翌日の朝。
その日は学校への初めての登校日。転入する日とも言えるが、今日の予定は特に他の学生と変わらない時間に学校へ向かい、教室ではなく職員室へ行き、そこで話を聞いてから転入の挨拶をして授業……らしい。
そしてひなた達の扱いだが、ひなたは親の事情で海外に住んでいたが、自身の我儘と親戚の引っ越しが被ったためあの家に引っ越してきた帰国子女となり、シャーレイとミラはそんなひなたと仲が良く、ひなたに引っ付くように海外から転入してきた、という感じだ。ひなたとミラは事故で手と足を失ったという事や内二人は外国人という事もあり、どうやら三人は本来別々のクラスに入る予定が特別処置で同じクラスに転入するらしい。
その他にもひなたとミラは体育は自由参加だったり色々とあるのだが、そこら辺はひなた自身完璧に把握していない。どうせ体育だろうが何だろうが自分達なら大抵のことはそつなくこなせる自信があるからだ。
だが、それ以前の問題が一つ。
「まさか生きている内にセーラー服を着ることになるとは……」
今のひなたは少女。男ではない。なので学ランではなくセーラー服を着用することになる。スカートには既に慣れたひなただが、それでも普段外に出るときはボーイッシュな物を好んでいるため、その顔はあまり機嫌がいい物とは言えない。それにスカートの内側を見られるという危険性も付き纏ってくる。
別に見られても、とは思うのだが好んで見せたいという訳ではないし、学生だった頃のように振る舞っていたらスカートの中が見えてしまう可能性も。
セーラー服を着てから渋い顔をしていたひなたは暫し考えて、思いついた。
そうだ、何時ものショートパンツを見えないように履こう、と。ついでに足にはホルスターと起爆銃。これは一時間ごとに自分で幻覚魔弾を押し付け割ることで隠す。見つかったら面倒なことになることは変わらないしこれが足にないまま何時間も外にいたら結構不安になる。
ベルトでしっかりとショートパンツとスカートがずり落ちないように固定してから鞄の中に忘れ物が無いのを確認してから部屋を出る。自分の体を見下ろすとセーラー服を着ている自分の姿がある。それに違和感を感じないことは無いのだが、何だか女物の服を着ることに慣れてしまった自分がいる。
溜め息を吐きながら階下に降りれば既に自分と同じデザインのセーラー服に身を包んだシャーレイとミラがいる。
「お待たせ……」
「あ、やっと来た」
「……遅かった。何かあった?」
「なんでも……」
何だかコスプレしている気分で少し恥ずかしいし二十一になったのにまた若返って中学校、というのに多少どころではない不満がある。再三の溜め息を吐いてから行こう、と二人に声をかける。
セーラー服のまま外に出るという行為に少し顔を赤らめながらも昨日通った道のりを辿って三人並んで学校へと向かう。
「そういえば」
そうして三人並んで歩いている最中にシャーレイがひなたに声をかけてきた。
どうしたの? と中身のない左袖を軽く振りながら聞くと、シャーレイは少し言いづらそうにしてから考えていた事を口にした。
「その、ほら、私って勉強とか生まれて一度もしたことないし……色々と大丈夫かなって」
「……私も」
聞かれたことは、まぁ最もな事だった。
二人は小学校なんて行くことなくこの年齢まで育っていた。片方は生きるのに必死でそんな余裕はなく、もう片方は既に物騒なことをして金を稼いできたため勉強なんて必要がなかった。なのでいきなり中学二年生の勉強を、それも途中からしろと言われても出来やしないだろう。
しかも、掛け算とか割り算とか言われてもきっと二人は理解できない。そういった計算は日常生活で必要なためしてきたが、三角形の面積とかそんな事を言われても何のことかサッパリだろう。
「そこら辺はボクがカバーするよ。都合よく三人一緒のクラスだし何とかするさ」
だから、そこら辺はひなたが全力でカバーする。
