魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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今回は前座


第五十一魔弾

 情報屋に行った後はシャーレイに打てる手は打ったとだけ告げてその日は寝た。流石に三日間も睡眠時間が二時間以下の生活を送りながら何十キロも走ってきては剣を振るってきたため、脳のリミッターを自在に外せる以外は基本的に少し鍛えた人と同じ程度のミラでは限界だった。

 それに、脳のリミッターをほぼ常時外して移動と戦闘を繰り返してきたため体の限界も来ていた。常時リミッターを外す、という事は常に火事場の馬鹿力を発揮している状態であるため、体への負担は洒落にならない。数時間程度ならその状態でも平気なように体を作っているが、十何時間もぶっ続けでそんな限界を超えた力を使っていては流石に体も壊れる寸前だ。

 だが、それでも今のミラは身体が壊れず、一日二日寝ればまた動けるようになる程度で済んでいる。それは単にミラの体運びが上手く、体への負担が最小限に済んでいた事と、相手がまだ格下ばかりでまだ体の酷使がマシなレベルだったからだ。

 そんなミラが寝るベッドの横に椅子を置き、まるで看病するように座っているシャーレイはミラの身体の負担がかかっていたであろう場所に薬局で買ってきた湿布を貼っていた。ミラを裸に剥いてから。

 そのため、もう脳のリミッターを外せないミラはされるがままの状態で裸に剥かれ、今は下着だけの状態だった。それでも、全身に貼られた湿布が何処か笑いを誘ってしまう。

 

「はい、これで終わり」

「……ありがと」

 

 だが、湿布が貼られている場所は、湿布を剥がしてみれば痛々しさでいっぱいだ。

 全身の、特に酷使された場所に関しては青痣のような物と内出血のような物が重なり、肌が青かったり妙に赤かったり。明らかに体が内側から壊れかけている。そんな様子だった。

 昔、まだこの戦い方のために体を作っていなかった時はこれもしょっちゅうあった事だが、それでもシャーレイからしたら一大事のレベルだ。それでもすぐに治る、と言っていたり平気な顔をしているのは、もう慣れてしまったからなのか、感覚が無いからなのか。それは分からないが、それでもこの力はミラを人類の中でもトップレベルの押し上げてくれた力なので、泣き言なんて言っていられないのだろう。シャーレイに服を着せてもらいながらミラは今朝がた、シャーレイに押しかけられ裸に剥かれる前に一応飲んでおいた秘薬の効果をじんわりと感じ、体が内側から癒されていくのを感じながら再びベッドに横になる。

 

「……無茶だけはしないでね」

「……大丈夫」

 

 これ位なら、昔はよくやっていたから。そんな言外の言葉は通じなかったが、シャーレイは悲しそうな表情を一旦拭い去り、ミラの手を握る。

 もしもミラが無茶をし過ぎて死んでしまえば、今度こそ一人きり。そんな恐怖にも似た感情が襲ってくるが、それでもミラだけは、ひなたを取り戻すまで、取り戻しても居なくなったりはしない筈、と信じて手を握る。ミラはシャーレイが悲しみに押しつぶされそうになっている、というのを何となく感じ取り、手を握り返す。

 大丈夫。勝手に何処かで死んだりはしない。そんな気持ちを込めながら。

 だが、それでも心配なのは変わらない。特に、この状態を見てしまっては、どうにもミラの事が心配になってくる。

 ひなたが何かを告げ、フラグを建てて死んでいくタイプだとしたら、ミラは己の中で自己完結型のフラグを建てて一人で死んでいくタイプだ。何処か犬と猫を思い出す気がするが、それ故に心配になってしまう。

 

「……少し、寝る」

「うん、分かった」

 

 朝に起きたがそれでも疲労故に眠気が取れないのだろう。ミラはそう告げると再び目を閉じた。暫くして寝息を立て始めたミラの手に一応、逃亡しないように魔力を封じる手錠をかけてからシャーレイはミラの部屋をそっと出た。これで万が一にもミラがこの家を一人で、シャーレイに気づかれない内に出ていくなんてことは無いだろう。

 部屋を出たシャーレイは、ひと今の時間を確認する。

 今の時間は、もう一時間ちょっと経てば昼になる、といった時間で、昼食を作るのなら、丁度いい時間帯だった。が、今寝たミラが起きるとしたら、恐らく夕方かおやつの時間か。シャーレイは後でも食べれるような昼食を作るためにエプロンを手に取り、身に着けた。両足にあるホルスターを隠すように。

