ミラが林に入ってから数分が経過した。林を端から端まで己の目で探している訳ではないためそこまで時間はかからないと予想は出来るが、それでも百メートルまでしか効かない探索魔法でルナを探すのは時間がかかってしまうものだ。もしも居なかったら、と思うと背筋が寒くなるが、それでもミラが見つけてくれるのを願うしかない。
煙草を咥えて進展のない状況に感じる焦りを抑える。こうしてミラに任せないと何もできない。そんな自分に苛立ちすら覚えてしまうが、それを覚えたところでひなたはもう自身の力をほぼ限界まで引き出しつくしたと思っているし新たな魔法などを覚える才能すら無いためこうして歯がゆい気持ちでミラを待つしかない。
煙草でも隠し切れない焦燥感を煙草を噛むことで紛らわしていると、ふと横からの視線を感じて視線を投げた。その視線は勿論シャーレイ。彼女は暗い表情でひなたの方を見ていた。
「……どうかした?」
いけない。彼女の前でこんな事をしていたら彼女も要らぬ心配をしてしまうかもしれない。そう思いすぐに煙草を噛むのを止める。肺の中に溜まった煙を吐き出すために煙草を右手で摘まんで口から離すと、フィルターの部分にはキッカリと歯形が残ってしまっていた。このまま噛み続けていたら破れてしまうかもしれない。煙を吐いてから偽りの笑顔を浮かべてシャーレイに聞く。
だが、シャーレイは何も答えない。それに少しの不安と言葉に出せない感情を覚え、何となくの居づらさを携帯灰皿に煙草の灰と共に落とす。
ここでも無力感を感じてしまう。シャーレイの言いたいことを先読みして慰める事が出来たのなら、もう少し自分の事をプラスに評価できたかも知れない、と。だが、軽く情緒不安定で人でなしという自己評価を付けている状態でそんな事を出来たとしても、それをプラス評価に入れる事すら無いだろう。そんな自分が嫌になりながらも思いっきり地面に煙草を擦り付けて煙草が折れるのも気にせずに消化する。
それを灰皿に突っ込み、新たな煙草を口に咥える。あぁ、こんなの、シャーレイの事をどうにか言える精神状態じゃない。一番年上で、一番年下のシャーレイを慰めなきゃならないのに、こうして癇癪を起しかけている。そんな自分に苛立って煙草の火を付けるより先に頭を掻き毟ってしまう。
「…………ごめんね」
「え?」
そうして精神が不安定な危険な人間ですよ、と態度で表すような事をして火を付けようとしたとき、シャーレイが口を開き、言葉を漏らした。
それは、謝罪の言葉だった。
思わず聞き逃しそうなそれを聞き取ったひなたはライターにかけた指を止め、火を付ける事を中断する。そんなひなたの様子を見てから、シャーレイは再び謝った。それはひなたの行動に歯止めをしてしまった事に対する言葉なのか、それとも先ほどの謝罪の言葉の上塗りなのか。それはひなたには分からず、どんな言葉をかければいいのか分からない。
取り敢えずの一言を自分の行動の頭に付けてから火を付ける。揺ら揺ら揺れる火が煙草の先端を熱し、吸っている呼吸に加えて熱い煙が混ざってきた所でようやく煙草に火が付いたのを確認し、すぐにライターの火を消してから一度吸った煙を外へと吐き出す。
その一連の行動が終わるのを待っていたのか、煙を吐き出したひなたを見てから、シャーレイは口を開いた。
「……私が、もっと注意していれば、ルナちゃんは…………」
あぁ、そういう謝罪か。煙を肺に送りながらやっと理解した。
彼女は責任を感じてしまったのだろう。ルナが一人で死ぬ機会を与えてしまったことに。こうして捜索に乗り出すことになってしまった原因作りに。
