ガロプラ(ガトリン)を軸とした三人称
四つ足のトリオン兵。通称"犬"と呼ばれ、名前の通り大型犬サイズでありモデルでもあるらしい。トリオン兵名はドグだとか。
極細でしゃぼん玉強度のスパイダーを張り巡らせて、それが踏み荒らされていることを切欠に解析を頼んだ。1体ずつ出てきてくれるので足跡や行動の特定は楽だったらしい。ついでにエネドラに訊ねて、ロドクルーンが好んで使う偵察用トリオン兵のドグと判った。
敵は2国ということで警戒をしているが、どうも違和感を覚える。
悠一から提供された交戦予測地点は、トリオン兵だけで乗り込めるような場所ではない。
ならば乗り込み組みはガロプラのトリガー使いか、と思うが2国がそこまで連携してくるだろうか。
訊けば従属国のほとんどは武力行使で従えられガロプラもその中の一つ。しかしロドクルーンは大国の庇護を求めて従属国化した国らしい。国交はあるようだが、腹を割って背中を任せるような仲ではないと思うのだが。
まぁ、私がぐだぐだと思考を流したところで2国に対する警戒は変わらないんだけどね。
「お疲れさまです」
日が暮れて夜が訪れると外から本部基地へ引き上げ、宿泊スペースへ直行。トリオン体に換装してて汚れていないとは言え、温かいシャワーを浴びたいと思うのは女子として当然の心だ。
贅沢を言えば湯船に浸かってのんびりしたいけれど、現在は警戒態勢なのだからそんなにゆっくりしていられない。
シャワー中に警報が鳴ったらどうしよう。いや、裸でトリガー
シャワーだけでも体は十分ぽかぽかになって心がリラックスしてる。鼻歌でも歌えそうな気分。家だったら歌ってたな。
「お腹すいたな~でも眠い」
リラックスすると空腹と眠気が襲ってくるのも、まぁ当然だろう。家ではないし、この時間はまだカフェが開いているはず。もし閉まってたら隊室で何か作ろう。
髪を乾かしてから櫛を通し、ポニーテールに結ぶ。やめた。首と肩が冷えて湯冷めしそうだし、ここは緩く三つ編みにしておこう。
いつものワンポイントがあるヘアゴムで、ちゃんと思った通り結えたか鏡で確認。指輪もつけているし、忘れ物はないな。
「よし」
忘れ物チェックも終えて女性用更衣室を出る。
「!?」
何故か私は扉の桟に足を引っかけてしまっていた。
バカか私! どこのドジっこだ!?
「おっ」
そしてこれまた不思議なことに、女性用更衣室の扉前にいたのは悠一だった。勢い良く押し倒して馬乗り! またお前かっ少女漫画ーッ!!
悠一はありがたいことに、私の腰を片腕で支えて衝撃を与えないようにしてくれたけど、背中から落ちたよね!? 私なんかより自分の安全を考えて!
「ごめん! すぐ退くか、ら?」
退こうとしたけど悠一のもう片方の手まで腰を掴み、ガッチリと放さない。
「大丈夫だよ。知ってたからちゃんと受け身とったし」
「はい?」
爽やかな笑顔を浮かべる悠一に理解が追いつかない。どういうことなの。というか腰から手を離してほしい。あとこの体勢とか女性用更衣室前という場所とか色々な問題があるんだ。
はっ! こういう時こそサバサバした態度で流すべきじゃないか!
サバサバってなんて言えばいいんだよ。とりあえずお礼は言うべき。
「ありがとう。でも、受け身をとれるからって背中から落ちたように見えたよ? 我慢しないで? ね、ゆっくり動くから手を離して」
もしかしたら悠一は体を強く打っていて、上にいる私が急に動いたら痛みが走るのかも。そう思ってのセリフだった。
だが悠一はジィッと私を見るだけで手を離さない。そして徐に腰を辿って尻を揉み、おい。
睨むと揉む動きは止まった。ただし添えられてはいる。解せぬ。
「さっきのセリフはベッドでもっかい……違う。俺が言いたいのはこれじゃなくて、あのさ、玲」
若干口ごもった悠一に首を傾げる。
「俺は、玲が思っているより嫉妬とか独占欲とか激しい男なんだよね……だから、あんまり離れないでほしい」
「…………」
「……引いた?」
思わず真顔になった私に、悠一は困ったように眉を下げる。引いたというかムードがないと思いませんか。
「この場所をよく考えてみましょうか」
「女性用更衣室前だね。だって玲がなかなか捕まえられなかったからさぁ。これなら逃げられる未来もなかったし」
ああ、逃げたい。だって場所が場所だし、体勢も私が悠一を押し倒しているわけだし。
でも腰と尻がガッチリ掴まれて逃げられない。
「女性用更衣室前に待機していた彼氏って……」
「別に他人に見られてないから大丈夫。たとえ見られても、玲が俺のこと好きなら他からの感情はどうでもいい」
「っ!! す、好きだし愛してるに決まってる。もうっ、少女漫画ムーブ禁止!」
なんでそんなカッコイイこと言うかなあ! 場所とか体勢とか気にせずドキドキしちゃったじゃん!
