魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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対ヴァルコラキ最終話


第六十魔弾

 ヴァルコラキの変身。それは四人を大いに驚かせたが、ひなたにとって、それは予想外であってこそ、想像しきれていないという訳ではなかった。何せ、日本での吸血鬼は確かに人型ではあるが、吸血蝙蝠とも言える扱いをされている。蝙蝠の羽を持ち、眷属は蝙蝠。そんな吸血鬼が何とも言い難い姿をした生物に変身するのだって、アニメで見なかった訳ではなく。

 無辜の怪物、とでも言うべきか。本来血を飲む怪物としてのみ描かれていたドラキュラがその話を曲げ、膨張され流れ着いてきた。その中で原典にもある能力として怪力無双、そして変幻自在という物がある。

 吸血鬼の王たる真祖の力の中にこれらが無いのは不自然であり、変幻自在の能力でこうして変身したとしても何ら不可思議な事はなかった。いや、もしかしたら変身後の姿が本来の姿なのかもしれない。それが変幻自在の能力で人間に変身し、何百年も若い体で好き勝手やってきた。

 しかし、それはあくまでも想像の域を出ない。今やるべきことはこうして妄想しているのではなく、目の前の怪物を、ヴァルコラキの討伐である。イヴァンも最初は惚けていたがすぐに剣を片手にミラの前へと移動し、ミラもそれを見てからようやく意識を戻す。が、それまでの数秒が完全な隙となってしまう。そんな隙を突かれないように小細工するのはひなたの仕事だ。

 イヴァンが飛び出す前に魔弾を三つ生み出し、それを噛み砕く。魔弾の中に内包された魔力が己の中を駆け巡り、そこに己の魔力を加えた魔力の塊を銃口の前に生み出し、引き金を引きシューターを放つ事でその魔力を開放する。

 

「ジェノサイドブレイカー・マルチレイド」

 

 ごっそりと己の内の魔力が消えていく感覚と共に一本一本がジェノサイドバスター並みの拡散ビームがヴァルコラキへと殺到する。もう残りの魔力は半分を切っている。ジェノサイドバスター系の魔法を乱発しているのが魔力の消費を早めている。もう後ジェノサイドブレイカーを撃てるのは三発程度だろうと己の魔力を把握しつつ、ジェノサイドブレイカーの行く先を見守る。

 が、一本一本が素の状態のジェノサイドバスターよりも威力が高いジェノサイドブレイカー・マルチレイドはヴァルコラキが目障りと言わんばかりに振るった手によって全弾掻き消されてしまう。それに対してひなたは盛大に舌打ちをすると同時にヤバい、と冷や汗をかく。

 ジェノサイドバスターが効かない。つまり、今のヴァルコラキに効くのは少なくともジェノサイドブラスター並みの砲撃という事。ブラスターなら後八発は確実に撃てるが、バスターなら十五発は撃てた。つまり、それだけひなたの援護の手段がなくなっていくという事だ。

 マルチレイドを掻き消されたのを見てからひなたはすぐに引き金を引き、シューターを四発放ち、シールドを目の前に展開する。紅に染まったシューターがヴァルコラキへと向かうが、最早ヴァルコラキはそれに対して何もしない。その身で受け、ダメージをくらう。が、とても目に見えるダメージが入っているようには見えない。

 が、そうしてひなたが一瞬ずつヴァルコラキの気を引いた甲斐もあり、ミラとイヴァンは再起動し、完全に戦闘態勢に入った。ひなたは自身の仕事を一応完遂出来たことに一息つき、あれほど邪魔をしたのにこちらを率先して潰そうとしてこないヴァルコラキに対しても安堵した。

 ヴァルコラキが先程の、マイヤーズ親子がフリーズしている間にひなたに肉薄して殴ってきたらひなたが避けきれずにザクロになってしまう可能性があった。それをしてこなかったのは、慢心か作戦か。はたまたまだひなたの事を諦めていないのか。どれかは分からないが、それでもヴァルコラキと正面切って殴り合いたくはない。例え左手が健在で全魔力を使える今のよう状態であっても、だ。

 

「ミラ、仕掛けるぞ!」

「……最初から全力」

 

 再起動した二人が言葉で作戦を伝え合う。作戦と呼べる物ではないが、それでもイヴァンはミラの動き方を一から十まで把握しているしミラも同様だ。親子だからこそ、余計な言葉はいらない。そして、ひなたとの連携はイヴァンは長年の経験でひなたの援護を察し、ミラは既に頭にひなたの戦い方を叩き込んでいるため問題はない。

