魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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馬車に乗ってから少しで完結ですぞ


第七十魔弾

 紅に染まりながらも地を照らす空。それは見る者を全員不安にさせ、その中の一部。今回の件がブラッドフォードによって引き起こされていると知っている者は決戦の地が近いと覚悟を決めている。

 しかしその中で唯一、ブラッドフォードの直接的な被害に会い尚且つ生き残っているひなたが一番精神的なダメージを負っていた。

 起きてすぐにシャーレイに背負われて毛布を羽織った状態で一階に降りたひなただったが、降ろされてすぐに部屋の隅へ逃げ、そのまま毛布を被った状態で動かなくなってしまった。やはり、寝ただけでは治らない。少し期待していた分もあってシャーレイとミラは小さな溜め息を漏らさざるを得なかった。

 が、一つだけ進展はあった。毛布を被った状態ならシャーレイかミラにくっ付いた状態で移動が出来る。ひなたが腕に抱き着いてくるが、ちゃんとひなたを拒まずにいれば彼女は動いてくれた。それに、食べ物も完全な固形物はまだ食べられないが粥ならなんとか食べることが出来た。食べ過ぎると吐いてしまうが。

 そうして何とかひなたに物を食べさせ飲ませて移動させてをしながら時刻は既に昼。外を見ても空が真っ赤なので目に悪いが、その中でも光っている太陽は自分たちの真上を超えていた。

 

「……ごめん、迷惑ばっかかけて」

「だ、大丈夫だよ。気にしてないから」

「……今よりもヒナタの生理中の方が面倒」

 

 ミラの言葉で思い出されるのは月の日でぶっ倒れて腹を抱えたまま腹痛やら頭痛やらで苦しむひなたの姿。女の体なんてクソ食らえと呟き続けながら腹の痛みに耐え、そして一人では立つことすらままならない痛みのためシャーレイとミラが色々と世話をして。それでピークを過ぎると今度はひなたが四六時中イライラしていたりちょっとした事でキレかけたと思ったらすぐに謝ったり、と思ったらいきなり騒ぎ出したり。何時もの情緒不安定に拍車がかかってしまう。 

 ちなみにミラはシャーレイ同様軽い方なので偶にひなたに軽い人には分からないでしょうねぇ!! と叫ばれたりする。なので今のひなたよりも月の日のひなたの方が結構面倒なのだ。

 

「……いや、ほんとごめん」

「わ、私も生理中は結構不安定だしお互いさまだよ」

「……シャーレイが不安定な時って見た事ないんだけど」

「…………」

 

 シャーレイとミラが月の日の時はそこまで変化はない。というかほぼない。本人は少し不安定でイライラしていたり少し落ち込みやすくなっている、とは思っているらしいがひなたからしたら別に何時もと余り変わらない。ちょっとイラついてるかな? とは思ってもそれだけだ。

 気が付いたらなってるし気が付いたら終わっている。ひなた的にはそれが羨ましかった。

 

「……ボクもなぁ、軽かったらなぁ……生理痛があんなに辛いなんて知りたくなかったなぁ……」

「あ、あははは……」

「……女に生まれた不幸」

 

 月の日なんて知らねぇ取り敢えず性欲解消だと夜中に耽っていただけの男の時代が最早懐かしい。というかもう二度と戻ってこないだろう。

 そう考えるとただでさえナーバスな気持ちがもっとナーバスになってくる。

 それをどうにかして忘れるためにシャーレイの膝の上に対面になるように乗ってそのまま抱き着く。何やかんやでこれが今のひなたにとっては一番の精神安定剤なのだ。ミラでもいいのだが、ミラだと少し胸の脂肪が少ないため実際に抱き合うと何だか幸福感が少しだけ下がる。

 

「……今喧嘩売られた気がした」

「……売ってない」

 

 胸に関してはひなたがどうこう言えるものではない。この三人の中だとひなたが一番小さいのだから。

 シャーレイが山、ミラが緩い坂、ひなたが平野。ミラは改めて自分の胸をなで下ろし、起伏を殆ど感じられなかった事にため息をついた。

 