 

 

****

 

 

 全ては、気が付くのが遅かったからだ。せめてミラに事前に何か相談しておけば……ワラキアの事を相談しておけば、こんな未来は変えられたかもしれない。ミラならば、その話を聞いて自分達の護衛をして、手を打っていてくれたかもしれない。

 だが、それももう過ぎていった話だ。どうしようもない後悔は今も胸中を沈めていき、それを吐き出したくても吐き出せないからもう自由に行く事が出来ない外界を窓から覗む。

 無理矢理着せられたドレス。絶対に履かないと決めていたスカートが着いた服。フリルの付いた、何処か可愛げのあるドレスは今の外見にはとても似合っているだろう。銀髪によく似合う、銀色のドレスは今の自分を完全な銀に染め、それでいて引き立ててくれている。無骨なローブと銃を持っていた頃とは打って変わって、何処かのお姫様にも見えるだろう。

 同時に無理矢理着けられた、動くことの無いお飾りの左手も使えば完全に可憐な乙女であり、お姫様だ。だが、そんなのを望んでなんかいない。

 

「……シャーレイ…………」

 

 愛する人の名を呟く。何時の間にか足は勝手に動いて鳥かごのような部屋に小さく備え付けられた窓から外を見ていた。

 屋敷の側を歩き去っていく通行人。はしゃぐ子供。野次馬の子供。それを見て、右手を握り込む。あんな風に外で、シャーレイと一緒に歩きたい。そんな想いを抱いていると、今の自分の有様が窓に反射する。

 軽い化粧をされ、何時もはストレートに伸ばしっぱなしだった銀髪も鬱陶しくないようにヘアゴムで纏められ、そして腕の殆どが露出するそのドレスは余り日焼けしていない不健康そうにも見える白に近い腕を見せている。童話のお姫様みたいだと思うと吐き気がする。

 男を捨てたわけじゃない。男として生きる事を諦めたわけじゃない。完全に女であることを受け入れたわけじゃない。一年も足掻いて足掻いて、絶対に男に戻る。復讐を成し遂げて男として生きる。そんな選択をし続けた筈なのに、たった一手。たった一手、手を打ち損じたばかりにこんな服を着せられ、女としての自分を見せられている。それがどれほど屈辱的なのかはひなたにしか分からない。

 薄い口紅を塗られた唇を噛み、俯く。男としての尊厳を捨てる事を強制され、男の元へと嫁ぐ。精神は体に引っ張られるとは言うが、まだ完全に精神を女にしていないひなたにとって、それは恐怖でもあり屈辱でもあり、様々な辱めを一気に受けさせられているような物だった。

 

「やぁ、我が花嫁よ。調子はどうだね?」

「…………チッ」

 

 そうして外を眺めている内に、ノックも無しにドアが開かれた。そこから入ってきたのは、あのいけ好かない男、ワラキア……ヴラド・ヴァルコラキだった。

 ヴァルコラキはひなたを良い笑顔で眺めている。下から、上へ。舐めまわすようにネットリとその視線を向けるだけで不快感と羞恥心が己を襲う。男の時はこんな感情沸かなかったのに、と思いながらもヴァルコラキの視線を外そうと、精いっぱいの不快を込めた舌打ちをする。

 だが、それでもヴァルコラキは笑顔を崩さない。銀の少女を見ていけ好かない笑顔を浮かべたままだ。

 

「ふむ、あまり優れない、と」

「……優れてたまるか。とっとと出て行ってよ」

「これはこれは、手厳しい」

「誰がお前に絆されるか。いいから出ていって。こっちはもうすぐ生理なんだから、ストレスを与えないで」

「……ふむ、花婿の顔を見るのがストレスだと?」

「お前があの口説き文句で人の心を掴めた事があるんなら、驚きだ。どうせ魅了を使わなきゃどうにもならない癖に」

「どうやら、今回の花嫁は毒舌のようだ。これでは僕の心が折れてしまいそうだ」

「折れろハゲ」

 

