魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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暗い雰囲気は続きます


第六十七魔弾

 その日の夕飯は、少しだけ物静かに感じた。やはり、シャーレイには酒を飲みながらの会話で少しこの状況が好ましくない方向へ進んでしまっているというのが分かってしまったのか。いや、確実に分かってしまったのだろう。酒に身を任せても不安に押しつぶされかけている人間の言葉なんて分かりやすい物だ。きっと、シャーレイが同じ内容をミラに聞いても、イヴァンに聞いてもシャーレイは同じように何かを悟った事だろう。

 つまりは、遅かれ早かれ、逃げようが逃げまいがシャーレイにはバレてしまう事だった、という事だ。彼女はやはり何処か鋭いところがあるし、優しすぎる所がある。心配をかけまいと健気に笑っているが、それでも胸中の不安はとてつもなく大きいだろう。

 何かがあればひなた達のように抗う事も出来ずただ蹂躙されるしかない弱い人間でしかない以上、この状況は怖くて怖くて仕方ない。だが、それを慰めるための言葉を持っていないがために黙るしかない。下手な励ましはただその人を傷つけるだけに収まってしまうからだ。ミラもそれを見て仕方がないか、と視線を落とすに収まった。

 そうして各々で荷物を纏めたり必要な物を買ってきたリと準備をしている内に何時の間にか夜は更け、何時も寝ている時間になった。

 最初はミラがベッドに潜り込み、次にひなたがベッドに潜り込んだ。

 シャーレイは物置の方で色々と物を整理しているらしく、二人がベッドに潜り込んだ後でも物置の方から若干の物音が聞こえてくる。それを聞きながらひなたとミラはベッドの上で眼を閉じていた。

 

「……ヒナタ、起きてる?」

「……起きてる」

 

 そうして早く寝てしまおうと思った時、ミラがひなたに言葉を投げかけてきた。

 その声を聞いて最初はそのまま寝たふりをして寝付いてしまおうかとも考えたが、無視なんてしたくなかったため一瞬の間を空けてからミラの言葉に答えた。

 ずっとベッドに潜りこんでいたひなたが黙り込んでいたからかもう寝ていると思っていたらしく、ミラは少し驚いたような雰囲気を出していた。そっちから声をかけてきたんじゃないか、とひなたはちょっと笑いながら寝返りを打ってミラの方を見た。ミラも同時に寝返りを打ったようでミラもこっちを見ていた。

 

「……ヒナタは、心配?」

「心配って……そりゃね。全部が全部心配で仕方ないよ」

 

 こんな状況下で心配が無い訳がない。

 もしかしたら避難する前にブラッドフォードが動いてこの街が数時間で灰だけになり人間は皆死んでしまうかもしれない。それが避難の最中に起こるかもしれない。イヴァン達が敗北するかもしれない。避難所から真っ先に燃やされて死んでしまうかもしれない。

 色んな心配がある。心配が無い方が可笑しい。今この世は心配事しかないから。

 むしろ、今の状況は幸運なのだ。隣国全てが滅んだのにその間にあるこの国が未だに滅んでいない。何でかは分からないが、こうして周りの国が滅んだというのに生き延びているという事が、既に幸運なのだ。

 だから、心配事が尽きる訳がなかった。

 

「……だよね」

 

 それはミラとて同じだった。

 幾ら父が強いと分かっていても今回の件は次元が違うと言ってもいい。

 真祖ブラッドフォード。奴の戦闘力は未知数だ。未知数であると同時に天井知らずとも言える。だから、不死殺しの剣を持つイヴァンだとしても、勝てるかどうかわからない。いや。不死殺しが効くのか、不死殺しを当てる距離まで近づけるのか、切り結べるのか。それすら分からない。

 何せ相手は一夜で国を亡ぼす化け物だ。人間が竜巻を相手にして竜巻を蹴散らすような、無理無茶無謀な戦い。それが今回の戦いだ。

 しかも、ミラは今回唯一の肉親を失うかもしれないのだ。母を真祖に殺され、父すらも真祖に殺されるかもしれない。それが心配でない訳がない。ひなたとはまた別種の恐怖を抱いてしまっているのだ。

 

「……大丈夫。多分、大丈夫だから」

 

 そんな不安に駆られて表情が曇っているミラを見て、ひなたは根拠のない励ましをしながらそっとミラに近づいて彼女を右手だけで抱いた。

 ミラはそれに少しだけ驚いていたが、すぐにミラの両手はひなたを抱きしめた。かけられた言葉が根拠のない物だと分かってはいるが、それでも今は彼女にかけられた言葉が自分の不安を軽くしてくれていた。

 

「イヴァンさんならきっと大丈夫だから、ね?」

「……ん」

 

 根拠のない言葉。それでも、人の温もりに包まれながら聞いた言葉は不安を軽くしてくれる。彼女のお世辞にも厚いとは言えない胸に顔を埋めながら小さく呻くように一言だけ肯定の声を漏らした。

 何時もは年下っぽいのにこういう時だけはお姉さんっぽい。そんな彼女のギャップのような物に少し慰められながらひなたの自分よりも少しだけ高い熱に安堵する。

 

「……薄いし痛い」

「悪かったね……っ!」

 

 それ故かちょっとだけ本音を漏らしてしまった。それに対してひなたはちょっと額に青筋を浮かべながらもミラを抱きしめる。心なしかちょっと抱きしめる力が増して鼻に彼女のアバラがゴリゴリと当たって痛いしその間にある筈のクッションが少ししか無いのにちょっとした悲壮感を覚えるが、ミラも同じような物なので自虐にも繋がる言葉はあまり口にせず、ただ痛い痛いと呟きながらひなたの背中をちょっと叩く。