今更中学校の勉強とか言われてもきっと思い出せない部分も多数あるだろうが、それでも元々は大学まで行った身だ。何とかするしかない。それが二人をこの世界に連れてきてしまった自分に付きまとう責任だろう。
そうなると、学校に通いながら小学校の数学や理科の問題集でも解いてどうにか学んでもらうしかない。それまではひなたが教科書などを読み込んで予習するしかない。幸いなのは国語や英語はどうしてか簡単に書けるし読めるらしく古文までサラサラと読めていたため、ここはノータッチでも問題はないだろう、ということだ。
シャーレイとミラがホッとして胸を撫で下ろし、再び学校へ向かって歩を進める。
歩いている最中、視線を時々感じながらようやく学校へ辿り着く。学校の敷地内に歩を進めると更に視線を感じた。やはり銀髪は目立つらしい、と思ったがどうやらシャーレイもミラも視線を感じているよう。
恐らく外国人と片手片足が欠損した少女、というのも視線を集める要因になっているのだろう。特に片足が無く杖を付いているミラは結構注目されている。ひそひそと可哀想、とか聞こえてくる。
「……この国は陰口が好き?」
「少なくともあっちよりは」
やり方が陰湿なのが多い、とも言えてしまうが。
視線を感じながらもそれを全て無視して学校内へ。靴箱は空いている場所を使えとあの紙に書いてあったのでそこにローファーを入れて代わりに鞄の中から上履きを取り出してそれに履き替える。シャーレイとミラはかなりめんどくさそうにして、更にミラは杖の先を綺麗な布で拭くこともしていたためかなり嫌な表情をしていたが、これもルールだと大人しく履いていた。面倒な文化ばかりな国で本当にごめんなさい。
片手だけで謝ってから次は職員室へ……の予定だったが、ふと思った。
職員室、何処だ。
「……ヒナタ?」
「いや、ボクもこの学校は初めてだし……」
そういえば校内の地図とか無かった。多分あったとしても見逃している。というかスルーしている。
どうしよう、困った。むやみやたらに歩き回っていても絶対に職員室は見つからないだろうし魔弾でエリアサーチ紛いの事をしても分かるとは思えない。ってか魔弾使っているのを見られたら色々と面倒だ。いや、面倒なんて物じゃない。引っ越し退去ものだ。ってか今人の目あるし。
はてさて、どうしたものかと悩む。暫し昇降口で悩んでいると、目の前に大人の女性が来た。
「あ、もしかして暁さんにランフォードさんと、それとマイヤーズさん?」
「え?」
いきなり名前を呼ばれて疑問の声をあげるひなた。
声をかけてくれた女性。つまりは先生の方へ視線をやると、大体二十代後半か三十代前半辺りの女性が色々な物を抱えた状態で突っ立っていた。
「あ、合ってた?」
「え、あ、はい、まぁ……」
いきなり声をかけられて少し困惑するひなた。自分ってこんなにコミュ障っぽかったっけ? なんて思いながらも困惑している心を無理矢理沈静化させる。
自分が情緒不安定だということには自覚はあるが新たにコミュ障かもしれないなんていう事実に少し困惑を残しながらも至って平静を保ちながら教師の言葉を聞くことにする。
「もしかして職員室が分からなかった?」
「えぇ、まぁ」
「なら私に着いてきて。あなた達の担任だし、歩きながら話しましょ?」
どうやら声をかけてきた先生は自分達の担任だったらしい。
担任って? と聞いてくるシャーレイに小声で学校内のクラスの一つを受け持っている責任者みたいな物だ、と教えてから担任の後を追って歩き始めた。
担任の背は十九歳の頃のミラとあまり変わらない感じで女性としては大きいほうだろうか。なので見逃すという事はなくしっかりとその後ろを追従していく。そうして歩いている内にいつの間にか階段をミラに合わせてゆっくりと上がってから二階にあったらしい職員室に着いた。その間に担任の自己紹介を軽くされ、名前は一応記憶した。
「えっと、確か教科書とかは先に買ってるんだっけ?」
「あ、はい。必要なものは大体」
大体、と言ったのはもしかしたら家になかったが必要だったものがあるかもしれないからだ。だから、後で買いに行けるように、気付けませんでしたと言えるように全部買っておいたとは言わない。
