起爆銃。
ひなたのメイン武器にして替えの効かない相棒でもある。
ヴァルコラキの件が起こる前にひなたがそれのメンテをした結果、パーツにヒビが入っていたのは記憶に新しい。が、実はヴァルコラキ戦が始まった際、そのパーツはヒビが入ったまま交換されていなかった。その状態でひなたはヴァルコラキとの戦闘に入り、ジェノサイドバスターもジェノサイドブラスターもジェノサイドブレイカーもバカスカ撃ちまくった。しかし、起爆銃はその酷使の中何とか故障する事無く己の役割を果たしてくれた。
が、それでもパーツにヒビが入っていたのは事実。その状態で無理をさせて何やかんやでパーツ交換もメンテも忘れてボーっとしている事三週間が経過した。
ふと気が付きパーツを受け取りに行ったはいいが、一か月も来店しなかったひなたに対して少し違和感を感じた店主が起爆銃の解体を若干無理矢理に行った。そうして判明した事が――
「まさか銃全体が自壊寸前だったなんて……」
そう、外装も細かい所にヒビが入り、内部パーツに至っては殆どのパーツがボロボロだった。
限界が来ていた状態で何発もジェノサイド系統の切り札を撃ちまくっていた弊害だった。あと一回でもジェノサイドバスターを撃とう物なら本当に銃がバラバラになってしまうかもしれない、という所まで起爆銃はボロボロになっており武器屋の店主にひなたはド叱られた。正座までさせられて説教された。
一応ひなたにも事情はあると分かっていたから数分の説教で終わったが、それでも武器は大切にしろと念を押され、ついでに限界になったパーツの全交換もされた結果、金が面白いように飛んで行った。それこそミラの剣を本格的なメンテに十回は軽く出せるレベルで金がすっ飛んで行った。その程度で何とかなるからまだ良かったが、もしも壊れていたらひなたは部屋に引き籠るレベルでショックを受けていただろう。それ位に色んな思いが詰まった武器だったため、金で何とかなるのならまだ安い方だった。内心ではヴァルコラキこの野郎と地獄に送られた真祖へ向かって中指を立てていたが。
「ひなたちゃんが居ない間に私がやっておくべきだったかな」
「大丈夫だよ、大丈夫……多分、あの戦闘で銃全体にかなりの負荷がかかっちゃっただけだから」
今まで数回しか使ってこなかったジェノサイド系統をもう一生分かと思える位に撃ったのだ。あそこまで酷使したのならこの結果は至極当然とも言えた。
流石にこの歳になって異世界に来ても説教されるとは思っていなかったひなたはかなり疲れたような表情をしており、何時もはしっかりと伸びている背筋は今は丸まって猫背になった状態だ。ある意味ヴァルコラキ戦よりも疲れたと言ってもいいだろう。完全に過言だが。
成人してからの初説教に何となくの胃痛を感じながらもそうした疲れを紛らわすためにポーチの中を漁る。理由は何時ものように煙草を吸うためだ。
煙草の箱を取り出して中の煙草を一本、箱を動かしたり指で叩いたりして箱から出し、口に咥える。そしてライターも取り出した所で箱の中に携帯灰皿が入っていないのにようやく気が付いた。箱を覗き込んで中に携帯灰皿が入っていないのを自分の目で確認してから箱をポーチの中に戻すついでに携帯灰皿がポーチの中にないか確認するが、中には財布があるだけで携帯灰皿は入っていなかった。
「……どうかした?」
「あー、いや。ちょっと携帯灰皿を忘れたっぽくて……」
と言いながらも携帯灰皿を何処へやったか、頭の中の記憶を漁っていると、丁度昨日に携帯灰皿がいっぱいになったので掃除して、そのまま放置していたのを思い出した。それから携帯灰皿を触った記憶が無いので完全に家に忘れてきているのだろう。
自分が軽く無能に思えて頭を抱える。それに、さぁ煙草を吸うぞ、と意気込んで吸えない時のもどかしさは結構辛い物がある。目の前で好物をお預けされているような気分だ。
だが、ふとこの付近にスタンド灰皿が付いた公園があるのを思い出した。トイレの近くに無造作にあった筈だ。
「ちょっと近くの公園に寄っていいかな?」
「いいけど……ちょっとは我慢したら?」
「ははは、もう無理」
シャーレイと会う前なら一日一本だったんだけどね、なんて言いながら既にひなたの足は公園に向かっている。それを見てシャーレイもミラも溜め息を吐いた。
「……私もちょっとお花摘んでくる」
「あ、じゃあ公園の入り口で待ってるね?」
早く早くと足を動かしているひなたの後ろでミラがシャーレイにそう言っていた。目の前のヘビースモーカーがついでにもう一本、とかしないための見張りか、それとも丁度行きたくなったのか。どっちかはひなたには分からないが今は煙草の方が優先度が高かった。
そうこうし歩いて一分二分。公園に着いた三人はひなたが喫煙に、ミラがトイレに、シャーレイは公園の入り口で一人待つことになり、ひなたとミラは行く場所が大体一緒なので二人一緒に歩いていた。
