魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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まぁ、前回修羅場&修羅場でヤバかったから今回の話くらいはゆっくりとさせてあげましょう


第十八魔弾

 ひなたの訪れたあの街。あの街はかなり広い方であり、結構街の中央から離れた場所にも人はそこそこ住んでいる。しかし、近くには店という店がなく、何かを買いたい時は少し遠出をしなくてはならない。そのため、外れの方に暮らすというのはちょっとだけ面倒が生じる。

 そのためか、街の外れにある家というのは街の中央にある家よりも結構安めに売られている場合が多い。豪邸等はそれでもいい値段するが、誰かが売った家なら全然かなり安く買う事が出来る。

 ひなたはその数ある物件の中でも狭くもなく広くもない家を購入し、残った金で家具やら生活必需品やらを揃え、シャーレイと共に暮らし始めた。

 と、言うのも一か月前の話であり、ひなたとシャーレイは新しい住処に既に適応し、ひなたは金を稼ぎ、シャーレイが家事をするという分担で日々を送っていた。

 

「ひなたちゃーん、洗濯物もうないー?」

「ないよー」

 

 傷の大半が回復魔法と自然治癒と薬のチャンポンによって既に回復し、もうある程度の戦闘なら問題が無くなったひなたは魔獣狩りを行わない日は基本的にニートと似たような生活を送っており、今日この日も、とっくに来月分までの生活費を稼いでいたため、居間にあるソファでごろ寝していた。そんなひなたにシャーレイは何も言うことなくせっせと家事をしていた。

 料理もひなたのために覚え、その他の家事もひなたのために覚えた。その結果、メイドや家政婦のようになっていたが、それはシャーレイが望んだ事であり、今までそういう事をやる機会が無かった分、家事全般が新鮮に思えて楽しくなっていた。ひなたも何度か手伝おうとしたが、その時には既にシャーレイは家事を殆どマスターしており、片手しか使えないひなたでは逆に足を引っ張ってしまっていた。その時にはひなたが外働きでシャーレイが主婦のような関係になってしまっていた。

 そのため、もうそれなら家事全般は完全にシャーレイに任せようと決意したひなたは翌日から金稼ぎの時以外はニートのような生活を送るようになった。それでも、庭で体が鈍らないように鍛えたりはしているが。

 シャーレイが洗濯機を回してからひなたのごろ寝しているソファにまでやってくる。それを見たひなたはすぐに起き上がって普通に座り、ソファの前に置いた机の上に無造作に置いてあった煙草の箱と灰皿を手元に寄せると煙草を口に咥え、火を付けようとした。が、その前にシャーレイがライターをひなたの口元に近づけていた。

 

「はい」

「あ、ありがと」

 

 好意に甘えて煙草に火を付けてもらい、煙を吸う。

 何で車は無いのにライターはあるんだろうなぁ、とどうでもいい事を考えながら天井を向いて煙を吐く。もうシャーレイに甘え尽くしである。まるでひなたが駄目亭主でシャーレイが働き者の主婦みたいだ。煙草もシャロンを食ってから吸う本数が一日一本だった物が一日に十本近く吸うようになってしまったし家事だって一切していない。だけど金はちゃんと家庭には入れている。

 もう立派な喫煙者になってしまったひなたに対して一切嫌な顔をせずに家事をしたりしてくれているシャーレイには本当に頭が上がらない。

 

「……禁煙したくても出来ないのが辛い」

「色々と抑えるためなんだし仕方ないよ」

 

 禁煙したくても、人を食ってから食人衝動が以前よりもかなり肥大化し、時々シャーレイの腕に噛み付きそうにすらなってしまう。吸血に関しても吸いたいという頻度が増えてしまい、一日に一回、寝る前にシャーレイの血を少し吸わせてもらっているのが現状だ。

 ひなたはいつもそこで煙草を一本吸ってから寝るが、時々シャーレイがゴソゴソと何かしていたりトイレに駆け込んでいったりしているのを知っている。吸血したせいで体調に変化が出てしまったのか、と思って翌朝とかに聞いているが、シャーレイは特に体調を崩してはおらず、それどころかスッキリした顔をしている時がある。一体何をしているのかはサッパリ分からない。

 話は逸れたが、そこまで肥大化してしまった衝動を抑えるのは理性だけではほぼ不可能となってしまい、こうして煙草を吸わないと抑える事が出来ない。ひなた自身も煙草代が馬鹿には出来ない事は知っているため、禁煙はしたいとは思っているのだが、煙草がないとシャーレイを食いかねないので金を犠牲に安全を確保するしかなくなった。煙草の代わりにガムを噛んでみたりグミを食ってみたりしたのだが、ガムに関しては効果が無く、グミは太りそうだったので却下だった。代わりの物となると後は薬とかが思いついたが、煙草よりもロクな事にならないのが目に見えたため止めた。

