魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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VSシャロン


第十三魔弾

 翌日の夜。ひなたとシャーレイは二人で宿を抜け街を出た。

 向かうのは北の森を抜けた場所。二人はなるべくコソコソと物音を立てないように森を歩いていた。

 そして、森を数分で抜けれる場所に来た時、ずっと黙っていたシャーレイが口を開いた。

 

「……ひなたちゃん」

「何かな?」

 

 既に起爆銃を抜き、魔獣や害獣、その他の奇襲に備えながら歩くひなたにシャーレイが声をかけた。その声にひなたは無視することなく答え、起爆銃を下してからシャーレイの方を向いた。

 シャーレイの顔は不安と心配。この二色で塗りつぶされていた。無理もないだろう。ひなたの話したゾンビという存在は化け物中の化け物。聞いてる限りではとてもじゃないが人間じゃ太刀打ちできるような相手ではない。それにたった一人で戦いを挑むひなたをシャーレイが心配しない訳がなかった。それが顔に出ていたのか、ひなたは小さく笑ってから起爆銃をホルスターに仕舞い、シャーレイの顔に手を当てた。

 

「大丈夫。ボクは死なない」

「でも……」

「シャーレイみたいな薄幸そうな子を残して死ねないよ」

「薄幸って……」

 

 そんな事はないと言いたかったが、まずスラムで体の危機を感じながら生きていた時点でもう薄幸とも言えた。

 言いよどむシャーレイを見てひなたは小さく笑ってからゆっくりとシャーレイの頬を撫で、彼女を安心させようとする。だが、それでもシャーレイの不安は晴れないのか、ひなたの手を両手で包みこんだ。

 ひなたの手から伝わる確かな生きているという温かみを感じ、ひなたは何とか不安を落ち着けようとする。が、それでもシャーレイの胸の内に残る不安はどうしても拭い去る事が出来なかった。が、ひなたはそれを知ってか知らないでか、手をシャーレイに預けたまま小さく微笑み、口を開いた。

 

「シャーレイ。これが終わったら家を買おう」

「え? 家?」

 

 急なひなたの言葉にシャーレイは困惑した。だが、ひなたはそれでも微笑みながらシャーレイの手を片手だけで握り返し、そのまま言葉を続けた。

 

「二人でそこに住もう。多分、外れの場所にある家しか買えないけど……安宿じゃなくて、二人の家を買って、そこで一緒に生きていこう」

 

 それは、ひなたの決心とも言えた。復讐だけではなく、シャーレイのためにも生きていく。この、二度と手に入らないだろう温かな陽だまりと共に生きていく、そんな決心。

 彼女を守り生きていく。彼女と共に生きていく。彼女に依存して生きていく。彼女に認められながら生きていく。そのための区切り。完全な気持ちの切り替えの儀式として、ひなたは今日、この日の戦いを選んだ。かつて、シャーレイと共に生きていた少女を殺し、自分がその後を受け継ぐ。

 それを成すのが、今日だ。

 

「ひなた……でも、お金とか……」

「全部ボクに任せて」

 

 金ならある。昨日の情報屋から情報を買った際に残った残り九割の金。これだけの金があれば街外れにある家を一軒買ってもおつりが来る。それで生活必需品を買い、二人で一緒に手を取り合いながら生きていく。

 ひなたはそれを自ら望んだ。シャーレイと生きることを。

 お節介で彼女と共に生きていくのではなく、自らの意志でシャーレイと生きていく事を。

 

「……私でいいの?」

「君じゃなきゃ駄目だ」

「本当に……?」

「うん。もう、ボクは君がいなきゃ生きていけない」

 

 自分を認めてくれるたった一人の少女が居てくれないと、もうひなたは生きることなんて出来ない。こんな、暖かな陽だまりにまた身を落としてしまったら、自らそれを手放す事なんて出来ない。

 だから、彼女と共に生きるために、彼女に依存できるように、提案をする。彼女と共に生きていくための提案を。その提案にシャーレイは吃驚していたが、困惑になった表情は徐々に明るくなり、晴れていった。

 

「その……ひなたちゃんが良いって言うんなら。私、ひなたちゃんと一緒にいたい」

 

 その言葉にひなたは満足気に頷いた。

 これが終われば、暫くは安心して毎日を平和に生きていける。復讐だけではなく、暁ひなたとしての人生を改めて始めることが出来る。それが嬉しく、ひなたは笑った。それに釣られ、シャーレイも笑った。