 だが、こんなちょっとしたじゃれあいでも胸の内の心配は忘れる事が出来る。ミラは己のアバラでミラの鼻にダメージを与えようとして来るひなたに対して力で対抗しながら小さく笑う。

 気が付けばミラはそのまま寝てしまい、ひなたは拗ねてミラに背中を向けた状態で寝付いた。

 

 

****

 

 

 真夜中。ふとひなたは目を覚ました。

 寝付いてから大体一、二時間位しか経っていないのを体内時計で何となく察しながらも右手で体を起こした。

 

「……トイレ」

 

 布団を体の上から退かしながらまだ少しだけ覚醒していない頭で自分がこんな時に目を覚ました理由を把握し、ゆっくりとベッドから降りる。その時にベッドに目をやるとミラが何時の無表情からは想像できない程の柔らかい表情で寝付いているのを見てからトイレへ向かう。

 寝ぼけ眼を擦りながらトイレに入り用を済ませてからトイレから出る。その時に付けた電気を消すのは忘れない。

 見る人によっては子供用のパジャマにしか見えない寝間着の左袖を余らせながらフラフラと再び寝室へと向かう。が、目を擦りながら歩いていると、物置の部屋から明かりが漏れているのに気が付いた。

 一瞬、まさか泥棒か? と身構えたがふと寝室でシャーレイを見なかったのを思い出した。

 そういえば寝る前にシャーレイが物置で物を整理していたのを思い出した。まさかこんな丑三つ時まで物を整理しているのか、と思いつつ寝室を素通りして物置へ。

 物置のドアを開けるとまず最初に光が目に入り、その眩しさに思わず目を細める。それから数秒して徐々に目が慣れていきようやく物置の中が見える。物置は最後に見た時よりもかなり整理されており、物を入れる棚ではシャーレイが物置の方を向いた状態で寝落ちしていた。整理している間に眠気に負け、膝立ちの状態で寝落ち。そのまま態勢を崩して横になったのだと想像出来た。多分合ってる。

 ひなたはそんな様子のシャーレイを見て少し笑いながらそっとシャーレイに近づき肩に手を乗せシャーレイの体を揺らした。

 

「シャーレイ、起きて。そんな所で寝てたら風邪ひくし体が痛くなるよ」

 

 少しだけ強くシャーレイの体を揺らし続けると、大体十秒位だろうか。シャーレイが小さく抗議の声を漏らしながらも目を開けた。そしてすぐに見えた明かりに目を細めた。

 

「うぅ……まぶし……」

「ほら、シャーレイ。起きて」

 

 どうやらかなり眩しいと感じているようで目を開けようとしないシャーレイの上に覆いかぶさるように体を動かし明かりをカットしてからもう一回シャーレイの体を揺らす。そうしてやっとシャーレイは目を開けた。

 

「うぁ……おはよ」

「まだ夜中だけどね。ほら、ベッドに行こ?」

「……んぅ」

 

 だが、それでも寝起きが弱いシャーレイは自分の状況が把握しきれていないのか動こうともしない。それを見て仕方ないなぁ、と声を漏らしてからシャーレイのテオ持って引っ張り、無理矢理シャーレイの体を持ち上げる。そしてすぐに顔面から床にダイブしそうになるシャーレイの体を支えて物置から出て電気を消す。

 一応目は開いているがひなたにされるがままのシャーレイはひなたに連れられてそのまま寝室へ辿り着いた。

 

「ほら、寝よっか」

「んー……」

 

 シャーレイはひなたの声に従ってそのままベッドで横になり、すぐに目を閉じた。

 やっぱり寝起きが相当弱いなぁ、と思いながらもひなたもシャーレイの体を超えてベッドの真ん中、ミラとシャーレイに囲まれた場所で横になり、自分の体とシャーレイの体に布団をかけた。

 さて、寝るか。とまだ残っている眠気に従って目を閉じて体の力を抜いた瞬間、目の前のシャーレイがかなり覚束ない手つきでひなたに向かって手を伸ばし、ひなたの体を探り当てるとそのままひなたを抱き寄せた。それにビックリして目を開けたひなたの前に待っていたのはシャーレイの歳の割には豊満な胸であり、服の上から分かる柔らかさがひなたの顔を包んだ。

 息が出来ないという訳ではないが息苦しいのでちょっと身じろぎをして楽に呼吸が出来るように自分の顔を動かす。

 

「……ずっと、一緒だよ…………?」

 

 そうして何とか楽に呼吸が出来るようになったとき、そんな声がシャーレイから小さく聞こえてきた。

 ひなたはそれを聞いて少し口角を緩めながら右手だけでシャーレイの体を抱いた。

 

「勿論。死ぬまでずっと一緒だよ」

 

 その声にひなたは答えてから再び目を閉じた。

 シャーレイに抱かれながら見た夢は覚えていないが、それでも寝心地はとても良かったし暖かかった。きっと、この暖かさは死ぬまでずっと離す事は無いだろう。

 そう、死ぬまでずっと。




実は不安がヤバかったミラさん。まぁ、放任主義のせいで離れていたとは言え唯一の肉親がヤバい事に巻き込まれそうなんですからそりゃ不安ですよ。という訳でミラの珍しい歳相応のシーン

そしてシャーレイも結構精神的にキテます。シャロンの事があるので、特に失う事に関しては恐怖しています
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