魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

69 / 86
話術サイドは続きます


第六十五魔弾

 喧騒はそう早く収まる事はなかった。大体一分か二分か。ひなたとしてはかなりボーっとする時間が長かったためかこの時間は五分にも十分にも感じた。そんな喧騒の中でひなたは適当に欠伸をしながら周りから何でこの場に呼ばれたのかの要件を聞くために時間を無駄に消費する。

 そうして何分か。ようやく静かになった室内ではひなたが一番注目を浴びていた。きっと、ひなたが形だけのブラッドフォードの眷属である事をバラされたからだろうか。いや、そうに違いない。真祖の眷属です、なんて自己紹介したら嫌にでも注目を浴びるに決まっている。イヴァンにちょっと不安を込めた視線を送るが、イヴァンは顔の前で両手を合わせるだけ。そしてミラに視線を向ければミラも申し訳なさそうに視線を逸らすだけ。

 この親子使えねぇ、とひなたが額に青筋を浮かべた所でずっと黙っていたらしい最初に口を開いた老人が再び口を開いた。

 

「……この小娘が本当にブラッドフォードの眷属だと?」

「昨日まで、ここ百年活動したって記録があるのはヴァルコラキとブラッドフォードだけだ。んでもって、嬢ちゃんはブラッドフォードに村を焼かれてる。去年にたった一晩で滅んだ村があったろ? あの村の生き残りだ」

 

 ふとイヴァンにその事を話したっけ? と疑問に思ったが、そう言えば酒の席でぽろっと口にした記憶がある。ミラにはヴァルコラキの件の前から全部話したが、イヴァンに対しては少しだけフェイクを混ぜた。

 自分は孤児である事。路銀が尽きてフラフラしている所を拾われ、その先で魔弾の使い方を学びながら生きてきたと。その結果やってきたブラッドフォードにそこを焼かれて今現在に至る、と。ミラには記憶喪失でそれ以前の記憶が無いと嘘を吐いている。

 それを思い出すたびに憎しみが沸いてくるがどうせ沸いたところでぶつけられないしぶつけたらぶっ殺されるしでどうしようもない現実と区別しきっているし今はトラウマ化して思い出すだけで吐き気がするからあまり話題に出さないでほしいのだが、どうやらそれは許してくれないらしい。今こうしてひなたが物思いに老けている間にイヴァンは周りの人間から嘘ばっかりとかでたらめ言うな、とか色々と言われている。

 

「イヴァンさん、これ、実践した方がいいんじゃ?」

「それもそうだな。ほら、俺の血を吸え」

「オッサンよりも女の子の血の方が美味しいんでミラからいただきます」

「血なんて変わらんだろうが……ミラ」

「ん」

 

 イヴァンの血は吸った事ないが何だかこってりしてそうですぐに飽きが来そうだったので前飲んだ時美味しかったミラの血を頂く事にする。

 伸ばされた手を右手だけで掴んで口を開き、そのまま吸血鬼特有の皮膚を簡単に突き破れる犬歯でミラの肌に傷をつけて血を吸う。飲みきれない血がミラの手を、ひなたの口を伝い、口の中が一瞬にしてミラの血の味で満たされる。

 何だか、前に吸った時よりも遥かに美味しい気がする。あっさりとしていて、尚且つ深い甘みが喉を潤してくれる。シャーレイの時とはまた違った、ゆっくりと時間をかけて飲み干したい。そんな味の血を楽しみながら必死に溢れてくる血を喉へと流し込んでいく。が、時間にして十秒程度でミラに頭を掴まれて強制的に吸血を中止させられた。

 

「おわっ。もうちょっといいじゃん」

「……後で」

 

 そう言えば、今は自分がブラッドフォードの眷属である吸血鬼である事を証明するために吸血しているんだった、と吸血の快楽で忘れてしまっていた目的を思い出して紅に染まった目を見せる。

 それを見た人間は血を吸ってひなたの力が増した事、そして目が紅に染まった事、吸血鬼特有の気配があふれ出したのを感じてひなたが確かに吸血鬼の一人である事を認めた。ようやく話が進むか、と溜め息を一つ吐いて口に付いた血を少し下品だがローブで拭う。

 

