魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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前回のつづぅき


第二十五魔弾

 ミラと呼ばれた少女は男が消えていった後、数秒経ってから御者の男が抱きかかえている子供を感情の読めない目で見つめた。

 

「……その子」

「な、何だ……」

 

 シャーレイは目の前で起こった事に顔を真っ青にしてヘタレ込んでいる。そして、ひなたはまだ完全に回復しきっていない。まだ荒い息で時々血を吐いているが、徐々に顔色は良くなっている。

 つまり、この場で動けるのは御者の男とミラの二人だけ。戦う能力があるのは、ミラだけ。

 その彼女が口を開いた。

 

「……渡して。殺すから」

 

 と、淡泊に。理由を飛ばして目的だけを、男へと告げた。

 邪魔するなら容赦はしないとでも言いたいのか、腰の剣を鞘ごと抜いて男へと見せつける。その剣は先程の男が握っていた銀色の剣とは違い、真っ黒な剣だった。鞘の中心辺りには縦に長い紫色の水晶のような物がはめられており、ぼんやりと発光しているようにも見える。幻想的な剣だったが、その性能が見せかけだけではないというのは素人目でも分かる程だった。

 男は保身へと走ろうとしたが、子供を抱きしめた手が動かない。恐怖の余り体が言う事を聞いてくれない。

 

「こ、殺すって……!?」

「……必要な事」

 

 飽く迄もミラは理由を話さないらしい。こんな時でも完全な無表情なのがその恐怖を際立たせる。

 だが、無表情でありながらもその態度には若干の焦りが見えた気がした。そして、邪魔ならば斬り捨てればいいだけの男に対して納刀した剣を突きつけて脅すだけで斬ろうとはしない。それに違和感があったが、男は体を動かすことが出来ない。

 

「……早く」

「い、嫌だって言ったら……?」

 

 こんな子供を見捨てて殺させるなんて理性が許さない。ミラはそれを聞いて剣を突きつけるだけで答えを示した。

 断れば、斬る。そう言っているようだった。

 御者の男には戦闘能力は無い。だからこうして馬車の御者なんてやっている訳だが、ここで子供を手放せばきっと彼女は客であるひなたとシャーレイを含めて自分を見逃してくれるだろう。少なくとも、自分が死ななくてもいい。

 

「……わ、分かった。だけど、俺と客の二人には手を出さないって約束してくれ」

「……元からそのつもり」

 

 男は震える手で抱きかかえた子供を手放そうとする。が、その手が震えて上手く動かない。それを見て痺れを切らしたのか、ミラは男の近寄り、片手で抱えられた子供の襟首を掴むため、手を伸ばした。

 

「――ジェノサイドバスター」

 

 だが、後ろから聞こえた声にミラは一瞬で反応した。

 一秒にも満たない時間で振り返り、剣を抜いた。その剣が暗闇に消えるように残像を残して振るわれ、後ろから迫っていた銀色の閃光を一太刀にて切り裂いた。切り裂かれた閃光は霧散し消えていった。

 

「……まだ動いちゃ駄目」

「うるさい。これでもまだ人間の部分は残しているつもりなんだよ、ボクは」

 

 子供が目の前で何の理由も告げられずに殺される。それがとても胸糞が悪い事だと言うのは嫌でも分かる。顔を袖で拭い再び起爆銃を構える。

 自分の吐いた血を飲んだが、それは吸血としてカウントされない。その状態でジェノサイドバスター二発を放ったため、魔力はもう残り少ない。後一発ジェノサイドバスターを撃てば魔力はすっからかんになるだろう。なのに、相手は確実にひなたよりも格上。全盛期の時であろうと勝てない相手。

 だが、抗って見せる。小さな命を摘ませないために。

 

「……貴女じゃ勝てない」

 

 その眼には同情のような物が写っていた。だが、ひなたはそれを見ても歯を食いしばって起爆銃を向ける。

 

「だとしても、だ」

「……恨まないで」

 

 ミラはひなたにそう告げた。

 次の瞬間、ミラはひなたの目の前に現れ、剣を振るった。

 本当に一瞬の攻撃。それを見て思わず体が硬直し、右肩に鞘に納刀された剣がぶつかる。

 

「ぐぅぅ!?」

 

