魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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あらすじが長かったから短くしました


第十一魔弾

 シャロンと出会った。その言葉はシャーレイには出来の悪い冗談にしか聞こえなかった。

 シャーレイは見た。あの日あの時、確かに撃たれて倒れ伏し、その状態で更に撃たれた家族同然だった少女を。スラムでの生き方を教えてくれたあの優しくも強い少女の最期を。

 だと言うのに、ひなたは出会ったという。シャロンに。

 

「シャロンちゃん……生きて……?」

「死んでたよ。残念ながら」

 

 その言葉にシャーレイの思考回路が一旦止まった。死んでいる人間に会った。それがどういうシチュエーションなのか、どういう事なのかがシャーレイの頭では理解できなかった。

 ひなたの表情は見えない。そっぽを向いて淡々と話す彼女の表情はどうなっているのかは分からないが、それでも無表情に近い表情だという事は声色から何となくだが想像できた。

 

「……ボクはそれをゾンビって呼んでる」

「ゾンビ……」

「死にながら生きる人間……生きる屍。動く死体さ」

 

 ゾンビ。その存在を簡潔に説明されたが、それがいまいち呑み込めなかった。

 死体が動く。そんなのあってたまるか。有り得るものか。死体は動かないもの。人は死んだら生き返らないし動くこともない。そんな当たり前を崩すような存在をシャーレイは想像出来なかった。しかし、ひなたはその言葉を冗談だと一蹴する事はなかった。ひなたの表情は分からないままだが、自分の表情は何となくだが分かった。

 恐怖と怒りと悲しみが混じったような顔をしているだろう。何とも言えない顔をしているだろう。

 その表情を見られたくなくて俯いた。が、ひなたはそのまま言葉を続けた。

 

「殺されかけたよ。急に出てきたシャロンに襲われてね」

「シャロンちゃんはそんな事しない!!」

 

 思わず叫んでしまった。その声にひなたは何の言葉も返さなかった。

 シャーレイにとってシャロンは最も大切だった少女だ。今はこうしてひなたと生きているが、彼女が死んだという事実はシャーレイにとっては癒えぬ傷になっている。だけれども、引き摺っては彼女は悲しんでしまう。だからその傷を時の流れに任せて生きていこうと思った。

 だと言うのに、この冗談は笑えない。死体のまま動いてひなたを殺しかけた。そんなの、シャロンがやる筈がない。シャロンの事は十年以上一緒に生きてきたシャーレイが一番知っている。だから、そんな事はあり得ない、と断言できた。

 だが、ひなたはその言葉を否定はしなかった。だが、代わりの言葉を紡いだ。

 

「シャロンは正気じゃない。もう、君の知っているシャロンじゃないんだ」

「正気じゃない……?」

 

 何時の間にか、ひなたはシャーレイを見ていた。彼女は咥えていた筈の煙草を灰皿に押し付け火を消し、真面目な表情でシャーレイを見ていた。

 その眼には一切の陰りを感じなかった。彼女が本当の事を言っているのだと、心の中で理由のない納得が出来る位にその瞳は陰りを持っていなかった。

 

「ゾンビになった人はもう二度と元には戻らない。そして……人を、食い続ける怪物になる」

「ひ、人を……?」

 

 ひなたは淡々と事実を口にした。

 もう頭の中がショート寸前なのにも関わらず、ひなたは事実を次々と口にしていく。その全ての口調が事実のようにしか思えないほど真剣であり、しっかりとシャーレイの目を見ながらの言葉だったため、嘘だと一蹴することを理性が拒んだ。だが、感情はそれが嘘だと信じたがっていた。

 

「嘘だと思ってもらってもいいよ」

 

 だが、ひなたのこの言葉で、今までの言葉が嘘なのではないという確信が出来てしまった。ここまで言われてしまうとそれが嘘だと一蹴出来ない。感情が否定しても理性が受け入れてしまう。この言葉を叫んで拒みたい程混乱してしまったが、ひなたはシャーレイを翠と紅の視線で貫いている。

 

