魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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突きつけられた選択肢は、絶望か、希望か

だけど、希望を掴めば仇討ちの機会は無くなる。けど、希望を掴み取らないと愛する人達を殺す事となる。だったら、取る選択肢は――


第七十五魔弾

――その娘達と元の世界へ帰る事だ――

 

 

 ――言っている意味が分からなかった。

 元の世界? 帰る? 最初は何を言っているのか理解できていなかったが、すぐにその言葉から思い出した。

 地球。ひなたが元居た世界であり、帰るという言葉が当てはまる世界はそこしかない。

 地球に帰れる? 二人と一緒に? 二人とあの平和ボケを起こしそうな世界へ帰る?

 出来るのか、そんな事が。そんな選択肢があるのか、この期に及んで。

 右手でまだ握っていた起爆銃が床に落ちる。後ろのシャーレイとミラにはその言葉の意味が分かっていないようだが、ひなたにとっては衝撃的とも言える選択だ。

 

「そ、そんな事出来るわけ……」

「出来る」

「どうしてッ!!」

 

 思わず声が荒くなる。

 出来る筈がない。そんな、世界を渡るような魔法、ある訳が無い。

 

「……空間転移の応用だ。世界の壁程度、越えられない訳がないだろう」

「それはっ……」

 

 ひなたの中で空間転移なんて名の付けられた魔法は異世界まで転移出来る様な代物では無かった筈、だ。

 色んな小説を見て、ゲームをやって、アニメを見て。その時に出てきた平行世界への移動を可能としたのは世界を渡るために必要な専用の魔法だった。中には空間魔法で済ませている物もあったが、そういうものは大抵特殊な条件があったり大昔に潰えていた。

 それをたかが真祖のブラッドフォードが出来る訳が。

 

「貴様の中の常識は知らぬ。平行世界への干渉は出来る。いや、出来た」

「こ、根拠は……」

「我がブラッドフォードだからだ」

 

 そう言われて思い出す。

 ブラッドフォードは真祖を超えた真祖だ。ならば、出来るのではないかと、思ってしまう。が、まだ足りない。信じるにはまだ要素が足りない。

 

「じゃ、じゃあボクの元居た世界の星の名前は! 出来るのならその程度言える筈っ!!」

 

 言えないだろう。そんなピンポイントで自分の居た世界の情報を。

 ひなたはそんな都合のいい話を信じたくない。後で絶望何て見たくない。そんな一心でブラッドフォードの言葉を否定するために言葉を荒げ――

 

「地球。確か、太陽系第三番惑星だったか? ついでに言えば貴様はダイガクセイとやらをやり、二ホンとやらのトウキョウという街に住んでいたのだったか? 魔法も無くカガクのみで成長したとは何とも奇妙な世界よな」

 

 合っていた。

 ひなたはここに来る前は日本の東京で平凡な大学生をしていた。

 知られている。完全に。

 

「ひ、ひなたちゃん?」

「……一体何を話して?」

「い、いや、その、それは……」

 

 そうして動揺している中でシャーレイとミラに声をかけられる。

 二人にはまだ話していない。話すつもりも必要も無かったこと。かつての暁陽太を知らず、今の暁ひなただけを知っている彼女達に、あの世界の事は話さなくてもいいと思っていた。

 だが、この選択肢は二人にそれを告げる事となり、二人はもう二度と生まれた世界の地に足をつける事が出来なくなる。かつて自分が味わった気持ちを二人に押し付けてしまう事になる。

 そう考えると言葉は濁り、どもり、口から出ず。

 

「なに、我が眷属はこの世界の出身ではない。魔法の無い世界で生き、この世界へと来た迷い人というだけだ」

「え……? じゃあ、ひなたちゃんは……」

「……異世界の人?」

「え、あ、そう、だけど……」

「あぁ、だから名前とか変わってるんだ……」

「……アカツキなんて姓もヒナタって名前も聞いた事なかった」

 

 二人の反応を見てホッとする。知られるのが異世界人という事だけでよかった。

 ここで実は異世界に居た頃は男でしたとか言ったら確実に軽蔑されそうだが、そこまでは言われなくてよかった。ブラッドフォードが何だかニヤニヤしているので絶対に気づいていやがる。もう今この場でぶっ殺してやりたい気分が収まらないが実力差的にも種族的にも殺せないためグッと堪える。

 奴はやはり人間の価値観から見たら唾を吐きたくなるくらいには性格が捻じれて歪んでいる。頼むから誰かアイツを殺してください。

 

「して、どうする?」

 

 ニヤニヤと笑いながらブラッドフォードが再度問う。今は恐らく機嫌がいいのだろうから何度か聞くが、もう少し時間が経てば不機嫌になってこちらを一瞬で殺しに来るかもしれない。