 

「じゃあ……行ってくる。シャロンを止めるために」

 

 もう、森は晴れ、シャロンがいるであろう場所に辿り着く。そこは見晴らしがいい。それ故に、生身の人間であり、戦う術を持たないシャーレイではこれ以上進むのは危険だった。

 だから、ここで一旦のお別れだ。

 

「でも、ちょっと血を吸わせてくれないかな。そうしないと、多分勝てないから」

「うん、いいよ」

 

 だが、その前に。戦闘の最中にまた吸血出来るとは限らない。それに、今の素の状態ではシャロンにはすぐに殺されてしまうかもしれない。だから、シャーレイの血を吸って予め自分を強化しておいてからシャロンとの戦いに挑む。

 シャーレイは深い訳を聞かずにひなたの言葉を受け入れ、地面に膝をついてから首筋を肌蹴させた。

 ひなたはそれに吸い込まれるように覆いかぶさり、そのままシャーレイの首筋に牙を立てた。

 

「んっ……」

「ぁむ………ちゅっ……」

 

 シャーレイの小さな喘ぎ声が夜の帳に消えていく。優しく噛み付き、息を漏らしながら血を噛み付いた所から飲み込んでいく。

 温かな血が口の中に吸い込まれていき、喉を潤していく。その温かさと鉄の匂い、血の新鮮さと濃厚さがひなたの中の吸血衝動を高めていく。もっと吸いたい。ずっと飲んでいたい。そんな衝動を隠そうともせずに牙を突き立てた場所からシャーレイの血を飲んでいく。二人の少女の喘ぎ声と漏らした息の音が優しく森に響いて闇の帳に消えていく。

 そして、血を吸い始めてから大体三分程か。ひなたはゆっくりと、名残惜しそうに一度シャーレイの首筋の傷を舐めてからシャーレイの首筋から口を話した。

 

「はぁ……ふぅ……ありがと、シャーレイ」

「ん……」

 

 二人で抱き合いながら耳元で囁き合う。二人はゆっくりと離れ、後ろに向かって歩き距離を取った。

 ひなたはこれから死線へと向かい、死闘を繰り広げてくる。対してシャーレイはそんなひなたがシャロンの亡骸を抱えて帰ってくるのを待つ。それぞれがやる事は別だが、最後は共に笑うために、戦う。

 

「……行ってくるね」

「……うん。ここで待ってるから」

「ここで、か。じゃあ、お守りがてら罠は張っておこうかな。魔獣除けにね」

 

 ひなたは一旦魔弾を全部地面に落とし、新しい魔弾を六発作り出すとそれをリロード。シャーレイを囲むように地面に魔弾を撃った。

 

「罠の魔法。シャーレイにはひっかからないようにしておいたから大丈夫だよ」

「ありがと、ひなたちゃん」

「ん。じゃあ、絶対にシャロンを連れて戻ってくる」

 

 そう言うとひなたは紅に染まった瞳でシャロンがいるであろう場所の方を向き、走っていった。

 シャーレイは手を合わせ、ひなたが無事に帰ってくる事を神に祈るしかなかった。

 その数分後。前方から爆発に似た音が聞こえてきた。

 だが、それでもシャーレイは待つしかない。ただ、手を合わせ祈るしかなかった。

 

「お願い……頑張って……!」

「ほう? じゃあ、どうせなら間近で観戦でもするか?」

「……え?」

 

 

****

 

 

 暫く歩いた先。森が開け、木々がその姿を閑散とさせた場所にそれはいた。

 眠るように目を閉じ、全身を脱力させた状態で立つ一人の少女。ひなたと同じ隻腕となったゾンビ、シャロン。彼女はひなたに気が付くと目を開け、その眼光を隠すことなくひなたにぶつけた。

 両者紅の瞳をぶつけあい、シャロンは拳を構える。ひなたはローブを脱ぎ去り起爆銃を構える。

 

「……お願いだ……殺してくれ……」

 

 シャロンは表情を固めたまま弱弱しくひなたに声を投げかけた。

 それにひなたは驚きながらも起爆銃を下ろさず、警戒も解かない。ゾンビがその人の意思に関係なく攻撃してくる事を知っているから。

 

「……正気が戻ったんだ。そんなパターンは君が初めてだよ、シャロン」

 

