三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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とうとう真木ちゃんを喋らせてしまいました。
イメージを崩してしまったらすみません。


八神視点


気楽な任務

 

 

 

 

 バンッとイーグレットから撃ち出された弾が、バンダーの核を貫く。

 

 

『今日もぜっこーちょ~ってな』

 

 

 当真くんのご機嫌な声を通信越しに聞きながら、冬島隊長から指示されたポイントへスパイダーを張りに移動する。

 

 

『玲さんなんか今日ノリ悪くね? 迅さんの実況聞けないからスねてんの?』

 

「なんでそうなるの! 任務を真面目にしてるだけだよ。というか当真くんのテンションの方が高いから」

 

 

 変な言い掛かりをつけてくる当真くんに呆れて言い返すと「ふーん?」と意味ありげに笑ってくる。イラッとくるが下手に反応するとまたからかってきそうなので我慢だ。

 

 今日のB級ランク戦昼の部にて、悠一と太刀川さんが解説席に呼ばれているらしいのだ。

 確かに気にならないわけではないけれど、防衛任務を優先するのは当たり前だから。というか、現状だと本部で悠一と一緒に居るのは、私の精神衛生上避けるべき。

 

 スパイダーを張り終えると、次の警報が鳴る前に待機ポイントまで一気に飛んだ。

 

 

「迅の奴もよくやると思うぜ俺は」

 

 

 端末を抱えて胡座をかく冬島隊長の隣に並べば、ニヤニヤとした笑みを向けられた。

 

 私より一拍遅れて同じく飛んできた当真くんも、イーグレットを脇に携えて揃いの笑みを浮かべて寄ってくる。

 

 

「街中でキスからの、基地で姫抱きだろ?」

 

「さっすが迅さん」

 

 

 冷やかしてくる2人を睨むが、ニヨニヨとした笑みが消えることはない。当真くんなんて指笛までつけてくる。煽りスキルが高いね君たち。

 

 

「……まぁ、こうして冷やかしてくる人たちより悠一の方が良い男なんでしょうね」

 

「うっ……」

 

 

 にっこり微笑んでそう見下ろせばショックを受ける29歳。次いで当真くんへ笑顔を向けると、肩を竦めて降参を示された。

 まったく、怒られるとわかってて何故煽るんだこの2人は。

 

 呆れながら冬島隊長の手元を覗き込む。よし、ちゃんと端末と繰糸(そうし)の連動に成功しているようだ。

 

 私主導で行う超遠距離範囲(エクストラ・レンジ)のスパイダー操作は禁止されたが、広範囲を防衛する点は高い評価を受けていた。

 その為、冬島隊長の提案により、試しにトラッパートリガーと連動させてみることに。

 

 脳で処理していたデータを端末で処理するのだが───

 

 

「だめだな……俺のトリオンじゃあ3本が限界だ」

 

 

 もともとトリオンを多く消費する端末だが、超遠距離範囲(エクストラ・レンジ)と連動させると防衛任務終了時間までトリオンが保たないらしい。

 

 

『こちらも処理が間に合いませんでした』

 

「そっか。ありがとう真木ちゃん」

 

 

 端末の連動と同時に、オペレーターの真木ちゃんにもデータのバックアップを挑戦してもらっていたのだが、そう簡単には事が進まない。真木ちゃんの負担になりすぎるのは駄目だ。

 

 やはり運用は、スパコン並の端末が必要なのかな。戦場使用には向いてないね。

 

 

「『停止(ドロップ)』」

 

 

 トリオンの供給が止まってスパイダーの操作が終わる。

 広範囲を試す為とは言え、防衛任務中に実験するものじゃないな。

 

 

「機械で出来なかったのに、玲さんの脳ってすごくね?」

 

「私だけじゃないよ。やろうと思えば当真くんのでも出来るし」

 

「え、おれ頭よくなる?」

 

『その発想が既に残念ですね先輩』

 

 

 辛口な真木ちゃんのコメントに、当真くんは冬島隊長とは違って凹むことなく「ひでぇ」と笑った。

 

 

『予告。北西700m地点、7カウント後』

 

「はいよ」

 

「了解」

 

 