「……でも、少しは元気になったみたいでよかった」

 

 少し頬を膨らませていたミラが小さく笑いながらそう言った。

 確かに、今のひなたは昨日と比べたら元気がある。と、いうよりもまともに会話が出来ているため昨日よりも大分マシな状態になっている。シャーレイもそれには気が付いているようでそっとひなたの頭を撫でる。その優しい手つきと温もりに安堵したせいか瞼が若干落ちてくるが、そのまま寝落ちてしまうということがないように目を擦ってからシャーレイの膝の上から退いて彼女の肩に頭を預ける。

 確かに昨日よりも多少は元気があるが、それでも脳裏ではあの光景たちが今でもフラッシュバックを繰り返している。例え愛する人と抱き合おうと肌を重ねようとこのトラウマのフラッシュバックからは逃げることが出来ない。

 今でもシャーレイとくっ付いているからこうして会話する余裕も持てているが、離れればまた昨日の二の舞だ。外に何て出たら更に酷い事になるのは間違いない。

 

「……明日、避難所へは行けそう?」

「……頑張る」

 

 ミラの問いにひなたは是、とは答えず言葉を濁した。

 昨日、届け出を出したばかりではあるが、お上はたった一日で受け入れ態勢と馬車の用意を終わらせてくれるらしく、明日には家の前に馬車の迎えと万が一の時のための護衛を一人出してくれるらしい。

 その護衛は女性らしいが、ひなた達とは別の馬車に乗るらしく、基本的に顔を合わせる事は無いだろう。精々馬の交換や深夜等に顔を合わせて世間話をする程度だろうか。最も、今のひなたを見せてしまうと煽りの材料になってしまう可能性もあるためひなたは一回も顔を合わせるつもりはないが。

 

「……じゃあ、私は出かけるから」

 

 ミラは太陽の位置を窓から確認すると大体の時間を察し、出かけると告げた。

 行く場所は駆除連合であり、そこで今も作戦会議を続けているイヴァンに会いに行く。

 明日にはこの街を離れ、三人はこの問題が解決するまでは避難所暮らしを強いられる事となる。その時間でイヴァンが死ぬ可能性というのは大いにあり、イヴァンとミラが死に分かれてしまうと言う事になる。

 だから、悔いが無いように今日、ミラはイヴァンと話をしに行く。もう二度と会えないかもしれない。そんな思いを胸に押し留めて、最後になるかもしれない親子の団欒を。

 

「あ、もうそんな時間?」

 

 今朝、それを伝えられたシャーレイとひなたはそれを止めるなんて事はしなかった。むしろ、今日はそのままイヴァンとずっと一緒に居てもいいと告げた。

 だが、ミラはそれを断った。理由として彼女はひなたが心配だから、と笑いながら言ったが、恐らく真意はそれではない。

 一日も一緒に居てしまったらきっと別れが辛くなる。もう二度と会えないかもしれない。それを理解してしまっているから別れを惜しまないために、後ろ髪を引かれないために数時間だけ会って話し、食事をして別れる。それが一番、最後の別れを惜しまなくて済む方法だと思っているから。

 

「……うん。ヒナタの事、お願い」

「分かってるよ。行ってらっしゃい」

 

 ミラは最後にひなたの頭を少し撫でると、杖を両手で持って外へ出かけて行った。

 あとは親子水入らずの時間だ。二人が関与する時間ではない。

 

「……ひなたちゃん、暫く寝たら?」

 

 シャーレイは顔色が著しくないひなたの頭を撫でながらそう言った。

 朝食を食べるだけで彼女は結構な体力を使った。このままだと昼食を食べる事は出来ないだろう。だから、昼食は寝て体力を回復させて夕食だけを食べたらどうか。

 そんな思いを込めた言葉は半分くらいはひなたに伝わった。が。

 

「でも……」

 

 ひなたが寝てしまえばシャーレイは動けない。きっと、寝ている間でもシャーレイが離れてしまえばひなたはすぐに耐えられなくなてしまい暴れてしまうかもしれない。

 だから、それだとシャーレイが辛いと思い否定の言葉を口にしようとした。が、シャーレイは笑顔でその言葉を大丈夫だから、と遮った。

 

