魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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この話も残りは僅か……!


第三十六魔弾

 ひなたとミラの二人は数分間、ルナの事を外で待っていたが、出てこないためシャーレイが泣いているのを慰めているか何かしているのだろうと察し、二人は近くの公園のベンチで座って時間を軽く潰す事にした。片方は浴衣で片方は今にでも戦闘しそうな服と武器。イロモノにも程があったが、そんな外面を今さら気にする事なんてまずなかった。

 

「……煙草」

「あぁ、ありがと」

 

 ベンチに座っていたひなたは席を外していたミラから新品の煙草を受け取ると早速封を切って受け取った。彼女の少ない言葉から察せれたのは、これは口下手で全部説明できなかった事、彼女の父がひなたに怪我をさせた事、剣でミラ的には手加減レベルだが、ひなたにとっては思いっきりのレベルで右手を叩いた事へのお詫びらしい。最初はひなたの方もじっくり話を聞かなかったり攻撃したりしたから、と断っていたが、ミラの押しが強くて折れてしまった。

 その結果が煙草一箱。何とも安い瀕死の代償だ。だが、今は煙草が一本でも欲しかったため、かなりありがたい。一緒に買ってきてもらったマッチの火を付けてもらって煙草に火をつけるとミラは火を握り潰して無理矢理消化した。かなりダイナミックな消化だった。

 

「熱くないの?」

「……私、氷魔法使い」

「あぁ、もしかして手のひらに氷を作ったとか?」

「……その通り」

 

 と、言ってミラは己の手のひらを見せた。そこには、多少溶けただけの氷が張り付いていた。どうやら、彼女は凄腕の剣士、ではなく凄腕の魔法剣士だったらしい。才能に嫉妬すると同時にこの世への不平不満を胸の内で呪詛のように吐くが、彼女の胸は昨日も見たが絶壁だったため何となくの親近感を覚える。

 しかし、幼児体系ではなくスレンダーとも言えるため、そこに関しては若干の嫉妬を覚えた。身長があるのをいいなぁ、と思ったことは男の頃からあったが、胸があるのをいいなぁ、と思ってしまう辺り、結構精神的にも女になってしまっているのかもしれない。

 煙を吐きながらじっとこちらを見つめているミラの視線に何? と返す。ミラは何も。と短く返したがどうやら煙草が気になっているらしい。視線で丸分かりだ。

 

「……吸ってみたら?」

「……私、未成年」

「誰も気にしないって」

 

 どうせ一本だけだ。誰かに見つかってもそうガミガミと説教なんてされないだろう。それに、ミラは普通に二十歳にだって見えるから見つかったところで何も言われはしない。煙草の箱を差し出すと、ミラは少し躊躇いながらも煙草を一本だけ拝借すると口で咥えた。

 ひなたが煙草を吸うコツ等を軽く教え、ミラが煙草にマッチで火を付けた。

 そして、すぐに物凄い嫌そうな表情を作ると咽た。

 

「けほっ」

「駄目だった?」

「……不味い」

「慣れると美味しいんだよ」

 

 涙目で煙草の燃えて灰になった部分を氷のナイフのような物で切り捨てると残った部分をミラはひなたに渡した。やはり、初めの内というのは煙草はただ不味いだけの煙に過ぎない。が、それを何度か経験している内に煙草の味と臭いと癖というものが好きになっていく。今のひなたが正しくそれだ。

 幸せと共に喫煙する量が増えていった結果のヘビースモーカーだが、それを後悔しているかと言われると否、という訳で。このままだと早死にしそうだなぁ、と煙を吹かして悪いことを考えない。これがひなたの思う煙草の一番の利点だ。

 一本を吸い終わり、すぐにミラの返してきた少し先端の無くなった煙草に火を付けて煙を肺に入れる。関節キスだとかは気にしない。昨日、それ以上の事をシャーレイにやられたから。

 

「……ミラさ、これから行く宛てとかある?」

 

 煙を空に向かって吐きながら隣に座るミラに聞いた。彼女はその言葉を聞いて無言で首を傾げた。

 口下手に加えて無口だからこうして無言になっちゃうのかなぁ、と思いながら煙草を噛んでいつも通り咥えながら言葉を発する。

 