「ただ、これだけは君に伝えたかった。彼女は一瞬だけ正気を取り戻したんだ。そして、言ってた。君の事が家族だって」

「家族……」

「君がどう思っているのか分からない。けど、これだけは君に伝えておくよ」

 

 ひなたはシャーレイの目を見たまま、口を開いた。

 

 

 ――ボクは、シャロンを殺す。

 

 

 その言葉を聞き、シャーレイは自分の中の感情を完全に表に出し、立ち上がった。が、立ち上がるだけだった。ここから取るべき行動が分からなかったから。

 シャロンを殺す、とハッキリと言われ、ふざけるなと叫びたい。だが、彼女はもう死んでいる。もう訳が分からない。頭の中がゴチャゴチャしてどうしたらいいのか分からない。

 ゾンビとか言われても分からない。正気を失っているとか分からない。殺すとか言われても実感が沸かない。何も考えられない。だが、分かるのは一つだけ。『ひなたは事実しか口にしていない』。ただこれだけだった。だが、だからこそ分からなかった。全てがわからなかった。もうどうしたいのか、どうしてほしいのか、何もかもが。

 

「……それだけ。近いうちにボクはシャロンを殺すよ」

「……なんで?」

「シャロンにとっても、これは苦しい事なんだよ。自分が死んだあと、体をいいように使われて人を食わされ人殺しをさせられ、また人を食う。この繰り返しをするのは」

 

 確かに、嫌だ。そんないいように体を使われるのなんて。そんな、怪物に体を仕立て上げられていいように使われるのは。だとしたら、いっそ殺してほしい。そんな悪夢を終わらせるために殺してほしいと思うだろう。だけど、シャロンが死体になっても生きているのなら、正気を一瞬でも取り戻したのなら。

 また、一緒に生きていけるかもしれない。そこにひなたも加えて、三人で生きていけるかもしれない。そう考えてしまう。

 だが、ひなたの視線がそれを否定する。馬鹿な事を考えるなと視線が訴えている。

 

「……ひなたちゃんに何が分かるの」

 

 それは、シャロンの事ではなく、自分の事だった。

 こうして目の前で残酷な事を告げられ、家族同然の少女のその後をこうして淡々と話され、最後に一瞬希望を与えられたのにも関わらず殺すと告げられた気持ちが。

 ひなたに分かるわけがない。そう思って。

 

「……分かるよ」

「分からない!」

「分かる」

「分かるわけない!!」

「分かる。ボクはゾンビになった恩人を手にかけた事があるから」

「え……?」

 

 隠そうともせずにひなたはそう告げた。

 自虐気に笑い出したひなたは煙草を咥えながら呟き始めた。

 

「昨日のように思い出すよ。とある男のせいで街がゾンビだらけになってね……ボクはゾンビ化しなかったんだ。だけど、皆がボクに向かって歩いてきながら言うんだよ。食わせろ、殺してくれ、腕一本だけでも、死なせてくれ、生き血を飲ませろ、眠らせてくれって……けどさ、中には正気を保ってる人がいたんだよ。涙を流しながら、ゾンビ化していない人を食って殺して食って殺して……その人がさ、ボクを見て言うんだよ。殺してくれ。もう人を食いたくないって。ボクはそれが精一杯出来る事だと思って殺したよ。でもさ、ボクを助けてくれた恩人もさ、ゾンビ化していたんだ。その人は、自分の奥さんを食い殺して絶望していた。泣いていた。嘆いていた。殺してくれって叫び続けていたんだ。でも、ボクは引き金が引けなかった。けど、あの人はこう言ったんだ。時には、殺すことが救いになるって。そう言って、あの人はボクに引き金を引かせたんだ。最後の理性で、笑いながらボクの頭を撫でてから、そっと起爆銃を掴んで、自分の眉間に照準を合わせて、ボクの指の上から、引き金を引かせたんだ」

 

