魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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自分の体の魅力のなさに嘆くTS娘もいいんじゃないかなって思った


第五魔弾

 隻腕である、という事は隻腕の人間と暮らした事がない人間からしたら、かなり不自由に見えてしまうらしい。というのも、シャーレイと共に夕飯を食べている中、シャーレイはかなり心配そうにひなたの事を見てきたからだ。その目に心配の二文字があるのは嫌にでも分かった。

 が、ひなたも隻腕の生活は長くないとはいえ慣れた物。パンにバターを塗る時等は少し苦戦するが、それでも基本的な事は全部片手で出来る。髪の毛を結ぶ事だって少し下手だが出来ないことはない。シャーレイに結んでもらったのは面倒だっただけだ。

 それを何度か言っているのにも関わらず、シャーレイはかなり心配そうにひなたを見てくる。というか、手が通ってないため、ひなたの体の動きに合わせて揺れる袖に、だ。

 

「……シャーレイ。そんなに見られると食べにくいんだけど?」

「え、あ、ごめんね……?」

 

 今まで何度も隻腕であることを心配されてきた時はあったが、その度にこうして不自由なく日常生活を送れることを示してきた。シャーレイも数日の内にこんな視線は送らないようになるだろう、と適当なことを考えながらバターを塗ったパンを頬張る。バターを均等に塗り切れてなかったのか、凄いバターの味がしたがもう慣れたことだ。

 魔法が存在するこの世界でも、隻腕……手足の欠損は治すことが出来ない。それに、義手義足も開発されていないため、腕を失った人間は隻腕のまま。足を失った人間は車いすが松葉杖での生活を強要される。ひなたのような身寄りもなく自身の身分を証明出来ない人間が足を失ったら人生が大分詰みかけるが、隻腕なら駆除で稼ぐ事が出来る。そう思えば、片手を失ったのはまだマシな方だ。それも、利き手ではない左腕を。

 失った経緯は……ひなたの頭の中に根強く残っている。いや、きっと日本に戻ってもこの記憶は無くなる事はない。これは今のひなたを構築する要素の中でもかなり大きい物であり、ひなたがこうして生きている原因にもなっている事だから。忘れれば、暁ひなたという人間は別の誰かに変貌してしまう位にまで、その記憶は忌々しく残っているのだから。

 あの時の記憶をなるべくこの場で思い出さないように食べる事に集中し、シャーレイの視線を無視していると、シャーレイの食事を食べる手が止まっているのが分かった。

 

「……食べないの?」

「あ、そんな訳じゃ……」

「遠慮……というか、申し訳なさを感じているんならそれは違うよ。ボクは好きで君の世話をしているんだから。それに、服も買って寝床も用意して……今更食事なんて安い物でしょ?」

「それは……」

「それに、一緒にいてほしいって言ったのは君だよ? なら遠慮なんてしないでよ。何時までの付き合いになるかは分からないけど」

 

 少なくとも、ひなたはここで永住する気はない。目的を果たした後、性転換も出来ずに日本にも帰れないと分かったのならここで枯草のように生きるのも悪くはないが、それがまだ達成できるのか分からない以上、ひなたはここを拠点とする気は一切合切ない。

 ここを離れる時はシャーレイとの別れの時。それまでにシャーレイの下宿先でも探しておくのもいいかもしれない。そうしたら、シャーレイもひなたからは離れるだろう――ひなたの秘密を曝け出せば、ひなたが一緒に居てほしいと願っても離れていくだろうが。だが……もし、ひなたの秘密を知りながらも共に居てくれるという物好きが彼女なら……もしかしたら、彼女に依存してしまうかもしれない。もう、ひなたは人と親密になって生きていく事は不可能に近いと考えてしまっているから。

 そんな暗い事を考えながら夕飯を食べていると、気が付いたら皿の中は空になっており、無意識の内に完食していたのを理解した。対してシャーレイも結構遅くはあるが、ちゃんと食べている。

 

「……ごめん、ちょっと煙草吸っていいかな」

「え? あ、うん」

 

 そんな暗い事を考えていたからか。ひなたは無性に煙草を吸いたくなった。

 この食堂は喫煙が許されているし、灰皿もテーブルに用意してあるため、ひなたは灰皿を手元まで寄せると煙草のフィルターを下向きにして何回かフィルターをテーブルに優しく、軽く叩きつけてから火を付けた。