うあ、顔が熱い。
「少女漫画ムーブってなんだよ」
にやにやした悠一をぶん殴りたいけど、顔隠しで両手使ってるからムリ! なんでこんなにカッコイイのさ! 反則! セクハラ!
結局、この一件を誰かに目撃されることもなく2人でご飯食べて、ギュッと抱きしめ合ってから別れた。
"いってらっしゃい"と"おやすみ"のキスはちゃんと頬へ贈ったけど、やっぱり家の外では恥ずかしいな。
艇内のモニター室にてガロプラの精鋭6人が、作戦内容を詰める為に情報を確認し、隊長であるガトリンの決定に従う旨を告げた。
アフトクラトルに命令された『足止め』の為に、敵の軍事施設に格納されている遠征艇の破壊。それを最優先事項として全員が頭に叩き込む。
本来ならばロドクルーンの精鋭も交えて作戦を練るところだが、多数の戦場へ駆り出されている小国に、人員を割ける余裕がなかった。いくらトリオン兵主体の国とは言え、宗主国に搾取される側の従属国である以上、指揮を取れる優秀な人員は少ない。少数精鋭を強みとするガロプラだからこそ、アフトクラトルのような大国と同様に6人一組で精鋭として人員を出せるのだ。
同じ従属国であるロドクルーンが人員を出さなかったことは痛手であったが、その代わりに充分な数のトリオン兵を寄越してきた。
少数精鋭で連携を密にするガロプラの場合、ロドクルーンから下手に合わない人員を出されるよりもトリオン兵の方が都合が良い。更に人員を渋ったロドクルーン側の泣きの姿勢を、ガロプラ側が受け入れたこととなり、
作戦進行と国家間の益を考え、ガトリンはロドクルーンの姿勢を受け入れた。
「隊長、軍事施設への攻撃については理解しましたが、もう一つの命令である『糸使いの捕虜または無力化』はどうされますか?」
ラタリコフの問いに、全員がガトリンの答えを待つ。
アフトクラトルに命令されたことは足止めだけではなかった。されど、素直にその命令を遂行すれば先に述べた通り、
部下の反応を表情一つ変えずに受け止め、ガトリンはアフトクラトルの命令について、結論の前に己の考えを述べることにした。
ガトリンが想定している作戦には、事前に仲間との考えを共有しておかねばならないからだ。下手な感情で失敗されない為に。
「もちろんその命令も遂行せねばならない。だが、優先度は『足止め』の方が高い。むしろ上は、我々が糸使いをどうにか出来るとは思っていない口振りだった」
「は? 糸使いって
ガトリンの言葉にレギンデッツが首を傾げると、副隊長であるコスケロが首を横に振った。
「いや、ノーマルトリガーだったはずだよ」
「アフトに舐められてるってことかしら」
紅一点のウェンがそう零せば、部隊の雰囲気が少しばかり怒りに染まった。
それを認めてガトリンは「落ち着け」と息を吐く。隊長の一言で精鋭たちは瞬時に感情を引っ込めた。
「送られてきた情報を見る限り、個人での戦闘力は高くない。だが、アフトクラトルの襲撃を的確に察知し対策を叩き出す頭脳と、戦況を読む慧眼、何よりも全方位を全て1人でカバーする力量は侮れん」
アフトクラトルからの事前情報で、地形図と同等の割合で
侵攻時のアフトクラトルとボーダーの詳しい攻防まではガロプラに伝えられなかった。
遠征結果として『快勝とまでは言わないが勝利し、トリガー使いを捕らえた』ことは
詳細を伝えられなかった理由は至極簡単な理由、宗主国としてのプライドだ。そしてもののついでのような理由で『部隊の士気に関わる』からであった。
もしも、アフトクラトルが文句なしの大勝利を納めていたならば、戦果を誇り、有益な情報を下にも流していただろう。
もしも、アフトクラトルが大敗していたならば、最大の警戒と警告の意味を込め、より詳細なデータを送っていただろう。
だが結果として、アフトクラトルはどちらでもない。
当初の目的である『神』候補を捕らえることは妨げられたが、本来の目的としていた『エネドラの処分とヒュースの隔離』は成功している。更に未熟ではあるものの、数人のトリガー使いの確保も出来ているのだ。マイナスの点を挙げるなら、あれだけの兵力をつぎ込んで、最低限の目的しか果たせなかったことだろうか。
