魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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絵描きの友人にひなたとシャーレイの絵を描いてもらいました。その友人から許可を貰ったのでペタッとここに貼っちゃいます。

一人、現在進行形で死にかけている話ですけどもね、はい。


【挿絵表示】


ひなたのカラーイラストが第十七魔弾にあります


第十四魔弾

 シャーレイにとってシャロンという少女はたった一人の家族であり、恩人だった。

 シャーレイは物心が付いた時にはシャロンと共にいた。だが、物心が付く前に少しだけ。ほんの少しだけ覚えていた事がある。それは、薄暗いスラムの街を泣きながら歩いていた時だった。親に捨てられたとも知らずに瞳に涙を浮かべて親を探し続けるシャーレイはスラムの人間からしたら格好の的だった。人身売買としても使える。娼婦として育てるもよし、自分の雌奴隷として育ててもいい。とにかく、攫ったら攫ったで己の欲をぶつけるのには最適であり、誰にも咎められない的だった。

 それ故に幼いシャーレイには嫌な視線が突き刺さり、それがまだ子供故、人の悪意を己の精神全てで感じられるシャーレイを泣かせる要因になってしまっていた。だが、その中でシャーレイの前に少し年上の、まだ幼女と呼べる外見の少女が現れた。その子は全身を汚し、服もどこか解れて靴もボロボロ。髪の毛も手入れがされていないからかガシガシだったが、シャーレイにとってはその少女が唯一の救いにしか見えなかった。

 

「……おまえ、親は?」

「……」

「すてられたのか?」

「……」

 

 シャーレイは己が捨てられた事が分からなかった。親がここに居ないのは無言の肯定で返すだけだった。その無言に含まれた意図に少女はすぐに気が付き、シャーレイの頭を撫でた。それが、乱暴でシャーレイの首ごと揺らす物だったとしても、それがシャーレイの心を癒すのは変わらなかった。

 そして、目の前の少女は視線をシャーレイに合わせて笑顔で囁いた。

 

「そうだな……おまえの親がむかえに来るまでわたしのウチであそばないか?」

「……いいの?」

「あぁ。むかえに来るまで、ずっとな……」

 

 もう迎えに来ることがない親を待ち続ける。それは、一緒に生きていかないか。二人で、一緒の場所で一緒に生きていかないか、という彼女の優しさから出てきた言葉だった。

 シャーレイにとって、その言葉は救いだった。自分と一緒に遊んでくれる年上の友達が出来た。一緒に親を待ってくれている。それが嬉しくてシャーレイは自然と笑顔になった。彼女もシャーレイの笑顔を見て一緒に笑った。スラムという街に捨てられた小奇麗な少女の笑顔に彼女は自然と笑顔になっていた。

 言葉は少し乱暴だった。だが、心の中、自分でも理解していない部分ではもう親は迎えに来てくれないと悟っていたシャーレイはその言葉を笑顔で迎え入れていた。

 それから彼女はシャーレイを抱きかかえてスラムの複雑な道を走り回り、シャーレイ狙いで襲ってきた男達を何とか振り切り、それから十年近く共に暮らす事になる隠れ家に転がり込んだ。彼女はすぐに大人達が追ってきていないかを確認すると一息付き、シャーレイをボロボロのソファに座らせ、彼女もその隣に座った。

 

「……わたしはシャロン。名字はすてた。おまえは?」

「…………シャーレイ。シャーレイ・ランフォード」

 

 その名を聞き、少女シャロンは少し顔を俯かせたが、いい名前だな、と返した。

 その言葉にどんな意味が込められていたのかはシャーレイは分からなかったが、その言葉はシャーレイを笑顔にするに事足りた。

 一度笑顔になればシャーレイはシャロンに心を許した。子供故に細かい事は考えられず、ただシャロンと言う少女が好きになったシャーレイはその日はずっとシャロンと話していた。途中、シャロンが水や食べ物を分けてくれた。それが盗品だという事を知ったのは、それから五年も後の事だった。

