魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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メス落ち予定はありませんのでご注意を

1/5:追記
第一話を書き直したためそれに伴って第二話もそれに合うように変更しました。


第二魔弾

 ひなたは辿り着いた場所、人の住む街としては荒廃が進んでとてもルールや情が存在しないような汚れて寂れた場所だった。居るだけで悪い空気に体を汚染されているのではないかと思ってしまうほどの環境の悪さ。その名は。

 

「ほんっと、スラムに作るのは止めてほしかったよ……」

 

 スラム。つまりはスラム街の事だが、この世界のスラムは基本的に街はずれの人が住んでいない場所にポツポツと小さな町のように家が建っている場所だ。そこがスラムかを判断する材料は明らかに空気が淀んでいる事、そして街から外れてすぐにこの先スラム、と書かれた看板がある事。意外と簡単に判断できる。

 この世界は日本ほど優しくない。義務教育なんて無ければ孤児院なんて数える程度しかなく、知恵も無ければひなたのように戦う事も出来ない人間が行き先を失い辿り着く場所。底辺に比較的近い人生を送ってきた人間達の住処。それがスラムだ。ひなたはそこへ足を踏み入れた。

 スラムにいるのは、法なんて気にしないような荒くれ者の男、体を差し出して食い物を恵んでもらう女、生き残るため様々な場所から盗みを行いその日を凌ぐ子供。生きるために様々な事をしている底辺街道驀進中の人間達。勿論、その中には子供や女を攫いそれを売って金を稼ぐ裏の人間もいる。

 つまり、ひなたは目的地を探すために歩き回る中でそういう馬鹿共に絡まれるの可能性がある、という事だ。スラムに入ったのだから仕方のない事だと言えるが。

 ならば何故、そんな可能性がある場所に一人で入っていくかというと、このスラムにはとある商売をしている人間がいる。

 表から裏まで、様々な情報を商品とし売買を行う人間、通称、情報屋だ。ひなたはその情報屋から情報を買うために今、こうしてスラムに入っている。様々なスラムに入っては情報屋を回ってきた日々を送ってきたひなたにとって、最早スラムはそこまで怖い場所ではなかった。

 端的に言えば慣れた。男共の下衆な視線に晒される事も、何か値踏みをするような目で見ている人間にも、少年と勘違いしているのか獣のような視線を送る女にも、荷物をどうひったくろうか考えている子供の視線にも、何もかもに、だ。

 

「……けど、やっぱウザい」

 

 そんな視線がひなたをイライラさせる。まるで見世物小屋の見世物に成り下がった気分だからだ。

 だが、そんな視線もワザとらしく足のホルスターと、それに収まっている起爆銃を見せればその視線たちの大半は明後日の方を向く。

 起爆銃を使い戦う人間、通称魔弾使いは数が少なく、基本的にはあまり強くない。魔弾という物に魔法を加工して起爆銃にそれを込めて放つ、というアクションを行うよりも少し詠唱して魔法を使ったほうが圧倒的に早いし、わざわざ魔力で出来た薬莢に魔法と魔力を詰めて弾丸にして放つ、なんていう非効率的な事をしなくても済む。それに、魔弾に込めれる魔法には上限があり、魔弾を使った戦い方を極めるなら魔法を極めたほうが魔法の威力も範囲も魔弾の何歩も先を行くからだ。

 では、何故それを見せただけでスラムの人間の視線が逸れるのか。それは、魔弾使いはよくわからないから、だ。

 数が少ないがためにそれを極めた人間は数少なく、その人間たちは全員がバラバラな戦い方をする。それ故に、魔弾使いの基本的な戦い方を理解している人間は少なく、分からない分からないと言っている間に何をされるか分かったものじゃなく、なるべく敵に回したくない、と思うからだ。

 要するに先に立つよく分からない戦い方をする変態共の恩恵だ。ひなたはそれにあやかっているだけだった。変態の光を背に受けて威張り散らす、というよりも威嚇するのは虎の威を借りる狐状態だが、身の安全が確保できれば何だっていい。躊躇したら食われるのがこの世界だ。

