魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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今回で結構ストーリーが動くかも


第八魔弾

 魔獣駆除から帰った翌日。シャーレイには泣き付かれてしまったが、その日の幻肢痛も枕を噛んで乗り切った。三日に一度、一週間分の生活費を稼いで二週間近くが経ったその日、ひなたの財布は結構潤っていた。情報屋に貢ぐ用の金は別にあるが、二人の生活費としての金はそこから切り取っていかなくてもいいようになってきた。なので、ひなたはこの日、再びスラムへ一人で向かい、情報屋へと情報を買いに行くことにした。

 とは言っても、もう大体の位置は割れている。ひなたがここに来た初日、そして次の日辺りにスラムの地理はある程度頭の中に突っ込んだ。その中でまだ何があるのか分からない部分。そこがひなたの目的である情報屋のある場所だ。一人では心配だ、とシャーレイは言っていたが、シャーレイがいる方が足手まといになる。シャーレイを人質に取られたら逆に迷惑になる。なるべく冷静にそう告げると、シャーレイは渋々だが、それに同意した。流石に自分が原因で今の生活が壊れる、というのが耐えられなかったのだろう。本当に子供なら、それでも拒否するのだろうけれども、シャーレイはそこら辺はちゃんとしているらしい。シャロン、という子がシャーレイにそう言った事を教えたのか、シャーレイ自身が学んだのか。

 だが、シャーレイはまだ十四歳の子供だ。最初、年齢を聞いて、体付きが十四歳じゃないと驚きはしたものの、それなら一人で生きていく事に不安を覚えるのは仕方のない事だと思った。ひなたでさえ、十九歳でここに来て不安しか無かったから、今まで二人で生きてきたシャーレイなら、それも仕方のないことだと。だからと言って彼女を拾ったひなたはかなりのお人好しと馬鹿にされる位だが。

 何時でも起爆銃を抜けるように構えていると、やはり周りの視線が気になってしまう。ローブで顔や髪を隠しているとはいえ、ひなたのローブの上からでも分かる小柄な体系を見たら女じゃなくても金品を力づくで奪えるかも、と思ってしまう。元男のひなただからこそ、こんな腐った場所で生活している中で小奇麗な女が来たらもしかしたら、という思考を抱える気持ちは分かる。その対象にされた方はたまった物じゃないと学んだが。

 基本的にスラムにいる男は戦える力がなく、しかし体はある程度鍛えて自分に酔っている馬鹿な男か、戦える力がなくこっそり生きている男か、ずる賢く生きている男、の三択に入る。戦える力の集まる場所、駆除連合で戦い、その中でも下の上位の力があるひなたがそんなスラムの男達に後れを取る筈がなかった。

 

「とは言っても、近づかれたらホントにマズいけど……嫌だなぁ、犯されるのは。本当に」

 

 ボソッと独り言を呟いた。犯されるのは誰も嫌だろう。だが、元男という立場である以上、男に犯されるというのは考えただけでも鳥肌が立つ。そうなったら確実にエクスプロージョンの魔弾を噛み砕いて自分の頭を吹き飛ばして自決する。

 せめて普通に魔法が使えたなら、近距離戦もある程度は立ち回れたが、起爆銃が必要不可欠な立ち回りを強いられる以上、もし起爆銃を弾かれたらひなたは一般人よりも非力な存在に成り下がる。一応、嗜む程度に護身術は学んだが、片手ではやれる事なんてタカが知れている。

 女という身が嫌になるのは何時もこういう時だ。非力で、小さくて、男共の欲望の捌け口になる。それ以外の面では得している部分もあるが、デメリットも大きい。早く男に戻りたいと切に思う。

 溜め息を零しながらスラムの不味い空気を吸っていると、後ろで何かがコソコソしている気配がした。やはり、性欲を溜め込んだ腰を振りたい猿が狙っているらしい。体の動かし方もロクに知らない男が動く気配を察知するなんて、魔獣の奇襲を気配だけで察知するよりも容易い。魔力だけを固めた魔弾を一つ噛み砕き、魔力を暴走させ体外に放出させたひなたは振り返り、起爆銃を構えた。

 

「ジェノサイドバスター・マルチレイド」

 