自分の行動のせいで一人の子供が悲しい死をたった一人で迎えようとしている。それがとても心を揺さぶり、締め付けて離れてくれないのだろう。泣きそうな顔で、苦しそうな顔で懺悔する彼女にかける言葉を胸の内を掘って探すが上辺のみの言葉だと思われるなけなしの言葉しか見つける事が出来ず、煙草を強く噛む。
だが、彼女に上っ面を取り繕うような言葉すらかけないのはきっと彼女の心を更に痛めつける。優しい彼女の事だから、声をかけられないよりもかけてもらわないと壊れてしまう筈だとすぐに考えを改め、胸の内から出てきた言葉を煙と共に吐き出す。
「……シャーレイのせいじゃない。誰のせいでも、ないよ」
いつか言った気がする言葉。いつか考えた気がする言葉。そんな言葉は果たしてシャーレイの心を癒してくれるのか。そんな気持ちが一杯で一杯で、ひなたの心の方が押しつぶされそうになる。
ルナの死、それへの慟哭とこの世への恨みを吐き、そしてルナに慰められ、彼女を送ろうと決心しても、この心は弱くて脆くて、シャーレイの言葉と態度一つで潰れそうになる。力を得ても心は弱いままで……いや、弱くなってしまって。苦虫を噛み潰したような表情は変える事が出来なくて。己を主人公と思っていないから、思えないから気の利いた言葉一つ浮かんでこなくって。結局上っ面の言葉で場を濁して慰めようとする。奇跡をつかみ取る事すら出来ずにこうして苦痛に顔を歪めるしかできない。
二人とも、互いが辛くて悲しい事が分かっているから、この悲しみは共有こそ出来ても消すことなんて出来ないから。シャーレイもこれ以上自分を責めてもひなたが悲しむだけだと分かっているから、二人ともそれから先は黙るしかなかった。互いの言葉が互いに対してどんな棘を持っているのかが分からない以上、下手なことを口にする気なんてとても起きなかった。
深い溜め息のような物に交じって煙が吐かれ、しかしその煙は溜め息のように重くはなく軽く空に上がって消えていき。それが何度か繰り替えされ、ひなたの煙草が一本丸々消費されて。新たな煙草に手をかけようとした時、二人の前に無音で何かが降ってきた。
「……ミラ」
ひなたの声が聞こえる。
降ってきたのはミラ本人。彼女の手の中には既に魔弾は無く、しかし全速力で捜索してきたのだろう。玉のような汗を浮かべ息を切らしながら彼女は二人に近付いた。
「……見つけた」
「本当!?」
シャーレイが思わず声を荒げてしまう。自分に全てをぶちまけ、悲しさを隠し辛さと痛みを隠して悲しませないようにと微笑んだ少女を見つけた。それに喜びを感じる。
ミラの事が優しいと聞いた。彼女は悪くないと聞いた。だから、こうして嫌悪感なく話すことが出来る。彼女を頼る事が出来る。
『ミラお姉ちゃんの事、お願い』
そんな言葉をルナからかけられたから、彼女を嫌悪する気なんてなく、頼ってしまう。
ミラはその期待に応え、こうしてルナを見つけてくれた。ひなたとシャーレイを抱え、ミラは息を整える。
「……急ぐ」
「お願い、ミラ」
「私達を連れてって……」
「……任せて」
ミラが二人の言葉に任された、と返し、もう体力も辛い筈なのに、二人の人間を抱えて一気に走り出す。木々の合間を抜けて、抜けて、飛んで、抜けて。まるで馬車なんて目じゃない程の速さで木々の合間を二人がぶつからないように抜けていきながら走っていく。
走り続けて走り続けて。一分弱の時間が経過して。ミラは時々立ち止まって方向を確認しながら息を切らして汗を流しながらもひたすらに走り続ける。その表情と必死さに、この人は本当に優しい人なんだ、とシャーレイは改めてミラという少女を理解しなおして、彼女にその身を委ねる。ひなたも、それがもう分かっているから、頼むからルナであってくれと願い、しかし両手を合わせて祈る事は出来ずに胸に手をやってクソッタレな神へと祈る。
そして、ミラの動きが止まり、二人が改めて地面に降ろされる。
