魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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平和な時間かもしれない


第十九魔弾

 結局、ひなたのあの日は特に問題なく終わった。強いて言うならば腹の痛みと幻肢痛のダブルパンチで夜は死にかけていたが、それも些細な事だ。流石にその日は寝る前の吸血に加えてもう一回シャーレイから吸血してしまい、シャーレイの顔が真っ青になっていた。次の日にレバーやら肉やら野菜やらをたらふく買ってこさせて食べさせたからきっと大丈夫だと信じたい。

 どうにも痛みに負けると吸血衝動が抑えられなくなってしまうのがこの同居生活ではキツイ部分だが、治せない物はどうしようもない。その内闇ルートで輸血パックでも仕入れてこようかと思ってしまう。

 そんな痛みと付き合って数日を過ごし、まだ腹に違和感を抱えた状態でひなたは駆除連合の支部へとやってきた。今日は駆除連合で依頼を受けてから生活費を使って先に予約をしてから駆除へと向かうつもりだ。ついでに、北の森の付近での狩りならシャロンの墓参りにも行こうかとも思っている。きっとシャーレイの元気な写真でもお供え物にしておけば喜ぶと思ったが、流石にこの世界では気軽に写真は撮れない。

 撮れる事には撮れるが、明治時代等と同じで一回の撮影に時間がかかるし金もかかる。デジカメなんて万能な物も無ければフィルムを使うカメラなんて物も勿論ない。写真を撮るには写真屋だ。

 ここまで技術体系がバラバラだと違和感しか覚えないが、そういう世界も存在しても可笑しくないだろうとひなたは割り切った。その結果、墓参りの品はシャロンの好物で揃えておいた。一番安パイだし喜んでもくれる物だろう。

 

「さぁてっと……依頼はどこかにゃーん」

 

 自分で言っておいて寒気がした。自分の外見はそこそこ美少女だとは自覚しているが、それでも流石に歳を考えると痛いどころの話ではない。それに、目付きも外見相応とは言えず、歳相応とも言えないような感じなため、きっと凄くアンバランスだ。

 誰にも聞かれてなかったよね? と周りを確認し、誰も白い目を向けていなかった事に安堵を覚えてから依頼をその目で確認する。

 やはり、魔獣駆除の依頼は結構多い。が、近くの魔獣駆除依頼は基本的に早い者勝ちな上に報酬がいい物も中にはあるからか、そこまで量が無い。ここから数時間離れた場所の依頼は結構残っているが、この付近、歩いて一時間も経たない場所での依頼は本当に少ない。中には交通費支給の護衛依頼等もあるが、それは流石に受けられない。

 適当に依頼に目を通し、北の森での魔獣駆除依頼を見つけた。またか、と苦笑いでその紙を破いてカウンターに持っていき、さっさと受け付けをしてもらう。その間、ボーっとして話を聞き流していると、後ろの方から気になる話が聞こえてきた。

 

「なぁ、聞いたか。ここの近くの温泉街で変なモンが発見されたんだってよ」

「変な物……? なんだそりゃ」

 

 どうやら、何かの噂らしい。が、ヤケに気になる。

 何時もならスルーしている所だが、これは安全にも関わる事かもしれない。すぐにチェッカーを受け取ってから話をしている男達の近くに立つ。

 

「何でも、まるで内側から爆ぜたように死んだ人間、だってよ」

「内側から? 爆弾でも飲んだのか?」

「いや、そこまで詳しくは無いんだが……」

「じゃあ、ただの眉唾じゃねえのか?」

「さぁな。けど、今は腕の立つ二人組がそれについて調べてるって言うぜ」

「腕の立つ二人組……?」

「温泉街付近じゃ、トップレベルだとか」

「じゃあ、暫く近寄るのは止めておくか。死にたくねえし」

「同感だ」

 

 どうやら、温泉街付近で軽く物騒な事件が起こったらしい。ひなたは一瞬、ゾンビや吸血鬼の仕業なのでは、と考えたがそれは違う。ゾンビは相手を内側から破裂させる術なんて持っていないし、吸血鬼だってそんな事はしない。どちらから見ても、人間は餌だ。それを食うのではなくたった一人を破裂させて遊ぶなんて真似はしない。やるのなら、村一つの規模でやる。

 だから、ひなたが出る幕ではない。それに、今回は温泉に行ってシャーレイと二人でゆっくりするのが目的だ。態々命の危険に足を踏み入れるような真似なんてしない。

 それに、温泉街でトップクラスなら、全盛期のひなたよりも強い筈だ。ゾンビ程度になら遅れは取らないし吸血鬼ならもっと大きく話題になっている筈だ。ひなたが行くよりも犠牲者は少なくなるだろう。真祖ブラッドフォードならトップクラスが束にならなければキツイだろうけども。

 ゾンビや吸血鬼の事を考えるとどうにもイライラしてくる。ひなたはポーチから煙草を取り出して口に咥えた。結局、気持ちを落ち着けるのはこれに限る。携帯灰皿を手に持ちながら役所へと向かう。次は温泉街行きの馬車の予約だ。

 煙草の先端を携帯灰皿の淵に軽く乗せて口で煙草を動かして灰を器用に灰皿の中に落とす。やはり外で煙草を吸うのはちょっと大変だ。けど、吸う本数が多くなってしまった以上、慣れるしかない。温泉街に行くときも、きっと携帯灰皿にはお世話になる。