 息を吸いながらでないと煙草は火が付かない。葉っぱを詰めてから吸うと美味しく長く吸える。そんな知識はこの世界で初めて煙草を触ってから数日後に、煙草を売ってもらった人から聞いたことだ。優しく息を吸いながら火をつけ、肺に煙を送り込む。そして肺が煙で満たされると、何だか先ほどまでの暗い気持ちが無くなっていく……ような気がした。

 多分、腕を失わなかったらこうして煙草を吸うことは無かっただろう。煙草に手を出したことに後悔しているかと言われれば後悔しているが、簡単に気分を高揚させてくれるからか、手放す事は出来ない。きっと早死にするんだろうな、と思うと暗い気持ちにはならず、小さな笑いが出てくる位には、気分転換に成功した。

 

「……煙草って、そんなにいい物なの?」

 

 ふと、単純に気になったのか、シャーレイがそんな事を聞いてきた。やはり、子供というのは煙草が気になるのだろう。ひなたも小学生、中学生の頃は煙草がどんな物なのか、喫煙者を見ると時々気になったものだ。

 ひなたはその質問を聞いて笑いながら答えた。

 

「いい物じゃないよ。健康に悪いし、お金は無駄に飛んでいくし」

「じゃあ、何で吸ってるの?」

 

 何で吸っているの、か。それは色々とある。

 だが、今のひなたが言える事は一つだけだ。

 

「悪いことを忘れられるから、かな」

「悪いこと?」

「そう。これを吸ってる時だけは、嫌な事も悪い事も忘れる事が出来るの。考えられなくなるって言ったほうが良いのかな?」

 

 悪い事を、嫌な事を考えたくないから煙草を吸う。それの頻度が増えていくと、何れ一日に一箱くらい吸ってしまう状態になってしまうのだろう。

 だが、それで嫌な事を思い出さなくなるのなら。こうして笑顔で自虐が出来るようになるのなら、煙草も悪い物ではない。最近は口に何か含んでないと落ち着かない、という状態になりかけているが、それもこうして笑える対価になるのなら、決して悪いことでは無いと思う。マズい干し肉を消費する理由にもなる。

 

「まぁ、憧れてるんなら止めた方がいいよ。これは、そんなにいい物じゃないからさ」

 

 灰皿に灰を落とし、再び煙草を口に咥えると、もう煙草がかなり短くなっていた。最後の煙を吐き出すと、短くなった煙草を灰皿に擦り付けて火を消した。そして、流れるようにもう一本咥え、火をつけようとした所で、ひなたは動きを止めた。

 どうにも、先程二本続けて吸った時から煙草に対するリミッターが甘くなっている。ライターの火を消して煙草を箱の中に戻すと、まだ食事をしているシャーレイの観察に入った。

 

「吸わないの?」

「そんなにポンポン吸うものじゃないしね」

 

 テーブルに肘を突き、自虐気味ににへら、と笑いながら答えた。それに、未成年の前で吸うのも何だか申し訳ないという物だ。あんな汚い環境下で生きてきたシャーレイにとっては煙草の煙くらい、全く気にしないのだろうけども、これはひなた自身の気持ちの問題だった。

 

「……あ、そういえば、ひなたちゃん」

「ん? 何かな?」

「さっき、下着を買い忘れちゃったんだけど……後で行ってきていいかな?」

「あ、そうなの? なら明日にする?」

「じゃあそうするね。最近、胸がまた大きくなってきちゃって、スラムの隠れ家に置いておいた下着も合わなくなってきちゃってさ…………あれ? ひなたちゃん? 何で煙草の箱を思いっきり握りこんでるの? 中の煙草折れちゃうよ? あ、折れたやつは吸うんだ……」

 

 やはり、煙草は嫌な事を忘れるのに最適だ。

 もげろ。

 

 

****

 

 

 シャーレイから見て、ひなたという少女は不思議な少女だった。

 外見は、かなり綺麗で、まるで絵本の中から出てきたかのような少女だった。

 シャーレイより背は小さく、体は細く、なのに力強い。もう成人しているからかもしれないが、外見に似合わない大人っぽさも感じる程だった。

 最初は、ただただ一緒にいてほしかった。シャロンが撃たれた時、シャーレイは見ていた。彼女の左胸を弾丸が貫いていたのを。そして、地面におびただしい量の血液を流して倒れる彼女は、もう長くない。助からないと本能的に察していた。彼女を見て逃げる中、振り向いた先では、倒れたシャロンに向かって弾を打ち込む男の姿も見た。だから、シャロンが心配だから一旦あの場に戻るという選択肢はなかった。行ったところで、彼女の死体を目撃するか、血痕のみを目撃するかの二択だったから。