 生きるために盗み、食い、寝る。その内の盗みという一番汚い部分をシャロンは一手に担ってくれた。まだ幼いシャーレイに悪い手癖が付かないようにと、シャロンは午前中を盗みに費やし、シャーレイの分の食料も盗んできて共に食べる。当時、まだ七歳だったシャロンはスラムという過酷な空間で養われた歳不相応の精神力でひたすらにシャーレイを笑顔にするため。無垢な少女のままでいさせるために努力してきた。その間、色々と二人の間にはあったが、それでも二人は仲良く生きてきた。スラムという過酷な環境で、たった二人で。

 シャーレイはシャロンの盗んできた食べ物や服で救われた。シャロンはシャーレイが見せる笑顔に救われてきた。シャロンが気まぐれで起こしたお人好しは彼女を救うまでに至った。

 シャーレイはそれを……シャロンが食べ物を買ってきたのではなく、盗んできたのを五年後に知り、二年間体力を作り十歳の頃にシャロンの盗みを手伝うようになった。最初はシャロンは手伝いを拒否したが、最後は折れた。そして、共に盗みを行い、四年間。生きてきた。

 だが、それが終わったのは唐突だった。

 二人が盗んできた食べ物を胃の中に納めていた時。二人は銃を持った怪しい男に囲まれた。

 

「……何だよ、オッサン達」

 

 シャロンは十年以上の時の中で幼少期から歳不相応の精神を更に不相応にしていた。同年代の少女から比べてもシャロンは一皮剥けたような精神を持っていた。対して、シャーレイは違った。彼女に依存し、彼女と共に生きていたため、彼女のような精神は持ち合わせておらず歳相応に近い精神しか持ち合わせていなかった。

 故に、シャーレイはシャロンが言葉を発している中、一言も話せずに震えていた。盗んできた食べ物を地面に落とし、ただ震えていた。

 囲んだ男の内、一人が。リーダー格であろう男がへらへらと笑いながら口を開いた。

 

「嬢ちゃん達……悪ぃけどさ、俺達と一緒に来てもらうぜ?」

「断る」

「だろうなぁ……けどよぉ」

 

 男は拳銃を懐から取り出すと、シャロンに向けて発砲した。

 それはシャロンの顔の真横をすり抜け、そのまま後ろへと消えていった。その発砲音はシャーレイの心を挫きかけるには十分だった。しかし、シャロンは顔つきを変えなかった。

 

「クライアントには殺してもいいから十代前半か後半っぽい女を攫って来いって言われてんのよ。勿論、生きていた方が報酬は高く積まれるがな」

「殺してでも連れていくってか?」

「そうそう。物分かりがいいじゃねえか。クライアントが死体好きの変態なのかタダのロリコンなのかは知らんが、黙って着いて来たら後数時間は二人仲良く一緒に居られるぜ? それに、俺はこんな玩具使うのは初めてなんでね……断られたら即死させられずに嬲っちまいそうだぜ?」

 

 断ったら痛めつけて殺す。着いて来たらその先は知らないが多分死ぬ。そう男は告げた。

 つまり、二人に道は殆ど残されていなかった。少なくとも、二人同時に生き残る道は、無かった。

 シャロンはシャーレイの背中を叩いた。何か策があるのか、とシャーレイは折れかけた心でシャロンを見た。だが、シャロンは何かを覚悟した表情で小さくシャーレイに呟いた。

 

「時間を稼ぐから逃げろ」

「……え?」

 

 それは、シャロンが一人死ぬ事でシャーレイを生かす、という意味だった。

 彼女の表情はもう死を悟っていた。これから来る苦痛を耐えきる覚悟をした顔だった。

 

「……強く生きろよ、シャーレイ」

 

 その言葉を小さく呟くと、シャロンはその場で背中を向け、後ろを囲っていた男に向かって叫びながら突っ込んだ。

 この反抗は予想外だったようで、男達の反応は遅れた。それがシャーレイを逃がす隙になった。

 

「行け、シャーレイ!!」

「で、でも!!」

「行けよ!! 行ってくれよ!!」

 

 既に囲んでいた男達の銃の照準はシャロンに合っていた。だが、シャロンが男に振りほどかれずしがみ付く事によって誤射を恐れた男達はシャロンを撃てずにいた。

 だが、一人だけ。リーダー格の男だけはそれを気にせずにシャロンに向けて銃弾を放った。

 鳴り響く銃声。それとほぼ同時にシャロンの背中に穴が空き、血が噴き出す。だが、シャロンは力を緩めない。ただひたすらに、苦痛に耐えながらシャーレイの逃げる時間を作っている。

