魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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思い出して話しただけで吐いたのにそれを実際に見ても平気なんですかねぇ……


第六十六魔弾

「と、いう訳でこの家は一旦放棄して問題が全部収まるまでは避難所暮らしになるから」

 

 帰ってからすぐにひなたはシャーレイに今起こっている問題とそれに対する自分たちの行動について説明した。完全に事後承諾ではあるがそれでもシャーレイは何一つ文句は言わなかった。いや、言ったところでどうにもならない問題なのだと彼女自身ちゃんと分かっているのだろう。

 スラムに捨てられた時から始まりシャロン、ルナ、ヴァルコラキ。それぞれの種が違うようで同じような問題に巻き込まれてきた彼女だからこそ自分達に出来ない事は出来ない、関わらなくていい事には関わらないと判断して逃げる。その冷静な判断が出来ていた。特に今回は国レベルの問題。個人の問題じゃない以上、一般人として行動するのが一番だというのは分かっている。だからこそひなた達に対して文句は一つも言わなかった。

 

「そんな大変な事になってたんだ……」

 

 そう一言だけ、シャーレイは感想を漏らした。確かに大変な事だが大変の一言で済ます事は出来ない位にはヤバい問題なのだが、一般人にとってはその程度の感想を抱くに済む。むしろそれ以上の感想が沸かなかったのだろう。ヴァルコラキの時のように脅威を目の前にしたならまだしも、股聞きした程度ならこれ以上の感想はどうしようにも沸かない。

 当事者でない以上物事を深く受け止められないのは仕方が無い事だ。ひなただってブラッドフォードが関わっていなかったらこの問題に対しても楽観視してイヴァンのような人間がどうにかしてくれるだろうと思い込んでいたかもしれない。いや、思っていた。イヴァンに拉致られてあの会議室で事の始まりを聞くまでマイヤーズ親子に丸投げでも別にいいだろうと、そう思っていたから。

 だが、シャーレイに無理に事の重要さ、もしかしたら人類絶滅の可能性すらあると言えば彼女を変に焦らせてしまう可能性があるため今は避難しておけば大丈夫だと伝えておく。もしもイヴァン達が敗れたらその時点で人類終了が確定してしまうのだが、そこら辺は考えない方が身のためだろうか。もしもの場合は自決だって視野に入れないと死ぬより酷い目にあってしまうかもしれない。人間を面白半分で殺すブラッドフォードの事だ。死ぬより酷い目に簡単に合わせてくる可能性なんて幾らでも考えられる。

 

「取り敢えず、荷物は纏めておいた方がいいかな?」

「あー、そうだね」

「……明日避難所を決めるから。すぐに出れるようにしておいて」

「多分一週間以内に迎えが来るからね」

 

 もしかしたら避難所を決めた翌日には迎えが来るかもしれない。その時になってまだ準備が出来ていませんとなったら色々と迷惑をかけてしまうかもしれないし忘れ物も大量にしてしまうかもしれない。

 持っていくものは娯楽品は本を数冊程度だが、恐らく一か月以上。もしかしたら二か月三か月と避難所暮らしになるかもしれないので生理用品等も持っていかなければならない。シャーレイとミラは月の物は軽いがひなたがかなり重いので結構準備は必要だ。それに、ひなたの場合はライターのオイルや煙草等もあるのでそこそこ荷物が嵩張る。一つでも忘れれば致命的とも言えるだろう。特に生理用品。

 

「じゃあ、大体私が纏めておくね? あ、ご飯とかは?」

「……一応馬車に非常食はある。それ以外は持ち込み」

「あ、そうなんだ。避難所の方は?」

「……行った事ないけど、食料は配られた筈。調理は無理」

 

 調理が無理なのはトラブルを避けるためだとか。変に料理を出来る人が身内の料理だけを作っていたら嫉妬の目とかそれを羨ましいと思って何かしらの行動に出る人間が出てきてしまう。それを防ぐために調理場は基本的に無いそうだ。

 避難所での食事は基本的に避難所のグレードによる。ひなた達の行く避難所なら恐らく普通の料理が食べれるだろうとの事。それに、避難所に個室もあるらしく三人で一部屋だが十分に広い部屋を借りれるらしい。やはり国が運営するだけあって立派な避難所なのだろう。もうホテル並みに。

 シャーレイがパタパタと二階に上がっていく音を聞いてひなたとミラは目線を合わせた。

 

