魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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果たしてひなたは主人公に復帰できるのか……


第四十七魔弾

 武具屋に起爆銃のパーツを注文してから大体一週間が経過した。その間に起こったことは特になく、平和な一週間だった。これもあの武具屋付近をウロウロしなかったからかもしれない。パーツはこれから一週間後に宅配で届けてくれるそうなのでこれから先、あの男……ワラキアと出会う事は絶対に無い、とは言えないが会う確率は極端に低いだろう。

 もうミラに斬ってもらったほうが早く済む気がするがそれではミラが犯罪者になるため絶対にその方法は選択しない。本人がやると言っても阻止するレベルだ。それ以前にミラには話していないため気づかれるまでも無いのだが。

 金もひなたとミラがまた稼いできて少しの間だったが金欠に陥った生活費はなんとか持ち直した。というか、前の倍近くまで稼いできた結果、一か月働かなくても問題ないレベルにまで至った。いくらなんでも稼ぎすぎではと思われるかもしれないが、この仕事は常に命の危険が付き纏う。ミラレベルでも油断の一つであっさり死んでも全然可笑しくない仕事だ。注意していればどうにかなるという物じゃない。それに、この仕事は何百という人の命を救う事にも繋がるかもしれない。それ故に報酬は普通の仕事に比べてもかなり高めになっている。それに、この仕事は場所や相手が固定されていない、というのもあるため、依頼によってはあんまり金にならない時もある。

 そんな仕事だが自分の足で日帰りが可能な場所が依頼にあったため、二人は結構な勢いで金を稼げた。その結果が一か月分の生活費である。

 そして金を稼げば残るのは圧倒的な暇だけ。学校も無ければ就職口も無く、周回をしなければ強くなれないぞと迫ってくるソーシャルゲームも無く暇つぶしのゲームもなく。どれだけ地球が忙しい世界だったのかがこの世界に来てからようやく分かった。この世界もこの世界で命の危険が常にあったり治安が日本に比べて悪かったりと欠点もあるが、それでもこの世界は穏やかだ。税もそこまで高くないため税がどうのこうのということもない。本当に平和だ。

 

「……どうしてこんなに暇なんだろうねぇ」

「単純にやることがないからだと思うよ?」

「…………ひまぁ」

 

 上からひなた、シャーレイ、ミラだが三人ともだらけきっている。日本なら三人とも暇すぎて携帯を弄ったりしているのだろうけど、生憎、この世界にはそんな物はない。あるのは本くらいだ。

 だが、その本もこの世界だと結構いい値段がする。印刷技術はあるものの、基本的に小説はハードカバーのような物ばっかりだし教科書のような物はそれよりも高いしで安いのはノート等の白紙の紙が纏まったもの程度だ。なのでそんなにポンポンと買えないがため、三人は今手持無沙汰でボーっとしている。ちなみに、ひなたとミラの私物に混ざっていた小説は既に回し読みが終わってしまったためこの家に三人が読んでいない本はない。なので本格的に暇だ。

 家の使っていない部屋も暇つぶしに掃除し終わり家事等も全て終わってしまったためやる事がない。こういう人がこの世界には何人もいる。別に暇を潰すだけなら毎日駆除連合に出向けばよかったり三人で乱交でもしたらいいが、それがめんどくさかったり真昼間からするのは流石に嫌だったりと。そんな理由があるせいで暇を持て余すしか出来ない。

 

「何か食べる気も起きないし……」

「何処かに出掛ける気もないし……」

「…………体動かしたくない」

 

 左に体を寄せたり右に体を寄せたりして時々体を動かしているがその程度だ。最近になって暑くなってきたがそれでもそれくらいしかやることがないためくっついている。それにクーラーもついているため室内は快適だ。

 なんでクーラーとかがあるのにテレビや携帯やテレビが無いのかと本当に疑問に思ってくるが、恐らく娯楽や移動に技術力をぶち込むより家の中の快適さを求めるのに技術力を全て注ぎ込んだのと石油が存在していないのがあるだろう。