 ひなたはヴァルコラキに惚れた訳ではない。いや、惚れる訳がない。魅了を使って人の心を弄ぶようなクソ野郎に対して惚れる要素なんてある訳がない。

 ヴァルコラキの方を向かずに窓に映るヴァルコラキに対して言った言葉は果たして皮肉になったのか、いや、なっている訳がない。この男は、既にひなたを手中に収めている。愛の矛先が向いていようが向いていまいが、この男はひなたを拘束する術を持っている。持ってしまっている。だから、ひなたのこの言葉も、無駄。時が来れば、ひなたはこの男に大切な物を捧げられてしまう。体も、命も。

 それでも、心だけは捧げない。死ぬまで。だから、決して絆されない。飴を拒み続け、唾を吐いて死んでやる。

 

「そこまで辛辣だと……お別れの時が早まってしまいそうだ」

「へぇ、それは精々する。あの世で呪い続けてやるよ、クソジジイ」

 

 命が惜しくない訳ではない。だが、それでも、死んででも心だけはシャーレイの物。それは変わらない。

 

「……そうかい。出来れば、心変わりすることを期待しているよ」

「ファック、クソヴァンプ」

 

 出ていくヴァルコラキを中指を立ててお帰り願う。

 お別れの時。それが指し示しているのはただ一つ。ひなたを殺す事。

 ヴァルコラキは女を奪い、そして結婚し、犯し、殺す。これを一つの趣味のような物にして何百年も生きてきた。それ故に、花嫁に対して持つのは愛情ではなく加虐心。愛を向けた女を犯し、壊し、殺す。この工程にしか楽しみを見いだせないクソ野郎。奴の従者は全員がヴァルコラキの眷属と化しているため、ヴァルコラキの犯行を止めることはない。殺した後はその死体を食っているから、でもある。

 結婚式を挙げる、と言っていたのは確かひなたの死体の処理の準備が出来てから、と言っていた。だから、もう一週間か二週間かは先だが、逆に言えばひなたの余命は、それまでとも言える。式を迎えれば、後は犯され殺されるだけ。反抗しようにも出来るわけがない。

 

「……これも、全部っ」

 

 ブラッドフォードのせいだ。

 ブラッドフォードがあの日、あの時、村を襲わなければ、ヴァルコラキに目を付けられる事はなかった。ヴァルコラキはひなたを犯し、壊すだけではなく、もう一つの事に利用しようとしている。

 何処かに隠れたブラッドフォードを、ひなたを殺す事でおびき寄せ、戦い、殺し、真祖の王としての地位を確立する。ひなたは、そのための礎だ。ひなたはそんな他所でやってくれと叫びたくなるはた迷惑な抗争に巻き込まれ、殺されようとしている。はた迷惑な話だ。

 そう、ヴァルコラキは元から……この街に来る前からひなたの事を狙っていた。つまり、ひなたは遅かれ早かれ、こうしてヴァルコラキの嫁として扱われる事が決まってしまっていた。ヴァルコラキの私怨の生贄にされる事が。幸運だったのは、今のひなたが女だった、という事だ。もし男のままならその場で殺されていた事だろう。

 だが、どっちにしろ死ぬことは……ヴァルコラキの私怨で殺されるのは変わらない。変えられない現実だった。

 

「……せめて、シャーレイと恋人になりたかった」

 

 体の関係だけじゃなくて、恋人に。この恋心を成熟させたかった。

 だが、それももう叶わない。吸血鬼の生贄となった今では、それはもう叶わない夢だ。

 

「シャーレイ……会いたいよぉ……しゃーれいぃ…………」

 

 壁に手を付き、その名を呼ぶと自然と足から力が抜けてしまい、立っていられなくなる。そして、自然とへたり込んで、壁に額を付けた。

 もう会えない。その悲しみが胸を貫き、涙を流させていた。

 最愛の人を思い、泣く。もう会えないと思い、涙を流す。

 それを良しとせず、取り戻すために裏で動いているのが、その最愛の人だとは知らずに。

 

 

****

 

 

 その三日後。ミラの元に一通の便箋が運ばれてきた。

 それは情報屋からの物だった。

 

「……結婚式は、来週」

 

 その中を見て、呟いた。

 全ては、来週。ひなたが出て行ってから二週間が経過した日。その日に、全てが決まる。




もうひなたが完全にヒロインな件。しかも今回は完全に巻き込まれただけ。自ら顔を突っ込んでいなければ持ってこられた問題じゃない、完全なとばっちり

シャーレイが主人公、ミラがその仲間でひなたがヒロイン……? ってかコイツ、本当に主人公しねぇな
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