着地し、前を見る。そこには、確かにいた。
「……ルナ」
金髪の少女が。いつ着替えたのか、私服に着替えて背を向けたルナは、ひなたの声を聞いて体を揺らした。
よかった。まだ生きている。死んでいない。
彼女がまだ生きていることを喜び……すぐにお別れになる事を思い出して泣きそうになって。しかし、この最後の会合に喜び、駆け出そうとする。だが、ルナの声が聞こえて、その足は止まった。
「……どうして?」
その声は、疑問だった。だが、本質は読み取る事が出来なかった。
何かおかしい。それを三人が同時に感じて、咄嗟にミラが二人を守るように前に立ちはだかって。それを音で感じたのか、はたまた別の理由か。彼女が振り返り、己の姿を見せた所で、三人は思わず絶句した。
「……どうして、来ちゃったの」
涙を、流していた。それと同じように、全身から血を流していた。包丁を握っていた。それを、首に突き付けていた。
自殺寸前。そう言える状態のルナは、今にも首に包丁を刺そうと力を込めていた。が、その力が首に向けて解放される事はなく、阻まれていた。それは、ルナの生きたいという願望から成るものではなく、もっと理不尽で理不尽で。この世を呪いたくなる物だった。
「……水、なの?」
「なんで、包丁を止めて……」
「……そんな、能力までッ!!」
血を流し、泣きながら己に包丁を突き立てるルナ。しかし、その首は、透明なゼリーのようなものに阻まれていた。それはルナの傷口から徐々に湧き出すように増えており、既にルナの手は包丁ごとそれに飲み込まれ、包丁を意地でもルナの首に通さないように。ルナを殺さないように包丁を押しとどめていた。
魔獣だ。ルナの体に巣食っていた魔獣だ。それが、あと少しだから。もう少しで期限だからとルナの肉体を殺させまいと自殺を阻んでいる。
それを見たひなたは絶望し、シャーレイは驚き、ミラは憎む。その魔獣を。クソッタレな存在を。
「……私が、楽にする!」
「ミ、ミラ……」
「もう、躊躇はしない……止めても、無駄ッ!!」
最早脊髄反射で言葉を放っているのか。一泊置いてから話す癖すら置き去りにミラは腰の剣を抜いた。今にでもルナを斬り殺す。そう言いたげな刃物のような雰囲気はひなたとシャーレイでも切り裂いてしまいそうで。
しかし、ひなたにそれを止める気はなくて。
「ダメ、ミラお姉ちゃん……これは、もう……」
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
辛い気持ちを押し殺した決意を口にミラは一瞬にしてルナへと肉薄する。
残像を残し消え、一瞬にしてルナの目の前へ現れるミラ。もう時間はない。それを今のルナから察し、別れの言葉すら言う時間は惜しいと言わんばかりのその斬撃はルナの首……ではなく、頭を、脳を一刀の元に両断しようとしていた。
全力の、躊躇いごと切り裂く一閃。それをルナへと浴びせる。それによってルナは一瞬にして絶命させ――
「……わたしを、殺させてくれない」
「そ、んな……!?」
――てくれる事は無かった。
透明なゼリーのようなそれは、一瞬にしてミラの剣を包み込み、絡み取り、衝撃を全て受け流した。その結果、ミラの一閃はルナに届くことなく、完全に防ぎ切った。
それを見て咄嗟に思ってしまった事は、一つ。この世界で、殆どの魔獣が獣の形をとり、自然界のルールに則っているこの世界で見たことも聞いたこともない、正しく特殊能力の一つ。
「物理攻撃の、無効化……?」
スライムのようなそれだから考えられるその特殊能力……スキルとも言えるそれを持っているのだとしたら。宿主を殺すまで物理攻撃から守るのだとしたら、それは余りにも残酷で憎い。