 こう、バーンって。涙を流しながら仕草を加え告げられた事は、とても残酷な事だった。

 知り合いが、恩人が皆ゾンビになるか食い殺され、ゾンビ化した人をその手にかけた。正気を保っていた人達に向かって引き金を引いた。

 ゾンビの中で正気が残っているのはかなりのレアケースだと言う。ひなたも正気を保ちながらゾンビ化したのは三人しか知らないらしい。だが、ひなたはその三人に対して引導を渡した。それが、一番の救いになると信じて。それが、唯一の手向けになると信じて。

 

「……ボクは、ゾンビを探していた。それが、その人達の敵討ちに繋がる手がかりになるから。そんな、手遅れな人達を救う手段を、ボクはもう簡単に取ってあげられるから」

 

 ひなたが色んな街を流浪していた真実。それが、これだった。

 ゾンビに自らが引導を渡す。殺す事こそが唯一の救いになると知っているから。それを私情抜きで行えるから。それの、被害者であるから。

 

「でもさ……人知れず死んじゃうのって、寂しいじゃん? たった一人の家族に知られる事なく死んじゃうのは、寂しいじゃん? だからさ……せめて、君にだけは……シャロンの家族であるシャーレイにだけは、教えておきたかったんだ。罪はボクが全部背負う。だから、君はシャロンの思い出を……ゾンビになっても、正気を殆ど失ってもたった一人の家族を忘れなかった優しい女の子の事を、忘れずに覚えていてほしいんだ。それが、ゾンビになっちゃった人への……精一杯の、手向けだから」

 

 ひなたは、悩んでいた。シャロンの事を話すかどうか。シャーレイにこの残酷な事実を教えるかどうか。

 だが、教える事にした。シャーレイには酷な事だが、シャロンの事を覚えていてほしかったから。

 罪はひなたが引き受ける。だが、それ以外を。それ以外のいい部分は、シャーレイが覚えていてほしかった。それが、シャロンに出来る唯一の救済だと、ひなたは信じているから。思ったから。

 

「……そんなの、ひど過ぎるよ」

「知ってる」

「シャロンちゃんがかわいそうだよ……」

「分かってる」

「……でも、このまま放っておく方が、きっと辛いんだよね」

「……そうだね」

「……だったら、お願い。シャロンちゃんを、休ませてあげて」

「約束する」

 

 きっと、このまま放っておく方が、シャロンにとっては苦しいのだと理解したから。

 だから、頼む。ひなたに。力のあるひなたに。

 

「……でも、一つだけ、お願いしていいかな」

「何かな?」

「シャロンちゃんの亡骸は……私が埋めてあげたい。だから、なるべく近くまで私も連れて行って」

「……危険だよ?」

「分かってる。けど、危険なのはひなたちゃんもなんでしょ?」

 

 ひなたが血みどろで帰ってきた理由。それにシャロンが深く関わっているのは、この一連の会話から把握した。だから、一番危険なのはひなただと言うのは把握していた。

 だから、ひなた以上には近づかないから、せめて近くに居させてくれ。それだけ出来ればいいと。ひなたに告げた。シャーレイの真っ直ぐな視線に彼女は新しい煙草に火を付け、苦笑した。

 

「今回だけね?」

「うん」

 

 ひなたにとっても、今回の戦いは厳しいものになる。だから、シャーレイは遠ざけておきたかった。

 が、こんな真っ直ぐな目で見られたら、断れなかった。

 そして、絶対にシャロンの遺体を抱えて彼女に引き渡そうと。そう決意してしまった。

 

「……明後日。ボクは情報屋に行ってシャロンの情報を買ってくる。そして、三日後の夜。ボクはシャロンを殺しに行ってくる」

「うん、分かった」

「……絶対に、シャロンは取り返してくるから。約束する」

「うん」

 

 シャーレイは瞳に涙を浮かべながら頷いた。

 ひなたも、その涙に約束した。絶対に死なずに帰ってくる。シャロンを、シャーレイの手で土に還すと。

 そのために、シャロンを殺す。この手で。魔弾で。

 ひなたにとって、ゾンビは通過点の一つだ。その先に繋がる敵を殺すための。だが、その考えは今は捨てる。今は、目の前で泣く少女の家族を眠らせるために、ゾンビを殺す。




ひなたの過去は回想形式か話として挟むかのどちらかで明かしていきます
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