 最初から正気を保ちながらも人を食い、精神を壊していくパターンは見たことがある。だが、それでも後から正気を取り戻してしまったパターンは知らない。ひなたはそれに素直な感想を口にしながら自分の中の闘争本能が目覚めていくのを感じる。

 

「……お前は、シャーレイと一緒にいるのか?」

 

 恐らく、今は限りある理性で動き出しそうな体を抑えているのだろう。手が今にも動き出そうと小さく揺れている。これは、後一分もしない内にシャロンの方から攻撃をしてくる。

 それを冷静に判断しながらその声に答える。

 

「……あぁ」

「じゃあ……頼む。私を殺してシャーレイと一緒に居てやってくれ」

「言われなくても」

「そうか……安心した。あの子は寂しがりやなんだ。お前みたいな強い奴が一緒なら、心配はない」

 

 どこまでも、シャーレイの事を大切に思ってきたのだろう。彼女は一瞬安心した表情を作った。 

 それにひなたも安心しかけた――直後、シャロンは一瞬と呼べる速さでひなたへと肉薄した。安心したせいで理性が途切れたか。目の前に出現したシャロンを見てからシールドを放ち、シャロンの拳を防ぐ。

 間一髪。シールドは甲高い音を立ててシャロンの腕を防いだ。だが、直後にローキックがシールドを一瞬にして蹴りぬいた。だが、蹴りは威力が高い反面、一瞬だけだが動けなくなる。それを狙い、後ろに飛びながら魔弾を四発放ち、己に強化の魔弾を打ち込んでからリロードに入る。

 だが、撃った魔弾は四発とも腕で弾かれた。

 

「生憎、ボクはあんまり強くないんでね! お空の上から不安一杯で見ててほしいかな!!」

「もう、意識が保てない……後は頼んだ……」

 

 その言葉に答える余裕は無かった。後から理性を取り戻してもこれか、とひなたは舌打ちをしかけたが、それをする暇を全て戦闘に費やす。

 六発の魔弾をリロード。更に一発の魔弾を噛み砕き、すぐさま起爆銃を構える。

 

「フルパワードシールド!!」

 

 ジェノサイドバスターの魔弾をシューターではなくシールドに置き換えたシールドの強化魔法。その強度は通常のシールドの十倍近くになる。が、この魔法は魔力を放つだけのジェノサイドバスターとは違い、魔力の精密なコントロールが必要なため、一回使うとそれなりのインターバルがない限りジェノサイドバスターとフルパワードシールドが使えなくなる。

 が、それでも今は手数を稼がねばならない。一度起爆銃をホルスターに仕舞い、ポーチから掴めるだけの魔弾を掴んでばら撒く。地雷の代わりだ。そして、それを撒いた直後、一瞬でフルパワードシールドに肉薄したシャロンがそれらを踏み抜く。

 その直後、爆発。エクスプロージョンの魔弾が爆発し、それに誘爆して様々な魔法が同時に炸裂しあう。ひなたはそれらを全てフルパワードシールドで防いだが、シャロンは直撃だ。少なくとも、足の一本や二本は取れただろう。爆炎が晴れ、視界が開けると、そこにはシャロンはいなかった。

 

「い、いない!?」

 

 まさかエクスプロージョンで消し飛ぶ筈がない。あれは足の一本を消し飛ばせても人間一人を消し飛ばすような威力は持ち合わせてはいない。

 じゃあ、どこに。パニックになりながら周りを見るが、どこにもシャロンが見当たらない。

 マズい。非常にマズい。地雷作戦が完全に裏目に出た。一対一の戦いで相手を見失うのは一番マズい状態だ。この状態だと一対一の状況で闇討ちという相手の必勝パターンが完成してしまう。

 何処だ。何処に行った。

 もうフルパワードシールドは時間切れで消えた。しかも、あれは全方位ガードではない上にまだ二発目は撃てない。そうなると、奇襲されたら確実に当たる。負ける。

 

「うエダ!!」

 

 だが、直後に上空から声が聞こえた。

 それを聞き、空に視線を投げると、そこには手を構えた状態で降ってくるシャロンの姿があった。それを見た瞬間、バックステップで後ろに飛び、シャロンから距離をとる。その一秒もしない後にシャロンはひなたのいた場所に着地し、土煙をまき散らした。

