三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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迅を軸とした三人称
八神視点の一人称


競り合う読みと思考

 

 中央司令室による内部の隔壁閉鎖誘導で、迅は予定通り侵入してきた3人の近界民(ネイバー)へと風刃の遠隔斬撃を浴びせた。

 一瞬足を止めた3人だが、風刃の初撃を難なく盾で凌ぎ、侵入時と同じ手段で壁を抜けて迅の視界から消える。

 

 アフトクラトルから風刃の性能情報が伝わっていることを改めて認識し、迅は敵の姿を目視したことで視えた未来に、グッと眉間に皺を寄せた。

 珍しい迅の表情だが、内部カメラとは逆方向に顔を向けていた為に誰もそれを言及することはない。

 

 

『司令部、こちら迅。むこうの狙いは遠征艇だ! 防衛チームを先回りさせてくれ! あと冬島さんは俺と小南を地下の格納庫(ハンガー)まで飛ばしてほしい』

 

『はいよ』

 

 

 内部通信で中央と司令部に情報を伝えると、早速通路に冬島隊のエンブレムが現れる。

 迅は風刃をホルダーに納め、それに足を乗せた。

 

 

「おま、なんだその顔」

 

「うわ! 何よそれ!?」

 

 

 格納庫前で顔を合わせた途端、太刀川と小南が迅の顔を見て仰天した。同じく風間も軽く目をみはったが、太刀川と小南に出鼻を挫かれたのか声を上げることはない。

 

 B級部隊に所属しているが個人の防御技術の面で評価されて喚ばれた村上も、迅と3人とへ交互に視線をやってから最終的に迅へ戻して頷いた。

 村上は他の3人よりも付き合いは短いながらも、共に副作用(サイドエフェクト)持ちであり支部の防衛地区が近いこと、師である荒船や友人の影浦などが八神と仲良いことが関係して迅とも浅くない交流がある。

 

 そんな彼らの反応を受け、迅は大きくため息を吐き出してから気休めに眉間を揉む。

 

 

「いや~……ちょっと、嫌なもの視ちゃってさ」

 

 

 今回ばかりは視ないと思っていた、血濡れの婚約者。

 薄ぼんやりとした可能性だが、それは第二次大規模侵攻まで何度も視てきた惨状を、迅の中で蘇らせた。

 

 

「お前がそこまで感情を顕わにするのは八神のことだろう」

 

 

 ズバッと風間に言い当てられて、迅は眉間を揉むのを止めて肩をすくめてみせた。

 

 

「八神さんですか?」

 

「またムチャするってこと?」

 

「ヤバいのか?」

 

 

 この場にいない人物の未来に、全員が心配を面に出す。

 

 それを見て迅は内心で「やってしまったな」と自制が弛んだ己を反省し、表ではいつも通りの"胡散臭い"と評される食えない笑みを浮かべた。

 

 

「大丈夫。限りなく低い可能性の未来だよ。けど、さすがに実力派エリートの俺でも愛してる女が危ない未来を視ちゃうと、ね」

 

「あーっあつつつ」

 

 

 迅が思わせぶりに区切れば、太刀川が隊服の襟をバタバタと動かした。

 

 

「わざわざ茶化すな太刀川」

 

「でもよー風間さん」

 

「これくらいでギブアップならまだまだね太刀川。支部ではもっと甘いんだから」

 

「迅……」

 

「お前……」

 

 

 何故か胸を張って宣言する小南に、風間と太刀川が迅に呆れた視線を送る。対する迅は口角を上げただけだった。

 

 

「俺は迅さんの姿勢、カッコイイと思いますよ。未来を変えるのに必要なら言って下さい。任された役目に最善を尽くしてみせますから」

 

 

 変な空気になり始めたところで、村上がまるで清涼剤を投入するように笑みを浮かべた。快活な嵐山とはまた違う、硬派な爽やかさを村上に感じる。

 

 迅はフッと目元を和らげて、それから視線を天井へ上げてニッと笑った。

 

 

「ありがとう。でも、その為にはここで俺たちが踏ん張らなくちゃいけない」

 

『敵性近界民(ネイバー)、2人が遠征艇ドック用エレベーターを降下中。小型(ゲート)で召喚される犬型トリオン兵ドグに注意して下さい』

 

 

 中央から全員に通信が入り、各々が気を引き締めた。

 

 侵入した敵性近界民の1人であるウェンは──狙撃手の仕事で屋上にいる日浦を除いた──那須隊が足止めを行っている。

 