「この通りの元人間の現吸血鬼兼食人鬼に何か御用?」

「おい、マイヤーズ。このガキが吸血鬼だってのは分かったが、コイツをここに置いておいていいのか? いきなり暴れるかもしれないぞ」

 

 冗談止してくれ。ミラとイヴァンに挟まれている状況で急に誰かを襲ったら確実にこの人外二人に捕獲されてしまうよ。

 

「嬢ちゃんの今の実力が見切れないのか?」

「いや、そんな事は無いが……」

「安心しろ。嬢ちゃんはどっちかと言ったら食人鬼の気が強い。吸血鬼としての能力は皆無に等しいし全力でも今のミラに届かない。それに、欲求とも上手く向き合えているし問題は起こさねぇよ」

 

 確かにそうだし褒めてくれるんだろうけど同時に結構ボロクソ言ってくれるなこのオッサン、と睨むが相手の言いたい事は分かるのでひなたは何も言わない。こんな街中で吸血鬼が我が物顔して住んでいる、なんて聞いて警戒しない方がどうにかしている。ひなただっていきなりこの子あまり力は無いけど吸血鬼なんですよほら。なんて言われて女の子を目の前に差し出されたら怖い。

 

「……でだ、小娘。お前に聞きたい事がある」

「いいけど……ブラッドフォードの情報も真祖の情報も持ち合わせてないよ? 眷属ってのも形だけだし、ブラッドフォードを主として認めてなんかいないし。むしろ仇敵」

「そうか」

 

 どうやら聞きたいのはそこら辺だったらしい。どうしてブラッドフォードの情報が欲しいのかは分からないが、ふとイヴァンがひなたの事を漏らした、というのだけは分かった。

 ブラッドフォードの眷属なんて肩書はあるがブラッドフォードは仇。主として下から見上げた事も尊敬した事もない。むしろ厄介な制約をかけて半殺しにして村を焼き払ってくれたクソ野郎でしかない。

 

「ならば、ブラッドフォードが襲来した時の事を覚えているか?」

「……トラウマとしてなら覚えてるけど?」

 

 覚えていない筈がない。忘れるとしたらそれは今の自分が壊れてしまった時だけだ。

 

「隣国が全て一夜にして滅んだ、というのはもう聞いたか?」

「聞いたよ。とっても悲惨だね。だから今すぐ逃げたいんだけどさ」

「ならば儂の質問に答えろ。そうしたら報酬として一級の避難所を関係者分くれてやる」

「破格の報酬だね。勿論、答えるよ」

 

 ミラから避難して、と言われる前に避難所を確保できた。これならこの後すぐにでも避難の準備をしてシャーレイとミラを連れて逃げる事が出来るだろう。ミラが残ると言ったら説得に骨が折れそうだが、それでも駆除連合が用意する一級の避難所ともなればそれこそ政府の重鎮とかが使うような場所になるだろう。

 

「質問は簡単だ。ブラッドフォードが襲来した時、空はどうなった?」

 

 空? 空なら、あぁ、覚えている。あの時の光景は全て覚えているとも。

 

「……急に。そう、本当に急に空が曇った。夕立か何かかと思ったら、急に雲が動いた。そうしたら、空は青じゃなくて紅に染まってた」

 

 あぁ、そうだ。空が急に、本当に急に紅に染まったんだ。

 それを皆が呆然として見ていた。そして、これは天変地異の前触れだと騒いで、ひなたもそんな異常事態を見て避難しなきゃと動いて。

 駄目だ。それ以上は吐き気がする。思い出したくない。あの地獄の光景を……全ての終わりにして今の始まりの記憶は、そう簡単に想起したくはない。あの時の地獄は今でも心を潰そうとして来るのだから。

 

「紅、か……その後は?」

 

 思い出したくない。思い出したくないんだ。

 顔色を青にして目を伏せる。それを見たミラがそっと背中を擦ってくれる。大丈夫だと一言伝えてからその後の事を口にする。

 

「……村の外に居た人が、戻ってきた。でもその人は頭が欠けていた。その人を見て皆が腰を抜かして、気が付いたらその人は村の人を食べ始めたんだ。でも、食べてすぐに口を離して、こっちへ向かって来て、ボクはなんとか迎撃した。けど、気が付いたら食われた人が動き始めてた。何とかその人達を止めたけど、気が付いたら周りがその人見たいな正気を失った食人鬼になってて……それで、まぁ色々とあって、村から逃げようとしてたら空からブラッドフォードが降ってきた」

