにタッチする演目だ。イルカの体重を考えればそんなにジャンプは出来ないはずだが、彼らは水中で時速50kmほどで泳ぎ、助走を作って最高で8mに達するジャンプ力が出せる。

 

 水族館のプールでは約4mほどの高さにボールがあり、見事イルカたちはボールへタッチした。その後もジャンプ力を魅せる為に、回転をかけたジャンプを連発。

 

 

「すっごい水しぶき」

 

「でしょ?」

 

「夏は涼しそうだけど、今の季節だとね~」

 

 

 夏に連れてきて八神をびしょ濡れにするのも楽しそうだと考えた迅だったが、口には出さなかった。先ずは結婚式だよね。

 

 約30分ほどのショーも終わり、迅の未来視通り一切濡れなかった2人は席を立つ。

 

 

「よし、もう一回大きい水槽を眺めようよ。次は悠一より先にウミガメを見つけてみせる」

 

「いいけど俺には勝てないよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

「ここでその決め台詞はズルい」

 

 

 カイロをポケットに戻して、迅と手を繋いだ八神が歩き出す。

 

 

「じゃあ私が勝ったら2号を買うから!」

 

「そこはアシカのぬいぐるみじゃないんだ……」

 

 

 何故か気合いを入れる八神の背中を見ながら、迅は新しいイルカのぬいぐるみを買った場合の未来を視る。

 

 

「じゃあこの角を曲がったらスタートね?」

 

「おっけー。はい、見っけ」

 

「え!? うそ、早い!」

 

「本当だよ。ほら、あそこ」

 

「マジか」

 

 

 一度目に観た時と変わらず悠々と泳ぐウミガメの姿を八神も見つけて、唇を尖らせる。

 

 

「残念でした」

 

 

 得意気に笑った迅。未来視で抱きしめられる2号を視て、1体でも十分なのに、そのポジションをこれ以上盗られたくなかったのだ。

 

 

「ぬいぐるみ好き?」

 

「普通じゃないかな。でも、でっかいぬいぐるみはロマン」

 

「抱きしめるなら俺にしてよ。いつでも歓迎」

 

「柔らかさが足りません。でも筋肉は好きです」

 

「くっ! 脂肪と筋肉どっちを取れば……!!」

 

 

 ウミガメのいる水槽コーナーを抜けると館内カフェに着いた。まだ正午ではないが、混む前に休憩を挟むことにして席へ座った。

 

 カフェテーブルは水槽が観える位置で、先程ショーで活躍していたイルカたちが顔を覗かせる。

 

 

「水族館に来てからずっと思ってたんだ。魚が食べたいって」

 

「わかる。観てたらなんか食欲が刺激される不思議」

 

 

 少々情緒に欠ける会話をする2人だが、残念ながらカフェには軽食しか置いていないため、水族館の別館にあるレストランにて魚介を食べることを決めたのだった。

 

 休憩を挟み、また経路順に進む。

 

 大小様々なクラゲや深海魚、サメなどの水槽を眺め、感想を言い合い、ふれあいコーナーでは子供が多かったので場所を譲ったりなどしながら移動する。それぞれ楽しみ、名残惜しく思いながらも本館を出て別館へ向かった。

 

 別館にはレストランと土産屋が入っており、予定通り2人は海鮮定食を選ぶのだった。

 

 

「うん……周りのお客さんも魚介系だし、おかしくないよね」

 

「やっぱ影響されるよなー」

 

 

 中には肉を食べている人もいるが、客の大半が魚や貝を食べている光景に、迅と八神は自分たちを棚に上げて笑った。

 

 食事を終えて、玉狛支部への土産を探す。八神は冬島隊の土産も選ぶべきか悩んだが、また後輩たちにネタにされては堪らないと結論して真木にだけ買うことにした。

 

 水族館の生き物たちの形をしたクッキーを玉狛支部用に選び、クリアファイルを真木に選んだ。イルカやアシカがデフォルトされたマグネットと、入浴剤を記念に購入。

 

 水族館を出て時間を確認すると、16時過ぎ。その時間に八神は「ふふ」と笑った。

 

 

「どうした?」

 

 

 土産の入った袋を持った迅が尋ねる。

 

 

「んー…、だって最初の予定は半日だったのにな、と思って。悠一と一緒だと幸せで時間忘れちゃう」

 

 

 同棲しているくせに、八神は色んな時間を共に過ごしたいと考える。

 

 だが、それは迅も一緒だ。むしろ迅の方がその想いは強い。

 

 

「あ"ーなんで今日の夜に防衛任務入ってんだろ」

 

 

 色々な葛藤に迅は顔を覆ってその場にしゃがみこんだ。婚約者が可愛い過ぎる。

 

 そんな迅に合わせて八神も屈み、頬にキスを贈った。

 

 

「隙ありーってね。さ、帰ろ。防衛任務に間に合わなくなっちゃうよ」

 

「あ"ーあ"ー絶賛後悔中なの。もっかいキスしてくれると立ち直る」

 

「現金だなぁ。よーし、3秒以内に立つとしてあげよう。3」

 

 

 カウントする間もなく立ち上がった迅に八神は噴き出した。そして大きな手を掴んで歩き出す。

 

 

「玲ちゃーんキスはー?」

 

「家に帰ってからね」

 

「謀られた!」

 

「何のことやら」

 

 

 とぼけながら進む八神に、迅はしばらく口をへの字にしていたが、ふと、愉しい未来を視て機嫌を直すのだった。

 

 

 

 

 




一応人物設定に外見を載せていますがイメージキャラを挙げると、
八神の髪はFateの遠坂凛っぽいロング癖毛です。遠坂さんの髪を緩く1本の三つ編みにしているのが八神の常態です。ラフで寛いでいる場合は、アニメUBWの大人遠坂さんとかイメージぴったり過ぎてかなりヤバかった。

迅と八神の身長差って?
八神は三雲と同じ身長なので、迅と三雲が並んでいるコマを参考にして下さい。

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