三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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♠月

 

 

♠月▷日

 

 

 最近忙しくて日記を書くのがダルかったため、最近の出来事をまとめて書く。

 

 チームで任務を回すからシフトの回転が速い。別にそこは良い。給料がちゃんと出るし。問題は期末テストだ。

 

 ボーダー隊員は学生が多いからどうしても平日の昼間はシフトに穴が空く。大学生組や忍田本部長辺りの方々がある程度埋めてくれるとはいえ、三門市全域をカバー出来るわけじゃない。その為、たまに緊急で呼び出される時がある。学校側も"人命を守る為に必要措置"と判断して公欠扱いをしてくれる。欠席にならないのは良いけど、授業を何限か聴いていないからテストが不利になるのは確実。同じクラスの迅をテスト勉強に誘ったが奴は「赤点じゃなかったらいいんだよ」精神なので頼りにならない。けど、神は私を見捨てなかった!

 

 チームメイトの風間さんは成績優秀者だ。しかし今年は受験だからと遠慮していたところ、東さんがボーダー内で勉強会を開いていると紹介して下さったのだ。何故ボーダー内かと訊けば、上司の方々が隊員の成績が下がることを憂慮して依頼したらしい。東さんの他にも大学生組や手の空いているエンジニアさん達が協力しているとのことで、教えられたその日に早速向かった。抜けている授業内容の補完が出来たから一応テストは大丈夫なはず。というか皆さん丁寧に教えてくれるから、これで酷い点数を取ったら申し訳ないぞ。

 

 最近はどこもチームメイトが揃わないらしく、急造チームでの任務が増えてきた。私は同じ学校でクラスメイトの迅と組むことが多い。というかほぼ迅とコンビ任務だ。所属歴と場所が違うから今まで奴の実力を本当のところ知らなかった。初めてのコンビ任務は、うん、傍観者だったね。

 

 2回目もやはり足手まといで、迅の動きを観るしか出来なかった。S級の実力ハンパねぇよ。でも私も負けず嫌いなところがあるしこのままだと給料泥棒だったから迅のサポートに徹することにした。

 

 戦闘に余計な手出しはせず、敵の誘導や戦場を整理することをメインに行った。迅には「八神がいると動きやすいし速く終わる。それにあんまり頭使わなくていいからかなり助かるわ~」とお世辞を貰った。努力はしてるけど迅に気を遣われている間はまだまだかな。

 

 迅と組む任務は全部難易度が高い気がする。基本的に個人vs群れバトルだし。きっとB級の私のことは考慮されてないんだろうなぁコレ。迅は純粋なアタッカーでトリオン補強機能付きの黒トリガー使っているから余裕っぽいけど、私は毎回トリオンの限界寸前まで動いてますよ!

 

 

 

♠月▷日

 

 

 テスト終わった! 今までで一番の出来だと思う。嫌いな英語もヒアリング以外は集中して勉強していた範囲だったから30分で解けた。見直しもバッチリだ。隣では迅が寝ていた。相変わらずな様子。赤点は取るなよ。

 

 昼休み弁当を持ってきていた迅と教室で食べていると「八神と迅って付き合ってんだよね?」とクラスメイトに問われた。「ないナイ」と即答したら残念がられた。入学式からずっと仲良くしてるし、たまに弁当を一緒に食べているから勘ぐったのだろうが迅とは良い友人関係だ。

 

 私の好みのタイプを訊かれたがその場は曖昧にありきたりな答えで濁した。だって今まで考えてた理想のタイプは『自分より10cmは背が高くて、お互いに認め合えて、はっきりした心の芯を持っている人』だから。この条件だと迅は普通に当て嵌まってしまう。確かに迅は良い奴だけど、恋愛感情で好きとは思わないんだよ。

 

 

 

♠月▷日

 

 

 夏休みは最初の1週間は帰郷の為にシフトを空けた。ゴールデンウィークに帰っていなかったから流石に帰って顔を見せなきゃ家族が三門市に乗り込んでくる気がする。

 

