魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

56 / 86
ミラ死亡済ルートだとあの結婚式が最後の戦いでした


第五十五魔弾

 計画の根本からの破綻。それは、ひなたの身柄を取り戻すための機会を完全に失ったと言っても過言ではなかった。

 ひなたを誘拐する所から始まる今回の作戦は、この誘拐を逃した時点でどうしようもなく破綻してしまった。シャーレイの言葉でならひなたは着いてくるだろう、という安易な気持ちにより突撃班にシャーレイを選んだ訳だが、今になってひなたを無理矢理にでも攫って来た方が良かったと後悔してしまう。

 シャーレイとミラは一旦馬車の元まで逃げ込むと、もう馬車は不要になったため、返しに行こうという事になった。が、その際の言葉は僅か一言二言で、シャーレイは馬車の中で膝を抱えて蹲ってしまっている。ミラも正直、そうして拗ねていたい気分だったが、御者をしているためそうは出来ない。

 ひなたを助ける事が出来なかった。その事実は容赦なくシャーレイとミラの心を砕きにかかる。

 母を奪われ、そして新しく出来た大切な人の一人であるひなたまでも奪われたミラ。もう死ぬか体を捨てて無様に生きるかの二択を押しのけて手を差し伸べてくれた恩人とも家族とも言える少女を二度も奪われたシャーレイ。どちらもどうしようもない後悔と悲しみと怒りと、様々な感情が胸中で回りに回ってポッカリと穴を空けてしまったかのようだった。

 ミラはシャーレイを責めたりはしない。彼女達の会話はシャーレイ突撃後、すぐに入り口へ移動し待機していたミラにも聞こえていたからだ。ひなたは、シャーレイの助けを振り払った。これは例えミラが行って説得をしたとしても同じだっただろう。ひなたの気持ちを無視してでも誘拐する作戦を最初から立てておけばよかった。ミラはこの失敗は自分のミスだと思い込んでいた。

 だが、シャーレイはその反面、ひなたを説得できなかったのは自分のミスだと思い込んでいた。そのため、どうしようも無く淀んだ空気を馬車は纏っていた。

 気が付けば二人は荷物に囲まれた状態で馬車の発着場の近くのベンチで仲良く並んで座っていた。どうやら、無意識の内に馬車を持ち主に返して荷物を下ろしてここまで移動してくる、という一連の動作を行ってしまっていたらしい。

 

「…………はぁ」

「…………」

 

 溜め息を吐いて地面を見つめるシャーレイ。何も言わずただボーッと空を見上げるミラ。まるでリストラされたサラリーマンのような暗い雰囲気を纏った二人は通行人から何も言わずに距離を取られる程に淀んだ空気を放っていた。

 精魂尽き果てたとでも言うべきか、真っ白になったとでも言うべきか。このまま動かなそうなシャーレイと口から魂が出そうな位放心したミラは言葉を交わす事無く、胸中の絶望に呑まれていた。

 今この場にタイムマシンがあるなら、二人は迷わず乗り込んで過去に飛び、ひなたを助けるまで何度も何度も時間遡行を繰り返す事だろう。そんなフィクションを考えてしまう位には二人は追い込まれていた。だからこそ、今の二人に不埒な目的で声をかけようものなら、何も言わずに斬撃と銃撃が飛んできてしまうかもしれない、と思える雰囲気を醸し出していた。駆除連合での依頼帰りなのであろう体が鍛えられた男性すら声をかける事無く目を合わせようともせずに去ってしまう程だ。きっとスラムでも今の二人は声をかけられる事も手を出される事もないだろう。

 

「……どうしよう」

「…………」

「…………ごめん」

 

 どちらかが声をかけても、声を返す余裕なんてない。ここにお気楽な人がいれば笑いごとにならない洒落でも言ってくれたのであろうが、二人ともそこまで何も考えていないお気楽ではない。きっとそんな洒落を言った途端、武器が喉元か眉間に突き付けられただろう。

 それ位余裕が生まれない程度には、手詰まり。将棋で言うなら王手、チェスで言うならチェックメイトをかけられた気分だった。ここに起死回生の一手を投じれる程、二人の頭は回っていない。

 いや、正確には何個か代案を思いついた。今からまた突入してひなたを攫ってくるだとか、ヴァルコラキの屋敷に今から突撃をかまして来るとか、夜中にカチコミをかけるとか、ヴァルコラキの暗殺とか。しかし、その全てが結婚式のような失敗を犯すとしか思えなかった。いや、下手をしなくても確実に死ぬ。結婚式のような失敗では済まないのが目に見えていた。