「もし、行く宛てが無いならボク達と一緒に来ない?」

「……なんで?」

「ルナに頼まれちゃったからさ。それに、ボク自身も君を放っておけない」

 

 一度右手の人差し指と中指の間に煙草を挟んで口から離してからわざとらしく煙を吐く。火から上がるような煙ではなく、わざとらしい広がり方をする煙。

 いつか煙草の煙で隠し芸を仕込むのもいいかもしれない。空の青に消えていく白い煙を見送りながら言いたいことを頭の中で整理して完全に空に溶けていった煙を見送ってから灰を地面に落として足でそれを土の中に埋める。行儀は悪いがポイ捨てよりはマシだろう。携帯灰皿を持ってこなかったのが悪い。

 

「まぁ、君って道端で野垂れ死んでそうだし……なにより、優しいからさ」

「……別に、優しくない」

 

 道端で野垂れ死んでそうっていうのは否定しないのね、とひなたは苦笑いを浮かべながらミラの言葉をそんな事はないと一蹴する。

 優しくなければこんなヘイト役を引き受ける事なんてできない。悪を背負ってでも犠牲を少なくようだなんて思うわけがない。小を切って大を生かす。それをひなたは決して悪とは思わない。だから、彼女は優しいと。そう思った。だから、放っておけないとも。

 

「それに、一緒に来てくれるとボクも嬉しい。ボクってシャーレイ以外とは交友無いようなモンだし」

「……ボッチ」

「一年前からね」

 

 暗に友達が少なくて寂しいから友達になってください。ついでにルームメイトのような物にもなってください。そうひなたは言った。それを汲んだのか、ミラはひなたの事を小さく友達いない人間、と軽く罵った。が、そんな道を好んで最近まで歩んでいたのは他でもないひなたなので苦笑いしながらそれを受け入れた。

 靴の裏で煙草の火を消してから煙草の箱の中に吸殻を突っ込む。その間、ミラは少し難しい表情をしていた。が、ひなたがポケットの中に煙草を入れた辺りでひなたの方を再び向いた。

 

「……私、家無いから」

「ん?」

 

 家がない? つまりホームレス? と思ったが、すぐに違うかと思考を改めた。

 駆除連合で金を稼ぐ人間というのは家庭を持っていない限り家を持つことはまずない。依頼によって各地を転々とし、場合によっては拠点すら変えるため、あまり家を持ちたがらない。ひなたのように一部を活動拠点と決めて家を買うような人間は結構稀な方だ。

 だから、ミラも家は持っていないのだろう。恐らく、何処かの宿を転々として生きている。

 

「……パパもいないし」

「あぁ、あの男の人? なんかボクのような人種を恨んでいるみたいだったね」

「……色々あった」

 

 ひなたのような人種、というよりは吸血鬼と深い関わりもある元人間と言ったほうがいいか。ひなただって自分がそういう種族の人外としては珍しい方面の存在だというのは自覚こそしている。

 が、今度会ったらあの面をジェノサイドバスターで焦がしてやる、と思う程度には恨んではいる。アバラを折られた激痛は忘れない。

 

「……私もパパの手伝いしてる」

「なんだっけ。ヴラドなんちゃらの捜索?」

「……そう」

 

 詳しい名前は忘れたが、そんな名前の存在を追っているとは言っていたような気がする。最早その時には意識朦朧で自分でも何を喋っているのか分からなかったレベルであったから。

 

「……ヒナタといれば見つかる気がする」

 

 その言葉は、先ほどのひなたの提案を受け入れる。そう言っているようだった。

 

「……ということは?」

「……私もボッチだから」

「つまり?」

「……恥ずかしい」

 

 つまり、一緒に来る、という事だろう。友達少なくて寂しいから、ひなたと一緒に行くと。その言葉にひなたは思わず小さく笑ってしまう。笑われたミラはつい先日の鉄面皮はどうしたと言いたくなる位に顔を赤くして俯いてしまっている。

