今回は日常の一コマを
駆除、というのはそこそこ大変だがかなり金になる物だ。一般人では対処しきれない害獣、魔獣は様々な事への障害となる上にこの世からその姿を減らす事がない。特に、魔獣はこの世に満ちる魔力を使い生まれるため、その存在は無限と言っても過言ではないだろう。
殺しても体が霧散してしまうため得られる利益がなく、ただ人間の邪魔をする。そんな目障りな存在。まだ殺したら肉やら毛皮やらが剥ぎ取れる害獣の方がよっぽどマシだ。だが、殺さなくては味を占めた魔獣が人間の妨害をし続けてしまう。それを防ぐため。せめて魔獣の数をこれ以上増やさず今の状態を保つため、減らしていくために報酬を用意して魔法が使える人間、荒事が得意な人間に狩ってもらい、世界のバランスをなるべく人間に有利なように作っていく組織。そのついでと言わんばかりに用心棒やらの護衛仕事やらも受け付け、最近では何でも屋になりかけている。
それが、害獣・魔獣駆除連合。この世界にある全ての国からの援助と許可を得て成り立つこの世界で一番の組織だ。
駆除の依頼を受けるのに特別な資格はいらない。ただ、戦える力がある事。それだけを証明する事によって、駆除の依頼を受ける資格を手にする事が出来る。ひなたは隻腕になってからそれを受け、資格を得た。そのため、全国にある駆除連合の支部で駆除の依頼を受けることが出来る。
これがひなたの唯一の資金源にして、まともに誇れる業績だ。決して尽きる事のない魔獣を狩り、己の力に見合った報酬を手に入れる事が出来る。この世界のいい所とも言えるだろう。ドラゴン等の強大な魔獣を倒せば、一か月は遊んで暮らせるレベルの大金を得ることが出来る、リスクもリターンも大きい職業。ひなたはそこまで強くはない。精々下の上程度の強さでしかないひなただが、小さな少女二人が安宿に泊まり、食事を取り、日用品を買っていく程度の金なら、一回の依頼で一週間分は稼げる。
元々戦える人間がそこそこ多くないこの世界。下の下、下の中が戦える人間の八割近くを担っている現状、その上に立てるひなたなら、それくらい稼げても当然と言えた。
腕を失う前なら中の下から中の中程度はあったと自負はしているが。
シャーレイが戦えない以上、ひなたが稼ぎ頭となって駆除をしに街の外に行かなければならない。そのため、ひなたとシャーレイは役割を分担して一日を過ごす事にした。
ひなたは三日に一度、駆除に朝、昼を使い金を稼ぎ、シャーレイは生活に必要な物を探しに買い物へ。二人一緒の時はスラムへ行ってシャーレイの隠れ家から荷物を回収してくる。そんな生活をしようと、シャーレイと出会った次の日にひなたは決めた。シャーレイは最初、ひなたが駆除に行くことを心底心配していたが、ひなたがそれなりに戦える事を知っているため、首を縦に振った。
そんな、稼ぎ頭と化したひなたは街の駆除連合の支部へ向かい、依頼の張られている掲示板を背伸びしながら見ていた。
「うーん……結構遠い場所での依頼が多いなぁ……」
そんな事を呟きながら、横と縦に無駄に広い掲示板に目を通す。目を通した掲示板には結構遠出になってしまうような依頼ばかりであり、夕方までには帰ってこられないような依頼ばかりだった。
他の街ではもう少しマシな依頼があったのだが、こうも大きい街だと流石に周辺の魔獣は逐一狩られているらしい。そんな事を思いながら一つずつ依頼を見ていると、横に結構背が大きく、屈強な男が立った。
「嬢ちゃんのような子が駆除か。珍しいものだ」
「そうでもしないと生きられないからねー……お、これ近いしいい感じ」
「それもそうか……俺はこれにするか」
軽い世間話をしながら二人同時に依頼の張り紙を破り取った。駆除連合の依頼で金を稼いでいる者がこの場での喧嘩は禁止されているため、煽り合いからの殴り合いは基本的に起こらない。そして、戦える人間とその人の外見は必ずしもイコールではない、というのがこの世界の基本的な考え方のため、ひなたのような外見が子供の少女でも怒らせたらとんでもない事になる可能性があるため、ひなたの外見を馬鹿にして煽るような真似をする人間は基本的にいなかった。