 魔法名を呟き、引き金を引く。シューターの魔弾が過剰な魔力によってビームに変化し、それが何十にも分裂して後ろから迫っていた男共を掠めて後ろへ抜けていく。それだけで男達は腰を抜かしてへたれ込んだ。

 男の数は五人。大体一人一人が足や手を掴んで拘束し、残り一人が好き勝手に……という魂胆だったのだろう。馬鹿め、こっちは駆除連合で金を稼ぐ魔弾使いだ。シャーレイのような無力な少女ではない。

 

「うざいんだよ、お前ら。玉潰されたいか」

「ひぃぃ!?」

「いやまぁ、分かるけどさ。性欲溜まる辛さ。けど、うざいモンはうざいから、とっととどっか行ってくれない? 本当に玉潰すよ?」

 

 威嚇にもう一発、魔弾を撃ち込んでやれば男達は這って逃げていった。ジェノサイドバスター・マルチレイドに人を気絶させるな威力は無い、見せかけの魔法だと見破れない時点でひなたを組み伏せるなんて夢のまた夢だ。一発で人を気絶させるのが精一杯なシューターを増幅させてビームにしても、それが何十分の一になっている時点でそれがシューター一発よりも威力の低い散弾なのは明確だ。強い人間はそれを見ただけで見せかけだと判断してくるため、マルチレイドは目眩ましにもならない。

 考えてて悲しくなる威力だが、現状、ジェノサイドバスターのバリエーションの一つでしか人を一撃で殺せない以上、ひなたは弱い部類にどうしても入ってしまう。魔弾を人の首やら頭やらに何十発も連続してぶつければ殺せないこともないが。後はエクスプロージョンの魔弾での神風特攻。

 慣れた事とはいえ、己の非力さに泣きたくなってきてしまう。そんな溜め息を吐き、ふと横を見ると、スラムの中でも一際細い脇道のような場所から、人一人が入ってそうな、モゾモゾと動いている麻袋を持った男が出てきた。最初はそれを見て、何だ、人攫いかと思ったが、すぐにその考えを改めた。

 その男達は、このスラムに初めて足を踏み入れた時にシャーレイを追っていた目的も所属も不明な男達だった。このスラムに出入りする以上、危険因子になるかもしれないあの男達に釘を刺したかったが刺せなかったため、なんやかんやで流れてしまった事だが、丁度いい。あの男達が攫ったのは変わらずに女の子だろう。ひなたは不敵に笑い、起爆銃を構えた。

 

「はーい、検問だー。止まらないと撃つぞー」

 

 やる気のない声でそう言った後、ばーん。と言いながら魔弾を放った。放たれた魔弾は動いている麻袋を持っていた男に当たり、男は吹き飛ばされた。

 

「な、何だ!?」

「だ、誰だ!」

「やーやー。クソみたいな事を企む男の敵で一応は女の子の味方でーす」

 

 フードを外しながら二発の魔弾を作り出しリロードしたひなたは起爆銃を構えて男達に近寄りながらそう言った。最初はフードを被っていたため分かっていなかった男達だが、隻腕銀髪の魔弾使いという情報から、ひなたの事を思い出したらしい。男達は冷や汗を掻き始めた。

 

「や、やべぇ……!」

「あの時の魔弾使い!? 何で今日に限っているんだよ!!」

「んー? そんなの巡り合わせが悪かったねとしか。まぁ、お前らの顔、見てるだけで不愉快だからストレス解消に潰すんで。答えは聞いてないから」

 

 そう言い、五発の魔弾の連射で残り八人の男の内、五人を一瞬で戦闘不能にした。

 一切合切の容赦なしに撃ったひなたに対してドン引きしたのか唖然としたのか、男達は動こうとしない。その間、麻袋に入れられていた少女が自力で袋の中から脱出し、ひなたに礼をしながら逃げていった。それを笑顔で起爆銃を持った手を振って見送ると、残りの四人の対処をする事にした。

 シールドを張って安全圏内で弾を作る。が、それを見ている男の一人が口を開いた。

 

「じゃ、邪魔をしたのが命取りだな、魔弾使い!」

「あー?」

 