 この子、口下手だと言われていた割には可愛い性格をしている。こうして見ると、初対面の時は結構無茶して悪役を引き受けていたのかな、なんて思ってしまったりもする。ニヤニヤしながら頭を撫でるとミラの顔は余計に赤くなっていってひなたの手を振り払うと両手で自分の顔を覆った。かなり可愛い。思わずドキッとしてしまうくらいには。シャーレイにイジメられるんじゃないかと思ってしまうが、どうせその矛先はこっちに向くんだしいいや。とシャーレイに関しては遠い目で諦める。

 

「じゃあ、これからよろしくね」

「……う、うん」

 

 耳まで真っ赤なミラに声をかけると、今にも消えてしまいそうな声で反応してくれた。やはりこの子、可愛い。

 

 

****

 

 

 あの後、ミラを一通り弄ってお返しに腹パンを貰ってからひなたとミラは宿の中に入った。泊まることは出来ないが今日の夜まで部屋に居る程度ならいいだろう。

 部屋に着くと、中からは二人のすすり泣く様な声が聞こえてきた。どうやら、ルナは自分の秘密を全部打ち明かし、シャーレイはそれに泣いてしまったらしい。それにつられて、ルナも。ひなたとミラはそれを壁にもたれかかって聞きながらどうした物か、と悩んでいた。

 

「……私、あの子に嫌われてるけど」

「分かってくれるよ。ミラは優しい子だって」

「……お姉さんぶる」

「こう見えても二十歳なんだよ? お姉さんさ」

「……二歳上には見えない」

「自覚はしてるよ」

 

 カラカラと笑いながら天井を見つめる。

 これで、後戻りは出来ない。ルナはミラの手によってその生涯に幕を下ろす。魔獣というこの世界きっての理不尽の存在によってまだ何十年もある筈の人生を終わらせることとなる。

 たった九年の人生。その最中に余命宣告を数日前にされ、死ぬことに。それがどれだけ怖くて恐ろしい事なのかひなたには想像することすら出来ない。だが、彼女を笑顔で見送らないとその人生は果たして明るく誇れる物になったのかと聞かれてもその質問を噛み潰すしかできないだろう。

 仕方のないことだ。どうしようも出来ないことだ。そう自分に言ってもやはり悲しいものは悲しい。自然と目に涙が浮かびかけてしまうと、ミラが優しく肩を叩いた。その目は、同じく涙目。

 ひなたよりも前にルナの母を助けようと奮迅した彼女。しかし、その努力は報われる事なくルナまで巻き込んでしまい、そのケジメを今つけようとしている。が彼女のほうが無力感と悲しみは大きいだろう。優しい彼女がルナの命をそう簡単に終わらせられる訳がない。三日の猶予も、きっと自分に踏ん切りを付けるための物でもあったのだろう。

 大丈夫。と言いたげにそっとミラの手を退けると、ミラは頷いてくれた。

 

「……入ろうか」

「……うん」

 

 ひなたがそう言うと、ミラはすぐに頷いてくれた。

 鍵はかかっていないため鍵を気にせず中に入ると、中ではルナとシャーレイが抱き合って泣いていた。が、ひなたが入ってきたのを見ると、二人はすぐに袖で己の目を擦った。

 

「ひ、ひなたちゃん。おかえり……」

「……ただいま。ルナも」

「……おかえりなさい」

「…………おじゃまします」

 

 ミラは若干入り辛さを感じたため、小声でそう言ってコソコソと壁際に移動した。

 コミュ障かオイ。とひなたはツッコミをしたくなったが、ひなたは改めてシャーレイとルナの前に座った。

 

「……シャーレイ。ルナから聞いたよね」

「……」

「……隠すつもりはなかったんだ。ただ、言えなくて」

「ひなたちゃんは悪くないよ。誰も、悪くないよ……」

 

 そう。誰も、悪くない。悪いのはルナに巣食う魔獣だ。それさえ居なければ、そう思ってしまう。

 だが、その魔獣に向かってお前のせいで、なんて殴り掛かる事も殺すことも出来ない。それが出てくるのはルナが自然と死んだときだけで、それに向かって呪詛を吐きながら恨みをぶつけるなんて願いは叶うことは絶対にないから。