 

「はぁ……時々本当にシャーレイが美味しそうに見えちゃう時があるし本当に困るよ……」

「……別に、ひなたちゃんにだったら食べられても」

「それボクが後悔で自殺するヤツだから死んでも嫌なんだけど……」

 

 もしも衝動に負けてシャーレイを食べたとしたら、その日の内にひなたは崖から空へと飛び立つだろう。もう、シャーレイのいない生活が想像も出来ない位までにひなたはシャーレイに依存していた。

 煙草を一本吸い終わり、吸い殻を灰皿に押し付けてから隣に座るシャーレイの膝の上に頭を乗せる。それにちょっと吃驚したシャーレイは小さく声を上げたが、すぐに困ったような笑顔を浮かべて膝の上のひなたの頭を撫で始めた。こうしていると、あのシャロンとの戦いが嘘のように思えた。

 余りにも急に訪れた平和は二人の元を離れようとはせず、ただただ二人の傷跡を癒していた。このままグダグダと毎日を生きていくのもいいかもしれない。そんな風に思えてしまう位には、ひなたの脳内は平和ボケしていた。少なくとも、地球で、日本で勉強やら就職やらに縛られて生きていくよりもこうしてシャーレイと二人、やりたいようにやって生きていくのが一番ひなたの性格には合っていた。手に職付けていないが、金を稼ぐ充てはある。そして女の子と同棲。これ以上満たされた時間は他には存在しないだろう。

 全世界の負け組共にやーいやーいと言いたくなる気持ちを軽く押さえ、シャーレイにされるがままで撫でられる。これだとどっちが年上か分かった物じゃない。

 

「あー、幸せ……」

 

 電子機器、というよりも電気を使った娯楽品という物が数少ないこの世界では暇な時間はこうしてゴロゴロとしているか本を読むか外ではしゃぐしか選択肢がなくなる。何で洗濯機やら冷蔵庫は日本の物と性能が殆ど変わらないのに娯楽品だけは存在しないんだ、と思わなくもないが、無い物は仕方ない。だが、新聞はある。シャーレイはひなたを一通り撫で終わると、テーブルの上の新聞に目を通し始めた。

 学ぶ場所が無かったスラムで生きてきたシャーレイだが、どうやらシャロンが独学で文字を覚えた後にシャーレイにも教えていたらしく、シャーレイは普通に本や新聞を読める。少なくとも、つい一年前に叩き込まれたばかりのひなたよりもすらすらと読めている。

 本当に暇で眠気がやってきた時、ふとシャーレイが言葉を漏らした。

 

「温泉、かぁ……」

「え、なになに?」

 

 温泉。確かにそう聞こえた。

 この世界にも温泉はあるっちゃあるが、温泉が湧き出る場所はかなり少なく、この街からは馬車でも丸一日と数時間かかる位に遠い。そんな場所にシャーレイが興味を示したのが若干もの珍しく、ひなたが一体何事かと聞いた。

 シャーレイは何でもない、と言おうとしたが、別に言ってもいいか。と思考を変え、新聞にあった内容を口に出した。

 

「なんか、今日から一か月間、温泉宿の宿泊費が割引されてるんだって。馬車も定期的に出てる連絡用の馬車に乗せてもらえるから、何時もよりもお安くなってますよーって」

「へぇ……」

 

 あまり馬車という物に乗った事がないひなたはパッと頭の中にイメージが沸いてこなかったが、きっと観光バスのような物が出ているのだろうと自分の中で無理矢理シャーレイの言葉を納得させた。

 シャーレイ自身も馬車に乗った事なんて一回も無かったが、一般常識として一応一通りの事は知っている。馬車の発着場のような場所も知ってはいる。知っているだけだが。

 

「まぁ、私達には関係無い話だよね」

 

 シャーレイはそう言うと、新聞をすぐに閉じた。やはり、そんな事に使う金は無い、と思い込んでしまっているらしい。確かに、ついこの間駄目になった戦闘服に似たような頑丈な服を買ってきたため金が軽く溶けたが、その分も既に取り返してプラスになっている。

 ひなたが新聞を取ってその記事を見つけ読んでみるが、一週間程毎日依頼を受けていたらこのくらい余裕で行く事は可能だ。生活費も軽く削れば五日間程度で温泉宿があるという温泉街で温泉に浸かる位の金は確実に用意できる。もう一人分余計に用意だって出来るだろう。予約は街の役所から、だそうだ。

 この街の住民票をシャーレイの分とひなたの分で作りに行ってきたとき、確かにそんな窓口があったような無かったような。

 

「……行きたい?」

 