ミラはそれに驚きこそしたが、一瞬で魔法を発動。ミラの剣を冷気が纏い、それとほぼ同時にミラの剣を防ぐそれは凍り付き、力づくで剣を戻すように振れば凍り付いたそれは一瞬にして砕けた。が、こうなってしまうと物理攻撃ではルナを殺すことは出来ない。だとすると、取れる手段は一つ。
魔法による殺害。
「ルナ……辛いだろうけど、眠っている内に殺してあげる!」
「ダメ……ダメなの!!」
最早誰の言葉すら聞く気はない。それを態度で体現したミラはルナから距離を取ってから剣を地面に突き立てる。直後、作られた蒼銀の魔法陣がこれからミラが何をするのかを物語っていた。
「……我が魔力を食らいて出でよ、氷結の世界っ!」
「もう時間はないし……魔法でも、わたしは殺せない!!」
「だとしても! フローズン・コフィン!!」
ルナの叫び。それをミラは聞くことなく魔法を発動させる。
フローズン・コフィン。その魔法名であろう言葉からどういう魔法なのかは察しが付く。きっと、ルナ自身を凍らせてその後に切り裂いて殺すつもりなのだろう。力を制御されている今のひなたの魔力全てを使っても足りない程の魔力を消費して発動した魔法はルナの足元から徐々に凍っていくことによってその名の通りの効果を発動した。
かかった時間は五秒ほど。足元から凍り付き、ルナは氷塊の中に閉じ込められる形で凍らされた。この時点でルナの意識はもう無いも同然だろう。
「はぁ……はぁ…………なんで、こんな……」
ミラはそれを見て涙を流し、息を切らしながらも剣を杖代わりに立ち続ける。目の前の氷塊に閉じ込められた少女に悲しみを覚えて……絶望した。
氷に、ヒビが入った。
直後、氷塊は内側から砕かれた。最後の手段と言わんばかりの氷の魔法はルナを眠らせる事無くその役割を終えてしまった。
「……え?」
信じられないと言わんばかりに目を見開いて前を見るミラ。そこには、氷塊を砕いたルナが……いや、魔獣が。ルナの傷という傷から溢れ出たゼリー状の魔獣が。
「無理なの……これは、もう止められないの!!」
泣きながら叫ぶルナ。その間にも、体のあちこちから血が……いや、内側から肉が弾け、血と共に魔獣がそこから湧いてくる。きっと、現存していた傷口から出たあの魔獣が、氷を割ったのだと。そう気づいた。が、気づいたとしてももうミラには手立てなんて無くて。
だが、それでも魔法なら、とひなたがミラの背中から抱き着いた。
「血を貰うよ!」
そして、吸血。ミラの許可を得ずに首筋に噛み付き、血を一気に吸ったひなたの目が紅に染まり、制約の一つが解放されたことによって魔力と魔法の威力が増す。それを感じてすぐに起爆銃を抜き、二つの魔力だけを込めた魔弾を作り出し、かみ砕く。
何時もの二倍の量での魔力暴走。それがひなたの体を内側から壊し、体の数か所が破裂して内側から血が噴き出す。が、それでもその魔力を銃口に纏め、人を殺せる位の威力をシューターに持たせる。
「ぐぅぅ!?」
暴走する魔力に体を壊されながらも、悲痛な声をあげながらも。このままルナを魔獣になんて殺させやしないと銃を構える。せめて、知り合いの手で……人のてで、人としてその生命を終わらせるために。
「ジェノ、サイドォッ! ブラスタァァァァァァッ!!」
ジェノサイドバスター。その一段階上であり、ジェノサイドブレイカー以下の魔法。それをルナに向かって放つ。血をまき散らしながら、その反動を抑え立つひなたの起爆銃から銀色の閃光が空気を裂いてルナを呑み込まんとする。それは当たれば人間の肉体なんて蒸発させる事が出来るレベルの強さを持つ制約を一つ解放した後のジェノサイドバスターの上を行く魔法。だから、これで殺せない筈がないと。そう信じ放った。
そして、銀色がルナを飲み込み、その後ろにある木も消滅させながら照射は続く。
