魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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察しのいい人ならひなたの正体にも見当がついている筈

その予想をぶち壊したいと思ってしまう


第六魔弾

 それは、唐突に訪れた。

 平和だった村。ひなたの口調の矯正も完璧に行われ、男としての言葉が出なくなった頃。魔弾使いとしてそこそこの腕を披露し、村の中ではよくさせてもらっていた頃。これから、この村を拠点に日本に戻る方法を、性転換して男に戻る方法を探そうと本格的に動き出そうとしたその時だった。

 ――空が、紅に染まった。

 

『お前だけは……お前だけはぁ!!』

 

 魔弾が空気を切り裂き、その先にいる男の体を貫く。しかし、体を貫かれたのにも関わらず、男は涼しい顔をしたまま、風穴の空いた腹を一撫でした。

 それだけでその傷は完全に塞がり、魔弾を完全に無効化した。

 

『なるほど……油断していたとは言え、私に一発当てるか……面白い小娘だ』

『黙れ! 黙れ黙れ黙れェ!! お前だけは絶対に殺す!! ボクの恩人達を殺してその肉体まで侮辱したお前だけは絶対に殺す!!』

 

 魔弾を生み出し、『左手』でそれを全て掴み口に放り込む。それを乱雑に噛み砕き、魔力を完全な暴走状態にする。それをなお完全な指向性を持たせて起爆銃の先端に集中させる。

 それを見た男は興味深そうにそれを見つめる。両手で照準を完全に合わせ、塵一つ残さず相手を消し飛ばす、今持てる中でも最強の威力を秘めた魔弾を、男にぶつけるため、暴れる魔力を完璧に制御して見せる。

 

『流石に防御手段も無しに当たれば痛くはあるが……』

『消し飛べェェェェェェェッ!!』

 

 そして、トリガーを引くと同時に魔弾は通常の威力の数十倍。もしかしたら数百倍の威力を持って放たれた。最早砲撃、ビームと化したそれは地を抉りながら男に迫り、呑み込んだ。

 暴れる魔弾の制御を行い、数十秒の照射の後に魔弾は完全に消え去った。魔弾が貫いた場所は地面が抉れている。正しく、魔力による暴力が行われていた。人間ならまず生きていないと思われるその光景を見て、起爆銃を下してしまう。やったのではないか。この惨状の仇を取れたのではないかと。思わず安心感と共に起爆銃を下してしまう。

 その瞬間。

 

『面白いぞ、気に入った。お前は殺さずに生かしてやろう』

『なっ……!?』

 

 その声は後ろから聞こえた。そんな、消し飛んだ筈じゃ。そんな恐怖にも似た焦りを感じながらも左手で起爆銃を持って振り返ったが、何故か起爆銃が振り返り、すぐそこにいる筈の男の眉間に照準を合わせない。と、言うよりも左手が言うことを聞いてくれない。

 

『だが、我に逆らった罪だ。左手は貰っていこう』

『…………は?』

 

 男は、剣らしき物を振り下ろしていた。いや、正確には振り下ろし終わっていた。 

 それが指す事は、何かが、ひなたの身体の何かが斬られたという事。それが、男の言った通りの物なのだとしたら。ヤケに生暖かい左手に、視線が向いてしまう。

 向けてしまった。

 

『あ、あぁ……? ああぁぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!?』

 

 左手のあった所からは、真っ赤な液体が、まるで噴水のように噴き出していた。

 それが綺麗だとは思わなかった。何故なら、それが腕の代わりに噴き出しているのだと分かったから。起爆銃を……唯一の武器を持った左手は、地面に無様に転がっているのだから。

 

『う、腕がぁぁぁぁぁぁぁ!!? ひ、左手が、き、斬られて!!? 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!』

 

 錯乱。腕を斬られたという現実を認識し、認めてしまったその瞬間、左手を失ったという恐れと恐怖。そして、尋常ではない痛みが襲い掛かる。

 それをさも当然のように受け入れる事は出来ない。目の前にいる脅威を排除するという事が考えられなくなり、文字通り本当に何も考えられなくなってしまう。

 