 家族構成は両親、大学生の兄貴と高校生の私と小学生の妹。兄貴の学費で家計はピンチだったらしいが、私がボーダーに所属してから仕送りしてるから前ほど苦しくはないとのこと。だからか家族はボーダーの仕事を賛成してくれている。民間の防衛隊や自衛隊みたいなものだと説明しているから給料が高いのは納得しているのだろう。兄妹の中で私が一番発言力が強くなったぜぃ。

 

 とりあえず帰郷前に冷蔵庫の食材を消費しないと。

 

 

 

♠月▷日

 

 

 沢村隊長と円城寺さんとカフェに行ってきた。所謂女子会だ。同じチームの風間さんをハブるのは気が引けたけど、女子会だから仕方ない。今更だけど風間さんって女3人に男1人の状態なのか。

 

 最初はボーダーの話とか最近の任務についてとか話していたけど、いつの間にか恋バナになっていた。沢村隊長は忍田本部長にホの字だとか。顔を真っ赤にして話す沢村隊長は大変可愛い。普段とは違う沢村隊長にギャップ萌えを理解させられた。円城寺さんはつい最近失恋したらしく、憂いを帯びた横顔は私には一生出せそうにない色っぽさがありました。

 

 この流れで私も恋バナを強要されたが生憎そんな経験はないッス。好きな人も今はいないって。理想のタイプは前書いた通りのことを正直に喋ったが「理想とガッチリ当てはまる男なんていないわ」と円城寺さんには斬られ、沢村隊長は「忍田本部長のことじゃないよね?」と笑顔で牽制された。違います。どちらかと言えば忍田本部長より城戸司令の方が好みです。そう考えると私はワイルド系が好きなのか? でも林藤支部長も結構好きな方だ。あれはワイルド、というよりダメ男臭がする。自分の好みが分からなくなった。

 

 沢村隊長はまだ告白はしないらしい。色々言っていたけど、要するにきっかけがないらしい。恋愛経験者の円城寺さんはもだもだしている沢村隊長に微笑みを浮かべて見守るだけだったので私もそれに倣って隊長の恋を黙って応援することに決めた。

 

 

 

♠月▷日

 

 

 展開が分からない。

 

 久し振りに二宮さんが模擬戦を申し込んできたので受けた。ら、戦績が10戦中6勝3敗1引き分けだった。自分でも動きが良くなったと思っていたけどここまでとは…! と勝利を噛みしめていたら、二宮さんから仏頂面で「どこが悪かった」と質問された。

 

 今回の模擬戦は私の方が強くなった、わけじゃない。いや、ここ最近迅と任務組んでたからそれなりに上達したとは思うけど、私みたいな凡人が天才な二宮さんの上達スピードには追いつけない。二宮さんは今回自分の戦法ではなく、私に似た戦法を取ったのだ。3敗は私が用意し損ねた撤退ルートを回収され、チャンスを潰されて負けた。

 

 どこが悪いなんて、明確なラインはない。敢えて言うなら、追い込むまでの過程で消費するトリオンが多い気がする。けれど、私の戦法より以前のやり方をもっと隙をなくして極めた方が二宮さんはやりやすい気がする。

 

 そう伝えると二宮さんは少し考えた後「…わかった。明日から頼む」と頭を下げてきた。もちろん私は固まった。あの傲岸不遜の二宮さんが頭を下げただと!?