「濁した部分で何があった」

「…………家族同然の人を手にかけたお涙頂戴ストーリーでも聞きたい?」

「……すまんな、少し繊細さに欠けた」

「別にいいよ……まぁ、その後はブラッドフォードに喧嘩売って半殺しにされて腕斬られて眷属化させられて村にポイ捨てされただけ」

 

 思い出しながら何度も襲ってきた吐き気を我慢して何とか喋りきった。

 何時間も見続けたあの地獄を簡単に説明しきったが、かなり精神をすり減らしていたらしくひなたは机に突っ伏してしまいたい気分で一杯だった。

 だが、それを気合で止めて深呼吸しながら吐き気を抑える。流石にこの場で吐いたら色々とマズい。女として死ねる。

 

「……質問は以上だ。だが、一応は告げておこう」

「聞いておくよ……」

 

 出来ればこのままトイレに行ってげーげー吐き出してきたい。けど、何か言う事があるらしいので取り敢えずは聞いておくことにする。

 

「昨夜、ここまで逃げてきた人間の証言だが……真昼間に空が紅に染まったらしい」

「…………は?」

 

 空が、紅に?

 それは、つまり、あの男が、あの真祖が。

 

「質問は以上だ」

「あ、うん……取り敢えずボクをもう巻き込まないでくれればそれでいいよ」

 

 何であの男がこの国の周りの国をたった一夜で滅ぼしていったのか。何で今まで黙っていたあの男が急に動き出したのか。それは分からないが、ひなたはただ逃げるだけだ。あんな災厄の権化みたいな物を相手にしたくなんてない。そんなのはこの国を守る義務がある人間とそれに賛同した偽善者のやる事だ。力を持たない小娘がやる事ではない。

 

「それで、アカツキだったか。避難所に関してはマイヤーズの娘と共に選べ。今日中に資料を送っておく」

 

 そして、あちらの方もひなたが混ざってもただ邪魔になるだけだと思っているのか、或いは元からひなたが戦いに参加する事を考慮していないのか。どちらかは分からないがこれ以上持ち合わせていない情報を引き出そうとはしてこなかったし戦闘に参加しろとも言ってこなかった。

 

「あぁ、ありがとう。助かるよ」

「では、儂からは以上だ。帰っても良い。マイヤーズの娘もな」

「……私も?」

「足を失った小娘に頼る程軟ではないという事だ」

 

 どうやらこの爺さんは結構厳つくかなり威厳のある声をしているがかなり良い人らしい。ひなたはその言葉を有り難く受け取って立ち上がったが、気分が悪いせいかふら付いてしまう。

 ミラに肩を貸してもらってなんとか普通に立ち上がり、礼をしてから会議室を去る。

 会議室を出たひなたはすぐにミラにトイレへと連れて行ってもらった。そして、今朝食べたばかりの消化されかけた朝食を吐き、なんとか気分を回復させ、未だに騒がしい駆除連合を出た。

 

「……ヒナタ、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。大丈夫、だよ……」

 

 実は少し大丈夫じゃない。

 今回の騒動、ブラッドフォードが動いている。それだけでひなたにとっては恐怖足り得る。

 もしかしたら避難しても無駄なんじゃないか。人類は自分を含めて全員真祖に殺されて滅びる運命なんじゃないか。そう思うと恐怖しか襲ってこないが、それでも今はイヴァン達なら真祖相手でもきっと何とかしてくれる。そう信じて待つしかない。

 取り敢えずは、家に戻ってミラと一緒に避難所を決めるとしよう。地中か海上に避難所があればいいなぁ、と考えながらミラの隣でフラフラしながら歩いた。




爺さんの言葉の要約
「情報頂戴。あ、うん、なるほど。じゃあ報酬に普通じゃ入れない安全な避難所を用意するわ。ついでにイヴァンの娘も連れて行きなさい。後は大人の仕事だから」

戦いは男の仕事云々。ちなみに、あの場に居た人の中に魔弾使いは一人も居ません。その時点で魔弾使いの限界が知れているという
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。