『耳障りだ』

 

 悲鳴を聞き、単純に耳障りだと思ったのか。男は首を掴むと、無理矢理気管を圧迫して黙らせた。

 脳に酸素が送られなくなった所で、更にパニックが襲う。どうしたらいい。どうしたら生き残れる。どうしたら無事でいられる。そんな意味のない葛藤が頭の中を巡り、痛みがそれを次から次へと蝕んで消去していく。

 

『余計な事をした罪だ……少し、痛めつけてやろう』

 

 刹那。体が一瞬の浮遊感を得て、直後に腹にまるでトラックがぶつかったかのような衝撃が走り、視界が急激に男から離れていく。そして、背中に固いものが当たり、勢いが完全に殺される。が、ぶつかった物が燃える家屋だと理解した時には既に遅く、体を……着ている服を既に炎が包んでいた。そして、胸元から流れる血が一瞬にして意識を飛ばしにかかる。

 

『あ、あぁぁ…………』

 

 燃え盛る家屋の中、己の体を包む炎に声すら焼かれ、何時の間にか斬られていた胸元からはおびただしい量の血が流れ、痛みに喚き叫ぶ事すら不可能になってしまう。

 が、それだけでは終わらなかった。終わらせてくれなかった。

 体が、打ち上げられた。横っ腹を抉るように下から、何の脈絡もなく突き出された槍が突き出し、体を打ち上げる。直後、地面から無数の槍が突き出され、体に刺さらない程度に肌に傷を付け、完全に体を固定した。その直後、上空から真っ赤な液体が全身に降り注ぐ。

 

『我が血をくれてやった。これで貴様は我等の仲間入りだ』

 

 真っ赤な液体で消火されたが、意識は依然朦朧としている。男は何の原理か分からないが、飛んで真上に陣取ると、胸に人差し指を置くと、そのまま大きく胸元を切り裂かれた傷口に指の第一関節程までを突っ込んだ。最早、死ぬ寸前で意識も感覚も薄れているため、傷口を抉られようと何も感じなかった。

 だが、男の声だけは、鮮明に聞こえた。

 

『だが、放っておけば死にかねないのでな。少し細工をしてやろう。貴様はこの後も外見も中身も普通の人間だ。我等寄りの、な。故に、我等の弱点は受けぬ。だが、貴様の本来の力の大半は制限をかけよう。でなければ面白くないからな。この制限を解除するには……そうだな。我等と同じ食事をする事。そして、もう一つは――――だ。どうだ、面白いだろう…………ぬ? だがこれではタダの……まぁよい。これも面白いだろう』

 

 胸の傷から指が抜かれると同時に、体の上に魔法陣のような物が浮かび上がり、それはゆっくりと体の中に入り込んでいくと、その姿を消した。

 男は満足したのか、地面から出現した槍を己の手で叩き折ると、手を掴んでそのまま壊れた玩具を扱うかのように放り投げた。最早、抵抗する事すら出来ずに全身から血を流しながら地面をボロ雑巾のように転がる。

 

『貴様がどんな苦悩を抱え生きてきたのかを拝見するのが楽しみだ。なぁに、我が自ら作った玩具だ。それがどんな事をしたとしても、それを我自らの手では壊しはせぬ。精々、苦しみ抜きこの世に絶望し孤独に蝕まれながら生きるがよい』

 

 ああ、これじゃあもう、誰かと一緒になんて、生きられないな。この世界でたった一人で生きていかなきゃならないんだな。そう思った。

 だって、もう、この体は。

 怪物そのものに、変貌してしまったのだから。

 この体は、人に害なす物であり、人に受け入れられず、人を辞め、光を受けられない体なのだから。

 そして、意識は完全にシャットダウンされた。

 これがひなたの。暁ひなたの身に数か月前に起こった事件の一端であり、その日までの充実した生活が。異世界での生活が一瞬にして崩壊した、たった数時間の間での出来事だった。

 

 

****

 

 