 

「よし、これで鬱陶しいのは――あだっ!!?」

 

 そうして鬱陶しい視線を拭い、気を取り直して情報屋がいる場所を探そうと適当な建物が建っている道の角を曲がった時。自分の体が何かに当たり、吹き飛ばされた。そして体から地面に着地し、すぐに頭を打った。それは幾ら荒事を性分としている故に鍛えているからといって痛くない訳がなかった。

 だが、痛みには慣れている。すぐに頭を抑えながら立ち上がり当たった物の無事を確認する。何故無事を確認するかと言うと、ぶつかった時に彼女の女らしくない声と同時に声が聞こえたからだ。

 

「きゃっ!?」

 

 そんな女の子らしい悲鳴と共に少女が尻餅をついた。どうやら、ひなたにぶつかった衝撃はたたらを踏んでなんとかバランスを取る猶予を与えてくれなかったらしい。

 この衝撃は、多分全力疾走でぶつかって来やがったな、とひなたは軽く内心で毒付きながらも頭を抑えていた右手を素早く自分のポーチと起爆銃を収めたホルスターにやり、何も盗られていないのを確認する。どうやら、完全な事故らしい。が、それはそれで何となくムカつく。

 下衆な視線に晒されるのは存外ストレスになるらしく、そのストレスを解放して少女に怒鳴り散らしたい気分だったが、それをグッと堪える。一言謝ってくれれば見逃そう、と思い手を差し伸ばそうとする。

 が、尻餅をついた少女はひなたに視線を投げる事すらなく、すぐに立ち上がりながらひなたの横を通ってそのままひなたが来た道を走って去ろうとした。

 

「おっと」

 

 それを反射的に手を掴んで止める。止められた少女はいきなり手を掴まれた事に驚きながらも手を振り払って逃走しようとする。その力は荒事を性分とするひなた以上で、すぐに振り払われそうになるがそれを全力で耐える。

 

「一言謝罪があってもいいんじゃないかな? ボク、思いっきり頭打ったんだけど」

「は、離して!!」

 

 どうやら、かなり必死なようでひなたの手から逃れようと全力で手を振り払おうと今も手を振っている。

 だが、ひなたとてぶつかられて文句一つ言わない聖人なんかではない。イライラを体現するかのように額に青筋を浮かべながらさてどうしてやろうか、と考えた直後、ひなたは違和感を感じた。

 視線を感じる。それも、この建物の角を背にさせるかのように周りに続々と人間が集ってきている。

 

「……あー、君さ、もしかしてファンから逃げてるアイドルとかそういう有名人だったりする? 周り、囲まれているんだけどさ」

「え……?」

 

 少女の抵抗が軽く収まった。そして、すぐに周りを見た。

 ひなたと少女は、何やら怪しい風貌をした男たちに囲まれていた。その男達は何か相談しているが、家の角を壁にしてひなた達と距離をジリジリと詰めていた。

 これは何か訳有りか。なるべく腕がないと悟らせないために体を動かしながらホルスターから何時でも起爆銃を抜けるように手をかけながら戦闘の準備に入る。一方、この男達に追われていたであろう少女に関しては顔色が真っ青になっている。どうやら、この状況下に絶望をしているようだ。

 涼しい顔をしているように見せているひなたもちょっとマズい、と思ってしまう。数の暴力というのは個人の暴力を軽く超えてくる。それが分かっている以上、多勢に無勢は冷や汗物だ。

 

「えっと、そこの小汚い男達は何が目的かな? 場合によっては正当防衛に入るけど?」

 

 だが、手札は見せない。一度シリンダーを開き、手触りで何の魔弾が込められているかを確認し、再びシリンダーを閉じる。男の達の数は十人。少し、ひなたでは苦戦する人数だった。だが、まだ相手が素手なら勝機はある。それを今装填されている弾丸で確認してから、完全に意識を男たちへ向ける。

 ――その瞬間、男達は懐から黒光りする何かを取り出した。それは、ひなたの今握っている物と形だけは同じのリボルバー拳銃だった。

 