「こう見えても三日間何も食べずに走り回ってた時もあったんだよ? お昼くらい全然余裕だよ」

 

 シャーレイは笑顔で大丈夫だと告げた。

 が、頭の中を巡るのはお世辞にも良いとは言えない記憶で、シャロンと一緒に何処からか沸いてきた分からない人身売買組織に追われて三日三晩何も食べず飲まずで大人の男達から逃げ続けた記憶がリフレインする。

 あの時はつらかったなぁ、としみじみと思いながらひなたの頭を撫でる。

 

「……そう言うんなら、甘えてもいい?」

「うん、全然いいよ」

 

 最終的にシャーレイの言葉にひなたは甘え、彼女の膝の上に頭を落とした。

 そして、目を閉じてから大体一分位か。彼女の吐息は何時の間にか寝息へと変わっていた。一度食べ過ぎて吐いてしまったせいかかなり体力を使っていたらしい。その時の吐瀉物はシャーレイが掃除した。腐った物をシャロンと共に食べて吐いた経験が何度もある彼女にとってその程度は別に苦では無かった。

 そんなひなたの母親代わりとも言える事をして、今もこうして膝を彼女の枕代わりにしているシャーレイは優しい笑顔でひなたの頭を撫でる。長くて綺麗な銀色の髪が指の間を流れ、くすぐったそうなひなたの声を聞く。

 こうしているだけで暇なんて忘れる事が出来てしまいそうだ。そう思いながらシャーレイは天井を見た。

 

「……お腹空いたなぁ」

 

 しかし、大丈夫とは言った物の空腹は襲ってくる。

 少し判断を早まったかなぁ、と思いながらそれを忘れるためにひなたの頭を撫でるのだったが、腹の音で彼女が目を覚まさないか。それだけが現在の悩みだった。

 

 

****

 

 

「……パパ」

「ん?」

 

 駆除連合の奥、先日ひなたが拉致された会議室から少し離れた場所でミラはようやく己の父であるイヴァンを見つけた。

 彼は何処か疲れた表情をしており、寝ていないのか目の下には隈を作っていた。彼の表情から見るに大体三日位は寝ていないし喧騒の中に身を置いている物だと思われる。手にはコーヒーらしき物が入ったコップがあり、真っ黒なそれはコーヒー特有の匂いを放っていた。

 彼は煙草を吸わない。だからストレスを一時的に忘れる方法としてはこうして休憩がてらに酒を飲む事しか知らない。だが、こうして常に警戒態勢である事から酒ではなくコーヒーを選んだのだろう。

 

「……寝不足?」

「まぁな。外がこんなんだ。いつ奴さんが来ても可笑しくない」

 

 ミラを前にした顔は何処か強張っており、ヴァルコラキよりも遥かに強いと思われるブラッドフォードを相手にしなくてはならないという緊張感と恐怖が娘を前にしても気持ちを溶かす事を許してくれないらしい。

 真祖という人間を超越した種族。それに技術と能力でどれだけ迫れるかが人外との勝負になる。ヴァルコラキは今の状態で十分に迫ることが出来た。だが、ブラッドフォードに迫れるかどうかは実際に対峙してみない事には分からないし彼の切り札とも言える不死殺しの剣がブラッドフォードにも通用するのかが分からない。それが人間と言う枠を超えた彼に恐怖を刻み込んでいる。

 

「……なぁ、見てみろよ。手が震えてやがる。こいつは本格的にヤバいって体が分かっちまってるんだ」

 

 イヴァンが己の手を見ながらミラにそう呟く。

 彼の手は細かに震えていた。父のそんな弱音を聞くのは初めてでミラは狼狽した。が、父も人間だ。恐怖くらいするんだと思えば父が今まで以上に近く感じれた気がした。

 

「……パパなら大丈夫だよ」

 

 だが、せめて何か声をかけたい。そう思って慰めにもならないであろう言葉を彼にかける。

 イヴァンはその言葉を聞いて少し黙り込むと、笑顔を作って礼を言いミラの頭を少し乱暴に撫でた。だが、ミラにとってそれは懐かしく、嫌な気は一切しなかった。

 