 仇討ちでは意味がない。助けなくては意味がないのだ。だが、そのための作戦を二十も生きていない小娘達では考えられる筈がなかった。そして、それを考えてくれる人脈も、金も、地位も、何もかもを持っていなかった。故に、詰み。もう出来ることは無いと言えてしまった。

 

「……これ、美味しいかな」

 

 そう言ってシャーレイはローブの下に着けている煙草を取り出した。その中にはひなたが面倒だからと入れていたのであろう安物のライターと数本の煙草が入ったままだった。

 ミラはその声に気が付くと、シャーレイの方を一瞬向いたがすぐに視界を空に戻した。

 不味いに決まっている。そう言いたかったが、好きにさせておいてあげよう、とミラはシャーレイの行動に口を出すのを止めた。どうせ、この辺りを見に来る衛兵なんて少ないし、今のシャーレイはローブのフードを被って顔が見えない状態だ。顔から歳を推測なんて出来やしない。それに、この状態の自分達に話しかけられるのなら話しかけてみろとすら思っている。

 シャーレイは何となく、ひなたの煙草を咥えるとひなたの真似をしてライターに火を灯して煙草の先端を焼く。

 が、思った通りに火が付かず、四苦八苦している。

 

「あ、あれ……」

 

 時々火は付く物の、煙を吸える程度にならない。

 ミラは四苦八苦しているシャーレイの煙草とライターを奪い取ると、温泉街の時に教わった通りに煙草に火を付け、一回煙を吸った。

 

「げほっ……はい」

「あ、ありがと……」

 

 そしてミラから煙草を受け取り咥える。

 そういえば、ひなたから煙草を奪い取って吸ったこともあったっけ、と今更思い出したのも束の間。気道を通って己の中に入ってきた煙草の味の不味さやら肺に煙が入ってくる感覚やら、それが肺の中で重くのしかかっている感覚やらで久しぶりの煙草は前回と変わらず良いものではなかった。

 

「げっほ!? ごほっごほっ……やっぱり駄目かぁ」

「……吸ったことあるの?」

「……結構前に、何度か」

 

 大体、ひなたの差し金だろう、とミラは思った。大体その通りだ。

 煙草に咽たシャーレイは暫く火の付いた煙草を見てから、もう一度咥えた。そして、また肺に煙を入れて咽た。

 

「げほっ、ごほっ……」

「……何で二度も」

「…………これから先、ひなたちゃんを思い出せる物が煙草と起爆銃だけになるのかなって思うと……なんか、ね」

 

 そう。もうひなたを取り戻す算段はない。二人にはもうひなたを取り戻すために出来る事なんてなく、後はひなたが犯され殺されるのを知ることなく生きていく事しか出来ない。

 仮に、殺される前にミラの父が到着してヴァルコラキを殺したとしよう。そうした場合、ヴァルコラキに犯され続けたひなたがまた前のように笑って一緒に生きていけるか。そう聞かれれば否としか言いようがない。きっと、助け出したとしても近いうちに自ら死を選ぶに決まっている。シャーレイもミラも、恐らくそうするから。

 ひなたの精神がそこまで強くないのは、二人も知っている。強いのであれば、彼女は煙草と酒に逃げたりなんてしていないだろう。弱いからこそ、煙草と酒を使って人並みに立ち直ろうと努力する。最近はそこにセ○クスも混ざったが、そうして自分が立ち直ろうとしている事を知っている。だから彼女を犯された後に助けたとしても、それは無駄に終わるのだと、ただの仇討ちで終わるのだと分かってしまう。

 

「……もう、ダメなんだよね」

「…………」

「もう、むりなんだよね……」

「……」

「もう……ひなたちゃんをたすけるの、むりなんだよね……」

 

 徐々にシャーレイの声が震えてくる。それと同時に、体も少し震えている。いつの間にか煙草は燃えた先端が灰として地面に零れ、その上からは液体が落ちそれの温度を急激に落としていた。

 

「もう、ひなたちゃんに……あえないんだよね…………」

 

 その言葉への否定材料を、ミラは持ち合わせていなかった。

 そうだね、という今のシャーレイをどん底に落とすような言葉を口にしようとしてしまったが、それは幸いにも口から出ることはなく、シャーレイの肩に手を置くだけに終わった。

 それが引き金となったのか、声を殺しながら泣き出すシャーレイ。それにつられて泣き出しそうになってしまうミラ。このままシャーレイと共に大泣きしてしまいたい気分で、だけどシャーレイよりも年長なんだから、というくだらないプライドがそれを邪魔して。

 もうどうしようもなく、悲しい現実を突き付けられそれを受け入れるまで泣くしかなく――

 

「しけた面してんなぁ、お前ら。折角可愛いんだ。泣き止んだらどうだ?」

『……え?』




泣いている少女二人に何者かが声をかける事案が発生
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。