「……煙草、少しは我慢しないと」
「いやー、我慢出来たら禁煙なんて言葉生まれないよ」
「……シャーレイがヒナタとのキスは煙草味って愚痴ってた」
「それは……我慢してもらうしか」
一日に二十本近くは吸うようになってしまったひなたとキスして煙草の味がしないのは食事の後か寝る前に歯を磨いた後くらいだ。それ以外は大体煙草に手を付けているため昼間だろうが寝る寸前だろうが基本的にひなたの唇は煙草味。この世界の煙草は一箱二十五本入りだが、日本なら一日で一箱。充分に吸い過ぎだった。
日本に帰る事が万が一、億が一にもあればきっとひなたは金欠で悲鳴を上げ続ける事だろう。だが、この世界の煙草は安いため今のひなたは特に困っていない。
「じゃ、ボクはとっとと吸ってくるから」
「……一本だけ」
「流石に外でそんなスパスパ吸わないよ」
トイレの前でミラと一旦分かれてひなたはトイレのすぐ近くにあるスタンド灰皿の前に立ってようやく煙を吸い込む。
煙が肺を満たしていく感覚に何とも言えない心地よさを覚えながら少し吸って生まれた灰を灰皿の中に落とす。悪い事も一切この瞬間だけは忘れて自分の口から出てきた煙が空に昇り消えていく様子を見届ける。
思えばこの世界で煙草を吸い始めてもう何か月も経った。その間に色々あって、何かある度に一日で消費する煙草の本数は増えていった。日本に居た頃は金の無駄だから吸わないとか言っていた記憶があるがこうして触れてみてしまえば一発で堕ちた。もう煙草は友達、人生から切って離せない存在になってしまった。
きっとこれから一生煙草とは付き合っていくんだろうなぁ、なんてどうでもいい事を考えながら煙を吸い、ふと入り口で待っているのであろうシャーレイに目線をやる。
何時も恥ずかしい目に合されているから視姦でもしてやろうかと思い視線を向けると、何やら見知らぬ男二人がシャーレイに話しかけているようだった。道でも聞かれているのか? と思ったがシャーレイの表情を見るに何やら困り果てているらしく、男二人は結構いけ好かない表情をしている。よく見れば武器らしき剣を吊っている事から駆除連合で生計を立てている人間らしい。
時々シャーレイに触ろうとして避けられている所から、調子に乗ってナンパでもしに来た、という所か。男達の立ち回りを見てみると、そこまで腕の立つ人間という訳でもなさそうで、ひなた一人でもどうにかなりそうだしミラが戻って来たら文字通りぶん投げられてお星様になりそうな男達だった。
だからミラが来るまでシャーレイに耐えてもらう、というのを一瞬考えたが、どうにも惚れた子に手を出されるのはちょっと頭に来たらしく、ひなたは煙を吸うのを中断し煙草をスタンド灰皿に突っ込んでからシャーレイの元へ向かった。
「いいじゃん、ちょっと遊ぶだけだしさぁ」
「だから間に合ってますってば……」
「へーい、そこの彼女お茶しなーい?」
もう完全なナンパだった。しかも結構しつこいらしく、シャーレイの表情はもうミラを呼んで荒っぽく終わらせてもらおうか、なんて考えている顔だった。一歩間違えれば血が流れていたかもしれない。
ひなたもナンパっぽい感じでシャーレイに後ろから声をかけた。これは完全におふざけだが。
「へ? あ、ひなたちゃん?」
「だいじょぶ? 変な事されてない? されてたらぶっ殺すけど」
「だ、大丈夫だよ……ちょっとしつこいだけで」
とは言っているが相当疲れた顔をしている。もうちょっと細かくシャーレイを見ておくべきだったか、と若干後悔した。
起爆銃が手元にあったなら今すぐにでもジェノサイドバスターでぶっ飛ばしている所だが、今はそれが手元にない。なので手八丁口八丁で退散してもらう事にする。
「ん? なんだこのガキ」
「黙れ短小」
「短っ……!?」
喧嘩を売られたのでジャブとして中指立てつつ一言。
まさか相手は一言目で喧嘩を売られるとは思っていなかったのか見るからに精神的ダメージを受けているようだった。まさか完全に外見が子供のひなたからそんな煽りが帰ってくるとは思ってもいなかったのだろう。
「ナンパしないといけないレベルまで女が寄ってこない時点でもう論外だからお帰り願えるかなぁ?」
「こ、このガキッ! 舐めた口叩きやがってッ!」
「だって事実だしぃ? 強ければ勝手に女なんて寄ってくるのに寄ってこない時点でお察しだよねぇっ!」
中指を立てながら挑発するひなた。こちらが口喧嘩でリード出来れば後はこっちの物だ。相手が手を出してきたのなら法の名のもとに衛兵を引っ張ってきてしょっぴいてもらうだけだ。とは言っても、どうせ手を出された所で丸腰のひなたでもどうにか出来る程度の男達なのだろうけども。