 

「私を無駄死にさせるな!! 私の命を、お前が継げッ!!」

「シャロンちゃん……!」

 

 命を、継ぐ。シャロンの命を継ぎ、生き残る。

 一人では生きていく術を知らないシャーレイにそれを言う。だが、シャロンはそれを望んだ。それを果たせなければ、シャロンからは死んだ後で見捨てられる。

 それは嫌だ。死んだ後でも、シャロンには見捨てられたくない。だから、シャーレイは走った。シャロンの作った逃走路を全力で、盗みに使う足を、生き残るために使った。

 

「何していやがる! あっちのガキを撃て!!」

 

 直後。銃声が鳴り響いた。

 しかし、それは全てシャーレイには届かなかった。代わりに、逃走路を塞ぐ形で立ちはだかったシャロンがその弾丸をその身一つで全て受け止めていたからだ。

 走りながら、振り返る。そこには、笑いながら、血を吐きながらシャーレイを笑顔で見送るシャロンの姿があった。その口は、僅かにだが、数回だけ動いた。

 

「じゃあな」

 

 左胸から血を流しながらシャーレイは倒れた。地面に血の水たまりを作りながら彼女はその場で倒れた。

 

「あぁクソ!! おい、あのガキを追え! なるべく殺さず連れてこい!!」

「こ、殺さずですか?」

「アァ!? 俺達のおまんま食うための金がどうなってもいいのかァ!? お前を間引いて食費減らしてもいいんだぞこのアホが!!」

「す、すいません!!」

「後、途中でいい感じのガキがいたら攫って来い、埋め合わせだ!!」

「分かりました!!」

 

 そして、数回の銃声が聞こえた。

 最後にシャーレイが振り返ると、倒れたシャロンを踏みながらリーダー格の男は銃弾をシャロンに撃ち込んでいた。

 撃たれる度に痙攣するシャロンはもう助からない。そんな確信を持ってしまい、涙に霞む視界を拭ったシャーレイはそのまま走った。後先の事を考えずに。今は生き残るために。

 そして、何分も走って逃げ、後ろから聞こえてくる銃声に背筋を凍らせながらも走り、角を曲がり……人にぶつかった。けど、謝る間もなく逃げた。じゃないと、シャロンの死が無駄になるから。

 だが、走って逃げる前に手を掴まれた。

 

「おっと。一言謝罪があってもいいんじゃないかな? ボク、思いっきり頭打ったんだけど」

 

 そして、ひなたと出会った。

 

 

****

 

 

 シャロンの一撃。それは十分に人間を戦闘不能にするレベルの攻撃だった。

 しかし、ひなたはその一撃を受けてなお、血を流し過ぎた頭で必死にシャロンの行動を先読みしながら彼女と近接戦を行っていた。

 近づく前に仕留められなかった。それはもうひなたの敗北を意味するレベルだったが、回復魔法で無理矢理体を動く状態にして戦うひなたはしぶとく生き残り続けた。

 回復魔法には増血作用もある。血を増やしては流しを繰り返し、ただひたすらに反撃の機を伺う。今の状態で腹に穴でも空けられたら詰みだが、もし再びシャロンの腕を吹き飛ばす事が出来たのなら。それでシャロンが怯んでくれたのなら、例え腹に穴を空けられても回復魔法で一時的に穴と傷を塞ぐことは出来る。その後はベッドの上で絶対安静には変わりないが。

 だが、魔力がもう切れそうだ。回復魔法による増血効果はまだ続くが、その前に手のひら一杯の回復魔法の魔弾を噛み砕くという荒業をしたためか、もう魔力がジェノサイドバスター一発分しか残されていない。そして、今起爆銃の中にある魔弾はシューターが四発だけ。シールドももう使い切ってしまい、シューターすらもう四発だけ。これを撃ちきってしまうともう勝つ手立てがない。ポーチの中にはシューターやシールドがあるが、隻腕というのがそれを使う事を許可しない。もう地面に撒いてもシャロンはそれを踏まないだろう。