 油こそ存在しているがそれを燃やして燃料にするという考えが無いのだろう。それに、魔法という物が存在しているのが科学を邪魔しているのかもしれない。魔法の研究などもある分、化学力に全ての技術をつぎ込む事が出来ないのかもしれない。が、それは完全に想像の範囲だ。事実にはなりえないし想像の範囲を出るものではない。だが、暇つぶしでそんな事を考えてしまう分には今は暇だ。

 車や携帯を知っているがそれの作り方なんてしらない。詳しく知らなくても独自に何かを応用してそれを作るという力も無いため作れない。ひなたは完全に戦闘に特化した力しかないからだ。

 

「スラムにいた頃は生きるのに必死だったからなぁ」

「ボクも毎日復讐の事しか考えてなかったし……」

「…………いつも何処か行ってた」

 

 三人とも、この日常を迎えるまではこんなに暇を持て余すほどの心を残していなかった。毎日攫われないように、衛兵に捕まらないように生きるのに必死で、復讐に生きるのに必死で、目的を持たずにただ毎日移動と戦いに明け暮れて。だから、それが無くなった今、趣味すら持たなかった三人はやる事が本当に無かった。

 

「……買い物に行く?」

「何を?」

「明日の晩御飯」

「別にいいけど……ミラは?」

「……異論なし」

 

 という事で暇つぶしに買い物に行くことに決まった。三人とも寝間着のままで着替えていなかったため着替えてから買い物に向かう事にした。一応着替えて余所行き用の服に着替えたが戦闘が出来る二人は戦闘服は着ておらず剣と起爆銃だけを持っての外出だ。

 ひなたは財布すら持っていないため起爆銃と煙草しか持っていない。ほぼ手ぶらと言っても可笑しくない。ミラも起爆銃と煙草が剣とBナイフになっただけだが。

 シャーレイだけ財布を持っているが特筆すべき物を三人とも持っていない。文字通りただ明日の夕飯の材料を買いに行くだけだ。本体ならシャーレイ一人だけで済む事だが、完全に暇だったためひなたもミラもひっ付いて行くことになった。

 

「で、何買うの?」

「えっと……お野菜とカレー粉と……お肉?」

「カレーでも作るの?」

「うん、そのつもり。どうせ暇だし、凝ったお料理したいから」

「……楽しみ」

 

 夜のアレさえ無ければシャーレイは立派な主婦になれるのに、なんて思いながらも三人で近所のスーパーへと向かう。歩いて十分もかからない場所にあるそれは郊外付近にあるにしては大きめのスーパーだ。この時間帯は就労者は労働中なため、基本的に主婦であろう女性やそれに連れられた子供がいる程度。ところどころにいる男性は基本的に主夫になった人か、ひなた達の同業者だ。たまに駆除連合で見たことのある顔ぶれがある。

 だが、声をかける事はしない。そんな事したら面倒な事になるし相手の名前なんて覚えていないからだ。

 ひなただって男の体でいきなりミラに声をかけられたらそういう面倒な思いを抱くだろう。だから、自ら声をかける事はしない。

 そんなひなたはスーパーの前の喫煙所を目ざとく見つけると、ポーチの中の煙草を思い出し、なんだか凄く煙草を吸いたくなってきた。一日に吸う本数はミラが家に来る前とあまり変わらないが、それでも喫煙者だということは変わらない。無性にニコチンを摂取したくなってくる。

 

「……ごめん、ちょっと一服してから行くね」

「うん、わかった。あ、まだ煙草のストックってあったっけ?」

「あー……うん、まだ二箱くらいあるよ」

「大体六日分だね。じゃあ明後日辺りにまた買っておくから」

「ありがと。じゃ、ちょっと失礼」

 