相手が手を出せないのを良い事にこのまま煽り続けるのも別にいいが、これはこのナンパ男達を無視して公園の中に入ってミラがトイレから出てくるまで完全に無視し続けるのが一番いいかもしれない。
そう考えれば後は実行に移すだけ。シャーレイの手を掴んで引っ張る。
「公園に入って待ってようよ。あまり人目に付きたくないし」
「そ、それもそうだね」
ミラさえ戻って来たらシャーレイを連れてパパッと帰れる。余り面倒事に発展させたくないため煽りはしたがそれだけで済まそうとシャーレイの手を引っ張って公園の中に入る。
「お、おいっ! 勝手に話終わらせんなよっ!」
だが、そうやって自然とフェードアウトしようとしたひなたとシャーレイの内、シャーレイの肩を男の一人が無理矢理掴んで止める。
それを見てしまったひなたは。
「人の女に手ぇ出すなよ」
そう呟きながら振り返り、すぐに相手を確認した後に足を振り上げた。
振り上げた足はシャーレイの肩を掴んだ男の股の間をそのまま通っていき、ちょっと気持ち悪い感触を残しつつ男の息子を直撃した。その痛さを知っているから加減する、という事は一切なく全力で蹴った。
そうするとあら不思議。男の顔色は一瞬で青くなり、そのまま自分の玉を抑えながら蹲った。自分でやってて痛そうだなぁ、と思ったが自業自得だとその思考を一蹴した。
「なっ!? こ、このガキッ!?」
「うっさい」
ついでにその連れが突っかかってきたのでひなたは威圧感丸出しで男に近づいた。
先ほどの攻撃でビビったのか男は一歩引きながらもひなたをなるべく威圧感を込めて見下す。が、それ以上の相手に威圧された事なんて腐る程あるので全く引かずにひなたは右手を伸ばした。
「うっ!?」
伸ばす先は、男の股の間。つまりは息子一式が付いた部分。そこをガッシリ掴んで潰れない程度に握りしめる。他人の逸物を握るなんて今までも無かったのでかなり嫌悪感が沸いたためすぐに手を離した。
そして、耐え切れずに膝立ちになり自分の息子一式を抑える男に精いっぱいの嫌悪感やらを込めた見下しをしながらトドメの一言。
「……この粗チンが」
「ぐふっ……!」
この一言で男は完全に沈黙。何も言わずにそっと相方の男に肩を貸して立ち上がると、そのまま無言で去っていった。
「ペッ! 一昨日来やがれ」
「よ、容赦ない……」
唾を吐いて哀愁漂う背中を睨むひなた。それを見てちょっと男達が可哀想に思えたシャーレイ。
ひなたが男だからこそ分かるダメージの高い攻撃をしたのだが、想像していたよりもそのダメージは大きかった。右手をプラプラと動かしながらひなたは公園へと戻る。
「ちょっと汚物触ったから手洗ってくる」
「あ、うん。ありがとね」
「いいっていいって」
流石に他人のアレを握るのは初めてだったし何気にショックは大きかった。というか、握った時の感触が気持ち悪くて吐きかけた。
が、それ以上にちょっとショックだった事が一つだけあった。
「ガキかぁ……そっかぁ、ガキかぁ……」
自分のフルフラットな胸を見下ろしながら手を洗うひなたの姿は哀愁に満ち溢れていた。その背中を丁度トイレから出てきたミラに見られ首を傾げられたリしたが、それは些細な事だ。
なんやかんやでここに転生してきた時よりも女らしくなってしまっているひなたであった。多分、その理由はシャーレイに夜中襲われているのが九割を占めている。
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数日後。三人が買い物をしに外に出た時の事だった。
「……あそこに何かいる」
ミラが何かを発見した。指を指して何やら汚物を見る様な目で見ているため、二人ともついついそっちを見てしまった。
その先に居たのは。
「お願いします! 俺を罵ってください!」
「ママ、この人いきなり何言ってるの?」
「見ちゃいけません! ほら、帰るわよ!」
「あぁっ! 一回だけ、一回だけでいいんです! 一回だけ! 先っちょだけ!!」
幼女に土下座して罵ってもらおうとしている何処かで見た気がする男だった。
『うっわぁ……』
それを見たシャーレイとひなたは勿論ドン引きした。
が、ひなたの心の中にはちょっとした罪悪感が生まれた。ちなみに、風の噂だとその男の相方だった男はSM専門の風俗に通っているそうな。
この世界も案外業が深いんだなぁ、とひなたはその光景を見ながら苦笑いするしか出来なかった。
「あ、そこの方々! どうか俺を罵って……」
「ヒッ!? く、来るなッ!!」
「あひぃっ!?」
ちなみに、その後ひなた達の方へ向かってきたためミラが撃退しましたとさ。
特に毒にも薬にもならない番外でした
特に何か書きたいネタも無ければ次回から最終章に突入します。何か書きたいネタがあればまた番外を放り投げます
あ、R-18verの続きも投稿したのでそちらを読んでいた方はそちらもどうぞ