「……どう思う?」

 

 ひなたの言葉は避難所にケチを付ける言葉ではない。

 単純に、今回の問題についてだ。今回の問題はここ数百年以内で一番とも言える位に大規模で危険度も高い問題であることは間違いないだろう。それを人間だけの手で、イヴァン達のような限られた人間だけで解決出来るか。そうひなたは言外にミラに聞いた。

 それを聞いたミラは少し顔を顰めた。その表情を見るだけでもあまり旗色は良くないと言うのがすぐに分かった。

 

「……最悪の場合も考えないと」

「まぁ、最終手段は三人で自決? 海にでも身を投げる?」

「……そうなる」

 

 やはり、そうなるか。サラッと言っているが死ぬのは怖い。いざその時になって出来るか、と言われれば今この場で答えることは出来ない。

 だが、最悪の場合。つまりは人類の敗北を考えれば自決が一番楽な手段になるだろう。イヴァン達が負ければ人間は真祖の家畜かそれ以下に収まる。それをどうにか出来る存在何てこの世には存在しない。他国には人類最強と名高い人間も勿論存在するが、それがブラッドフォードを倒せるのか、と聞かれても分からない。もしかしたらその人類最強が倒してくれる可能性もあるがそれがブラッドフォードを倒すまで家畜として生きるなんて真っ平御免だ。

 特にひなたに至ってはブラッドフォードの眷属。もしも眷属を操る能力等を持っていたらシャーレイとミラをその手にかけてしまうかもしれない。かけさせられるかもしれない。そう思えば自決が一番精神的にも肉体的にも良い。

 

「……一応、身投げよりは楽な死に方は用意しておく」

「一応聞くけど、それって何?」

「……安楽死」

「まぁ、確かに身投げよりも楽に死ねそうではあるけども……」

 

 薬を飲むのに躊躇がある分、そっちの方がキツいかもしれない。だが、身投げとどっちがキツいかと言われたら迷うところだ。所詮死に方に楽もクソも無いので薬を飲むかフライハイをする覚悟を決めなくてはならないのは同じだが。どっちも覚悟さえ決めてしまえば何があろうと同じである。

 ひなたもミラも少しミスをしたらそのまま死んでしまうかもしれない界隈で生きている分、死ぬ覚悟は一応出来てはいるが、いざ自らの手で自分に引導を渡すとなるとやはり怖い。死という人生で一度しか味わえない上に味わったが最期もう二度と目覚める事が無いそれが怖くない訳がない。

 

「取り敢えず、現状維持のままで居ようか。シャーレイには……一応、秘密で」

「……そうだね。無理に怖がらせちゃいけないし」

 

 シャーレイにどう伝えるかは、現状は保留という事にしておいた。変に希望を潰して怖がらせるよりはギリギリまで伏せておくか、あるいは内緒で薬を渡してシャーレイに知られる事無く一緒に眠るのが一番だろう。いや、そうしないとこっちの精神が持たない。そう感じたというのが一番だろうか。何時も笑ってくれているシャーレイが居なくなればこっちの方が参ってしまう。

 完全に二人のエゴでしかないがそれでもこのエゴでシャーレイに希望を持たせる事が出来るのなら、それはそれでいいだろう。

 この会話が聞かれていたら確実にこれから先空気が悪くなるが、今シャーレイが色々と物を纏めている音が二階から聞こえているためこの会話が聞かれているという事は一切ない。

 

「……じゃあ、薬買ってくる」

「売ってるんだ、安楽死薬……」

「……コネで買ってくるだけ」

「ミラのコネってホント広いよね……」

「……この道十年以上だからね」

「それもそっか」

 

 こんな物騒な界隈で十年も生きていれば確かにそれなりのコネが出来上がるだろう。ひなただって一応独自のコネはある。とは言っても何処かの街の店で少し割引が入ったりちょっと入手困難な物を入手しやすくなったり本来は売られていない物を買わせてもらったりできたりと、ミラ程万能なコネでもないが。

 全部復讐に身を焦がしていた時に作ったコネなのであまり良いコネとも言えないが、それでも無いよりはマシ程度だ。

 

「……買う時なんて説明しよう」

 