 シャーレイと出会ってから次の日。ひなたにとってはかなり憂鬱な朝となった。と、言うのも前日の夜中。ひなたはシャーレイの首筋に噛み付き吸血した。それはひなたの幾つかある誰にも話せない秘密の一つだった。

 吸血をする時、もしくはそれに対する枷が外れた時、ひなたは目が赤くなる。これはひなたが腕を失った事にも直結する事であり、誰にも言えない事だ。

 幻肢痛は何時もなら声を抑えて耐えていた。が、今日は魔力切れで気力が大分きれかけていたのもあった。痛みを堪えきる程の気力が無かった。だから、シャーレイを起こしてしまい彼女の血を吸って気持ちを落ち着け幻肢痛を乗り切る事になってしまった。それ以上の事をしてしまいそうになったが、何とか理性で乗り切れた。

 ひなたの吸血には他人を害する効果はない。精々多少発情する程度だ。だが、それでも十分に他人に気持ち悪がられる。軽蔑されるラインを超えてしまった。きっと、シャーレイもひなたの事を軽蔑するだろう。汗に濡れた寝間着を脱ぎ、私服に着替えた。

 それから約十数分後にシャーレイは目を覚ました。

 

「……ひなたちゃん?」

「おはよう、シャーレイ」

 

 シャーレイは寝ぼけてるのか目を擦っている。だが、すぐに表情を歪めて首筋に手を当てた。

 やっぱり、軽くだろうけども痛むのだろう。昨日は痛みを堪えるあまり結構強くシャーレイの事を噛んでしまった。結構痛むだろう。ひなたはすぐに消毒液とガーゼとテープを用意すると、首筋を治療するためにシャーレイに近寄った。

 

「あ、大丈夫だからいいよ」

「そ、そう?」

 

 だが、シャーレイにそれは拒否された。少し傷付きながらもひなたはそれ等を鞄の中に適当に放り込んだ。

 一緒にいればいずれバレるのは分かっていたが、やはりこうして現実になるのはキツいものがある。もし、彼女が誰かにこれをチクろうとしたのなら、ひなたは最悪の場合はシャーレイを始末しなくてはならない。でなければ、ひなたは駆除連合の駆除対象になるかもしれない。

 ひなたは死にたくない。死ねない。死ぬわけにはいかない。そのためには何だってすると決めた。それが、ひなたの心を壊すことだろうと。人間を止めることに繋がろうと。

 どうにかしてシャーレイとの会話のネタを捻り出そうと考え込んだ時、シャーレイから言葉が飛んできた。

 

「ひなたちゃん、昨日の……ゲンシツウ? は大丈夫なの?」

「え? ……あぁ、うん。十数分で止まるものだし」

 

 昔は日に五、六回あったが最近は夜中に一回のペースにまで落ち着いてきている。かなり落ち着いたと言える。

 だが、気になるのはそこじゃない。そこは決して重要ではない。そこは大して重要でも無ければ話題にする事ではない。その後に起こったことが。幻肢痛の最中の、あの行為が重要なのだ。

 

「……ボクの事は、気にならないの?」

「え?」

 

 そう、馬乗りになり、押し倒してまで血を吸ったあの時を。

 気力と体力の限界の中、とうとう理性が崩壊し、吸血を行ってしまった、あの時の事を。あの十数分の出来事を。

 

「吸血したんだよ、君を。馬乗りになって、君の首筋から血を吸ったんだよ!?」

 

 まるで、吸血鬼のように。怪物であり、人間の敵とも言える、あの吸血鬼のように。押し倒して無理矢理、その首筋から。傷一つない綺麗な首筋に二つの穴をあけ、そこそこの量の血を吸った。いきなり、何の忠告もなく、痛いよ。の一言だけを告げ、穴をあけた。

 だが、シャーレイは何も言わない。それどころか、キョトンとしている。一体何が変なの? と言わんばかりの表情だ。

 

「……それがどうかしたの?」

「ど、どうかしたのって……気持ち悪くとか、ないの?」

「別に?」

「怪物みたいだ、とか人間じゃない、とか!」

「全然?」

 