担任もそれは分かっているのか無い物があったら誰かから借りてね、と言ってくる。
こういう問答はひなたがやると先に言っておいたのでミラもシャーレイも職員室の中を興味深そうに眺めるだけに終わっている。そんな二人を見て担任は小さく笑った。
「外国と日本って結構違うでしょ?」
「え? えっと、はい。あんまり見たこと無かったので」
「あら、日本語上手いのね。まだ朝のホームルームまで時間があるからゆっくりと見ていってね」
外見が外国人なシャーレイが結構流暢な日本語を口にしたのが素直に感嘆に値したのだろう。担任はシャーレイにそう言うと書類を纏め始めた。ひなた達は流石に立ちっぱなしは辛いだろうと言うことで他の教師が持ってきてくれた椅子に腰を下ろした。
時々やってくる生徒がこっちを見て興味深そうにしているが大抵すぐに用事を済ませて職員室から出ていく。特に現状視線を集めているのはひなただろうか。座っていると案外足がないミラよりも腕がないひなたの方が目立っている。
そうして人が出ては入ってきて、出ては入ってを繰り返しているうちに予鈴がなる。その音にビックリするシャーレイとミラ。一応話はしておいたがやはり実際に聞くとびっくりしてしまったのだろう。
「じゃあ、行きましょうか」
出席簿を手にした担任がひなた達を先導する。その最中ですれ違った教師達が挨拶をしてくるので一応挨拶を返す。
だけどハローと言われると少し困惑してしまう。自分たちって英語圏から来たことになってるのか? なんて思いながら自分たちのクラスである2-Cに到着する。教室の中からは生徒たちの話し声が聞こえてくる。
「私が入ってきてって言ったら入ってきてね」
「分かりました」
そう告げて教室の中へと入っていく担任。暫くして教室の中が静かになり先程の担任の声が聞こえてくる。
暫く、と言っても数分程度だが暇になる。ひなた達は自然と顔を合わせた。
「……そういえば転入後の自己紹介とかあるんだけど、考えてる?」
「え? そんなのあるの?」
「一応ね。まぁ、あっちでの事はあまり言わないように」
つまりシャーレイは最初スラムで住んでいました、とかミラは魔獣狩って生きていました、とかそういう物を口に出さないでくれ、という事だ。あとシャーレイに関しては夜中の事も。これは特にキツく昨日の夜から言っておいた。
それはシャーレイもミラも分かっているので黙って頷く。
だが、こうなるとひなたも一応何か考えておかなければならない。が、何も思いつかないので取り敢えず愛想笑いだけして印象だけはよくしておこうと少し小癪なことを考える。
そうして色々と考えているうちに担任から入ってきてくれと呼ばれ、それに返事だけしてひなたから先に中に入る。
入ってすぐに教室の中の生徒からおぉ、と声が聞こえてくる。が、すぐにひなたの左袖に腕が通っていないのを見ると一瞬中の空気が凍った気がした。え、先生そういうこと先に言っておいてくれなかったの? と担任を見つつ指示に従って教壇の前に立つ。
続いてシャーレイが入ってきてもう一度声が上がりミラが入ってきてまた空気が凍る。露骨だなぁ、なんて思いながらも担任の言葉を待つ。
「はい、じゃあ自己紹介よろしくね」
その言葉にじゃあ自分から、と二人に自分を指さして聞いてみると頷いてくれる。
「えっと、暁ひなたです。この間こっちに戻ってきました。仲良くしてもらえると嬉しいです」
と、満面の愛想笑い。
まぁこんなモンだろうとチラッとシャーレイとミラを見てみると何だか有り得ない物を見たって感じの顔をしている。いや、これくらいの愛想笑いはいいでしょ? と思うが果たして。
「シャーレイ・ランフォードです」
「ミラ・B・マイヤーズです」
『この人猫被ってます』
「何でそういう事言うかなぁ!!?」
指差しながら言われた言葉に思わず声を荒げてしまう。
何やかんやで転校最初の挨拶はグダグダになった。
外見だけはいい三人組です。外見だけは