 (ゲート)発生の知らせに、私と当真くんはイーグレットを構えた。

 

 

「おれモールモッド」

 

「もう一回バンダー」

 

「大穴で近界民(ネイバー)

 

 

 真木ちゃんのカウントに耳を傾けながら、次の出現トリオン兵を予想する。さすがに冬島隊長のは大穴過ぎるけど。

 

 

(ゲート)発生。誤差0.39』

 

 

 出現したトリオン兵はバドとバムスターが1体ずつで、誰も当たらなかった。

 

 僅かにズレた発砲音の後、ギシリとスパイダーの網の上へ墜ちた2体。放棄地帯とは言え、派手な建物破壊は狙撃ポイントの調査やり直しで面倒だからね。

 

 網の上でピクリとも動かないのをしっかりと確認して顔を上げる。既に当真くんは構えも解いており、リラックス状態だ。

 

 

『予告。北東920m地点、5カウント後』

 

「ほい」

 

「了解」

 

 

 流れるように臨戦態勢へ。

 リラックス状態の表情とあまり変わっていない当真くんだが、狙撃姿勢がブレることはない。

 

 

「撃たなくていいぜ?」

 

「たまには譲ってよ」

 

「じゃあ早いもん勝ちで」

 

「負けないよ」

 

(ゲート)発生』

 

 

 発砲音は1つ。もちろん当真くんのイーグレットだ。

 

 網に墜ちたモールモッドをスコープで確認して、どや顔の当真くんを見る。

 

 

「まだまだ玲さんにゃあ、エースの座はやれねーな」

 

「参りましたー」

 

 

 イーグレットを下ろして降参すると、お互いにフッと笑った。

 

 

「お前ら楽しそうだな」

 

「遊びゴコロ、遊びゴコロ」

 

「おやくそく、おやくそく」

 

 

 呆れた冬島隊長の声に、当真くんと同じ調子で返す。

 チームを組んだ最初の内はお互いに壁を感じていた私たちだが、いつの間にか姉弟のような気安さになっていた。

 

 先ほども私が撃たないことを察しながら、挑発じみた台詞を吐いたからそれに乗っただけだ。

 

 

「迅が見たら嫉妬しそうだな」

 

「冗談で言うことはあっても本気じゃないですよ」

 

 

 悠一が本気で嫉妬することってあるのかな。想像してみるが、へらりと笑った顔しか浮かばなかった。

 

 

「……マジで言ってる?」

 

「なんですか。そんな『有り得ない』みたいな顔されるのは心外です」

 

『玲さん、迅さんの心は狭いと思います』

 

「そうそう」

 

 

 全員から否定を受けて困惑する。いや、言われてみれば確かに嫉妬している、ような気がする。

 

 たぶん、私が思い当たらなかった理由は直後に受けるスキンシップのせいだ。

 

 

「逆に玲さんはしねーの?」

 

 

 当真くんに言われて考えてみる。

 

 嫉妬って悠一にではなくて他の女性にってことだよね。そういえばこの前、熊谷ちゃんに悠一がセクハラしていたけど……まったく、これっぽっちも熊谷ちゃんに嫉妬しなかったな。迷惑を掛けた悠一が悪いとしか。

 

 嫉妬、かぁ。

 

 

「……女性に嫉妬したことない、かも」

 

「へえ! その言い方だと男に嫉妬すんのか?」

 

 

 興味津々と視線を向けてくる面々に、少しだけ居心地悪く感じて手元のイーグレットを持ち直す。

 

 

「別に毎回じゃないです」

 

「気になって任務に集中できねーから教えろって」

 

 

 ニヤニヤする冬島隊長はセクハラで訴えてもいいと思う。

 しかしそうなると冬島隊が解散するので、あとでレゴの解体という嫌がらせを実行しよう。

 

 

「で、誰だ?」

 

「……太刀川さんです」

 

「…………」

 

「…………」

 

『…………』

 

 

 当真くんの催促に渋々答えたら、みんな無言になった。

 

 冬島隊長と当真くんはポカンとしてから、すぐに表情を引き締めてお互いに顔を見合わせる。

 おい、その無言の会話はどう返そうか悩んでお互いに「そっちが言え」って押し付け合ってる奴だろ。

 