 それ故に互いが互いを信頼し全力をもって動くことが出来る。ひなたも聞こえてきた二人の会話から後衛として、前衛の二人の動きを頭の中で何パターンも想像し、その全てのパターンに対して有効な援護を頭の中で弾き出す。たった一年ちょっとという短い期間、ずっと一人で戦ってきたひなたがこうしてフルバックで有効な援護を出来るのも、マイヤーズ親子の常識を超えた戦闘能力と、魔弾使いとして戦っていくと決めた時、恩人たるバーニーからの教えから成るものだった。

 魔弾使いとして基礎中の基礎。後衛での二対一、もしくは三対一での援護方法。それを最初に基礎として習ったからこそ、戦いの大半を一人で済ませてきた現状でも後衛を務める事ができる。

 

「ッ!!」

 

 イヴァンが鋭く息を吐き、空気に溶けるようにその姿を消し、その一瞬後にヴァルコラキの背後、頭から股下まで真っ二つに出来る位置に出現する。魔法か何かかとは思うが、もしかしたら小手先の技術なのかもしれない。

 イヴァンがその剣を振り下ろす。が、その直前にヴァルコラキはイヴァンの動きに反応し、剣先がその頭に触れた瞬間にはイヴァンの体を横から降った拳によって吹き飛ばされた。

 

「ガッ!?」

「……背中を見せた」

 

 イヴァンが血を吐きながら吹き飛ばされるが、既にひなたが着地点に向かって走っている。彼女は治療もできるとミラは知っているため即死じゃないのを目視で確認しつつ、背中を見せたヴァルコラキへとイヴァンのような技ではなく、単純な自身の身体能力を使って肉薄する。そして、斬撃の範囲内に入った瞬間に振るわれるミラの剣。

 それはヴァルコラキの体を一刀両断、とはいかなかったものの、かなり大きな切り傷を作り出し、血を噴出させた。ミラはそれを魔法によって瞬間的に冷凍させ、血液のよる魔法が使われないように工夫し、再び剣を振るう。が、すぐにミラの直感がそれはマズいと訴え、それに従い杖と足を使い体を後ろへと飛ばすと、ミラの斬った場所から槍が伸び、ミラを襲った。

 もしも追撃をしていたら串刺しにされていたかもしれない。背中に冷たい物を感じながら剣を振りつつ下がり槍を叩き折っていく。

 そして吹き飛ばされたイヴァンは壁に叩き付けられていたが、ひなたがすぐに彼に駆け寄った。

 

「これを!」

 

 近寄ったひなたが彼の状態を確認し、骨こそ折れていないが相当なダメージを受けたのが見ただけでも分かったため、これならまだ助けられると察してイヴァンの体に回復魔法の魔弾を彼の体に六発押しつけ割る事によって回復をかける。

 イヴァンの体が頑丈だった故か回復は六発で十分であり、イヴァンは若干咳と共に血を吐きつつも立ち上がり置いていた剣を手にし構えた。

 

「いっつつ……油断した。サンキュ、嬢ちゃん」

「それよりも。アイツは……」

 

 礼を言われるひなただが、そんな事は今はどうでもいいと言えた。その理由は、真正面で今もミラが対峙しているヴァルコラキの事を懸念していたから。変身したヴァルコラキは明らかに速さが増している。力の方も、こうしてイヴァンが一撃で倒れた以上、そこそこ上がっているのが容易に分かった。それをイヴァンとミラが、最早一瞬気を逸らす程度しか出来なくなったひなたの援護だけでどうにかこうにか勝てるのか、というのが今の懸念だった。

 イヴァンとミラの腕を信用していない訳ではない。だが、それ以上に変身したヴァルコラキはひなたにとって脅威となっていた。が、イヴァンはそれを聞いて大丈夫だ、と呟いた。

 

「デカくなった分斬りやすい。速さでも、まだ俺達が何とかできる域だ」

 

 さっきは油断していただけ。そう言うイヴァンは若干胡散臭かったが、それでもそう豪語するのなら、信用するしかない。ここでこの戦闘の要でもあるイヴァンが死んだらひなたも、ミラも……そして、シャーレイも死んでしまう。それ故に、今は彼の言葉を信用するしかなかった。

 

「そんな分けだ……これ以上、パワーアップされる前に殺す。全力で仕掛けるぞ」

 