 当初の予定では小南が請け負う筈だったが、司令室にいる天羽が「忍田クラス」と評し、迅も未来視で危険と判断した敵性近界民──ガトリンを警戒しての配置だった。

 

 

「にしても、豪華なメンツだよなおれ達」

 

 

 からからと笑う太刀川に「自分で言うのか」とそれぞれ考えながら、誰もそれを否定しなかった。

 

 古株とも言える迅と小南は勿論、攻撃手ランクで不動の上位を保っている3人だ。己の実力を過小評価することは、他からの期待を裏切ることだと理解している。そして、自分たちが敗れることでボーダー組織の存続が危ぶまれることも。

 

 

「そうだ、鋼。敵が撃ってきた時なんだけど、レイガストとシールドの二段構えで頼む。あとぼんち揚げ食う?」

 

「わかりました。いえ、今は遠慮しときます」

 

「おい、ここまで持ってくるな。菓子屑が落ちる。俺は敵が降りてくる直前でカメレオンを起動して開幕に奇襲を仕掛ける」

 

「このぼんち揚げって風刃の付属だったりしないよな? じゃあ話かけて気でも引いてみっか」

 

「そんな器用な腹芸があんたにできるの? あと迅のポケットが支部に買い置きしてるダンボールに繋がってるだけよ」

 

「小南、それ京介の嘘」

 

「……!? だましたなーっ!?」

 

 

 5人は互いの役割と動きを軽く確認し、スイッチボックスの配置と内容なども冬島と連携して準備を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三つ編みにまとめていた部分の髪が切り飛ばされ、宙を舞う。

 

 左側から迫るブレードは、辛うじて繰糸(そうし)で背中側に切っ先をズラして絡め捕った。だが右側のブレードはライトニングの銃身を真っ二つに。

 

 離別した三つ編みが重力に従うよりも速くライトニングを手放し、目の前に倒れてたトリオン兵へ覆い被さるように体を伏せて強引に上下を入れ替えた。

 壊れたトリオン兵の右腕にブレードが刺さるのを音と衝撃で識り(垣間見て)ガラクタ()を蹴り飛ばして反動でその場から脱する。

 

 三つ編みを纏めていた水色のワンポイントが、コツリと地に触れた音。

 

 ミス。左手側だったブレードにスパイダーを絡めたままだ。腕ごとぶんッと振り回されて今度は私自身がけん玉の玉。

 ミス。焦りのままブレードからスパイダーを離した。糸の千切れた玉は宙へと投げられる。グラスホッパーを持たず、スパイダーを上に用意していない私は滞空時間が無防備になってしまう。

 

 私を見上げるのは2体の人型トリオン兵。挙動はビーム寸前。

 

 混乱。動揺、ミス。切り替えろ。冷静に、ビームの発射まであと1秒。

 

───2体からのビームをシールドで防げるか。トリオン残量は充分か。

───集中シールドで防げる。射線を見極めろ。どこを狙う。

───頭と胸。ちがう。奴らの攻撃は最初から弱点を狙っていない。賭けろ。

 

 トリオン兵の頭部からトリオンの光が迸り、直線を描いて私に迫る。ビームが体に接触する直前、トリガーを起動した。

 

───賭けて、下からの挟撃(ビームとブレード)に備えろ!

 

 

「──繰糸(シールド)!」

 

 

 バンッ! バシュゥ! ギギッと三種類の音が響いた。

 果たして私が口にしたのはどちらのトリガーだったのか。己でも認識出来ないまま、走った()()に呼気を刻む。

 

 ビームには集中シールドを張ったが僅かにズレ、右の上腕が半分削れた。

 真下から襲ってきたブレードをスパイダーで押しとどめ左中指に接触。()()の反射を利用して左腕を引き、距離が詰まったトリオン兵の頭部に集中シールドを挟み込んでビームを牽制、からのトリオン兵を足場に地面へと戻る。

 

 集中シールドを解除してライトニングを展開。もともと地面にいた一体と、宙に浮いた一体へ間髪入れずに速射。

 トリオン兵(仮)との近接戦闘の為に地面へ蒔いていたスパイダーで、地面にいる奴の足を拘束していたが、腕を拘束しているわけではないので盾で防がれた。宙の方は左足首の関節に上手く命中して足首から下を撃ち飛ばすことに成功。

 