 ジェノサイドバスター用の魔力だけを詰めた魔弾もない。その魔弾を作れるのは後一発だけ。シューターやシールドは六発だけなら生成できるが、それではシャロンの頭を吹き飛ばせない。

 つまり、ひなたに残された手段は、三発のシューターで足止めを行い、残り一発をジェノサイドバスターに変換し、シャロンの頭を吹っ飛ばす。それだけだ。そして、増血効果が続くのは残り五分。五分を過ぎれば、ひなたは出血多量で死ぬ。ジェノサイドバスターを外しても死ぬ。攻撃に一発でも当たれば死ぬ。

 

「グゥゥ!!」

「ふっ……はっ……」

 

 浅く息を吐きながら完全に正気を失ったシャロンの攻撃を避ける。

 蹴られた時はシャロンが何とか威力を死なない程度に押し留めてくれた。だが、二回目はない。あったとしても回復魔法で修復された場所が再び破裂し、先ほどと全く同じ威力の蹴りでも即死する。それ以下でも死ぬ。今シャーレイに蹴られても死ねる。近所のガキに軽く殴られても死ぬ。自分で殴っても死ぬ。正に虫の息。

 だが、諦めない。勝つ事を、生きる事を。何としても諦める訳にはいかない。

 人一人の希望を背負ったこの背中を絶対に見せる訳にはいかない。この腕を地につけるわけにはいかない。この体には、ひなたと、シャーレイと――そしてシャロンの願いが込められているのだから。

 

「シネェェェェェェ!!」

「いっぱつ……!」

 

 痺れを切らしたのであろうシャロンの一撃を避け、カウンターで右目へ。魔弾を放つ。

 完全なカウンターで、完全な零距離で放たれたそれはシャロンの右目を、その付近の肉と骨ごと打ち砕き、粉砕する。肉が飛び散り、骨が砕け散る。血が噴き出し、急に視界を奪われたシャロンが右目を抑えて後退する。

 

「グアァァァァァァァァァ!!?」

 

 視界を失ったことによる動揺。しかし、それはシャロンを仕留めるまでに至らない。頭部の……脳の完全な破壊を行わない限りゾンビは止まらない。例え、脳が半分残っていてもゾンビは動き続ける。完全に破壊しなければ、ゾンビは止まらない。そんな常識を超えた存在がゾンビだ。

 

「……にはつ」

 

 そして、二発目を左目に放つ。

 これで両目を潰す。そして、最後に片足を潰し、最後にジェノサイドバスターで確実に頭を消し飛ばす。これで勝ち。たった一つ見えた勝ち筋だ。

 当たった。内心で微笑みながら三発目のシューターを放つ用意をする。

 

 

 ――だが、時は何時でも残酷だ。

 

 

 偶々困惑故にシャロンが横を向いた瞬間にシューターは目に当たらず掠って後ろへと通り抜けていった。

 

「まずっ……」

 

 急いで三発目の照準をシャロンに合わせる。

 しかし、その瞬間にシャロンは再び闘争心を取り戻し、一瞬にしてひなたに肉薄し、伸ばした腕の内側に潜り込まれる。

 それと同時に三発目のシューターを放つ指が引かれ、完全な無駄弾に変わってしまう。そして、最後の四発目が撃たれる前にシャロンが動いた。

 

「あっ……」

 

 小さくひなたが声を漏らした瞬間。シャロンの腕が振るわれた。

 その腕はひなたの腹に食い込み、そのまま突き破った。

 拳が貫通し、内臓が、骨が、一瞬にして潰され砕かれ血と共に背中から噴き出す。

 それと同時に、ひなたの目からは生気が一瞬にして失われた。

 全身の力が抜ける。体が折れ、シャロンの手にもたれかかる。何とか、あと一矢、あと一矢だけでも報いろうとするが、体が力を使う事を拒否し、腕で体を起こそうとしても腕が折れ、そのままシャロンの手にもたれかかる。命の鼓動が弱まっていく。目が紅から翠へと戻る。起爆銃を持った右手が力を失ったことによって垂れる。

 

 

 ――ひなたは敗北した。




to be continued……?
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