 激痛。そして、肩から骨の悲鳴が鳴り響き、一瞬でひなたの体が再び地面に叩きつけられる。

 反応すら許されない一瞬の攻撃。シャロンよりも速いその一撃は明らかに人間を辞めているとしか思えない動きだった。だが、それでも起爆銃は落とさない。地に伏し、下から顔へ向けてシューターを放つ。が、それすら届かない。

 剣を握っていない手で魔弾を掴み、力づくで握りつぶした。その顔に苦痛は全くなく、まるで羽虫を落とすかのような涼しい顔でひなたの魔弾を無力化した。

 

「……弱い」

「だとしてもォ!!」

 

 予め生成に入っていたシールドの魔弾を一発、ミラの足元に生み出し、それをシューターで割る。ひなたの謎にしか見えない行動にミラは呆然としていたが、その視界が一瞬で上空に移った瞬間に何が起こったのかを察した。

 魔弾を使った魔弾の起動。しかも、シールドという、その場にある物を押しのける性質を使った相手の強制打ち上げ。魔弾使いの中でも比較的に珍しい戦術に入る戦術。

 

「……無駄」

 

 だが、例え上空十数メートルだろうと無駄。ミラは何とか体勢を整え、馬車の方へと走っているひなたを視界に納め、剣を構えながら急降下していく。そして、地上にぶつかる寸前に剣を力の限り振るいまくり、衝撃波を生み出すとそれで落下の勢いをほぼ相殺し、五点着地で安全に着地した。

 

「……うっそーん」

 

 それを見てひなたの表情が固まる。そんな人外みたいな着地する人間がいるなんて、と。

 脳のリミッター外しているんじゃないかと思ってしまう。

 

「……魔弾使いは弱い」

「知っているとも」

 

 魔弾使いは珍しさから相手を初見殺しで殺せる可能性を秘めているが、相手が魔弾使いの性質を完全に理解しているのであれば、魔弾使いは普通の魔法使いよりも弱い。特に、一対一なら最弱とも言える。

 そして、ミラの言葉は魔弾使いと嘗て戦ったことがあると言わんばかりの言葉だった。それはお前は勝てない、と一方的に事実を突きつけているも同じだった。

 だが、それはひなたが一番わかっている。相手はあんな人外のような作戦を取れる化け物で、ひなたよりも地力は圧倒的に高いから、勝てないと分かっている。

 そうだとしても、男には戦わなければいけない時がある。戦わねば後悔してしまう時がある。それが、きっと今だ。

 せめて、時間稼ぎ位はしよう。あの子を助けるために。

 

「仕事は時間稼ぎだ……倒す事じゃない」

 

 起爆銃を構えて相手の動きを見る……前にシューターを放つ。先手必勝。無言で放たれた魔弾はかなりの速度でミラへ向けて飛んでいくが、ミラはそれを剣で斬り捨てた。それを見てから魔弾をリロードしておく。だが、その瞬間が魔弾使いの決定的な隙。それを見逃そうとせずにミラは一瞬で接近し、剣の柄をひなたの鳩尾へと振るう。が、それを本当にギリギリで避け、起爆銃をミラの体に接触させる。

 そして、トリガーを引く。

 それと同時に放たれたのは何時ものシューター……ではなく、ライトニング。電撃の魔法。それが零距離で銃口を突きつけられたミラとひなたの体を駆け巡り、電気が体を走るという慣れない痛みを発生させる。

 

「ぃぎッ!」

「ッ……!?」

 

 その一撃を受けて初めてミラの表情が歪んだが、所詮はひなたの魔法使いよりも未熟なライトニング。すぐに銃口を手で払って電撃を止めさせる。が、ひなたはすぐに自分とミラの間にバインドの魔弾を作成し、シューターで撃ち抜いた。

 撃ち抜かれたバインドの魔弾から鎖が飛び出し、一番近くのミラへ向けて飛んでいき、一瞬にしてミラの体を縛る。腕と足を縛り、それを補強するように鎖の上から鎖を巻き付け、体や首、胸元や股間に鎖を通して雁字搦めにしてミラを拘束する。

 

「今のうちに!!」

 

 ひなたが叫んで合図を送ると、猛スピードで馬車がひなたとミラの横を通り過ぎていった。ひなたはそれを音と気配で察し、魔弾を三発放り投げてから真横を通る辺りですぐに振り返ると、伸ばされた御者の男の手を掴んだ。手が先ほどの肩への一撃のダメージもあり、砕けて外れそうな錯覚に襲われるが、それでも耐えて何とか御者台に乗り込み、魔力だけを込めた魔弾を噛み砕きながらシャーレイと子供の乗る馬車本体の方へ移動する。