 思わず口に出した程なんだし、行きたいんじゃないか。そう思い、下からシャーレイに聞いた。

 シャーレイは一瞬動きを止め、だがすぐに視線を逸らしてひなたの頭を撫でた。

 

「そ、そんな事は無いけど……」

 

 嘘だ。だって表情が行きたいと言っている。行けるのなら行ってみたいと言ってしまっている。こういう贅沢もしてみたいと思っている顔をしている。

 ひなたとしてはシャーレイが本当にどうでもいいのなら行かない、という選択肢を取ったが、ここまで露骨な感じで行きたいと言われるとじゃあこの話は終わりで、とは言えなくなる。それに、ひなた自身も久しぶりに温泉に行ってみたいという気持ちはある。この世界に来てから風呂はあったが、温泉に入った事なんて無かった。というか、あの村に居た頃は温泉の話を聞いたことも無かったため、知ってすらいなかった。

 なら行くしかないか。とひなたは上半身を起こした。

 

「シャーレイ、バレバレだよ」

「うっ……」

「全く……遠慮なんてしなくてもいいよ。こう見えてもそこそこ稼いでるんだから、温泉に行く程度造作もないって」

「ホント!?」

 

 ひなたが遠回しに行こう、と誘うとシャーレイは歳相応の笑顔で食いついてきた。というか、掴みかかりそうな勢いで顔を近づけてきた。その近さにドキっと心臓が躍ったが、自分の気持ちに落ち着きも入れる目的でどうどうと言いながらシャーレイの額に手を当てて彼女の体を押し戻した。

 この子はやっぱり色々と警戒心が薄すぎる。それか、ひなたには心を許し切ってるのか。何度寝起きにシャーレイの顔や寝間着から除く谷間を見て興奮しかけた事か。シャーレイはひなたに対して好意は持っているし女の子同士であんな事やこんな事されてもいいと本気で思っているが、ひなたはそれに気が付いていない。少なくともシャーレイは自分に対して好意を持っているというのは大体予想がついているが、それがLikeの好きなのかLoveの好きなのかは分からない。

 

「じゃあ再来週に行こっか」

「再来週?」

「うん」

「何で?」

 

 何でか? そう言われると少し言い淀みたくなってしまうのだが、まぁ女同士だしと思ってぶっちゃける。

 

「もうちょっと経ったらあの日だから、ちょっと動けない……というか動きたくない」

「……あれ、もう一か月経ってたっけ?」

 

 まぁ、つまりはそういう事である。ひなたは結構重い方だからか流石に動く気にもなれなければ温泉に入る気にもなれない。シャーレイは一月前、大体家を買う前辺りでひなたがその日の痛みでもだえ苦しんでいる所を見たため、何とも言えない気持ちになると同時にご愁傷さま、という気持ちが出てきてしまう。ちなみにシャーレイは結構軽い方だ。

 

「ははは……憂鬱だよ、本当に。辛いったらありゃしない」

「私は軽いからなぁ……」

 

 痛みでほぼ一日中寝込んでしまっているため、その日は何にも出来ない。それから数日もイライラとか軽い痛みで何かをやる気が失せる。

 

「まぁ、そういう訳であの日が終わってからお金を稼いで準備して予約して……で、ようやくかな。大丈夫、絶対に行けるから」

「……でも、本当にいいの?」

「家も買ったのに何を今さら」

 

 本当にいいの、とは本当に温泉へ連れて行ってもらってもいいの? という意味だったが、それ以上に高価な家やら生活費全般を支払っている以上、金の問題は今さら過ぎる。

 それに、シャーレイにはそれ以外の部分で頑張ってもらっているのだから、本当に今さら過ぎる問題だ。

 

「それを言われると何とも言えないよ……」

「まぁ、ボクも行きたい訳だし、一緒に行こうよ」

「……うん、じゃあ思いっきり楽しむ」

「それでいいよ」

 

 それに、シャーレイの喜ぶ顔がひなたにとっての活力にもなる。

 好きな子の笑顔というのは一番の活力になる。それを最近になって学んだ気がする。

 

「……でも、あの日になるまでは休憩ねー」

 

 だが、今は何もせずにボーっと、だ。

 本日二本目の煙草を咥えて火を付ける。これは暫く忙しくなると思うと、自然と笑みが浮かんだ。その先にあるシャーレイの笑顔を想像すると、この程度苦痛でも何でもない。

 何時も吸っている煙草が、この瞬間だけは妙に美味しく感じた。




数日後

ひなた「お、女の体なんてクソ食らえ……(一か月振り数回目)」
シャーレイ「どうどう。ほら、お腹温めて。楽になるから」
ひなた「……うん、お母さん」
シャーレイ「お母さん!?」


こんな事があったとか無かったとか
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