 だから、誰か一緒にいてほしいと思った。いや、助けてくれたひなたに一緒にいてほしかった。

 ハッキリと拒絶された時、シャーレイはこの世に絶望まで感じていた。スラムでの生き方を一から教えてくれたシャロンがいなくなって。そしてひなたにも拒絶されたら、シャロンの遺言すらもう忘れてしまって何で生きているのかが分からなくなって。生きていく意味が感じられなくなって。一人ぼっちというのは凄く寂しい事なんだとその時、初めて分かった。

 ひなたが言ったことは尤もだった。こんな薄汚れた身寄りも金も地位も何もない子供と共にスラムで暮らすなんて、正気の沙汰ではないから。だから、あの時。ひなたが去った直後に息を荒げた男達に押し倒された時、もう体なんてどうでもいいとまで思ってしまった。

 だが、その男達がひなたの方に向かうのを見た時、咄嗟に声を出した。離して、と。それが、ひなたを追う何者かがいると気づかせる材料になれば、と。あの親切な少女を助ける手立てになれば、と。

 その結果、ひなたはシャーレイの元まで戻ってきて男達を一瞬で蹴散らし、助けてくれた。そして、裂かれた服を隠すためのローブまで貸してくれた。それだけでシャーレイは満足だった。ここまで親切にしてもらったのだから、これ以上を期待するのは、愚かだと。だけど、彼女はついて来いと言ってくれた。何かに呆れたような表情をした彼女はシャーレイを拾ってくれた。それに感謝と申し訳なさを感じ、シャーレイは彼女に拾われた。

 その後、宿へと連れてきてくれた彼女は、すぐに寝付いてしまった。宿の温泉で体の汚れを落としたシャーレイは一度、部屋に戻った。そして、見てしまった。彼女の体を。

 左手は鋭利な何かに切断されたかのような綺麗な断面だった。だが、本来服の中に隠れている細く、白い体はシャーレイの想像を超えていた。

 背中と胸、そして腹には、火傷のような跡と何かに斬られたような大きな斬り傷があり、横っ腹は抉られたのか、左右非対称になっていた。その時に無理矢理回復魔法で治したのだろう。本来ならこんな事にならない筈なのに。

 手と足は入念に回復魔法をかけたのだろう。だが、体の見えない場所に関しては手が回らなかった。もしくは、わざと残してあるか。そのどちらかなのだろう。だが、よく見れば足も、ニーソックスとブーツで隠されている場所に関しては細かな傷は沢山あった。

 きっと、かなりの修羅場を潜ってきたのだろう。彼女は、文字通り傷だらけだった。

 

「……どうしたのさ。そんなにボクの方を見て。まだ煙草が気になる?」

「え? あ、ううん。そんな事はないけど……」

 

 きっと、あの傷が生まれた原因を忘れるために、煙草を吸っているのだろう。ひなたは先程己の手で折った煙草の後始末のためにすぱすぱ煙草を吸っていた。

 既にシャーレイは夕飯を食べ終わり、二人して部屋に戻ってきた訳だが、ひなたは折った煙草が勿体ないのか、無事な煙草は仕舞ったまま折れた数本の煙草を吸うのに追われていた。別に、明日吸えばいいのに、と思ったがひなたの決めた事だ。口出しはしない。

 本人は部屋で吸う用にしたらいいと気付いていないため、シャーレイが言えばすぐに吸うのを止めたのだが。

 

「あー畜生……勿体ないしこれから吸う量増えるかも……」

 

 今まで一日一本、多くて一日二本しか吸わなかったひなたにとっては五本目になるこの煙草は大分キツい物があった。シャーレイはよく分からないが、ひなたがこの状況を好ましく思っていないのだけはよく分かった。

 もう煙草は飽き飽きなのか、まだ半分ほど残った煙草を灰皿に叩き付けるように押し付けて消火すると、ひなたはタオルを手に取った。

 

「この部屋、シャワーあったっけ……あ、ユニットバスか。ボクはちょっとシャワー浴びるから」

 どうやら、温泉に行くつもりだったらしいが、シャワーがあるのを発見すると、ひなたは踵を返してそう告げ、鞄の中から着替えを取り出し、自分の物らしいバスタオルを取り出した。

 

「あ、うん」

「はぁ……ヤニ臭くなってなきゃいいけど……」

 