 かと言ってシャーレイとミラを地球にご招待……というのもあまり気が乗らない。地球はこの世界と比べて戸籍やら学校やら仕事やら何やらで面倒この上ないし、何よりもう二度とこの世界には帰れない。もう二度と、自分の産まれた世界に帰れない。

 それを思い知らされた時の絶望感や虚無感はひなたが一番知っている。知っているからこそ、二人にはその時と同じ気持ちを味わってほしくない。

 

「……そ、れは」

 

 言葉が詰まる。

 地球に帰る事にイエスと答えれば生き残れる。しかし、ノーと言えば確実に死ぬ事となる。だが、後ろの二人の事を思えばイエスと首肯は出来ない。けれどもノーとも言えない。

 

「……私は、ひなたちゃんに付いて行くよ」

「シャーレイ……」

 

 答えようとしない。いや、答えられないひなたに向かってシャーレイが声をかけた。

 判断は、ひなたに全て任せる。彼女はそう言った。その眼には後悔なんてない。そんな思いが篭っていた。

 

「……私も。それに、ヒナタの産まれた世界には興味がある」

「ミラ……けど、そうすると……」

「……もうパパには会えない」

 

 ミラもひなたに付いて行くと言った。しかし、それはもうミラはイヴァンには会えないということ。

 肉親との永遠の別れ。生きているのに会えないという悲しみもひなたは分かっている。きっと、地球に戻ったとしてもひなたは自身の両親に会う事は出来ないだろう。だからこそ、ミラには自分と同じ気持ちは味わってほしくなかった。

 シャーレイはもう自身の肉親は唾吐いて中指立てる程度の存在に成り下がっているのかもしれないが、ミラとイヴァンはそんな関係ではなく、仲の良い親子だ。そんな二人を引き離すのは流石に自身のエゴでは決められなかった。

 

「……ここで死ぬよりはマシ。生きていれば、また会えるかもしれないから」

 

 だが、ミラは笑ってそう言った。

 生きていれば、また会えるかもしれない。もしかしたら地球の方で異世界に行くための術を見つける事ができ、偶然にも再びこの世界に来れるかもしれない。ミラがイヴァンとの永遠になるかもしれない別れを受け入れられたのはこの考えがあったからだろう。

 彼女は自分よりも何倍も強い。力も、内面も。

 

「……だから、ヒナタ。一緒に生きよう」

「死ぬよりは絶対にマシだよ」

「……うん、そうだね」

 

 そうだ、この選択肢は死ぬよりも遥かにマシだ。

 それに二人とも腹を括ってくれた。なら、ここで自ら死にに行く選択肢なんて、ない。

 

「決まったか?」

「……決まったよ」

 

 そうだ。だから、この二択は。生きるか死ぬかの二択は。

 

「――ボクは、二人と一緒に元の世界へ帰る」

 

 例えこの世界に永遠に足をつけられなかったとしても、生き残る。

 仇を見逃し、更には仇の温情を得る。これに屈辱感を与えられないと言ったら嘘だが、今は二人と一緒に生きる事がひなたの中の一番だった。

 ブラッドフォードはその言葉を聞きニヤリと笑うと指を鳴らした。その音に共鳴してひなた達の立つ床に深紅の魔法陣が浮かび上がった。それと同時に自分の中に枷のような物がかけられる感覚がした。きっと、再び食人の制約がかけられたのだろう。

 

「ならば貴様らを異世界へと飛ばそう。あの世界は少々規則が厄介らしいからな。厄介な面はこちらの方で調整しておいてやろう」

「……なんでそこまで」

「眷属の旅立ちに対しての主からの贈り物だ」

 

 ひなたが少しブラッドフォードを訝し気な視線で見るが、その間にも深紅の魔法陣の光は強くなっていく。

 その光に少し目を細めると、シャーレイがそっとひなたの右側から彼女に抱き着いた。そしてミラもそっとひなたの左側から彼女に抱き着いた。

 二人の暖かさを感じてひなたはそっと目を閉じた。徐々に体が軽くなっていくような感覚がしてくる。

 二人には何時も迷惑をかけてばかりだ。今回も、特大の迷惑をかけてしまった。

 けど、きっとそれを帳消しに出来るくらいに向こうの世界での生活は楽しいのだろう。命の危機に怯えることは無く娯楽は多く、金の稼ぎは少し苦難すると思うが、それでもこのファンタジーとは名ばかりの弱肉強食の腐った世界とはおさらばできる。

 あぁ、でも平和ボケしそうなくらいに平和な世界での生活は、きっと、今まで以上に――

 ひなたの意識は、ニヤけるブラッドフォードの前で、完全に無くなった。




次回、最終話兼エピローグ
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