 やる気無さげにひなたは男の遠吠えを聞くことにした。魔弾作成には少なくとも五秒以上かかる。まだ魔弾は半分も出来ていない。

 

「俺等はボスから助っ人を借りてきたんだ! お前なんて一瞬で潰されるぜ!!」

 

 正しく負け犬の遠吠え。ひなたはそれを聞きながら魔弾の作成に集中し、シューター五発、シールド一発の作榮を急いでいた。シールドは次の魔弾が作れる五秒の内、四秒しか持ってくれない。そこに攻撃が加われば更に時間は減っていく。それ故に、シールドが切れた瞬間の隙を無くすため、さっさと魔弾を作る時間の短縮のために集中する。

 

「ふーん。ほー。負け犬の遠吠えって聞いていると哀れ……!?」

 

 だが、その集中を解かざるを得ない状態になった。

 背後から、何か来る。それも、ヤバい奴が。かつて戦った、ヤバい奴が。

 前のシールドが切れた瞬間に前へ転がり込み、シリンダーを開いて何時でも魔弾を装填可能な状態にしてから振り返る。その瞬間、先程までひなたがいた場所に何かが降り、地面が一瞬陥没。直後、土煙が巻き上がった。やっぱり、と思う間もなく土煙を巻き上げた怪物はひなたへと煙を切り裂き突っ込んでくる。

 それを避け、再び振り返りながら魔弾をリロード。起爆銃を構えながら襲ってきた下手人を視界に収めた。

 

 

 ――そして、思考回路の硬直の後、相手の正体が分かった。その正体は、ひなたの追い求めていた物であり、今この場所で確実に滅ぼさなければならない存在だった――

 

 

「どうやら、情報は買うまでもなく大当たりみたいだね……っ!」

 

 襲ってきたのは、シャーレイよりも少し年上な少女だった。

 人の力を超越したその身体能力は馬鹿にはならず、ひなたへの突撃を外した少女は勢い余って男達の内一人を巻き込み、新たな関節を大量に生み出した。それ位、あの突進は馬鹿にならない威力を誇っていた。きっと、巻き込まれた男は死んだか重症か。少なくとも、ひなたが手を出すより酷い状態になったのは変わりないだろう。

 大当たりだ。呟きながら立ち上がり、体勢を整えながら思考回路の幾つかを魔弾作成に割り振り、何時でも魔弾をリロード出来るように備えておきながら銃を構える。

 

「だ、誰を狙ってるんだ、このクソアマ!!」

「ア、タマ……ボーット、する……ヨクワカ、ラない……」

「そりゃそうだろうね……一度死んで蘇ったゾンビなんだからさ……!」

 

 ゾンビ。それは日本人が想像する物で間違っていない。

 一度死に、その死体がなんの意思もなく動き出した、空想上の産物。つまりは死人。よくあるゲームでは薬品やウイルスによって作り出されていたりしていたが、このゾンビは違う。

 正真正銘、死体が動き出した物であり、元の人間の人格は限りなく薄くなっている操り人形のような物。しかし、脳のリミッターの殆どが外されており、身体能力は馬鹿にならない。ひなたが真正面から攻撃を受けたら、そのまま死ぬまで殴られ続けるだろう。

 だが、ひなたはこのゾンビと戦うのを待っていた。見つけるのを待っていた。

 何故なら、ひなたは一度、このゾンビと戦ったことがある。数か月前。その日までのひなたの終わりであり、今のひなたの始まりとなった、あの忌々しい日。あの時、左腕を失い、怪物となる前のひなたが戦った、元村人達。元、恩人。彼等はゾンビとなり、ひなたに襲いかかった。

 その黒幕。最後にひなたが破れ、全てを失う原因となったあの男。あの男が作り出す軍団。

 それこそが、目の前にいるゾンビ。人道も何もない手段によって作られた、意のままに動く死体の兵。ひなたが情報屋に足しげく通ってまで欲しかった情報の一つであり、あの男が近くに存在する、という証明である存在。

 思い出す。震える体で銃を構え、ただ撃ちたくないと叫んでいるのに、迫ってくる元村人を。逃げ込んだ先でゾンビ化し、ただ一言。殺してくれと呟いた恩人を。それを泣きながら撃ち貫いたあの時を、あの瞬間を。