遠征は成功している。快勝ではないが、決して負けではない。
故に、国に残した愛国心と忠誠心に溢れる情報統制の者は、要点だけ掻い摘まんだ情報しか従属国に与えなかった。もしもハイレイン本人が情報伝達に携わっていたならば、また結果は変わっただろう。されど遠征の人員であり当主である彼には無理なこと。
そんな宗主国の裏事情を、あくまでも現場の人員であるガトリンが察するなど不可能だ。伝えられた情報と命令を、母国の総意を背負って部隊を率いるのみ。
ガトリンがオペレーターのヨミに指示を出し、モニターに高台から
「一見、奴はただの狙撃手だが、周辺に張り巡らされた糸を同時に操る技量の持ち主だ。攻撃力は狙撃手と変わりないが中距離型の弾も使える。恐るべきは軍事施設の辺り一帯を全てカバーしながら、自衛も出来るという点だろう」
「情報を見ると防衛の要を担い、アフトクラトルの黒トリガー使いから逃げることも出来たらしい」
「ああ。コスケロの言う通り、捕獲は簡単ではない」
「アフトの奴らざまーみろって思ったけど、面倒くせー」
「でもそれなら命令はどうするの?」
改めてアフトクラトルからの無理難題を認識して、レギンデッツとウェンが苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……なるほど。だから隊長は真っ先に軍事施設への攻撃を決めたのですね」
その傍らで、ラタリコフが合点がいったと声をあげる。若いながらも冷静に戦場を見続ける彼に、ガトリンは内心で嬉しく思うが面には出さなかった。
その代わりに間を開けず肯定する。
「そうだ。数で劣る我々は市街地を襲った方が早い。だが、その手段を選ぶにはリスクが高い。ヨミ」
「はい」
ヨミが手元のコントローラーを操作してもう一つの画像をモニターに映し出した。
「見ての通り
道や建物に糸が張られている画像に、全員が難しい顔をする。
「映像データを流します」
ヨミが画像を隅に縮小し、映像データをモニター中央へ呼び出す。リアルタイムではなく録画された内容が、皆の前で再生された。
糸が張られた場所へ
糸を発見すると盛大に舌打ちして、千切るかのように引っ張った。すると瞬時に糸の上に
「もう一つ」
二つ目の内容は、
2人というか実質1人は話に夢中なのか、糸の存在を全く意識せずどんどん糸へ近づいていく。そして大きく振っていた青年の腕が一瞬、糸に接触した。
彼等はそこで初めて糸の存在に気づき「やべっ」と焦りの表情となる。不良の時と同様に糸使いが現れ、2人に向かって何か喋ると軽薄な青年は両手を挙げて肩を落とし、もう1人の青年も罰が悪そうに顔を逸らした。彼らを追い払うと糸使いも姿を消した。
映像はここで終了する。
「おそらくこの糸は糸使いの感覚の延長線だ。動物のヒゲのようにかなり敏感なものだろう。そして、人間にはあの通り糸使いが赴いて追い払うが、トリオン兵が触れると拘束される。市街地を狙おうにも、こちらからの
様子見として送ったモールモッドやバムスターなどの通常のトリオン兵が、悉く糸使いや服装の揃ったトリガー使いたちに倒されていく。
隙を見て破壊された兵の中から犬型トリオン兵のドグを出している為、こうして
それだけ警備が厳重だった。
説明を聞き、映像を睨むラタリコフが再び思案を巡らせるように呟く。
「あれだけの量を把握しているとなると、サイドエフェクトも疑えますね」
「もし持ってなかったら、
「その可能性は低いと思う。昔から
「まぁ、そうじゃなきゃアフトの黒トリガーから逃げたとか信じられねぇしな」
「あくまでも憶測の情報だから鵜呑みは避けるように。とりあえずまずは作戦の大まかな概要を言ってくれ。考察や意見はその後にしよう」
ラタリコフの呟きに反応したウェン。それから連鎖するように次々と考察が出てきて、脱線しかけた話にコスケロが釘を刺した。
コスケロの誘導にガトリンは目線だけで「悪いな」と謝ってから、ヨミへ指示を出す。
