3章では特に原作という皿に、作者が捏造設定を盛りに盛っている形です。
公式設定もありますが、所詮、二次創作やパラレルワールドのようなものとお考え下さい。
今話は、ほとんどオリキャラのやり取り。
八神視点
「トリガー、
開発部署の訓練室にて、腕輪の形をした捕虜のトリガーを起動すると、アフトクラトルの装束へ換装した。バックワームよりも長い丈のマントに慣れないが、このマントには身を守る為の耐久力があるのだ。
遠征先でそう簡単に戦闘体を消耗するわけにはいかない故の装備だろう。
『換装だけでかなりトリオンを消耗しているけど、磁力操作は出来そう?』
「やってみます」
寺島さんからの通信に答えて、映像で観た戦闘をイメージする。
現在、悠一から一時的に預かった捕虜のトリガーを本部の開発室で解析している。
黒ラッドの胡散臭い情報により、先の大侵攻で確認した
爪のような様相をした左手の篭手。そこから派生する黒い欠片たちを意識する。
「難しい……」
ソフトバレーボールくらいの量でギブアップ。
引力と斥力の相互作用を駆使するこのトリガー。漠然としたイメージだけでは動かせず、正と負またはN極とS極と呼ばれる極性の切り替えを延々と思考し、計算する必要がある。
余裕のあるこの場ではこれだけの量を操作出来たが、いざ戦闘となれば野球ボールが精々だと思われる。ただ動かすだけなら同じ極性にすれば勝手に引き合うし、速度を上げるならスタート地点に異なる極性を置けば反発力が使える。特訓次第では使えるかもしれないが。
『量はそれで限界?』
「はい。戦闘体自体がボーダーより頑丈で、マントにもトリオンが回されていること。あとは、イメージをしていますが反映スピードがかなり劣っており、その分余計なトリオンを消費しているように感じます」
『なるほどね……アフトのトリガー
寺島さんの見解になるほど、と思った。
初めて使うトリガーだから慣れないのは仕方ない。それに遠征に抜擢されるのはどこの国でもエリートばかりだろうから、初見の私がいきなり映像の通りに使いこなすなんて無理がある。
それでも、イメージがこれだけ反映されないトリガーは初めての事だった。それを寺島さんの言葉で素直に納得出来た。
「でも困りましたね。アグレッサーをやろうにも、使いこなせる気が全くしませんよ」
捕虜となっているとは言え、敵対していた国へ素直に協力してくれる人間はいないだろう。黒ラッドが珍しいだけだ。
映像情報を元にしたデータシミュレーション戦闘しか、今のところこのトリガーに対しての訓練は出来ない。
『トリオン量が多い隊員なら?』
「このトリオン消費を考えると、玉狛支部の雨取ちゃんくらいなら余裕です」
『ああ、あの大穴空けた子か。新人には任せられないな……捕虜のヒュースだっけ? いっそ協力してくれたら早いのにな』
寺島さんのぼやきに苦笑する。
さすがに雨取ちゃんに
今までの遠征部隊の仮想敵は難敵である黒トリガー使いだった。だから選抜基準はそれに因んだものであり、現に遠征前は黒トリガー使いの天羽くんや悠一と戦闘訓練を繰り返していた。けれども、次の遠征目的はこれまでと異なる事から、選抜基準も変わるはず。黒トリガーへの対抗は勿論、幅広く対応策を練れる人員でなければならない。
そしてその分、
『とりあえず期限までに解析できるだけやっとく。協力ありがとう』
「いえ。トリガー
マントが消えて篭手がなくなり、手首に残った腕輪型トリガーホルダーを外す。指定された台の上にそれを置いて、開発室内の訓練室から出た。
悠一にあのトリガーを渡された時に「これ渡すけど、無茶したら怒るから」と、言っていた理由が分かった。トリガー
所謂、以前出水くんが行った合成弾の"思いついたからやってみた"だ。科学的根拠より創造力が重要視されているらしい。あと実戦にどれだけ通用するか、かな。
「そこのボックスに入っている飲み物てきとーに飲んでいいよ」
「ありがとうございます」
寺島さんの指したボックスを開き、無難にスポドリを戴いた。大丈夫だ、私は新感覚黒酢コーラなんて見ていない。