一か月程前にそれを知らないのか忘れていたのかタダの馬鹿だったのかは分からないが、ひなたを存分に煽って煽って煽ってくれた上に胸やら尻やらを触ろうとしてきた阿呆がいたため、ジェノサイドバスターを零距離でぶちかましてやった事はあったが。その時は周りの証言からひなたは無罪放免で阿呆は二か月間依頼を受けられない処罰を受けていたが。
ひなたは破り取った依頼書を受付に持っていき、財布の中からひなたが駆除連合で駆除を行える資格を持った人間だという証明であるカードを見せた。
「では、少しお待ちくださいね」
受付の女性はそのカードと依頼書を確認すると、カウンターの下の収納スペースに置いてあるらしい紙とカードを一枚ずつ取り出すと、それをひなたの前に置いた。
「こちらが誓約書と、チェッカーです。サインをお願いします」
「わかりました」
誓約書には、あまり重要な事は書かれていない。あるのは、器物破損を起こしたら罰金は壊した本人に行くこと、死んでも死体を回収は行わないということ、依頼を受け三日経ったらこの契約は破棄されて再び依頼が掲示板に貼られること、駆除中のいざこざに関してはあまり駆除連合の名前を出すな、という事。それ以外にも細かいことはあるが、大体はこんな感じだった。
ひなたはもう何度もそれを見ているため、受け取ってすぐに誓約書を受け、チェッカーと呼ばれるカードを受け取った。
チェッカーは霧散した魔獣の魔力を場所毎に記録するカードの事で、一枚のチェッカーで百体までの魔獣の情報、倒された場所を記録してもらう事が出来る。これがないと、魔獣を殺しても証明出来る物がないため、依頼の成否が分からなくなる。
昔、魔獣を他の場所からトレインしてきて指定の場所で殺す事で以来の成否を誤魔化すというズルをした人間がいたため、依頼者の動きを簡易的に記録する装置まで付けたかなりハイテクなカードだ。なお、これは使い捨てではなくリセットをしては使いまわされている駆除連合の備品なので、無くすと依頼が達成出来ない上に弁償までさせられる。しかもかなり高い。ただ、かなり頑丈なので壊れる事はない。
それを無造作に鞄に突っ込んだ所で、受付も手続きが終わったのか、ひなたに証明カードを返した。
「では、死なない程度に頑張ってきてくださいね」
「はい。じゃあ、失礼します」
駆除が出来る人間が次々と死んでいったら困るのは駆除連合の方だ。この組織は国民や国から渡された報酬の何割かを引いて駆除をした人間に渡し、残りを利益にして得ることによって経営している。なので、駆除が可能な人間が減るという事は利益が減るという事に繋がる。
だから、こうして口で注意するのはもうお約束だ。ひなたはそのお約束に返事を返してから駆除連合の支部を出た。きっと今、シャーレイは必要最低限の生活必需編やら何やらを買いに行っている。そして、服の洗濯やら昼食を買いに行ったりやらに行っている筈だ。最初はひなただけが荒事での金稼ぎに行くことは反対していたが、こうでもしないとひなたはまともに金を稼げないし、シャーレイには荒事は無理なため、ひなたは金を稼ぎ、シャーレイが家事をする、といった役割分担になった。
「えっと、場所は北の森。熊型の魔獣が五体……何やかんやで面倒だなぁ……」
魔獣は見つかったらすぐに狩るために依頼が飛んでくる。その魔獣が何かした、という訳ではないが魔獣は害しかない。見つけたら即狩らなければ誰かが犠牲になる。それを防ぐのも駆除連合の仕事であり、そこで依頼を受けるひなたのような人間の仕事だ。
出会ったら狩る相手を金を貰って自ら狩る。こっちの方がやる気は出るしやりやすい。
依頼書の内容を口に出して再確認したところで街の北の方へ向かってえっちらおっちらと走り始める。街自体の半径が数キロ程あり、北の森はそこからさらに一キロ程離れているため、行くだけでも結構面倒くさい上に疲れるし時間がかかる。
しかし、魔獣は人間の臭いを嗅ぎつけると襲ってくる習性を持つ。それ故に、適当に森の中をブラブラ歩いていたら相手の方から罠にかかってくれる。そこだけは面倒ではないし害獣駆除よりも楽な点だ。そして、そういう馬鹿な習性を持つ獣相手には、魔弾使いだけが使える戦法がかなり有利に働いてくれる。