 ひなたが思わず唖然とする。

 この子は一体何を考えているんだ。それとも、何も考えてないのか? 脳天気の化身か何かなのか? 思わず皮肉や罵倒じみた感想が頭の中を巡ってしまう。

 だが、シャーレイはその理由をすぐに口にした。

 

「ひなたちゃんがそれで痛みを紛らわせれるんなら、私は血なんて幾らでもあげるよ?」

 

 その言葉に再び唖然とする。彼女は、それを本気で言っているのか。血程度、どれだけでも吸っていいと。本気で言っているのか。

 だが、それは理由にならない。血を吸ってもいいという心情とひなたに対する思いは決してイコールではない。それはまた別の事だ。また別の話だ。それが気にならない訳がない。目の色が一瞬にして変わる人間を気持ち悪いと思わない訳がない。

 ひなたはそれを口に出す。ただ、心の中の気持ちを全部ぶつける。

 

「そんなの……ボクを軽蔑しない理由にはならないだろ!?」

「なるよ。だって、ひなたちゃんは私を拾ってくれたから……こんな私と一緒に居てくれるって言ったから。だから、私はひなたちゃんが怪物だとしても、私を助けてくれたひなたちゃんは偽物じゃないって信じているから。私はひなたちゃんを軽蔑なんてしないし、隠している事を探ろうともしないよ」

 

 開いた口が閉じなかった。

 たったあれだけで。その日に起こった事だけをひなたの人格そのものだと思い込み、ひなたは悪い人間ではないと。人に害を成す怪物ではないと、そう断言した。

 その言葉に返す言葉が見つからなかった。そうだとしても、ひなたの秘密は尋常ではない。ひなたの体は、最早人が受け入れられる許容範囲内を完全に逸脱してしまっている。だから、この言葉もすぐに撤回される。その秘密がバレた時点で、ひなたは軽蔑されてシャーレイはひなたを軽蔑し、人外だと断言されてしまうだろう。

 だけど。だけれども。もしかしたら彼女は、シャーレイはこんな秘密まみれで、その秘密もロクでもない……バレたら最後、怪物としてしか受け入れられない秘密を持つひなたを受け入れてくれるただ一人の少女かもしれない。

 だからか、安心してしまった。もしかしたら、彼女とはこのまま一緒に居られるかもしれないと。面倒だから、義理はないから。絶対に、受け入れてもらえないからと切り捨てかけた彼女は、この孤独で惨めな人生に光を差し込んでくれるたった一人の少女かもしれないと。

 

「……本当に、そう思ってるの?」

「うん」

「ボクが、まだ秘密を隠し持っていても?」

「うん」

「その秘密が、どれだけ禁忌を犯している秘密だとしても?」

「大丈夫。私は、ひなたちゃんに捨てられるその日まで、絶対にひなたちゃんの側を離れないから」

 

 捨てられるまで、か。

 それじゃあ、ずっと一緒じゃないか。

 彼女を、たった一人の理解者だと思い心を許したって、いいんじゃないか。

 

「……うん。その言葉、信じるよ」

 

 最初は我儘で面の皮が厚くて人と一緒じゃなきゃ生きられない、自分の事しか考えていないような少女かと思った。これに関しては、今更考えを変えるつもりはない。

 だけど、きっと彼女はこの世界でひなたの事を分かってくれる、たった一人の女の子だと。かけがえのない存在になるかもしれない少女だと。そんな、直観めいた確信が生まれた。

 自然と溢れる涙を、右手で拭い、シャーレイに向かって笑ってみせた。

 シャーレイも、それに応え、少し困惑したような表情をしてから、笑い返した。

 きっと、ここから。ここから、変えていける。

 そして、きっと。全ての元凶たるあの男を、抹殺出来る。仇を取ることが出来ると。そんな根拠のない自身が、ひなたの胸の内でふつふつと沸いてきた。




これ、TS物じゃなくていいんじゃないかな、と思った最大の理由。

TSしてから一年後からスタートだから女として振る舞うのにひなたが慣れきってしまっている。別にひなたが元から女でもストーリーは破綻しないという。

ならなんでTSさせたかって?

その時の気分だよ(滅茶苦茶)
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