私が空いてる席に座って休憩を取ると、寺島さんはPCへ向き直ってキーボードを叩き始める。その背中を視界に入れながらスポドリを一口。
これからの予定としては、
ふと寺島さんが入力を止めて、一拍後に立ち上がった。
「室長がエネドラを起こすらしい。ちょっと行ってくる」
「はい」
少しだけ慌てながら移動して行った寺島さん。
昔は凄腕の弧月使いだったけど、今はれっきとしたエンジニアだ。寺島さんがエンジニアに転向した理由はレイガストの開発の為で、トリオン能力が衰えたからではない。今もトリオン能力は維持されているらしいが、エンジニアの魅力にハマって戦闘員に戻る気はないのだとか。
私もまだトリオン能力に衰えはないけれど、ゆくゆくは寺島さんや円城寺さん、沢村さんのような組織にしっかりと貢献できる職員になりたいと思う。
「あら、玲ちゃん久しぶりね」
「円城寺さん久し振りです。もしかして寺島さんから頼まれました?」
そこまで考えたところで、扉が開き円城寺さんが入ってきた。円城寺さんはボードを片手に持ち、先ほどまで寺島さんが作業していたPC前の椅子へ座る。
「ええ。チーフから解析の引き継ぎなの」
機嫌良く微笑む円城寺さんに、こちらも自然と笑みが浮かぶ。何故なら円城寺さんの彼氏さんが、他ならぬ寺島さんだからだ。
「別にチーフからの仕事だからきっちりやるわけじゃないわよ? 普段から公私混同せずきっちりやってるからね?」
「はい、わかってますよ」
「何よぅ……好きなんだから、いいでしょ」
「悪いなんて言ってないですって」
唇を尖らせながらも手を動かす円城寺さんは流石だ。仕事の出来る女性って円城寺さんみたいな人を指すのだろう。
昔からの顔馴染みである円城寺さんは、沢村さんほどではないけど片想いの期間が長かった。寺島さんと付き合い始めたのは先月からである。
たまに話を聞いていたけど、告白は一年前にしていた。でもすぐに返事は貰わなかったらしい。円城寺さんは寺島さんより年上だから、年齢差で断られるのは心が折れると思ったのだ。だから先ずは中身を知ってもらおうとアタックする為、告白という名の宣戦布告をした。肉食系女子とは、きっと円城寺さんのことだろう。
寺島さんが弧月使いだった時、円城寺さんは惚れていなかった。きっかけは、エンジニアへ転向しトリオン体での栄養摂取で太り始めたことだろう。何故なら、円城寺さんの好みのタイプは『ぽっちゃり系』である。
しかし、それだけでは円城寺さんも「いいな」くらいだった。けれど最初は確かに見た目からだったが、エンジニアとして一緒に仕事していくうちに中身にも惹かれて、最終的に「寺島くんなら痩せてても好き」と豪語するまでに惚れていた。
寺島さんも告白当初は戸惑っていたようだが満更でもなさそうで、半年前には円城寺さんのアタックを受け入れながらトリガー弄りに没頭していた。様子を見に行った時は「寺島さんが鉄壁すぎる……」とビックリしたものだが、2人ともゆっくり仲を深めている印象を持ったのを覚えている。
それで、付き合うきっかけは先月の大侵攻が終わってからのこと。
何でも、私が倒れた時に円城寺さんは責任を感じて私が目覚めるまで泣いていたらしい。申し訳ない。まぁ、そこで寺島さんが円城寺さんを慰めて、告白の返事をしてから晴れて恋人に。
その話を聞いた時は、寺島さんを策士かと疑ったよ。がっちりと円城寺さんのハートを掴んだ寺島さん。ちなみに痩せる予定は今のところないらしい。
エンジニアからカップルが誕生した時、冬島隊長が「俺も太ったらモテる……?」と呟いていた。真木ちゃんが絶対零度の視線を向けていたのは言うまでもない。隊長、その思考を漏らした時点でモテませんから。
「わたしのことより、迅くんとはどうなの?」
「どう、って言われても普通ですけど」
「お姫様抱っことか」
「ちょっ、その話題はナシです! 円城寺さんだってラウンジで『はい、あーん』ってしてたらしいですけど!?」
「え!? ど、どこ情報なの!? あの時周りに人なんて」
「バッチリいましたー。おっちゃんはなぁ、おっちゃんだってなぁ! リア充の仲間入りしたいわあ!」