それに従ってヨミは本部基地周辺の立体地形図をモニターへ呼び出した。立体地形図には観測出来た糸までも映っている。
「優先すべき目的は変わらず『軍事施設への攻撃および遠征艇の破壊』だ。軍事施設の構築はトリオン製、いつものごとく抜けられるだろう。
「どうして北東なの? 糸を避けるなら西か北西だと思うんだけど」
先日の大侵攻にて北東と西は天羽の黒トリガーによって更地へと変えられた場所だ。ウェンが指したように糸はポツリ、ポツリ、としか見えない。
ウェンの指摘に全員が「確かに」と納得する。だがそれを遮るようにガトリンが答えを返した。
「確かに西と北西は糸を張れる起伏や建物がない。だがあれほど厳重に警戒しているのに、そこだけ無防備なのは逆におかしいだろう。完全な誘導だと俺は思っている。それにあれだけ拓けた場所はこちらが身を隠すことも出来ん。却って不利だ。
俺が北東を選んだのは、この糸が面の攻撃に対応可能でも点の攻撃には弱いことが事前情報にあったからだ。北東は比較的糸が少ないことの他に、ほぼ直線の道でアイドラの盾を重ねやすく防御を固めながら進行できる利点もある」
基地へと続く道は、ガトリンの言う通りほぼ直線である。
その直線の道から一歩外れれば入り組んだ家の路地となり、身を隠しながらトリオン兵へ指示を送ることに適した地形だ。
ホームグラウンドであるボーダー側が有利なことに変わりないが、トリオン兵の数に物を言わせて乱戦へ持ち込めば大本を探す余裕など出来はしない。
「他に質問は? ないな。では続きだ」
ガトリンとウェン、ラタリコフは潜入し、内部の兵士との戦闘は極力避けて真っ直ぐにターゲットへ向かう。
その言葉に、ウェンとラタリコフは「了解」と応えた。
ターゲットの破壊を無事に達成出来たなら、新型の脱出用のトリガーを使って全員がこの遠征艇に戻ってくる。それから数日様子見し、何も問題がなければそのまま帰国となる流れだ。
これこそが理想的な作戦だろう。
もう一つの命令には一切触れていないが、最初から期待されていない命令を無理に手出ししても、危険が増すことは明白だからだ。
しかし失敗した場合も想定しなければならない。
「もし潜入後にターゲットの破壊を失敗した場合、次善策に移る。それが『糸使いの捕虜または無力化』だ。この糸の張りようから糸使いは外の防衛に回っているはず。よって、俺たちが失敗した場合はコスケロかレギーに当たってもらうぞ。玄界のトリガーには、アフトクラトルから支給された新型と同様の逃走機能が付いている。だが、糸使いは例外的にこの機能がないことが判っている。どうやら糸を操ることに長ける為のトリオン体のようだ。この防衛態勢を見る限り、今回もその特殊トリオン体だ。逃げられないのなら都合が良い」
ガトリンは意識的に表情を固めた。
「先ずは捕虜を目標に動く。捕虜に出来ればトリオン兵を小出しにして我々に目を向けさせ、足止めを続けられる。捕虜に出来たその時はアフトクラトルへ引き渡すことになっているが……不満はわかる。有能なトリガー使いだろう糸使いがアフトクラトルへ渡れば国力の増強だ。だから捕虜にしても玄界から離れる際に解放する。しかし、ただ解放しても命令の達成にならない」
隊長の雰囲気に隊員たちも表情を引き締める。
任務達成のために一体どんな言葉がガトリンの口から出てくるのか。
「だから、両腕を切り落としてから解放する」
淡々とした宣言に、場に沈黙が落ちた。
言葉の意味を浸透させるには十分なその沈黙。全員が肩の力を抜いて息を吐いた。
「……ずいぶんと優しい措置だと思いますが」
「だな。逆に拍子抜けって言うか」
「まぁまぁ2人とも。恨みを必要以上に買わない為にも、穏便な良い方法だと俺は思うよ」
ラタリコフとレギンデッツの言い草に、コスケロが穏やかな声音で宥める。彼自身もガトリンが残酷な命令を出すと覚悟していただけに、安堵が大きい。
宥められたレギンデッツは「ま、そうだな」と納得し、ラタリコフは視線を正面から外して小さく顎を引いた。
一番年若いヨミの表情は読みにくいが特に忌避の色はないと判断し、次いで若い2人の反応もガトリンに安心を与えた。