 そう言ってひなたは喫煙所に向かって歩いて行った。

 シャーレイはひなたの喫煙を咎めるような真似はしない。会った時から吸っていたのだからそれがもうひなたを構成する一部のようにも思えてくるし、少し煙草の臭いが混ざったひなたの匂いは嫌いではない。昔と比べて少し煙草の臭いが強くなったが、それでもだ。

 煙草の臭いを体に付けて一緒に寝るひなたに対して一度も煙草の臭いをどうにかしてほしいとは思ったこともない。夜の行為をすれば汗と行為の臭いでそんなのは消える。いや、煙草の臭いがそれに交じり独特の何とも言えない臭いとなる。それを今さら否定することなんて、シャーレイには出来なかった。

 だから、健康に悪いから、と一日に吸う本数を減らそうとはしているが、禁煙させる気はない。どうせ言っても止めないのだろうけども。

 

「じゃあ、行こっか」

 

 後ろのミラに話しかけてスーパーの中に入る。

 今日の晩御飯はハンバーグの予定だが、スーパーに入ったあたりでちょっとだけ気が変わった。どうせならハンバーグとカレーと合わせてハンバーグカレーにしてしまえばひなたもミラも喜んでくれるんじゃないかと。そんな気の変わりをミラに聞いてみる。

 

「ねぇ、今日の晩御飯はハンバーグにしようかと思ってたんだけど、ハンバーグカレーにしちゃう?」

「……うん。いい案」

「よかった。じゃあ、そうしようか」

 

 杖をついてシャーレイに並走するミラに聞くと、ミラは少しだけ笑ってそれに答えた。やはり、美味しい物にはいつもは固い表情筋も動くらしい。最近は暇だから緩みっぱなしだったけど。

 ミラの回答も得たことだし、とシャーレイはスーパー内を歩いて目的の物を探す。

 カレーに入れる野菜、それから肉。そしてカレー粉とそれをルーにするために必要な調味料、そしてカレーと一緒に食べるパン等を買いあさり、他にも今日安い特売品の中でも日持ちしそうな物も一緒に買っておく。ミラもそれについていき、シャーレイからこれを取ってきて、と言われるとそれに返事をしてすぐに取ってきてくれる。そのおかげで買い物がかなり楽になっている。

 ひなたが居れば米が欲しい、とぼやくのかもしれないが、件のひなたはまだ来ない。きっと見当違いの方を見に行っているのだろう。既に一服の時間はとうに過ぎているように感じるが、きっとすぐに合流する。

 そんな事を頭の片隅で考えながらきらしかけていた調味料等も買い物籠に入れ、他にも明後日の分の朝食と昼食、夕食の内容も考えどうせなら、とポイポイ買い物籠に入れていく。この世界にカートはないため入れていく度に重くなっていくが、途中から脳のリミッターを軽く外したミラに持ってもらい、シャーレイは代わりに杖を片方だけ持って買い物を続ける。

 そしてシャーレイがポンポン買うものを籠に突っ込んでいって、そして考えられる分の食料は買い終わった。

 

「うん、これで全部かな。お会計に行こっか」

 

 シャーレイの言葉でそのまま会計を済ます。勿論、出す金は二人の稼いできた生活費から、だ。

 なんだかこうして人の金で買い物をしていると悪い気がしないでもないが、それでも二人が生活費に、と渡してきてくれた分、そうやって申し訳なさを感じるのは間違いなんじゃないか、と思える。だから節約こそするものの、使うのを躊躇ったりはしない。

 しっかりと金を払い、紙製の袋にそれらを入れてもらいミラと一緒に何個にも分けられた袋を持つ。ミラは一つ、シャーレイは二つ。ミラが一番重いものを片手で持ってその手に先ほどまでシャーレイが持っていた杖を吊るしているため、周りからは結構特異な目で見られていたりするが、ミラも足を失ってから刺さる視線には慣れた物だし、シャーレイもひなたといるからそういう視線には慣れっこだ。

 

「……そういえば、ひなたちゃんは?」

「……おかしい」

 