「なぁ、ミラ。お前は俺より早く死ぬなよ?」

 

 そうして撫でながらイヴァンはミラに囁いた。

 その言葉は、愛する妻に先に旅立たれた彼の気持ちが籠っていた。こんな腐った世界で一人で居たくない。娘の死なんて聞きたくない、見たくない、知りたくない。彼女が元気に生きているという事だけを知りたい。だから、せめて自分が死ぬまで死んでほしくない。出来る事なら天寿を全うしてほしい。

 子育ての方法が分からなくて彼女を一人にし続けてきた男の言う事なのか、と言われても彼はそうだと肯定する。これは一人の親として、娘を持った男としての当然とも言える感情だ。娘の幸せを願う、一人の親としての。

 

「……うん」

「そうか、良い子だ。やっぱお前は俺の自慢の娘だよ」

 

 彼は本当は心配だった。一人で寂しくないか。仲間が出来ないのに大丈夫か。変な男に付いて行ってないか。そんな心配と戦いながらもヴァルコラキを探る事を優先していた。

 足を失ったと聞き、あの時もっと一緒に居てやるべきだと思った。後悔してしまった。

 だが、あの時の子が。ブラッドフォードの眷属の少女が彼女の友となり、仲間となってくれた。彼女と共に生きていくから足なんて気にしていない。そう聞いて少し安堵した。そしてその後に会ったミラは、友を失い悲痛な表情をしていて、それを解決した後はとてもいい笑顔をしていた。イヴァンですら、数回しか見たことが無いほどの、良い笑顔を。

 ミラからヴァルコラキの事を聞いた時、イヴァンは急いだ。ヴァルコラキを殺すために。

 だが、今回の被害者がミラと関係のない人間だったら、恐らくそこまで急ぐことは無かっただろう。あそこまで急いだのはミラの友が被害者だったからだ。だからこそ、あそこまで急いだ。そして、間に合わせた。それくらいにまで、イヴァンはミラの事を大切に思っている。そして、彼女の友であり家族になってくれたひなたとシャーレイも。

 だから、彼女達を守るために戦う。もう二十年も生きられないであろう命を使い、若い命を守る。そう覚悟を決めても、やはり怖い物は怖い。

 

「……パパ、また会おう?」

「また、か……」

「……うん。それで、一緒にお酒飲も?」

 

 だが、この言葉が活力となる。

 そうだ、まだミラと一回も酒を飲みあっていない。娘が成人する所を見ていない。

 だったら、まだ死ねない。

 

「……そう、だな。お前と酒を飲みあうまで死ねるもんか」

 

 彼の楽しみの一つは、マイと夜中に酒を飲みながら笑いあう事だった。愛する人から酒を注いで注がれて笑いあいながら飲む酒はとても美味しかった。

 もう十何年も前だが、その味は今でも覚えている。忘れられない。忘れるものか。

 だから、それを愛する娘と共に。それを遂げるまでは、死ねない。

 

「……だから、勝って」

「……任せろ。絶対に勝って、お前を迎えに行く」

 

 ミラを抱きしめ、誓う。告げる。ブラッドフォードを下して見せると。

 今の顔は、少しみっともないから見せる事なんて出来ない。だが、声は告げれる。思いの丈は伝えられる。

 

「……待ってる」

 

 少し口下手で、でもそれが可愛らしい自慢の娘の声を聞き、再びこの声を、温もりを感じるために戦うと誓う。

 これは、そのための涙だ。




イヴァンの方が主人公してやがる……そして心折れているひなたさん。こいつ、ヒロインにした方が光る体質してやがる

そういえば、ふとひなた、シャーレイ、ミラを攻略するためのフラグ建築方法を考えてみたらひなたはブラッドフォードを倒すか押し倒して一発ヤって心を折る、シャーレイはひなたに会う前に接触、ミラはルナを助けるかルナ爆散の時に居合わせて説得

ひなたは難易度ルナティックとイージー、シャーレイはイージー、ミラはハードって感じですかね……案外チョロい?
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