「ッ!? 伏せて!!」

 

 空撃ちしながら一瞬にして起爆銃を構え、目的の弾丸が撃てる状態になった瞬間、空撃ちを止めてその魔弾を放つ。

 魔弾は放たれた瞬間、砕け散り、内包されていた魔力を開放し、ひなたと頭を抑えながらしゃがみこんだ少女を守る壁となった。その直後、魔力の壁に弾丸が当たり、音を立て始めた。壁に当たった跡を見てみると、どうやら弾は二人の足や手を狙っていたようだった。どうも、殺す気はないらしい。こちらには殺意しかないが。

 一先ずは防御、シールドを張れた事にホッとしながらも、次の一手を考える。もし、この魔弾が広域防御型ではなくひなただけを真正面から守る物だったら死んでいた隣で蹲っている少女が死んでいたかもしれない。

 

「一応、使っておこうかな」

 

 再びひなたは空撃ちを高速で数回してから己の胸に銃口を当てて魔弾を放つ。その魔弾はひなた本人に当たると、ひなたにダメージを与えずに砕け、ひなたを魔力によって強化する。

 それは、五感の強化。無いよりはマシ程度の強化にしかならないが、少なくとも素手での格闘戦で有利を作れるくらいには強化をもたらしてくれる。そして、この時点で次の六発の魔弾の作成に入っておく。

 

「な、なんだアイツ! 魔弾使いか!?」

「おい誰だよ! 埋め合わせにあのガキも攫うとか言った馬鹿は!」

「何か訳あり? まぁ、でもボクには関係ないかな」

 

 何か訳有りでひなたも襲ったのかもしれないが、銃口を向けてきた時点で敵だ。抹殺対象だ。壁の内側から飛び出し、すぐに狙いを定めて魔弾を放つ。

 今度の魔弾は撃ち放たれても砕ける事無く突き進んでいき、一人の男の腹に食い込み、そのまま吹き飛ばした。

 

「魔弾使いなんてどうすんだよ! 対処法なんて知らねぇぞ!!」

「知らないまま倒れてどうぞ」

 

 そして叫んだ男に向かって魔弾を放ち、ヒットさせる。男も吹き飛んで気絶した。残り、八人。

 魔弾使いは珍しさ故に、対処方法を知らない、という人間が多い。魔弾使いからしたら、銃を跳ね飛ばされたら出来ることは限られたり、近づかれたらやりにくい事この上ないしリロードを狙われたらどうしようも無いのだが、それを知るのは一部の人間と魔弾使いだけだ。

 残り二発も困惑しながらリロードしている二人に向かって放ち、勿論命中させる。魔弾は反動がない上に風で弾の軌道がブレる事も無いのが普通の拳銃とは違ったメリットの一つだろう。

 

「おい、あいつ六発撃ちきったぞ!」

「今の内に撃っちまえ!」

「あっちゃぁ。数えてる人がいたかっと」

 

 既にさっき撃った魔弾の壁は消えている。ひなたは残り六人の銃撃に晒される事になる。が、丁度この時に魔弾の作成は終了する。

 ひなたから少し離れた場所に六発の銃弾が生み出され、空中に浮いている。ひなたは銃撃が始まるであろう循環に走り出し、シリンダーを開いてその銃弾とシリンダーの位置を合わせる。そして、銃撃が開始された瞬間、ひなたは銃弾をシリンダーに突っ込み、体を回転させながらシリンダーを閉じる。

 その時、ローブを弾丸が貫いた。

 

「あ、当たった!」

 

 弾丸は確かにローブを貫いた。だが、ひなたは全く表情を歪めない。

 何故なら、その位置は、既にない腕の位置だから。

 

「残念、そっちは無いんだよね」

 

 そして、お返しに魔弾を撃ち込む。これで残り五人。

 だが、その五人はリボルバーのリロードに入っている。流石に三十六発の弾丸の雨の中に晒されるのはヒヤッとしたが、一発も当たらなかったのは正しく奇跡だろう。五感の強化で多少の弾は避けていたのと、相手がリボルバーに不慣れなのか殆どの弾が明後日の方向に行っていたのもあるが。