これまで戦場を共にしており、彼らを信じていないわけではない。気に食わないことも汚れ仕事も全員が既に経験している。だが、だからこそこうした意思確認を通じて部隊の結束力を高めなければならないのだ。そうやってこれまでの任務と死線を越えてきたのだから。
「防衛の要というからには護衛が付いている可能性もある。その際は糸使いをヨミに任せ、護衛の相手をコスケロかレギーが請け負え。支給されたラービットの投入をそこでしても良い」
逃走機能の新型トリガーと同じく、1体だけラービットが送られてきていた。
黒トリガー所持者のいない遠征部隊なので孵化させる為のコストを心配していたが、ヨミが点検したところ孵化に必要なトリオンは既に満たされていることが判明する。
1体だけ故に使いどころに悩んだガトリンだが、これだけ糸使いの情報を寄越してきたのだからラービットもその為だろうと結論した。
「糸使いのトリガーで重要なのは手だ。伝達脳と供給機関の破壊よりも先に腕を落とせ。それだけで相手は市街地の守りに意識を向け、邪魔が入りにくくなるはずだ」
「了解」
静かな受理の声たちにガトリンはフッと笑った。
そしてすぐさま表情を戻し、もう一つの想定を話し出す。
「アフトクラトルの捕虜を発見した場合だが」
その切り出しにある者は無表情に、ある者は渋い顔をし、ある者は嫌悪を露わにする。
決して快くは思っていないことは明白だった。
だからこそ、全員が次の言葉にホッとする。
「『救助・奪還の必要はない。任務遂行の邪魔になれば処理しても構わない』と指令を受けている。俺たちに処理されるようならそれまでだ、という言葉と共にな」
「チッ……やっぱりクズだぜ奴ら」
「アフトのエリートって言っても捕虜になってるならトリガーも取り上げられてるはずでしょ。そんなのにあたしらが負けるわけない」
皮肉混じりの指令にレギンデッツは顔を歪め、ウェンも目を鋭くした。
「決めた! オレが捕虜に会ったら問答無用でそいつの首を取る」
レギンデッツは不機嫌さを隠さないまま宣言する。それを皆笑うことなく、むしろ「会った者勝ち」と結論してガトリンも許可を出した。
ガロプラの人間は、機会があるならばアフトクラトルの人間に復讐したい者ばかりだ。
軍事国家の従属国という立場となった今では戦争に休む間もなく駆り出され、母国の資源は搾取され、昔よりも貧困層が増えた。子供の出生率も年々下がり、無事に10歳を越えられてもその後は兵隊にならなければ生活が出来ない。国の生活基盤は少しずつ崩壊し、宗主国に依存していく他に道が残されていない現状。恨みを持たないという方が無理な話だった。
「アフトクラトルの捕虜については以上だ。勿論、本来の任務に支障を出さない程度にな。糸使い以外のトリガー使いも観察してから、作戦を開始する。各自準備は整えておけ」
「了解」
・情報の真偽
第二次大侵攻とは違い、情報制限をボーダーが頑張っているのでガロプラ勢が情報を得るのは難しい状況です。アフトクラトルから伝達された情報を確認するくらい。また宗主国へ恨みはあれど母国を圧倒的な力で押さえられたことと、"軍事"国家なので戦闘に関する虚偽はしないだろうとある意味信用を置いている為、アフトクラトルからの戦争情報をガロプラ勢は基本的に信じます。母国を乗っ取られたからこその信用。
・腕の切断への反応
ガトリンたちが腕の切断について『優しい』と言っているのは、作者の独自設定により近界での肉体の欠損はトリオン体で代用出来るからです。近界では"ちょっぴり恨まれる"くらいの認識。
トリオン体で代用出来るなら切断しても無力化にならないのでは、と思われるかもしれませんが切断直後は止血などの処置が必要ですし傷からの熱で数日は動けません。例え早々に動けたとしても『生身に痛みがある』ことでトリオン体に換装しても脳が勝手に痛みを『イメージ』してしまうので、精細を欠いた動きしか出来ないでしょう。痛みに耐性があって鋼メンタルな人間なら動ける、かもしれません。