 歩いている内に一本吸い終わってしまい、吸い殻を灰皿の中に入れて片手で蓋をする。そうしたら後は中で火は消える。

 もう一本吸おうと思ったが、流石に役所の中で喫煙は何か言われるかもしれない、と取り出しかけた煙草を携帯灰皿と共にポーチに戻す。それと同時に吸血衝動と食人衝動が襲ってくるが、耐えられない程ではない。衝動を抑えながら数分歩き、件の役所へとようやく到達する。中に入り、他の場所には目もくれずさっさと予約に歩く。

 

「すみません、温泉街行きの馬車と宿の予約したいんですけど、ここで合ってますか?」

「あ、はい。合ってますよ」

 

 受け付けは女性だった。やはり、こういう所の受け付けは男性よりも女性が多い。男は力仕事、女は接待。この世界はそんな感じで回っている。勿論、その限りではないが。

 

「えっと、ご予約ですね。連絡の都合で予約は一週間先からになってますけど、大丈夫ですか?」

「はい。再来週に予約したいんですけど」

「再来週ですね。では、こちらの書類を書いてください」

 

 と言って渡された紙は結構シンプルな物で、何日から何日までの予定か、予約人数は何人か、名前と歳、性別、連絡先等。必要最低限程度の欄しかなかった。

 ひなたはすぐその紙に必要事項を書いていく。勿論、この世界の言語で、だ。

 名前もちゃんとヒナタ・アカツキと書き、何回か見直ししてから書き漏れが無いのを確認し、紙を返した。

 

「えっと……アカツキ様とランフォード様の二名でよろしいですか?」

「はい」

「宿泊は二泊で、宿と馬車はこちらの方で決めさせて頂く、という事で大丈夫ですか?」

「お願いします」

「では、お煙草を吸うようですので喫煙可能な馬車を用意させていただきますね」

「あはは……臭いで分かっちゃったか……」

 

 温泉街には宿が沢山あり、どれもがチェーン店のようになっているため、基本的にどの宿もサービスや部屋の質は同じだ。勿論、例外で高級宿もあるが、おまかせにしておけばそれは選ばれないし、普通な宿を取ってくれる。 街一つが温泉宿を経営しているような物だから出来るサービスとも言えるだろう。

 ちなみに、馬車は火気厳禁の馬車もあるため、喫煙可能の馬車と禁煙の馬車が存在する。ひなたは先程まで煙草を吸っていたのが臭いで分かったらしく、受け付けの女性は気を利かせてくれた。

 

「では、代金のお支払いですが、今この場でするか当日、馬車に乗る際にするかが選べますが、どうしますか?」

「あ、もう払っちゃいます」

「分かりました。えっと、馬車代と宿泊費で……代金はこちらになります」

「おっ、結構安い」

 

 呟いてからポーチを一つ外して中から財布を取りだす。片手で器用に中から金を抜き取って受け付けの女性に渡すと、女性は紙幣と硬貨の枚数を数えて代金ピッタリだという事を確認すると、それを売り上げを入れる袋に入れた。

 

「丁度、受け取りました。では、来週以降にこちらのプレートを持ってお越しください。その時に詳しい説明を行いますね」

 

 と、言われ差し出されたプレートを受け取る。木製のプレートなので、万が一にも割れないように煙草の入ったもう一つのポーチの中にそれを仕舞い、財布の入ったポーチを再び腰に着けた。

 

「じゃあ、親切にありがとうございました」

 

 これで予約は終わった。後は……北の森へ、だ。

 役所から出て北の森へ向かって歩いていく。その道中、シャーレイから聞いたシャロンの好物を買って行く。向かうのは、北の森の奥にある、シャロンの墓だ。

 北の森を一旦抜けて暫く歩いていく。シャロンと戦った場所は一か月前の惨状がまだ少し残っていた。抉れた地面や砕けた岩やら何やらがあの時の戦いの激しさを物語っているようだった。ひなたが撒き散らかした血の跡やらは完全に消えていたが、それでも血生臭さが残っているように感じ、吸血衝動が高まっていくような気がした。

 それを感じながら煙草を咥えて無理矢理に吸血衝動を抑えに行く。しかし、それでも吸血衝動は完全に抑えられることは無かった。だが、無いよりはマシだと煙草の煙を肺の中に押し込んでいく。

 衝動と戦いながらひなたは一人、シャロンの墓に辿り着く。シャロンの墓は誰にも荒らされた様子は無く、小奇麗に小さいままだった。

 そこに買ってきたシャロンの好物を……柔らかく美味しいパンと幾つかの甘い果物を袋ごと置く。

 喜んでくれるかはさておき、この程度はしておくべきだろう。ひなたが引導を渡した相手なのだから。せめて、こうして供養するのが義理とも言えるだろう。せめて、これから安らかに眠れるように。

 

「……シャロン。ボクは君の事をあまり知らないけど、こうして君の墓参りに来る程度の義理はあるよね」

 

 線香なんて物はこの世界にはない。だから、煙の代わりに今咥えている煙草で勘弁してほしい。手を合わせ、シャロンの安らかな眠りを願う。

 こんな小さくて立派でもない墓だけど、一人でゆっくりと寝てほしい。

 煙草を携帯灰皿に落としてから新しい煙草を咥える。

 

「じゃあね、シャロン。その内シャーレイと一緒に来るよ」

 

 一度墓石代わりの石を撫でてから、ひなたは墓に背を向けた。

 さて、ここからは仕事の時間だ。煙草を咥えながらのんびりと行こう。




書き溜めが尽きるぅ……尽きちゃうぅ……
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