 

「あー……あのな?」

 

「私は別にあの2人に恋愛感情があるとか考えてません」

 

 

 押し付け合いに負けた冬島隊長が口を開いたが、見当違いな方向へ行く前に先手を打った。明らかにホッとしないで下さい。

 悠一の恋愛感情面での一番は自分だって、一応自覚してるつもりですよ。

 

 太刀川さんに嫉妬する理由は、私が引き出せない悠一の顔を知っているからだ。

 

 だってあんなの実力が拮抗した攻撃手しかムリ。ライバル関係とか憧れるし、愉しそうな顔だって──毎回嫉妬するわけではないし、ふとした時に「そういえば」という感じだ。

 

 そう言うと全員納得したらしく、また男2人がニヤリと笑う。

 

 

「女には分からんかもなぁ。男には」

 

『予告。東1.75km地点、8カウント後』

 

「隊長」

 

「お願いします」

 

 

 冬島隊長の言葉を最後まで聞く前に、真木ちゃんのオペレートに従う。

 冬島隊長もすぐさま切り替えて、スイッチボックスでワープを用意してくれた。

 

 

(ゲート)発生。誤差2.97』

 

『ちょっとズレたわ。八神フォロー頼む』

 

「了解」

 

 

 現れたのはバンダーとバムスター。バンダーの砲撃が面倒だな。

 

 バックワームを消して奴らの前に踊り出る。

 バムスターが即座に私に反応して突っ込んでくるが、バンダーは市街地へ顔を向けたまま。

 

 ひとまず突っ込んでくるだけのバムスターは放っておき、バンダーの対処が優先だ。こちらを見ないと、角度的に当真くんも狙い難い。

 

 

「繰糸『介入(アクセス)』」

 

 

 バンダーの足下にあるスパイダーを一度束ねてから太さを最大まで変更、からの靴紐サイズを一本残して他の束は強度を最低に。

 足下の異変に軽くバランスを崩したバンダーが、頭を傾けた瞬間、当真くんのイーグレットが核を射抜いた。

 

 

「『接続(コネクト)』」

 

 

 両手の指貫部分にスパイダーを繋げて、突進してくるバムスターの触角へ絡ませる。

 

 

「よっと」

 

 

 大口開ける動作に合わせてジャンプ。ひょいとバムスターの頭へ飛び乗ってすべり台の要領で背中を滑り降り、触角を引っ張られて仰け反ったところを当真くんが仕留めた。

 

 同時に接続を解除してくるりと着地した地面に、隊長のスイッチボックス。

 

 ワープ先はバンダーの前。処理の為に損なったスパイダーの補強をぱぱっとやって、最後に軽く周辺の地形情報を更新してから次の待機地点へ飛んだ。

 

 

「さっきのバンダー、なんで玲さんに反応しなかったんだろうな?」

 

 

 合流した私たちはすぐに先ほどの敵の動向について考えを巡らせ始めた。

 

 当真くんは物事を感覚的に捉えているけど、しっかりと押さえるべき点は心得ている。

 

 

「トリオン反応が多い方向を優先するように設定されてたんじゃねぇか?」

 

『トリオンへの反応なら基地に向かうのでは? 明らかに街を狙っていたと思われます』

 

 

 主に考えるのは当真くん以外の3人だ。役割分担がはっきりしているので、当真くんが仲間外れにされているように見えるが、冬島隊はこれで上手くやっている。

 

 

「大きさより数を優先したのかも」

 

『数ならスパイダーも可能性がありますね』

 

 

 トリオン体の視界に真木ちゃんがスパイダー配置図を提示してくれた。確かにさっきの方向は他の方向より、スパイダーが少しだけ多いのに納得する。

 

 

「だなー」

 

「隊長、配置の仕方を変えた方が良いですか?」

 

 

 のほほんと同意する当真くんの声を耳に入れながら、最終的な判断を冬島隊長へ。

 

 

「数を満遍なくってな感じにしてみるか。人間かスパイダーかのどっちに反応してるか調べねーと」

 

「了解」

 

 

 そのオーダーへ応えるべく動き出す。次の(ゲート)発生より先に配置を変えなくては。

 

 

 

 


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