 ひなたはその衝撃に吹き飛ばされ、地面に上手く着地する事が出来ず、そのままゴロゴロと地面を無様に転がる。だが、これならまだ巻き返せる。すぐに立ち上がり、ホルスターに仕舞ったままだった起爆銃に手をかけた瞬間――目の前にシャロンが再び現れた。

 

「マズッ――」

 

 直後、ひなたの視界に赤色の液体が舞った。

 それが上へ向けて振るわれたシャロンの左手がひなたの右わき腹から左肩までを一直線に爪で引き裂いたからだ。

 

「あ…………」

 

 死んだ。そんな言葉は己の鮮血を見た瞬間に悟ることが出来た。

 己の中の血液が一瞬にして持っていかれ、意識が失われかける。そして、その視界の中に映ったのはひなたの腹を蹴り抜こうとするシャロンの右足だった。

 ゾンビの蹴りをまともに受けたらどうなるか? そんなのは決まっている。

 体が上下真っ二つになって死ぬ。単純で簡単な事だった。

 

「ヤメロォォォォォォォォォ!!」

 

 ――だが、天運はひなたに味方した。

 確かに足は振り抜かれ、ひなたはシャロンに蹴り飛ばされた。

 そう、蹴り飛ばされた。つまりは体は上下真っ二つになっていない。途轍もない力で蹴られたのには変わりないが、それでも一気に後ろへ飛んでいく視界でひなたはまだ生きているという事が信じられなかった。

 だが、すぐに何故かが分かった。再び正気を失いかけていたのであろうシャロンが己の理性を最大限に働かせ、即死級の一撃を致命傷レベルにまで下げた。これによってまだひなたは生きている。が、それでも致命傷レベルには繋がってしまう。空中を飛び、そのまま地面を何バウンドもしたひなたは背中から木にぶつかった。

 

「がっは……!?」

 

 体から鳴り響く骨と肉と皮の悲鳴。そして、内臓の痛みと喉の奥からこみ上げる血液。

 木に当たった直後に一度血を吐き、そのまま地面に倒れた時も再び血を吐いた。

 

「ごふっ……げはっ……」

 

 胃と背骨、そして地面に最初にバウンドした時にあばらも逝ってそのまま肺に刺さっている。致命傷どころか死んでも可笑しくはなかったが、ひなたは奇跡的に一命を取り留めた。だが、吐血が止まらない。一瞬にして地面が血の池へと変貌していく。

 そんな状況下で薄くなっていく意識の中、ひなたは手一杯に己の作れる最高レベルの回復魔法を詰めた魔弾を作り出し、震える手でそれを口に運び、喉奥からこみ上げる血を何とか我慢しながら魔弾を噛み砕いた。手一杯の回復魔法は徐々に体を致命傷の部分から癒していき、肺からは骨が抜け、傷口が塞がり、背骨を何とか元通りに直し、胃もどうにか治った。

 が、それはあくまでも回復魔法での応急措置。魔力で無理矢理結合され、修復されただけ。本来ならここから定期的に魔法で回復をしながら一か月は絶対安静にしていなければならない状況だ。だが、それでもひなたは立ち上がる。全身から鳴り響く悲鳴を聞き、引き裂かれた体から血を流し地面に血の水たまりを作りながらも立ち上がる。こんな所で死んでいられない。シャーレイと約束した。シャロンと約束した。シャロンの亡骸を連れて帰ると。シャーレイと一緒に居ると。だから、死ねない。暁ひなたという一人の人間として、この約束を破るなんて真似は、絶対に出来ない。

 男の意地と女の意地とシャーレイの笑顔とシャロンの安らかな眠りのために、絶対に負ける訳にはいかない。死ぬわけにはいかない。

 

「ぜぇ……ひゅー…………」

 

 息切れの音すら可笑しくなり、視界がぼやけ始める。だが、それでも足に力を入れ、起爆銃を握る。

 狙うのは、物凄い勢いで迫ってくるシャーレイ。更に回復魔法の魔弾を貪り、無理矢理己の体に喝を入れ視界を無理矢理クリアにする。

 たった一手で瀕死になった所で、まだ負けていない。まだ死んでいない。なら勝利はある。

 ジェノサイドバスターで頭を消し飛ばす。出来るはずだ。いや、やれる。やる。そして勝つ。全ては自分のため、シャーレイのため、シャロンのため。三人の安らぎのため、絶対に負けない。




ラスボスでもない相手の攻撃一回で瀕死になる主人公がいるらしい。アナザーなら死んでいた。
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