 すぐさま左薬指と小指に残った指貫(繰糸)に接続していたスパイダーを、壁に張っていたスパイダーに絡ませて移動。

 クンッと掛かる負荷をそのままに移動すれば、さっきの場所を上からのビームが抉った。次いで拘束を千切ったトリオン兵によるブレードが水平から迫るが、ライトニングの銃口を向けて牽制。

 

 足裏が地面に張っていたスパイダーを踏んだ瞬間、それをバネにライトニングを向けていたトリオン兵に突っ込む。

 

 

「スパイダー」

 

 

 64分割のスパイダーを贅沢に使って、一体を拘束した。

 

 宙からやっと着地したトリオン兵だが、片足を失ったキレのないブレード攻撃は楽に避けられる。

 そのまま私はとある民家の塀を越えた。介入(アクセス)で一本のスパイダーの強度を落とす。プツリってね。

 

 追いかけてきたトリオン兵が塀に接触した途端、スパイダーの束が飛び出して一体目と同じく拘束に成功した。

 

 罠は防衛ラインを作成する折に設置しており、警戒区域の各所に散りばめている。悠一の戦場予測に伴い、罠の量に偏りはあるけど。この罠は防衛スロープと同じようにテクスチャを貼って塀に擬態させていた。

 罠を張る動作なんてしていないから、完全な不意を打てたのだと思う。

 

 

「ふぅーーっ」

 

 

 大きく息を吐く。

 

 トリオン漏出が未だ治まってなかった右の上腕に、太めのスパイダーを巻き付けて応急処置を施した。傷口が小さいおかげで欠けた中指からの漏出は止まっている。痛みもなくなっていて良かった。

 

 繰糸をイメージ通り動かす為には、指先を敏感にさせる必要があった。当初は触覚だけを、と考えていたけど普段の生活に違和が発生してしまい、終いには得意分野の料理で指先を絆創膏だらけにしてしまったことで痛覚も同じように。

 決してドMではない。それに痛覚があるからか危険察知能力が上がった気がするし、今回はそれが功を奏した。

 

 第二次大侵攻では今より鋭敏化していたので、もし指がやられてたら泣いてたと思う。

 

 

『警告が間に合わなくてすみません……』

 

「私も自分の読みが外れて動揺し過ぎた。ごめん」

 

 

 集中を解いたと察した真木ちゃんが通信越しに謝ってきたので、こちらも首を振って謝罪した。というか私の方が悪い。

 

 人型トリオン兵(仮)を完全に人間だと判断して間違い、己の感覚を疑い動揺して警戒を怠った。

 通常の人型トリオン兵が近くにいたのにさ。言い訳を述べるなら、あんなに急接近するとは思ってなかったんだ、なんてね。

 

 それにしても、やっぱり相対した人型トリオン兵を人間のように感じてしまう。しかも3体とも、()()人間として。

 重心移動から、腕の振り幅や速度から、踏み込みのタイミングから──いやいやそうなると、三体も同じ所作のトリオン兵ということは、量産型のトリオン兵とも考えられる筈だ。

 

 

『相対した人型トリオン兵についてですが、天羽隊員が「三体とも同じ色」だと判断しました。一体目を倒したと同時に色が近くの人型トリオン兵に移った、と』

 

「ふむ」

 

『そして、どうやら拘束した人型トリオン兵にその色は既にありません。また近くの人型トリオン兵二体へ移り、接近中です。二体をエース機として区別して下さい』

 

「了解。倒したら増えるってわけじゃないのかな……」

 

 

 マップ上でこちらへ向かってくる赤色に染まった二つの点を見て、嫌な可能性を呟いてみる。

 増えたら増えたで対処するけどさぁ……何せ行動プログラムのパターンが細か過ぎる。同じ人型だったラービットよりも複雑だぞ。

 

 短時間でトリオン兵の行動プログラムパターンを把握できなかったのは初めてで、正直、戸惑いが大きい。

 

 とりあえずは罠の近くを周りながら撃破をしていくしかない。こちらに向かってきてくれるんなら、ありがたく戦いやすい場所に移動しよう。

 

 増える可能性があるなら、完全に倒すのではなく拘束を目的にしようかな。いや、それだとまた移られて意味がない。

 

 エース機が来た理由を考えろ。

 最初に私は無視されていた。バックワームを起動していたとは言え、吊られたトリオン兵を殲滅していたから射線で居場所はバレてたはず。だのに、狙いやすい狙撃手だった私にトリオン兵は反応していなかった。