 だが、もう手は震えない。涙は出ない。殺すことこそが、彼女に唯一出来る事だから。安らかに眠らせる事しか、もう方法は無いのだから。

 

「待っていたよ、お前を……あの男に近づくためのパーツであるお前を」

 

 全ては復讐のため。

 あの男を抹殺するため。そのための、キーパーツの一つ。だが、それを保護しようとはしない。話を聞こうとはしない。こうして対峙した以上、戦わざるを得ない。

 

「だけど、お前は……お前の存在はボクが許さない。この場で消滅させてやる!」

「ジャマモノ……コロス……クウ!!」

 

 見られただけで十分だ。見つけただけで十分だ。

 だから、精一杯の慈悲をかけて。ひなたの中に残る僅かな良心にかけて、この少女は、この生きながら死ぬ地獄から解放しなければならない。

 ひなたの目が碧から紅に染まり、ゾンビの少女の紅の目がひなたを貫く。

 直後、ひなたの首に衝撃が走った。

 

「がっは……!?」

 

 一瞬意識が飛んだ後に自分の体が宙に浮いているのが分かった。

 息が詰まり、一瞬で体力の半分以上が持っていかれる。そして、首に徐々に何かが食い込んでくる。

 一瞬で肉薄され、首を掴まれたと分かったのは、息が詰まり呼吸が完全に出来なくなったと理解した時だった。思わずその息苦しさに足掻こうとしたが、ゾンビには力比べは通用しない。それを思い出し、混乱する頭で魔弾を作成。それを足で蹴り潰しながらゾンビの腹にぶつける。

 そして砕かれた魔弾から魔力の壁が生まれ、ゾンビを吹き飛ばした。シールドの魔弾は零距離で放った場合、魔弾の外側にいる相手を問答無用で吹き飛ばす効果がある。それを応用し、ゾンビを吹き飛ばした。その時、ひなたの首から手は外れ、足は地に着いた。

 

「げっほがはっ……! あの速さ……人を食った後だな!」

 

 ゾンビとて、常に全力で動けるわけではない。全力を出す条件の一つが、人肉を食らうこと。それでゾンビはゾンビとしての本来のスペックを発揮する事が出来る。そして、あの速さ。人間の動体視力を超えた速さは明らかに人間を食った後。しかも、その直後だろう。

 面倒なゾンビが来たものだ。まだ人を食っていないゾンビなら食われないように立ち回ればいいが、食ったゾンビとなると今のひなたではキツい物がある。

 ――そして、シールドも一撃で破壊される。

 

「ガァァ!!」

 

 吹き飛ばされたゾンビの一瞬での肉薄。シールドがただの一回のパンチで砕かれた。それに驚きもせず、もう一枚を起爆銃で放って展開する。直後、ひなたはゾンビへ向かって走った。

 一撃で再び破壊されるシールド。だが、拳を一回放った直後の硬直。それを狙い、ひなたがゾンビに組み付いた。

 

「グゥゥ!?」

 

 組み付かれた事に困惑するゾンビ。だが、ゾンビの力なら簡単に振り切ることが出来る。

 それを知っているからこそ、起爆銃を持った手をゾンビの顔に押し付け、視界を遮った状態にし、なるべく時間を稼げるようにする。そして――

 

「ラァ!!」

 

 ゾンビの首筋に、噛み付いた。直後、肉を食いちぎり飲み込み、噴き出した血を口を近づけて飲む。ひたすらに飲む。振りほどかれるまで、飲む。だが、一秒と少しの時間が経った時にはひなたは振りほどかれ、手を掴まれ、投げ飛ばされた。しかし、ひなたも空中で何とか体勢を整えて受け身をとった。

 そして、可能な限り全力で立ち上がり、起爆銃のシリンダーを開いた。

 

「ふぅ……クソマズい血、ごっそーさん」

 

 口についた血を袖で拭き取り、たったの二秒で次の六発の弾丸を作り出し、腕を振るってシリンダーに弾を収める。

 

「さぁ、第二ラウンドだ、ゾンビ娘……ッ!」

 

 戦いは、ここからだ。




クソ雑魚魔弾使いVS人間を超越したナニか

第二ラウンドはまた明日
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