魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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結局話は進まない


第三十一魔弾

 ひなたはシャーレイ達に一言だけ告げると、一人温泉から出てきた。どうもミラからあの話を聞いてから温泉で体を休める気になれず、軽くのぼせ気味だったのもあってひなたはすぐに温泉から出た。自分の体を片手で器用に拭きながらもひなたはルナの事を……ミラの事を考える。

 もしも、ミラの言葉が真実なのだとしたら、ルナは明日の昼頃、血を吐く。そして、それが起こってしまった場合はミラが言っていた事は全て正しく、ひなた達はルナに苦痛を与える時間を作ってしまったと言える。何となくの感性から起こした偽善は、ルナを苦しめるだけに終わるかもしれないと思うと、どうにも気分が上がることなく下がっていく一方だった。

 ミラは一足先に温泉から出てどこかへ行ってしまった。その眼は無表情のままだったのにも関わらず、ひなたに対して同情しているようにも感じさせた。それに何となく腹が立って握りこぶしを作っていた。

 彼女は無知であった事を責めない。だが、ひなた自身が自分が無知だという事を責めてくる。それも握りこぶしの原因だった。

 体を拭き終わり浴衣を羽織り、ふと下着を持ってくるのを忘れたと気が付いたが部屋に帰るまでなら別にいいかと下着を着ずに浴衣で体を隠す。

 浴衣だけを羽織って濡れた髪の毛を洗面台のような場所にあったドライヤーで乾かしながら自分の力のなさを、自分の理解力のなさを嘆く。もしも、ひなたが万能であったなら、ミラの言葉をあの場で確かめられたかもしれないのにと。物語の主人公のようにTS転移してきたというのに力の方は別段強くもなく、今は弱いまである。そんな自分に腹が立つ。

 ドライヤーで髪の毛を乾かし、ドライヤーを置いた所でそれに我慢できなくなり、洗面台に拳を叩き付ける。重い音が響き、拳が徐々に痛みと熱さを伴ってくる。そして、ふと鏡で自分の顔を見た。

 

「……ひっどい顔」

 

 自分でも整っていると思える顔は、酷く歪んでいた。

 復讐の事だけを考えて生きてきた時と同じような顔。しかし、そこには無力感等も交じり、悔しさも伴っていた。その顔に手を当て、自分の前髪をぐしゃっと握りつぶしながら自分の顔に爪を立てる。

 無力だ。あぁ、無力だ。

 一年前の村でも、シャロンの時も。そして、今でも。

 無力で無力で無力で。無力すぎて反吐が出る。だと言うのに、もう自分は成長限界が来てしまっている。魔力量も、使える魔法も、体も。何もかも。何もかもがもう限界だ。それを超える事なんて試し続けたが超えることなんて出来なかった。

 才能も無く、知恵も無く、力も無く、権力も無く。何もかもが無い。

 

「……ボクは、無力だ」

 

 魔弾使いなどという魔法使いの劣化版でしかない戦い方だけを身に着け、けれど幸せだった……なのに、全てを失って、守りたい者も守れなくて。全部、全部。両手で掬い上げていた物は片手が無くなったことで全てボロボロと落ちていき。

 新たに掬った物を落とさないようにするだけで精一杯で、その中でふとした思い付きで掬った物は今にも落ちそうになって。

 ひなたには、掬った物を保持するための力も知恵も、何もない。

 

「……誰か、助けてよ」

 

 顔を洗面台に押し付け、無力感をただただ噛み締める。どうにも出来ないそれを、噛み締める。

 

「誰か……ルナを助けてよ……」

 

 頼れる存在なんてない。

 すべて、すべて自分でなんとかしなくちゃいけない。

 だというのに、それを成す力がない。掬った物を落とさないようにするための力も腕も。誰も、それを助けようとしない。たった一人で抱え込んで、それを一緒に抱えてくれる人が、いない。

 

「だれか……ぼくをたすけてよぉ……」

 

 助けてほしかった。

 無力さを感じさせないほど、助けてほしかった。

 ブラッドフォードの時も。シャロンの時も。そして、今。ルナの時も。

 ブラッドフォードを撃退して自分を含めた皆を助けてほしかった。シャロンをゾンビから人間に戻してほしかった。ルナの中に巣食う何かをルナの体から追い出してほしい。ひなたには、そんな力なんてないから。

 人を食らった所で、ひなたには何かを壊すしか、出来ないのだから。壊して救うしかできないのだから、優しさで救える救世主が欲しかった。自分がなれないそれになってくれる人に、助けてほしかった。助けてほしいのに、誰も助けてくれない。