 後は隠れもせずにリロードする馬鹿共に魔弾を撃ち込んで終わり。シリンダーが空になると同時に相手は全員地に伏した。誰もスピードローダーを使わなかったのは全く意味が分からなかったが。何かしらの縛りプレイだったのだろうか。

 相手が全員地に伏せて動かないのを確認してから魔弾の作成に入りつつ、未だに伏せている少女の元へと行く。

 

「全員倒したからもういいよ」

 

 少女の前に立ち、そう告げると、少女はちょっと顔を動かして周りを見た。

 そして、ひなた以外には立っている人間が居ないのを確認し、少女は顔を上げた。どうやら、一応は助かったのだと理解したらしい。

 

「……あ、あの」

「お礼ならいいよ。ただの正当防衛だし」

 

 そして、作成し終わった魔弾をひなたは目の前に浮かべると、シリンダーを開いて腕を振るうことで魔弾をシリンダー内に突っ込み、シリンダーを閉じるとローブの中のホルスターにそれを仕舞った。

 着いてそうそうの修羅場だったが、何とかくぐり抜ける事が出来たようだ。内心では冷や汗ダラダラだったのだが、何とかなってよかった。もしも相手が全員拳で殴り掛かってきたら数発は拳を貰っていた。相手が魔弾使いを相手にした事が無くてよかった。

 

「はぁ……魔弾使いには一対多は向いてないのに……」

 

 と、言うのも、それは単純にリロードにかなりの手間がかかるからだ。魔弾は普通の弾丸とは違い、魔弾使いの魔力と魔法を弾丸に加工した物であり、それをこの起爆銃と呼ばれるリボルバー型の魔弾撃ち出し機で効力を増幅させて放っている。そのため、魔弾一発一発に魔法一回分の手間に加えて弾丸に加工するという手間がかかってしまうため、リロードがかなり面倒な代物になっている。しかもひなたはスピードローダーが使えないため、弾を作り置きしておいてスピードローダーに予め付けておく、というのも出来ない。

 そして、魔弾使いは魔法と魔力を内包した魔弾を作成する、という魔法とは異なった適正も必要なため、かなり珍しい存在になってしまっている。ひなたは魔法が使えず、魔弾を作成する才能だけがあったため、魔弾使いとなった、かなり特異な例だが。

 それに、起爆銃というのもかなり値段が張り、需要も供給も少ないため売ってる場所すらこの世界にチラホラとしかない。魔法と魔力が加工された弾をこの起爆銃で起爆し、魔法を発動させるというかなり特殊な造りのため、供給がかなり少ないのだ。それに、魔弾を作れる人間なら普通は魔法も使えるため、わざわざ起爆銃を使う事もない。ひなたの起爆銃はお古なので実質タダで貰った物だが。

 

「まぁ、何とかなってよかった。ほら、立てる?」

「は、はい……その、ありがとうございます」

「いいっていいって」

 

 起爆銃をホルスターに仕舞い、ひなたは少女に手を伸ばして少女を立たせた。

 改めて見て分かる。彼女はかなりの美少女だ。誰の手つきでもないのが意外でしかないが、それなりの修羅場という物を潜ってきたのだろう。結構走ってきた筈なのに、汗もかいていないし息も少ししか乱れていない。

 だが、戦えはしないのだろう。彼女からは他人の血の臭いがしない。それに、手も柔らかい。人を殴ったことがない手だ。

 

「それじゃあ、何で追われていたのか教えてもらおうかな」

 

 立たせた彼女に怖がらせないように笑顔でそう聞いた。

 が、少女は少し困った様子でひなたの問いに言葉を返した。

 

「……い、言わなきゃ駄目ですか?」

 

 その言葉には勿論、としか返さなかった。場合によってはこれはひなたにも被害が来る。そうなる前に出る杭を打てるのなら打っておきたい。そう考えた結果だった。

 初日から本当に変なことに絡まれた、とひなたは笑顔の裏で溜め息を吐くしか出来なかった。




(書き溜めは少ししか)ないです
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