 ひなたはそう愚痴を零しながら、脱衣所に入らずその場で服を脱ぎ始めた。

 そして、下着まで脱いだ所で、ひなたのあの傷だらけの体が晒された。シャーレイは思わず彼女の体を凝視してしまった。

 その視線に気が付いたのか、ひなたはシャーレイの方を向いた。

 

「あ、しまった…………まぁいいか。気になる? ボクの体」

 

 ひなたは自分の体を隠していたかったのだろう。ちょっとやってしまったという表情を作った後、自虐気味の笑顔を浮かべて自分の体を指さした。

 気になる、と言われれば気になる。が、それに関して追及するのは野暮という物だろう。シャーレイはその言葉に対して首を横に振った。それを見たくないから隠せ、とでも曲解解釈したのか、ひなたは自虐気味の笑顔のまま言葉を紡いだ。

 

「まぁ、そうか。こんな傷、見たくもないよね。ごめんごめん」

「あ、そういう訳じゃ無いんだけど……」

 

 別に、ひなたの体を見たくない訳ではない。

 見たいわけでもないが。

 だが、彼女の体が気味悪いから見たくない、等という事ではない。ひなたはその意味を含めたシャーレイの言葉を聞き、一瞬きょとんとしていたが、その言葉にありがと。と一言だけ返した。

 ひなた自身、その傷に関しては言いたくないだろうし、腕がないことにもきっと繋がるだろう。これ以上の追及するのはひなたの心を抉ってしまうかもしれない、と考え、お礼の言葉にうん。とだけ返した。

 ひなたがシャワーを浴びている間、シャーレイは寝間着に着替え、ボーっと暇な時間を過ごす。その間に今日あった事を色々と思い出していた。

 昨日までの自分に言ったら、有り得ないと一蹴されるんだろうな、という考えと、シャロンを亡くした事への悲しさ。これらを感じ、泣きそうになっていると、ひなたがシャワーを浴び終えたのか、髪をタオルで拭きながら全裸で出てきた。

 

「男のままだったらタダの変態だよねー……」

 

 何かボソッと呟いていたが、シャーレイには聞こえなかった。

 彼女は髪を片手で器用に拭き、タオルを頭の上に乗せながら下着を身に着け、寝間着に身を包んだ。

 

「シャーレイ。髪乾かすの手伝ってくれない? あと、髪の毛結うのも」

「あ、うん。任せて」

 

 これくらい、文句も言わずにやらなければ恩は返せない。ひなたの言葉に即答で返して部屋に備え付けのドライヤーと、ひなたのヘアゴムを手首に着けてからひなたの長い髪の毛を乾かす。

 ひなたの髪の毛はかなりサラサラで、同性であるシャーレイが羨ましいと思う銀髪だった。銀髪という珍しい髪色が、ひなたという少女の不思議さを駆り立て、綺麗さも同様に駆り立てているのかもしれない。シャーレイの短い金髪とは大違いだった。

 他人にやってもらうのが気持ちいいのか、ひなたはちょっと眠そうに目を半分閉じていた。

 

「……眠い?」

「うん……やっぱ魔力使いすぎたのが結構響いてるっぽい。あれだけ寝たのにまだ眠いや」

 

 魔法が使えない、というよりも魔力が殆どないシャーレイには分からない事だが、魔力切れは結構辛いのだろう。髪を丁寧に乾かしている中、ひなたは大分うつらうつらと船を漕いでいた。

 数分かかって髪の毛を乾かし終わり、髪が痛まないように軽く結った時にはひなたは大分眠いのか、半分くらい寝ていた。

 

「はい、終わったよ」

「んー……ありがと、シャーレイ」

「どういたしまして。じゃあ、歯を磨いたら寝よっか」

「そうする……」

 

 二人で買ってきたばかりの歯ブラシで歯を磨くと、ひなたはすぐにベッドに潜り込み、枕を半分くらい使ってそのまま眠りについた。

 早っ。とシャーレイが驚いたが、シャーレイも今日、色んな事があったせいか、ひなたが眠りについてからすぐに眠気が来た。なら、すぐに寝ようとシャーレイもすぐにひなたの横で寝転がった。

 真近でみるひなたの顔は、かなり綺麗に纏まっており、童顔だからか、眠る顔はシャーレイよりも年下にしか見えなかった。これで二十歳を超えているのだから、この世は不思議だ。何となく、眠るひなたの髪の毛を撫でてあげると、ひなたの顔が若干笑顔になった気がした。