 

 初めて動いたのは近界民(ネイバー)を見つけた時。

 三輪くんと米屋くんが交戦中の仲間を落とされない為にエース機がやってきた。

 

 舐められてはいない。けど、無視しても支障はないと思われている。よーし、やってやろう。

 

 エース機に対して引き気味に立ち回るのは確定。けど撃破も拘束もエース機にはやってやらない。徹底的に逃げる。

 そして、防衛ラインに残ってるトリオン兵を殲滅しながら他の場所への援護にも入る。私を放置出来ないように振り回してやろうじゃないか。

 

 

『真木ちゃん、エース機と50mの距離を保ってプロモーション・クイーンに切り替えるよ』

 

『了解。ルートサポートは任せて下さい』

 

 

 プロモーションとはチェスでポーンが他の駒に成ることを意味する。

 冬島隊はワープでスナイパーを移動させることから、当真くんと私をナイトの駒とした。エンブレムもそれに因んでナイトの駒である。

 ただし、私は戦場を指揮したり罠を仕掛けたり味方有利なフィールド形成したりと、完全なナイトの駒ではない。秀でる要素が特にない所謂器用貧乏な私は、ナイトの駒よりポーンの駒がお似合いなのだ。

 

 作戦の符号であるプロモーション・クイーンは、冬島隊の中で広範囲に及ぶ高機動の戦闘を指す。通常のワープによる変則機動ではなく、自分の足で移動しながらの戦闘だ。

 B級の隠岐くんがこの移動方法をグラスホッパーで短距離を再現&改良してて感心したけど、現在のトリガー構成上アレは無理。それに移動しながら罠を張っていく私には難しかった。

 姿勢の安定性などを考慮すれば、私の動きに一番近いのは玲ちゃんだろうか。

 

 グッと足下のスパイダーを踏み締めて、示されたルートに従って次のスパイダーへと跳ぶ。足りない箇所にスパイダーを撒きながらイーグレットを起動した。

 後方のエース機との距離が見る間に開くのをマップで確認して、前方とサイドにて目視した通常の人型トリオン兵へ銃口を向ける。

 

 着地点に停まるのは2秒間。

 それ以上はエース機に距離を詰められる。引き金を引いた。ヒット。

 すぐさま足を動かして次のポイントへ。

 

 揺れるスパイダーの上でもスコープを覗けば問題ない。体幹がブレるなんてのは初心者時代に卒業した。獲物が動くのは当たり前で、狙撃手がそれを射るのも当たり前の事象。

 

 トリオン体の動かし方のコツは"出来ない"と思わないことが挙げられる。

 "出来る"とか"当たり前だ"とか強く思うことで、結果的に望んだ通りになることが多い。逆に、"出来ない"とか"苦手"などを一度感じてしまえばなかなかその改善が難しかったりする。

 

 動きを止めずにスパイダーを伝って高度を落とし、2秒間停まって撃ち抜いて、縮まった距離を稼ぐ為に移動を再開。それを繰り返す。

 

 イーグレットによって人型トリオン兵の頭部は次々と破裂した。

 

 

『後方、エース機から砲撃。1.5秒』

 

『了解』

 

 

 バイパーやハウンドのように曲がらない直線のビームは移動するだけで回避可能だ。

 ついでにその直線上へ吊っていた敵を繰糸で持ってくれば「殲滅のご協力ありがとう」というもの。

 

 

『エース機変更』

 

 

 後方に離れていた人型トリオン兵から、私に近い人型トリオン兵へと赤色の点が移る。また2体か。

 

 

『おぅ、無事か八神』

 

 

 即座に移動方向を変えて跳んだところで、冬島隊長から通信が入った。

 

 

『右腕がちょっぴり削れて、あとは髪が犠牲になったくらいです隊長』

 

『やめろオレはハゲてねぇ』

 

 

 意味を解するのに一拍かかった。

 

 

『……! すみませんその返しは予想外でした』

 

『わるい、忘れてくれ』

 

『いえ、今度こそ完璧なボケ返しをやってみせますのでどうぞもう一度』

 

『そりゃ完璧なボケ殺しだっての。オレが求めてたのはツッコミだ』

 

『隊の回線オンにしてたら笑っちまった。太一のドジに巻き込まれるかと思ったぜ』

 

『真面目にして下さい。ベイルアウト用ベッドに水かけますよ』

 