魔弾を作っては腰のポーチに仕舞ってを繰り返しながら走ること数十分。ひなたは件の森にたどり着いた。何だかおどろおどろしい雰囲気の森に入ってから数分歩いた場所。森の中に作られた道から少し離れた場所でひなたは軽く陣取り、ポーチの中に手を突っ込んだ。
「えっと……エクスプロージョンの魔弾とシールドの魔弾……それからついでにシューターの魔弾。あとは……バインドの魔弾にライトニングの魔弾も使おうかな」
ジャラジャラとポーチの中から魔弾を取り出し、自分に影響が及ばない範囲をしっかりと確認してからそれらをばら蒔いた。そう、撃つことなく、ばら撒いた。
魔弾という物は、単体ではどうにも出来ないタダの銃弾だ。そして、普通の拳銃でも起爆する事が出来ない。
しかし、魔弾自体はかなり脆い物であり、人が簡単に噛み砕けるレベルの物だ。そして、その魔弾は魔法そのものが圧縮されたもの。つまり、それが破壊されると、それは何の指向性もなく暴発する事になる。
起爆銃という制御装置をなくした状態で砕かれた魔弾は魔法がその場で暴発。内包された魔法と同じ魔法が砕いた本人に向かって突っ込んでいく。
中には意図的に砕いて魔法を飛ばす変態もいるらしいが、ひなたはそれが出来ないためこうして地雷としてばら撒いた。ちなみに、これがひなたの持つ自決手段の一つだったりする。シールドをかみ砕いたら恐らく、下あごと上あごがさようならする。魔弾だったら頭が飛ぶ。エクスプロージョンだったら吹っ飛ぶ。
ちなみに、エクスプロージョンの魔弾を普通に使うと銃口の先端が爆発するためこういう時にしか使えない。バインドは何故かひなたに向かって飛んでいき、ライトニングはひなたも痺れるため、まともに使えるのがシューターとシールド位しかないという悲しみ。
ひなたは魔弾の使い道の少なさにめそめそ泣きながら自分の周りに魔弾を撒いていく。畑に肥料を撒いているような感覚がしてしまうが、気にしたら負けだ。
「さて……本でも読もうかな」
そして魔弾を撒いたら後はその中心で本を読むだけ。恐らく、五十発位満遍なく撒いた。前からある程度は作っていたが、ここまで来る最中に十発近く追加で作ったため若干魔力切れで息切れがする。
魔法使いとしては比較的燃費が良い方に位置する魔弾使いだが、やはり十二発も作れば魔力も切れかける。
片手で器用に本を読みながら待つこと数分。急に近くで爆発音が鳴り響き、直後に鎖の音やらシューターの音やらが鳴り響き、最後に何かが地面に落ちた音がした。
「おっ、一匹終わった?」
本から顔を上げると、生き物だった何かがひなたの撒いた魔弾の外側に落ちて血を噴出していた。どうやら、エクスプロージョンで足が吹き飛んだ後に色んな魔法に引っかかり、最終的にシールドで空高く打ち上げられ地面に頭から落ちたらしい。南無。
チェッカーを確認すると、そこには確かに熊型魔獣という名前と討伐された場所が書かれていた。それも二体。どうやら、二体が巻き込まれて死んだらしい。ラッキー、と呟くと再び魔弾が爆発したのかひなたを一瞬影が覆い、数秒後に再び覆われ、肉が潰れる音が響いた。振り返れば、また熊型の魔獣だったものが落ちている。チェッカーを再び確認すると三体目の記述があった。この世に生まれた不幸を呪うといい。
そのままボーっと待っていると、再びひなたの背後から電撃の音と爆発音が響いた。それで四匹目が死んだのを確認し、五匹目もすぐに爆発と共に死んだ。アーメン。
「よし、お仕事終了。帰ろっと」
五体の魔獣を本を読んでいるだけで倒したひなたは落ちている魔弾を適当に回収して帰るために道に戻ろうとした。
が、魔弾が転がっていた場所に足を踏み入れた瞬間、何かを踏み砕いた感触と共に己の体が鎖に縛られた。
「……やっちゃった」
どうやら、バインドの魔弾を踏んでしまったらしい。そのままバインドに芋虫状態にされたひなたはどうしようかと悩んだ末、バインドの効力が切れるまで寝て過ごす事にした。
結果、夕方まで寝てしまい、シャーレイを大いに心配させたのは言うまでもない。ちなみに、ばら撒かれたままの魔弾は一日二日経てば自然消滅するのでこのまま放置だった。
いつもひなたがどうやって金を稼いでいるかの詳細でした
身分を証明出来る物もなければ腕もないから働き口が無い状態になった結果、こうして金を稼ぐ事を覚えた模様