突然入ってきた太い声に振り返ると、まるで血涙を流す般若のような顔をした
迫力があるけど、何故か哀しみを感じさせる形相に私は黙った。しかし、円城寺さんは先ほどの慌て振りが嘘のように「あれ、居たんですか」とクールに対応する。照れも何もないその声音に思わず尊敬しそうになった。
おっちゃんは深ーくため息を吐いて気を落ち着けると、私の向かいに座ってもう一度ため息。
「……迅は確信犯で、ムカツクが一応は避けられる。寺島と円城寺は素だから避けられねぇ。しかも同じ部署……おっちゃんもなぁ、彼女欲しい。マジで」
「わたしたちに言われても。あと公私混同なんてしてませんから」
「なんか色々とすみません」
どうにも出来ないおっちゃんの嘆きに謝ると、おっちゃんは3度目のため息を吐いた後ガリガリと後頭部を掻いてから、端末を懐から取り出した。
円城寺さんは解析の続きへと戻った。
「ヒュースって捕虜を観てきたがな、健康を損なっている様子はないしエネドラの死体を診ても、アフトクラトルに食糧問題は起こっていないはずだ。まぁ、"軍部では"と補足が入れられるかもしれんが。
受け応えもスパイ教育がされたというより、黙秘を貫けって感じだ。
あと筋肉の付き方から左利き、右も結構使う。映像ではシューターみてぇなトリガーだけどよ、使い手は剣士っぽいぞ」
おっちゃんの見解報告に、思わず唸る。
エンジニアである相知さんだが、彼は研究の為に医療知識を身につけた人材だ。生身とトリオン体の齟齬を出来るだけ無くす為にも、必要な知識だったのだろう。
「黒ラッド、もといエネドラが言った『神』の可能性が、やはり一番有力なのでしょうか……」
胡散臭い奴の情報を鵜呑みにするわけにもいかず、悠一の予知だけでなく出来る範囲で情報を精査している現状。食糧問題の可能性は低かったけれど、戦争をしているならば考慮に値するので、一応探ってもらったのだ。
それにしても、ヒュースの黙秘する姿勢を見る限り、やはり情報源はエネドラに絞った方が有効か。
「そのことだが、さっき通りがかった時にエネドラを室長と件の子供たちが尋問してたな。特に"偽の情報"とは判断されてなかったようだぞ」
「……まさかとは思ってましたけど、真実だったとは……」
「胡散臭いものね……でも憎めないのよね、あいつ」
解析を続けながらも耳を傾けていたらしい円城寺さん。そういえば寺島さんと補助で円城寺さんが、黒ラッドの観察を受け持っていたんだっけ。
「寺島さんと一緒に毒されてますよ」
「うーん……」
「八神、ヒュースはこれ以上尋問しなくて良いのか? いくら上の命令があるからと言っても、もう少し探るべきじゃねーか?」
おっちゃんは端末を机に置いて、ガリガリと後頭部を掻く。だからそれ止めた方がいいですって。
「いえ。私は上の命令に従います。玉狛の捕虜は最低限で十分ですよ」
「あー、ん"ー? 頼む。おっちゃんにも分かるように説明してくれ」
おっちゃんの要求に応えて、言葉を選んでみる。
そう難しいことでもないと思うのだが、仲間に殺されたエネドラと、生きて置いて行かれたヒュースを比べてみると情報の優先度が違うのは明白だ。
同じ情報量を持つならばどちらも殺されているはずだ。しかし現実には片方だけ殺されている。おそらくヒュースが持っている情報は、アフトクラトルにとってはさして痛くないものばかりなのだ。対してエネドラは内部事情をある程度知っているから処分された。
「けどよ、あっちにはどうでも良い情報でも、こっちには有用かもしれねーだろ」
的を射た指摘。しかし、ここで"黙秘を貫く"という態度が重要なのだ。
会話をしてこちらの情報を探るわけでもないその態度は、尋問も拷問も耐えれることを示している。そして、ヒュースのそれはアフトクラトルも認めるほど堅固なものらしい。
「捕虜を拷問にかけることは、アフトクラトルにとって歓迎している事態です」
「はあ?」
「あれは餌なんです。こちらが情報を引き出そうと躍起になって拷問に時間を掛ければ掛けるほど、アフトクラトルは時間的余裕が出てきますから」
──あと、おっちゃんは無意識に除外しているけど、拷問を行うのは誰にする気ですか?