 

 コミュ症ながらよくよく訊いてみれば、二宮さんは東さんとはまた別に師匠を探していたらしい。前の模擬戦祭りは東さんから紹介された有望株を片っ端から当たり、己に無くてしかし必要なことを持っている相手を探し、先日全員を当たり終えた。何人かの技術はその模擬戦祭りの最中に学んだらしいが、改めて考えると私の撤退戦術は己とは正反対過ぎて消化出来なかったと。結果、私に弟子入りを決めた、と。クールな見た目とは違って凄い貪欲な性格だなこの人。

 

 断った。私は他人に教える柄じゃないし、ましてや年上の男性とか……コミュ症に何を求めてるの。

 

 しどろもどろに「ムリです」と断っていたのに、何故か最終的に了承してしまった自分が憎い。どんな話術を使われたんだ私は。

 

 その後任務で迅に愚痴を言うと「うん、良い方向に進んでて安心した」とまた電波なことを言われた。他人事だからってお前ェ。

 

 

 

♠月▷日

 

 

 ボーダー本部に行かなければ(何故か)弟子になった二宮さんに会わなくて済むんじゃね? とか現実逃避してたら隣の席で迅が「今日の放課後に二宮さんから電話くるからちゃんと出ろよ」と言ってきた。番号なんて教えていませんが?

 

 「俺が教えた☆」と言う迅を1本背負い投げしてやった。私、悪くない。床にもんどり打つ迅が「これは読み逃したな…」と呟いていたが相変わらず意味不明。

 

 柔道は小学校で卒業したから現在は素人に毛が生えた程度だ。現役戦闘員の迅なら読み逃すも何も楽勝で避けられるだろうが。投げたけど。

 

 放課後、本当に二宮さんから電話が来て、急遽任務が入ったから訓練はまた明日に回しても良いかと尋ねられた。どうぞどうぞ。

 

 せっかくの機会なので弟子入りをもう一度断ったが、相手は引いてくれない。考えた末に「夏休みの最初の1週間は帰郷する。弟子入りは帰ってきてからにしてほしい」という旨を伝えた。未来の私に対応を託した形だが、これはこれで良い筈だ。帰ってくるまでに二宮さんが考え直したり他の師匠を見つけていたらいいなぁ~。

 

 そして、もしもの為に私もその間に準備しておこう。

 

 

 

♠月▷日

 

 

 あと2日で夏休みだが、食材が減らない。そんなに買い溜めしている気はなかったけどこれを機に見直そう。とにかく今は賞味期限が近い食材をどうするかだ。カレーに出来そうな具材だけど、一人でカレーは食べきれないからなぁ。

 

 今書いているのは朝だから、今日の任務で隊のみんなに相談してみよう。今日の夕飯を一緒にどうですかー?

 

 

 

 良かった。みんな快諾してくれた。女性比率が多くて食べきれるか不安だったので丁度会った木崎さんと迅も誘った。ついでに風間さんがカツカレーが好物だと情報を手に入れた。一人部屋にそんな人数が入らないことに途中で気づいた木崎さんが機転を利かせて玉狛支部で食材を持ち寄って調理することにした。

 

 初めて行った玉狛支部は、建っている場所が変なだけで中はアットホームな雰囲気で普通の一軒家だった。

 

 木崎さんに弱点はないのか。まさに主夫な木崎さんは家事スキルもパーフェクトでした。私もそれなりに料理には自信があったけど、木崎さんのこだわりには負けます。風間さんのリクエストでカツカレーになり、木崎さんと楽しくデザートまで作った。久し振りに他人と食べる家庭料理にほっこりした。作っている途中で帰ってきた小南桐絵ちゃんとも仲良くなれた。

 

 あと驚いたことに、懐かしい人に会った。三門市にやってきたばかりの頃、よく分からない機械虫もどきを引き取ってくれた外国人のクローニンさん。昔からボーダーに居るエンジニアの一人だとか。確かに今思い返してみるとアレはトリオン兵だった。熱心に引き取りたいと言っていたことに今更ながらに納得した。

 

 クローニンさんとは一言二言喋って、彼はまだやることがあるからとカレー皿を持って研究室へ帰って行った。独特な雰囲気の人だ。

 もちろんこれだけの人数、私が持ってきた食材では足りないから買い出しに行ったとも。

 

 

 

♠月▷日

 

 

 夏休み。

 

 実家では日記を書かないことにする。見られそうで嫌だし。

 

 帰ってきてからまとめよう。

 

 

 


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