 これ以上を許さない。そのためにここで殺す。

 これ以上のパワーアップがあるとすると、ここに居る三人ではどうしようもなく殺される可能性が出てきてしまう。それを頭の中に思い浮かべたからこその言葉だった。

 イヴァンとて、このパワーアップは予想外だった。何故ならヴァルコラキが人の姿を脱ぎ捨てるなんて情報は一切聞いていなかったからだ。そんな聞いていない事をされた以上、もう一回、もう二回と聞いていないことをされるかもしれない。だから、これ以上遊んでいる余裕はない。ここで仕掛ける。

 

「……ボクはどうすれば」

「目を潰してくれ。あの魔法でな」

 

 あの魔法。それが一瞬何なのかが分からなかったが、すぐにそれがジェノサイドブレイカーなのだと分かった。だが、それは連発できる物ではなく、ひなたの切り札的魔法だ。

 

「流石に連射は出来ないから一発だよ」

「十分だ。秒単位で時間を稼いでくれれば十分だ」

「秒単位……結構キツい事を言ってくれるね」

 

 ヴァルコラキ相手に秒単位の時間を稼ぐ。これがどれだけ難しい仕事なのかは二人とも把握していた。だが、稼がなければヴァルコラキを殺す一手を打つことが出来ない。それが分かっているからひなたも首を縦に振らざるを得なかった。

 チャンスは、恐らく何度かあるだろう。だが、一度目を防がれたら二度目のチャンスを物に出来るか、と言われれば怪しいものがある。つまり、チャンスは実質一度のみ。その後のチャンスは運が良くなければやってこない。ひなたはそのチャンスを物にさせる一番槍とも言える。その大役に冷や汗を掻きながらも頷き、三発の魔弾を噛み砕く。それと同時にひなたの起爆銃の銃口に魔力が集まっていくのをイヴァンは察し、ひなたの肩を叩く。

 

「頼んだ」

「何とかするよ」

 

 いや、何とかしなければならない。緊張感に胸中を支配されながらも深呼吸を一つして起爆銃を構える。

 

「ミラは?」

「合わさせる」

「させるって……まぁ、そうしなきゃ駄目なんだろうけど」

 

 息を一つ吐き、銃口を向けつつイヴァンへと視線を向ける。こちらはもう撃てる、という意思を乗せたその視線をイヴァンは受け取り、一瞬でミラの傍へと向かい、一言二言、小声で会話をしていた。その最中、ミラがこちらへと視線を向けてきたため、ミラもこちらの思惑に気が付いたのだろう。ならば、後はやるだけだ。

 大きく息を吐き、照準をヴァルコラキの頭へと向ける。

 チャンスは一度。これを物にしなければどうしようもなくなる。だから、絶対に外せない。

 

「……ジェノサイド、ブレイカーッ!」

 

 気取られないように小さく息を吐くように叫び、引き金を引く。先ほどまでは己の制御下にあった魔力が離れていく感覚と共に意識が落ちかける。が、それを歯を食いしばって耐え、ジェノサイドブレイカーの行く末を見守る。

 頼む、当たってくれと願い……

 

「ぬぅ!?」

 

 その願いは悲しく、ジェノサイドブレイカーは外れた。いや、厳密には当たったのだが、それはヴァルコラキの顔の半分、更に半身の幾ばくかを消し飛ばすだけに終わった。

 しまった、とひなたはすぐに第二射のため魔弾を生み出そうとする。

 が、その前にミラが動いた。

 元より稼ぐ時間は秒単位で十分。それ故に、顔の半分を消し飛ばした時点でそれは成せている。後はマイヤーズ親子の腕次第。ミラは一瞬だけひなたに視線を向け、すぐにヴァルコラキへと向ける。

 

「……斬るッ!」

 

 顔が消し飛んだ方からミラが大雑把な軌道で一気に距離を詰める。

 ミラの仕事は、腕を斬り飛ばす事。厄介な防御をさせないためだが、逆に言えばそれしか出来ないため、ミラはそれを請け負った。

 ひなたが稼いだ時間。常人には僅か過ぎるその時間はミラにとっては十分な隙となる。

 杖から手を放し、両手で剣を握り片足だけで飛び、ヴァルコラキの腕を狙う。

 

「甘いわッ!!」

「っ!?」

 

 だが、そうして突っ込んできたミラをヴァルコラキは己の両目でしっかりと捉えていた。

 そう、両目で。

 

「再生っ……!?」

 