 

「なにをしたんだよ……ぼくが……しゃーれいが……るなが、なにしたんだよ……」

 

 悪いことなんてしていないのに。

 悪いことなんてせずに笑顔でいたかっただけなのに。

 

「なんで……ぜんぶこわしていくんだよ……」

 

 真祖が、私欲に負けた人間が、魔獣が。全て、全て奪っていく。

 涙を流そうともそれを直してくれる人なんていない。ただ理不尽に流されて流されて。その理不尽に抗うための力がないから――

 

「ぅぅ……ぁ、ぁぁ……」

 

 ただ、泣くしかできなかった。

 理不尽に巻かれて、泣くしかなかった。

 

 

****

 

 

 一通り泣いても現実は変わらない。

 目を赤く晴らしたひなたは部屋に戻り、床に寝転がった。

 何もする気が起きなかった。煙草を吸う気にもなれず、酒を飲む気にもなれず、ただ何もしたくなかった。机の上に置いたホルスターから除く銀の銃がこちらを見ているが、触る気にもなれなかった。

 魔弾使いになって、最初は最新型の起爆銃を譲り受けて使っていた。

 最新型の起爆銃はオートマチックピストルの形と性能をしており、マガジンを使ってリロードをするタイプだった。それをあの日。ブラッドフォードの襲撃の日に失くし、代わりにバーニーが俺はこれでいいと言いながら使っていた旧式の……今の起爆銃をお守り代わりに貰っていった。それは今思えば正解だったのかもしれないが、あの銃は今見ると無力の象徴のような感じがしてとてもじゃないが今は触る気にはなれなかった。

 誰かが見れば卑屈と言うのだろう。それは自覚していたが、どうしても気持ちを整えることなんてできない。改めて思い知った無力感という物は体を動かすこともプラス方面に物事を考える事も封じてくる。もう八方ふさがりのような気持ちにさせてくれる。

 

「……つらい」

 

 ひなたは、主人公ではない。

 土壇場で眠れる力が覚醒したり、実は凄い力を持っていたり、有名な家の出だったり、何かに極端に性能が寄っていたり、神様から力を授かっていたり。そんなのは一切ない。

 あるのは神隠し代わりに受けたTS転移だけ。小説の主人公が持っているような凄い力も凄い魔力も何も持っていない。それが分かっているからこそ、辛かった。現状をどうにか出来ないと無力感が思い知らせてくれるから、辛かった。

 ルナを助ける事は、もう出来ない。公共の機関に託した所で彼女が明日、血を吐いたなら死ぬのだろう。もし、死ぬというのが嘘だったとしても、血を吐いたルナを無理に連れ出せば彼女にどんな弊害が出るかわからない。そして、ミラが嘘がバレたと気付いてひなた達と戦闘に入っても勝てない。どうしようも無く、詰んでいた。それが分かったから、やる気なんて一切合切起きない。何もかもを投げ出して逃げ出してしまいたい。そうとすら思ってしまう。

 が、逃げた先に何がある?

 自分を認めてくれた唯一の陽だまりを捨てて、偽善で助けた命を無責任に放り投げて、逃げて。逃げて、逃げて、逃げて逃げて逃げて逃げて。最終的に何が残る?

 後悔と無力感だ。

 時には逃げることが最適だ。だが、最適ではない時だって勿論ある。それは今であり、今ではない。

 後悔と無力感を背負って再び復讐に身を任せることも出来るだろう。だが、それはひなたという人間を押し殺す可能性がある。だから、逃げ出せない。背中を向けても足は前に出ず、どうかしたのと言われたら何でもないと泣きながら笑顔で返すしか出来ない。

 こんな事なら、あの時……一年前に死んでおいた方が楽だったかもしれない。今なら、死んだ後の世界を極楽浄土と言うのも分かるかもしれない。

 両手で守り切れなかったものを片手で守り切れる訳がないのに。

 

「……あぁ、愚かだなぁ。愚かで惨めで……誰よりも、どんな人よりも、惨めだ……」

 

 落とさない自信なんて無いのに、落としたら壊れる物を掌で掬っていく。その結果落とした物に対して泣きじゃくり……でも、そんなの落としても全然可笑しくなかった。無理してたのに。

 それが愚かで惨めで滑稽じゃなければ何になる。

 

「……なにも、できない」

 

 ただ、今は時間が過ぎるのを指を咥えて見ているしかない。

 無力なのだから。




こ  こ  ろ  お  れ  そ  う
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