 それを見て、シャーレイも眠りについた。これでこの日は終わり、次の日になる――かと思った。

 シャーレイは真夜中に目が覚めた。それは、トイレに行きたかったから、とか理由もなく目が覚めたのではない。ひなたの声で目が覚めたのだ。そ れも、その声は単純にシャーレイを起こす声ではない。

 

「うっ……ぐぅぅ…………あっ……!」

 

 何かに悶え苦しむような。それを無理矢理抑えたような、苦痛に喘ぐ声だった。

 その声に起こされたシャーレイはすぐに上半身を起こし、左手の断面を抑えて悶えるひなたに声をかけた。

 

「だ、大丈夫!? 何があったの!?」

「シャー、レイ……っ! お、おこしちゃった……?」

「そ、そうだけど……ど、どうしちゃったの!?」

「た、ただの幻肢っ……痛だから…………」

 

 幻肢痛。それが何なのかはシャーレイは分からなかったが、とにかく何とかしないと、と思った。

 が、ひなたが抑えているのは無い筈の左手の断面。見えた断面は完全に塞がっていたため、傷があるとは思えない。本当に何が起こってるのかがシャーレイには分からなかった。立って濡れタオルでも、と思ったシャーレイだが、ひなたが立ち上がろうとするシャーレイの手を掴んだ。

 

「なにもっ…………しなくぅ、ていいからっ……!」

「で、でも!」

 

 こんなに苦しそうで、脂汗も吹き出ている。どう見ても大丈夫ではなかった。だが、ひなたは首を横に振っていた。

 

「そ、それでも、何かしたいから!」

 

 その言葉を聞き、ひなたは少し悩むように表情を歪めた。

 そして、かなり悩んだ挙句、口を開いた。

 

「すこ、し……いたい、よっ……!!」

 

 その言葉を聞き、シャーレイは頷いた。それを見た瞬間、ひなたは一瞬でシャーレイに馬乗りになると、そのままシャーレイを力づくで押し倒した。

 それに驚愕するシャーレイだが、それ以上にひなたの様子に驚いたり、痛みに喘がされながらも、ひなたはしっかりした目でシャーレイを見ていた。その目は翠色の筈なのに、真っ赤に輝いていた。

 

 

「ひな、たちゃん?」

「ごめん……!」

 

 そのままひなたはシャーレイに抱きつく。抱きついて痛みを忘れる気なのかな? とシャーレイはひなたを抱きしめた――瞬間、シャーレイは首筋に鋭い痛みを感じた。

 思わず声が出てしまう程の痛み。だが、その痛みは段々と快楽のようなものに変わってくる。

 顔と視線でなんとか横を見てみると、ひなたは必死な形相でシャーレイの首筋に噛み付いていた。いや、それどころか噛んだ場所から血を吸っている。まるで、吸血鬼のように。

 

「ふーっ……! ふーっ……!」

 

 息を荒げながらもただただ血を吸い続けるひなた。それは吸血、というよりもただ気を紛らわすためにしているようにしか見えなかった。

 シャーレイはその痛みなのか快楽なのか分からない物に身を委ねながらひなたの頭をゆっくりと撫でていく。

 

「大丈夫。大丈夫だから……」

 

 ちょっとずつ血を吸われていくが、貧血になるような量ではない。本当に、切り傷をした時のようにゆっくり、ゆっくりと吸血されていく。

 それを受け入れてひなたが落ち着くのを待つこと十分程。落ち着いたのか、彼女はシャーレイの首筋から口をゆっくりと離した。唾液と血が混ざった赤い液体がひなたの口とシャーレイの首筋で糸を引き、ひなたが扇情的な雰囲気を醸し出す。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ひなたはそれからすぐに退こうとしたのか手を動かしたが、ひなたはバランスを崩してそのままシャーレイの胸元に顔を埋めた。

 

「……何で目が赤いのか、とか血を吸ったのか、とかは聞かないよ」

「あり、がと……」

 

 そのままひなたは限界が来たのか、シャーレイの胸の上で眠りについた。

 もう痛みはないのか、安らかに眠りについた彼女をゆっくりと撫でてシャーレイ自身も落ち着く。吸血されてからの体の火照りを深呼吸で収めながらシャーレイも何とか眠りについた。




ひなたの過去に何があったかは次回ちょろっと

実はひなたって昔書いてたオリキャラを再構成したキャラだったりする。そのせいで隻腕の魔弾使いになってたりする
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