 ミラはボソッと呟いてから家から出ていった。その顔は何処か疲れ果てたサラリーマンのような顔だった。

 ここに来たばかりの時はほとんど表情が分からなかったのに今はミラの表情はかなり分かるようになった。ミラ自身表情が柔らかくなっているというのもあるが、それでもかなり表情は柔らかくなった方だ。

 切欠と呼べる切欠は思い出せないが、ヴァルコラキの件の前にうっかりミラが夜中の行為を覗いてしまいシャーレイにバレてそのまま押し倒された時から少し表情を読みやすくなった気がする。

 最近は三人一緒に寝ているせいかよくシャーレイに襲われてるよなぁ、とそこから連想して夜中の爛れた生活を思い出し溜め息を吐く。もう寝室の窓は開けて寝られない。

 

「……酒飲もっと」

 

 そうしてちょっと自分たちの夜中に呆れのような物を感じ、そしてこれから先の暗雲に憂鬱を感じたためついつい酒で全部を飲み干したくなってしまう。

 もう慣れた手つきで果実酒をコップに注いでからそれを煽る。果実の甘さの中にほんのりと混ざるアルコールの苦さが美味い。こっちの酒と煙草が日本の物と比べてどうかは分からないが、美味ければどうでもいい。どっちもこっちの世界に来てから楽しみ始めた物であるのだから。

 ちなみに、ひなたは未だにビールを飲めない子供舌である。

 

「ひなたちゃ~ん、荷物纏めるのって時間かかっても大丈夫~?」

 

 そうして一人で酒盛りをしているとシャーレイが二階から降りながら声をかけてきた。

 荷物か、と考えそれなら明日以降でも大丈夫だな、としっかりと判断してから声を出す。

 

「んー、大丈夫だよ。少なくとも明日までなら」

 

 きっと避難所の知らせが来るのは明日以降。そして届けを出してそれを受理され、迎えが来るまでにはきっと一週間かかるとミラと二人で予想している。だから、荷物を纏めるのに五日程かかってしまっても全然問題は無い。

 その声を聞いて分かった、と答えながら一階に降りてひなたの前に姿を見せたシャーレイが小さく声を漏らした。

 

「あっ……真昼間からお酒飲んでる」

「まぁ、偶にはね?」

 

 これで不安が紛れてくれるなら、と飲んだ酒だが、大分いい方向に精神を持って行ってくれている。煙草に関してはまだ少しトラウマを刺激してくるため今気持ちを落ち着けるには酒しかなかった。

 それを知らないシャーレイは少し頬を膨らませたが、仕方ないかと小さく息を吐くとひなたの座っているソファの隣に腰を下ろした。

 

「……大丈夫、だよね?」

 

 そしてシャーレイが小さく、囁くように呟いた。

 それがひなたへ向かって投げられた疑問だという事はすぐに気が付いた。

 

「また、この家で三人で暮らせるよね……?」

 

 こういった問題をどうにも出来ないからこそ、頼るしかない。聞くしかない。

 ひなた達のように諦める用意をしてこなかったからこそその不安を聞いてもらいどうにかして払拭してもらうしかない。それが分かっているが、それでも言葉には詰まってしまう。

 酒を飲むふりをして少しだけ考える時間を取り、考えがまとまった所でコップを口から離す。

 

「……うん、大丈夫。きっと大丈夫だから」

 

 出てきた言葉は、先程までミラと話していた内容とは打って変わって前向きな言葉だった。

 せめてシャーレイには笑顔でいてほしい。そんな願いを込めて呟いた言葉はシャーレイをどうにかして安心させてくれないか。そんな願いも籠っていた。

 だが、それでも不安で。何処かシャーレイの笑顔に翳りが生まれてしまうのではないかと不安で体をシャーレイに寄せ、預けてしまう。

 

「そう、だよね。大丈夫、なんだよね」

 

 シャーレイの言葉には、少し不安が混ざっているようにも聞こえた。聞こえたが、ひなたは何も返す事が出来なかった。

 辛い。大丈夫だと胸を張って伝えられない事が。自分に任せておけば安心だ、と言えない事が。力が無い事が。

 目線を落として自分の持っている色の付いた液体を見る。先ほどまで気を紛らわせてくれていた液体は、今は何処か頼りなく見えてしまい、つい一気にそれを飲み干してしまった。

 煽った酒は何処か苦味が強かったような、そんな気がした。




ひなたさん、渾身の空元気。情緒不安定は形を潜めている模様
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