 そう、ヴァルコラキは顔半分が吹き飛んでからミラが仕掛けるまでの僅か一秒にも満たない時間のうちに顔半分を再生させた。ミラすら、気が付けない速度でだ。

 それ故に、ミラが同様ゆえに剣筋が、剣を振るう速さが落ちてしまう。

 そんなミラを見てヴァルコラキは嘲笑う。ここでミラを一撃で殺し、後はイヴァンとシャーレイを殺す。勝ち筋が見えたが故の傲慢な笑い。ヴァルコラキの、僅かに残っている傷口から槍が伸ばされようとし、杖から手を放しているミラではもう避ける事が不可能ゆえに、ミラはどうにかして生き残るために全神経を集中させ。

 

「当たってぇ!!」

 

 それ故に、ひなたからも離れ、既に戦闘からはフェードアウトした筈の少女の声と、それと同時に聞こえてきた二回の火薬が爆ぜる音に気が付けなかった。

 

「なぁっ!?」

 

 ヴァルコラキが気づいた時には、それは……シャーレイの拳銃から放たれた銃弾は目の前にあった。秒単位ですらない照準合わせで放たれた二発の弾丸はヴァルコラキの両目に当たる軌道を取っており、その弾丸の速度はヴァルコラキの両目を十分に潰せる程だった。

 完全に勝ちを確信していた。いや、シャーレイという矮小過ぎる存在を放置し忘れてしまっていたからこそ、こうして油断し、ひなたがジェノサイドブレイカーを撃った直後に放たれていた銃声を、シャーレイの声を聞き逃してしまっていた。

 偶然。正に偶然の出来事だったが、一人の少女が起こした偶然は完全に勝敗を逆転させた。

 

「馬鹿なァァァァァァ!!」

 

 二発の弾丸はヴァルコラキの両目へと吸い込まれ、そして飲み込まれていった。それを証明するかのように噴水の如く目から吹き出すヴァルコラキの血液。それと同時に視力が失われ再生を一瞬で行おうとも噴出した血が邪魔で前は真っ赤に染まっている。それ故に、生やした槍はヴァルコラキの目の出血を見てから急いでブレーキをかけたミラには当たらず、地面を抉るのみ。

 目の前を通っていく槍に冷や汗を掻いたミラだが、すぐに動き出す。魔力を乗せた斬撃で一気に目前の槍を斬り飛ばし一瞬にしてヴァルコラキの懐へ。

 

「ハッ!!」

 

 そして一息でヴァルコラキの腕を肩から斬り飛ばし、ヴァルコラキの視力が戻ったころにはミラはもう片方の手も斬り飛ばしていた。

 両手を斬り飛ばされたヴァルコラキ。更にミラはついでと言わんばかりにヴァルコラキの両足を斬り飛ばし、心臓へ向けて剣を投げ、心臓を投げた剣だけで貫き、体を貫通させる。

 そして、達磨となったヴァルコラキは一瞬で体を再生させようとするが、その一瞬は致命的な隙。イヴァンが見逃す訳がない。

 

「あの世で殺した女達に裁かれろ、クソ野郎」

「馬鹿めッ! 例え首を跳ねられようと――」

 

 そして、ミラの後ろを走り、ミラが両手両足と心臓を潰した時には既にヴァルコラキの目の前へとその身を踊りだしていたイヴァンがヴァルコラキの首が跳ねる。

 更に跳ねた首をイヴァンは空中で十字に切り裂き、四分割する。

 ヴァルコラキは首を跳ねられても生きることが出来る。それ故に、イヴァンは何か別の、真祖に対する特攻武器を取り出してくるのかと思っていた。それ故に、イヴァンの持っている剣そのものが真祖に対する特攻武器だとは思っていなかった。

 思い込みが生んだ最後とも言えた。

 

「馬鹿はお前だ。コイツぁ、不死殺しなんだよ」

 

 地に足を付けたイヴァンが剣を鞘に納める。

 それと同時にヴァルコラキの体は地に落ち、四分割した頭は生々しい音を立て床に血の水たまりを作る。

 首を跳ねられたヴァルコラキの体は動くことなく、また頭もそれ以上何かを喋る事は無かった。

 

「……仇は取ったぜ」

 

 イヴァンは、小さく、しかし噛み締めるように呟くと、不死殺しの柄から手を放した。

 ヴァルコラキの討伐は、この瞬間に叶った。




決着

次回、エピローグ
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