 

「これで終わり!」

 

 そして馬車から軽く身を乗り出して小さくなっていくミラの近く、魔弾を置いた場所をジェノサイドバスターを一秒にも満たない間照射して吹き飛ばす。それによって砕かれた魔弾……合計三発のバインドの魔弾は八割方拘束を力づくで解除していたミラの体を更に縛り上げる。

 そしてミラが拘束を通り越して鎖で素巻きのような状態になったのを確認し、倒れてジタバタしている事からもう追われないと察して馬車の壁に腰を下ろした。

 

「何とか、上手くいった……」

 

 魔力切れで出てくる脂汗と動悸、苦しさを感じながらひなたはやっと一息つく。

 ミラを上空に打ち上げてから降りてくるまでの数秒。その間にひなたは御者の男に作戦とも言えない作戦を叫んでいた。

 ひなたが時間を稼ぎ、御者の男はシャーレイと子供を馬車の中に放り投げて置いて何時でも全力でこの場を切り抜けれるようにしておく。そして、後はひなたがライトニングとバインド……近くにいる人間に向かって効果が発動する魔弾を一気に使い、悟られないように時間を稼いでから、後は馬車で離脱。これがミラから逃げるための算段だった。

 だが、あんな短時間でバインドを力づくで壊して追跡しようとしていたのはかなり驚いた。あれは魔法が自然に解けるのを待つか力づくで解除するかの二択しかない。シャロン戦で空中に留まるために使った時は鎖が一本だけの、ひなたの腕力で十分に破壊できる代物だったが、今回のは全力で作り上げたバインドで、人間なら分単位で拘束が出来ると思っていたのに、それを十秒も経たないうちに八割も千切られていた。やはり、トップクラスの戦闘力を持つ人間はもう人外と言っても過言ではない。念のために三発も使って正解だった。

 

「ひなたちゃん!」

 

 荒い息を吐きながら座り込んだひなただが、すぐにシャーレイがひなたに突進をかまして抱き着いてきた。その際、なんか胸からまた骨が折れた音が聞こえた気がした。凄く痛い。

 

「あひぃ!?」

「よかった……よかったよぉ……」

「し、しゃーれ……し、しぬ…………」

 

 そして全力で抱きしめる物だから胸からはまだ骨が折れる様な音が聞こえるし肩からも同じような音が聞こえてきた。

 

「あんなに血を吐いて……死んじゃったかと思ってぇ……」

「ま、またしぬ……」

 

 床をタップするがシャーレイは気が付いてくれない。そのまま力の限り抱きしめてくる。

 秘薬とやらを飲まされたが、あれが回復魔法と同じような効果を人体にもたらす事は身をもって分かっている。だからこそ、現状胸を圧迫されるとすぐに骨が折れる。ミラが何故胸を狙わずに腹や腕を狙ったのは殺さないためだったのかもしれないが、今はそんなのを考えている暇はない。マジで死ぬ五秒前。

 

「しゃ、れい……し、しんぱいかけて、ごめん、ね?」

 

 だから、安心して離してもらえるようにタップしていた手をゆっくりとシャーレイの背中に回して子供をあやすように撫でた。

 その結果……

 

「ひなたちゃあん!!」

 

 更に強く抱きしめられた。

 結果、ベギィ! と人体から鳴ってはいけない音が鳴ってしまった。

 

「ひぎぃ!!?」

 

 結果、ひなたは意識を手放した。選択肢間違えた、と思ったがもう遅い。ひなたの意識は完全に闇に沈んだ。

 

「……あれ、ひなたちゃ……白目剥いて泡吹いてる!? ちょ、な、なんで……どうしよう!?」

 

 その後、修羅場があったそうな。




~三途の川~

シャロン「……何でお前ここに居るの?」
ひなた「シャーレイに抱きしめられたらアバラ全滅で瀕死」
シャ「えぇ……」
ひ「ショック死しなかっただけマシかな……ってか、何回死にかけてるんだろう、ボクって……」
シャ「弱いから仕方ない」
ひ「ひでぇ」
シャ「まぁ、死にかけたらここに来いよ。話し相手にはなってやるから。まぁ、目が覚めたら覚えてないだろうけど」
ひ「それはありがたいけど……で、シャロンは何で三途の川の向こう岸に行ってないの?」
シャ「シャーレイ待ち」
ひ「何年待つ気さ」
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