流石にそれは言わなかった。誰もやりたい人間なんて出てこない。出なくていい。
戦争は時に人間を辞め、獣や悪魔のようにならなくてはならない。そうしなければ自分も仲間も失うことを解っているから。
だが、故郷に帰ってくるとどうしても心が揺らぐ。出来るだけ故郷では獣や悪魔ではなく、人間でいたい。
おっちゃんの言葉は『責任の在処を曖昧にする』といった、常識的な心から出たものだろう。どちらかと言えば私の思考方向がズレているのかもしれない。
「…………こわい。その考えができるお前がこわい」
口に出していない部分を言い当てられたように思えてドキリとしたが、おっちゃんは演技調に肩を抱いて震えて見せるので、私も大袈裟に肩を竦めてみせた。
「それほどでも」
「あー……つまり、無駄にこっちが精神すり減らす必要はないってことか」
「はい」
拷問の方は横に置くとして、情報を持っているか不明なヒュースに時間を掛けるより、エネドラから引き出す方が早くて楽なのだ。
それに、エネドラが遠征メンバーの性格を簡単に教えてくれた。大半が悪口であったが、讃辞を聞かされるより気分的にマシだと思う。
ヒュースはベルティストン家直属のエリン家の当主に心酔しているらしい。遠征で『神』候補が見つからなければ、その当主がイケニエに選ばれている為に、ヒュースは置いて行く予定の筈だったらしい。
エネドラはヒュースが捕虜になっている事を知らないので"予定"と言ったが、言い草から2人とも仲間に罠を仕掛けられたようだった。
心酔する当主が『神』となった場合、アフトクラトルはもう一度この世界にやってくる。何故なら、ヒュースを迎えに来る為に。
悠一の未来視でそれを聞いた時、ハイレインの手堅さに舌を巻いたものだ。
エリン家の当主に直筆の手紙を遺させ、ハイレインは再びヒュースに忠誠を誓わせる。憎しみはあれど、遺言に従う未来だ。
忠誠心の高さは疑うべくもなく、尋問は意味がなく、拷問はこちらの徒労となる。それよりも、唐沢さんの得意なネゴシエーションに倣った方法を取って、国に送り返した方が安全だ。
と言っても、これらは私と悠一の考えでありまだ上層部に告げていない。悠一がもう少し様子を視たいと言っていたから。
「とりあえずエネドラから色んな情報を聞き出せばいいのよね?」
「はい。寺島さんとチャレンジお願いします」
「任せて」
円城寺さんが一旦解析の手を停め、にっこり親指を立てた。表情がわくわくしてるところを見るに、寺島さんと時間を共有出来ることが嬉しいのだろう。わかります。たとえ仕事でも好きな人と一緒だと嬉しいですよね。
女性陣で微笑み合っていると、おっちゃんから陰気が漂ってきた。すみません、つい。
・エンジニアのオリキャラ その2
考えを巡らせる時、後頭部をガリガリと掻く癖がある。
医療系エンジニアの1人。トリオン体調整の為、必要に応じて医学の勉強をした。