『ごめんなさい』

『ごめんなさい』

『ごめんなさい。あれ? おれ悪くなくね?』

 

『あ、オレ今回ベイルアウトする予定ないわ』

 

『隊長の椅子が犠牲になります』

 

『ごめんなさい』

 

『おれスルーなの?』

 

 

 真木ちゃんには逆らえない。彼女はやると言ったらやる女の子だ。

 ベッドに水って地味に効く嫌がらせだよ。緊急脱出した先でびちゃーって、負けて落ち込んでるところへの追い打ちとしか思えないから。

 

 スパイダーを踏んで加速。距離が開けば停止、からのイーグレットで視認できた人型トリオン兵を狙撃する。

 

 跳び移ったスパイダーに足を引っ掛け、ぶら下がって狙撃。

 スパイダーの上をビームが通過した。そのまま足を外すと、さっきまでいた場所へ2本目のビームが襲う。なかなか良い射角だ。私がぶら下がっていた場所と、スパイダーの上へ戻った際の場所を狙ったらしい。

 私がスパイダーから離れるとは予測しなかったのだろう。

 

 地面へ降りる直前に接続で先のスパイダーに移って、移動を再開。

 

 エース機への変身は2体だけのようで、3体になる気配はなかった。

 

 

『あー、とにかく八神の被害確認をだな……さっき室長たちに「うちの参謀をナメないでくれ」ってどや顔したばっかだから、お前がやられたら恥かくトコだったわ』

 

『マジですか。真木ちゃん、その音声って記録して』

 

『ないです。あるわけないです』

 

『なんだぁ、おれも聞きたかったぜ。隊長、もっかい』

 

『言うか、こっ恥ずかしい。オレは』

 

『ジョウロのトリオン構築が完了しました』

 

『ごめんなさい』

『ごめんなさい』

『ごめんなさい』

 

 

 トリオン攻撃でしか破壊出来ないジョウロ、だと……!

 真木ちゃんの本気度に戦慄きながら、エース機からのビームを避ける。

 

 

『互いの余裕がわかったところで現場報告をしてくれや』

 

『おれの方は、アタッカー組が犬を払ってくれてっから狙撃に問題なーし』

 

『私は当初の役割を継続しながら、エース機2体をプロモーション・クイーンで引き気味に攪乱中です。3体目が出てきたら応援がほしいですね。以上』

 

『本部内部はアタッカートップ共が当たってる。今のところ被害なしだ。おーし、2人とも現状維持。八神はトリオン量に気ぃつけてそのまま引っ張れ。基地側に余裕が出たらアタッカー派遣すっから』

 

『うぃーす』

 

『了解』

 

 

 隊長の指示を受けて、私たちは任せられた役割へと専念し始めた。

 

 

 

 




・冬島隊のエンブレム チェスの駒であるナイト
真木ちゃんは記録者またはヘルプ。
隊長はプレイヤー。特殊な盤面を用意する者でもある。
戦闘員(狙撃手)はナイトで、敵味方関係なく飛び越える。
八神も本来はナイトであるが、時にクイーンでありルークでありビショップにも成る。故に八神はポーンとして役割を負っている。

 ・隠岐の機動
グラスホッパー→グラスホッパー
 ・八神の機動
スパイダー→踏んで反動をつける→スパイダー
 短距離の機動力は隠岐(というかグラスホッパー使い)に軍配が上がります。八神はワンクッションを入れて加速しますがグラスホッパーにはそれが要りません。グラスホッパーの跳躍出力はトリオン調整による為、反動をつける必要がないという単純な理由ですね。短距離、と限定したのはグラスホッパーで長距離移動は逆にトリオンの無駄かなと思ったので。
 トリガー構成上で八神はこれが出来ませんし、やはり慣れないので特訓が必要です。俯瞰視(客観視)は鍛えられているので、おそらく短期間でマスターできますが。また、移動の為に張ったスパイダーを罠にも発展させるスタイルも関係しています。

 ちなみに、八神が行っているスパイダー移動方法ですが、ある程度の身体制御能力が身に付いていなければ出来ません。スパイダーへ跳び移った時にそのまま反動をつけるのも、勢いを完全に殺して"制止"するのも、八神独特の感覚と努力の結果です。
 常軌を逸したとまではいきませんが、八神も訓練生時代に周りが「!?」と思うくらいには無理・無茶をやってトリオン体でどこまでやれるのか把握していました。軽度の中二病が仕事しています。そしてエンジニアたちが悦んで協力。

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