 そして意気揚々とスーパーの外に出た所で気が付いた。ひなたがまだ合流していない。

 これじゃあスーパーの中にひなたを置いて行ってしまう事になる。それを思い出して中に戻ろうとするが、視界の端に小さくだがよく見る銀髪が見えた。

 

「……あれ、ひなたちゃん? 何でまだ外に…………」

 

 喫煙所の外にいる上に何でスーパーの中に来ないのかが不審だったが、何処か様子が変に思えた。唯一の腕で顔を覆っているようにも見える。

 それを心配してミラにひなたが居た、とだけ小さく告げて小走りでひなたの元へと向かう。

 

「ひなたちゃんっ」

「……シャーレイ。あぁ、ごめん、荷物持ち出来なくて」

 

 ひなたの声は何処か暗かった。それに加えて表情も暗く、声も半音位低いように感じた。その様子にシャーレイが何かあったのか、と心配するが、ひなたはそれを見て無理をして笑った。無理をしているとハッキリ分かる位に、悲痛な笑顔で。

 

「そ、そんな顔しないで。ほら、一つ持つよ」

「あ、うん……」

 

 ひなたが無理矢理シャーレイが持っていた紙袋を持つ。それと同時にミラが合流する。シャーレイが一応、とミラの杖を片方預かるが、シャーレイも初めて見るひなたの表情に困惑している。

 

「さ、行こう。早く帰ってこれを冷蔵庫とかに入れないと」

 

 無理をした笑顔でそう言うひなた。シャーレイが何か言ったほうがいいのか、と困惑していると、ひなたは一人で歩き始めた。それを見てシャーレイとミラがひなたの背中を追う。

 が、すぐにひなたはシャーレイの後ろにいるミラの横へと並んだ。そして、ミラにしか聞こえない程度の声量でミラと言葉を交わす。

 

「ねぇ。ヴァルコラキって、確かミラのお父さんが探していた吸血鬼だよね」

 

 その言葉にミラが若干驚く。

 確かに、初対面の時とかにちょくちょくその名前は出してきたが、まさかひなたの方から、こんな時に出てくるとは思わなかった。

 それ故にいつもどおり一泊置いても言葉が詰まってしまった。

 

「……そう、だけど」

「ミラは、それをボクと協力したら倒せる?」

 

 いきなりの事にミラは困惑して今度こそ言葉を詰まらせる。

 何で、ヴァルコラキの事をいきなり話すのか。いや、むしろ何故そんな事を聞いてくるのか。

 ミラは何て言えば分からなかったが、もしもひなたがなら戦いに行こう、とでも言い出したらマズいので一応真実を告げる事にした。

 

「……無理。パパがいれば、ギリギリ」

 

 足があったころのミラと彼女の父なら、ヴァルコラキも楽にとは言えないが、苦戦の末に倒せるだろう。彼女の父の剣は不死を殺す特性を持った剣。ミラの持っている魔法を強化する杖代わりにもなる剣とはまた違った性質を持つ剣であり、当たりさえすれば真祖ですら殺せる剣だ。

 だが、それを持つ彼女の父は今遠い街にいる。ここに来てもらうにしても十日以上は軽くかかる。ミラと同様に頭のリミッターを外して全力で走ってきても、だ。それに、来てもらうには手紙を出す必要があるため、来てもらうには最低でも二十日はかかる。

 

「そ、っか……ごめん、変なこと聞いて」

 

 その言葉を聞いてひなたの顔が暗くなる。

 一体何があったのか。それを聞くための言葉をミラは精一杯探したが、それを見つけることは出来なかった。

 そして沈黙を破る事が出来ず、彼女達は家へと辿り着く。




この作品の同人誌とかあったら絶対にひなたがシャーレイにヤられるかひなたがどっかの男に襲われるんやろなぁって。シャーレイに攻めるなんてないんやろなって

そろそろ本格的に主人公の座から外されかけているひなたさんであった
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