数秒の照射が終わる。全身から血を流しながらも放たれたジェノサイドブラスターは消え、そして視界が晴れる。そこにはルナが……
「だから、止められないって言ったのに……っ!」
いた。いてしまった。彼女の前にはあの魔獣が盾のように広がっており、ジェノサイドブラスターを完全に防いでいた。
それを見た瞬間、ひなたの中の何かが折れ、膝を付いてしまう。駄目だ、これ以上の魔法は人の肉を食わないと放てないし、他の魔法を放つための魔力も、体力もない。
「お願い、逃げてっ! 今ならまだ間に合うから!!」
きっと、自殺と彼女を殺そうとする凶刀達が、魔獣の働きを活性化させてしまったのだろう。それとも、小さな体だったがためか、彼女のタイムリミットはその分短かったのか。ルナは自分の体を抑えながら蹲り、だけども顔だけは三人の方をしっかりと見て、逃げてと叫ぶ。
ルナの体から吹き出る血が増える。もう魔獣は彼女の体を破裂させようと彼女の体を食らっている。それを止める術はもうなく、ルナが破裂するのを待つしかなく。
ミラにも、ひなたにも、もうこの場から退散するための力は、もう残っていなかった。
涙を流しながら訴えるルナの言葉に答える事が出来ず、ミラとひなたは何とか動こうとし、シャーレイは二人を何とか引っ張ろうとして。だけど、この場にある力は最早、使い尽くされていた。
そして――時間は来てしまった。
「逃げて……逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ルナが、全力で叫んだ。
それは断末魔だったのか、最後の願いだったのか。林の中に響く少女特有の高い声が響いた後――
――まるで、爆竹が一つ弾けるような小さい音と共に、ルナの体は木端微塵に砕け散った。
「ぁ……」
「う、そ……」
「…………ぃ、や……」
血肉が飛び散り、ルナだった物が当たり一面に散乱する。
生々しい音が響き、肉だった物が、内臓だった物が、骨だった物が、それぞれ音を立てながら地面に落ちていく。
あっさりと、まるで風船を破裂させた時のようにあっさりと、ルナはルナだった物へと変貌してしまった。
人が破裂するという衝撃に吐き気よりも、ルナが苦痛に塗れ最後に悲痛な叫びを残し死んでしまった事が、三人の心を大きく抉る。あんな優しい子が、こうも情け無用で殺されたという事実が、三人の心を一瞬にして砕きかける。
そして、ルナのいた場所には。彼女がいた場所には、水たまりがあった。
血の水たまりではない。文字通りの水たまりが。
それがルナを殺した魔獣である事は一目瞭然で……それに対しての警戒心を抱く前に、それは蠢き、蛇のような形状へと変化すると一瞬でひなたの目の前へと肉薄した。
「……へ?」
その魔獣が、嗤ったような気がした。
ひなたの目の前で。次の獲物はお前だと言わんばかりに。
あ、死んだ。そう頭の中が間抜けに判断したその瞬間。
「させる、ものか……ッ!!」
ひなたの襟首を物凄い力が引っ張り、魔獣と距離を取らせた。直後、ひなたの後ろからミラの足が伸び、その魔獣を蹴った。が、蹴った傍からそれはミラの足に吸収されるように入り込んでいく。
「ミ、ラ!!?」
飛ばされながら、叫んだ。
このままじゃ次の犠牲はミラになってしまう。加速された思考の中でミラに向かって手を伸ばそうとして……だけど、後ろに向かっていく速さはそれを超えていて。
だが、ミラはその速さに慣れた人間。蹴り、己の足に異物が入っていくその感覚を感じながらも魔法を発動していた。
ミラの足が……利き足であろう、魔獣を蹴った右足が太ももの中間当たりから凍っていき、魔獣の全てが足に吸収される前に完全に右足は魔獣ごと凍り付いた。
ルナは苦しみながら死に、ミラは――
次回、エピローグ