 シャーレイから滲み出る悔しさと悲しさを感じながらも、ひなたは彼女に何もする事が出来ない。顔を伏せて涙を堪えるだけで――

 

「――けほっ」

 

 その時、ルナが咳をした。

 それと全く同時にミラが動いた。ルナの咳の際に口を隠した手をミラが無理矢理掴んで見た。

 

「……吐血」

 

 ミラが小さく呟いた。それを聞いてルナはすぐにミラの手から己の手を引っ張って取り戻した。が、ルナの口には若干の血が付着している。隠したとしても吐血をしてしまったという事はバレバレだった。

 それにひなたはただ目を背ける事しか出来ず、シャーレイも息を呑むことしか出来なかった。

 

「……あと半日もない」

「……ごめんね。隠すつもりはなかったのに」

「……気にしない」

 

 ミラはルナを安心させるために頭を撫でる。が、その表情が晴れる事はない。

 死の恐怖。目に見えて襲ってきたそれに精神を苛まれているのだろう。だが、それは仕方のないことで責められる事ではない。が、慰めも効かないと知っているため、ただ無力感を感じるだけだ。

 

「……きっと、もう全身が痛い筈」

「そう、なの?」

「……痛いよ。今にも体がバラバラになっちゃいそうなくらい、痛いよ……」

 

 ミラの言葉が本当なのかを確認すると、ルナは小さくそれを肯定した。

 ルナの体を走る激痛。それはもう朝の内から起こっていた。だというのにルナはそれに対して弱音を吐くことなく耐え続けている。ミラはそれを知っているがためにただ目を伏せる事しか出来なかった。

 そんなルナに何もしてあげる事が出来ない。それがとても悔しくて辛くて。きっと、回復魔法も効かないのだろうと分かっているから余計に辛くて。

 

「……ねぇ、最後に一つだけお願いしてもいいかな?」

 

 そんな重い空気の中。ルナはそう言った。

 拒む理由なんてない。なに? と聞くとルナは少し無理をしたような笑顔で言葉を紡いだ。

 

「最後に、皆と一緒にお風呂に入りたいな。露天風呂に、みんな一緒で」

「……それくらい、お願いされなくても入ってあげるよ」

「うん。最後なんて言わずに、時間が来るまで何度でも」

「…………とうぜん」

「……ありがと」

 

 そうしてひなたが立ち上がった。続いてミラも立ち上がってシャーレイも立ち上がろうとした。

 そこでルナがひなたとミラに声をかけた。

 

「……ひなたお姉ちゃん。銃は置いていった方がいいよ。ミラお姉ちゃんも、剣は置いていかないと」

「……確かに、そうだね。盗まれるかもしれないから」

 

 貴重品を脱衣所に置いて行った結果、それを盗まれてしまったら間抜けだ。ルナの言葉に従って二人は銃と剣を机の上に置いた。

 それをルナは見届けると、シャーレイに抱き着いてから口を開いた。

 

「ちょっと、シャーレイお姉ちゃんと話したい事があるから、先に行ってて」

「……それは、ボク達には聞かれたくないこと?」

「……うん」

「…………分かった」

 

 ルナにも、色々とあるのだろう。ひなたとミラは先に温泉へと向かうため、ひなたはタオル、着替えを片手に、ふと酒や煙草を買いたいと思った時用に身分証代わりに使える物と最低限の金、それから煙草と携帯灰皿を余分に持って外へと出た。

 そして、個室に残ったのはシャーレイとルナだけで、ルナはシャーレイに撫でられながら己の言いたい事を言うために、外で盗み聞きされないためにひなたとミラの足音が完全に聞こえないようになるのを待った。

 そして――

 

「――ごめんね。大好きだよ、お姉ちゃん達」

 

 ――撃鉄が魔弾を打つ音が響いた。




~温泉への道中~

ひ(……あれ? シャーレイとルナの泣き声が聞こえたって事はもしかして昨日の夜の事、誰かに聞かれていたんじゃ……)
ミ「……どうかした?」
ひ「……ちょっときのうのけいそつさにはずかしさをかんじてしにたい」
ミ「……情緒不安定?」
ひ「それ何時もの」
ミ「……そ、そう」
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