ひなたに掛けられた制約。それは計二つの事を成す事によって一時的に解くことが出来る。
その内の一つが、先ほどもやった行為、『人間の血を吸うこと』だ。ゾンビが人間にカウントされるのかどうかは微妙だったが、こうして血を吸った事により、十分の一以下にまでなっていた自分の力が半分ほど戻ってきたのを感じる事から、人間としてカウントされているらしい。これによって魔弾の作成時間は二秒程までに縮まり、魔力も倍近くにまで増幅した。これで魔弾を使った戦いでの魔力切れはほぼ有り得ないだろう。この力の解放が終わる頃には戦いは終了しているし、そんな時まで魔弾を作り続けたら本来の力を取り戻しても魔力切れはしてしまう。
血を吸った事による気持ちが昂ぶり、首にずっとしがみついていた鈍痛が徐々に晴れていく。更に自分に魔弾を撃ち込み、五感と自身の反応速度も強化する。これが血を吸った事による恩恵、魔弾の強化。シューターの威力も強化され、シールドも強度が増し、その他の魔弾も効果が強化される。これによって、ゾンビ相手でもそこそこ戦えるようになる。
空いた弾倉に新しくシューターの魔弾を装填し、先手必勝でシューターを五発発射する。が、それは全て見切られ、ゾンビは一瞬で肉薄してくる。が、反応しきれない程ではない。すぐにシールドを放って己とゾンビを遮断し、魔弾の作成に入る。
ゾンビはパンチをシールドに当てたが、強度が増したシールドに驚き、硬直する。そして、二発目を放ったと同時に七発の魔弾の作成が完了し、リロードと同時に一発の魔弾を自分の口に弾き飛ばす。それが口に入った瞬間にかみ砕き、硬直するゾンビへ向けて銃口を向ける。
「ジェノサイドバスタァァァッ!!」
叫び、ジェノサイドバスターを放つ。前よりも遥かにその威力は増し、当たればタダでは済まない程になったビームだが、それが当たる寸前、ゾンビは一瞬で跳躍し、それを躱していた。それに舌打ちしながら落ちてくるゾンビを見てジェノサイドバスターのコントロールを全て破棄し、己に五秒だけ身体能力を強化する魔弾を撃ち込んでから後ろへ向かって跳躍した。
直後、目の前にゾンビが降り、その衝撃で地面が陥没し、ひなたの体も更に後方に飛ばされる。その衝撃を上手い事利用して空中で回転し、地面に一度手を付く。そして、衝撃の力と己の腕力で更に後ろへ向かって飛ぶ。その際に魔弾を何発かゾンビの降った場所へ撃ち込んでおくのは忘れない。
足が地面に付き、完全に衝撃を殺した所で魔弾の作成に入り、シールドを放ってからリロード。その直後にゾンビが一瞬で肉薄してきてシールドを割り砕く。それに合わせてシューターの魔弾を五発放つ。ゾンビは対応出来ずに全弾当たって吹き飛ぶが、どうやらダメージは無いようで、すぐに起き上がった。
「やっぱり殺さないと……頭を消滅させないとダメ、か」
ゾンビを殺す方法。それは、一つしかない。
頭を胴体と切り離す事。それだけだ。穴を空けるだけじゃ足りない。消滅。文字通り、消し飛ばさないとゾンビは無限の体力で襲い掛かってくる。リロードしながら、それを再び頭の中で思い出し、舌打ちをしながら再び起爆銃を構える。
やはり、人肉を食った直後のゾンビは一筋縄ではない。そう易々と倒せるような存在じゃない。
――それに、腹が減ってくる。
「コイツ……ヘン、ナニオイ」
「変な臭いか……そんなのは知らないね」
こっちは全ての攻撃に注意を払わないと火力負けする。と、いうか一撃でもくらったらそのまま戦闘不能まである。最初の攻防で殴られなかった時点で幸運だった。あれで死んでいても可笑しくはなかった。それを噛み締めながらも相手を睨む。もう一つの制約が解除されていないのは感覚で分かる。だが、それでも半分の力でここまで苦戦するのは、予想外もいい所だった。
このゾンビ、明らかに過去に戦ったゾンビよりも性能がいい。いや、判断能力が高いと言うべきか。ここまで人間らしく……当たる攻撃を避け、確実に殺すために急所を狙ってくるゾンビは初めてだ。普通のゾンビは相手を動けない状態、もしくは殺害してから食いにかかる。だが、このゾンビは完全にこっちを殺す事しか頭にない。そして、それを成すために最適な行動を繰り返して襲ってくる。
魔弾を一つ生み出し、それを噛み砕く。それは回復魔法を詰めた魔弾だったため、首に僅かに残っていた鈍痛がそれで治っていく。が、それでも完全に回復したという訳ではなく、もう一回掴まれれば、確実に首をへし折られる。ひなたが近距離での対処方法を知っているというのを学んだゾンビが、また首を掴んで悠長にしているとは考えられない。
「ヨクワカラない……ケド殺ス!!」
「こ、言葉が……!?」
一瞬、ゾンビが流暢に言葉を発した気がした。だが、それを確認する前にゾンビはひなたへ……ひなたの顔面へ向けて飛びかかる。獣のような飛びかかりを見てからすぐ、ひなたも前に走り出し、体が交差する寸前にスライディングをしてゾンビの真下を抜けていく。そして、すぐに手を付いて上半身を起こし、振り返りながら魔弾を三発放つ。が、ゾンビはそれを手で消し飛ばし、今度は体勢を低くして突進を仕掛けてくる。
それを後ろに飛びながら魔弾を二発撃ち迎撃するが、止まらない。それに舌打ちしながら足元にシールドの魔弾を生み出し、それを踏み砕く事でシールドを作り出し、上空へ向けて跳ねる。そして、空中に飛びながら六発の魔弾を作成し、空中でリロード。自然落下に身を任せ、下を見る。ゾンビが自分を追って飛んできているのを確認してからリロードしなかった残り一発の魔弾を起爆銃から魔弾を撃ち出し砕くことで魔法を発動。己の腕にバインドのチェーンが巻き付き、腕に物凄い衝撃がかかると同時に腕を支えに体が止まる。そして、少し体を揺らしてゾンビが自分の真ん前を素通りするのを確認してから再び魔力だけを詰めた魔弾を作成し、噛み砕き、チェーンで固定された腕で何とか照準を空中のゾンビに合わせる。
「撃ち抜け!!」
叫び、ジェノサイドバスターを放つ。しかし、ジェノサイドバスターは空中で身を捩ったゾンビに避けられ、空へと無意味に昇って行った。それに舌打ちをしながらバインドを魔弾で打ち砕き、自由落下に身を任せ、途中でシールドを撃って緩衝材にしてから地面に降りる。
それと同時にゾンビも少し離れた場所に勢い良く降りてくる。どうやら、落下ダメージは無いらしい。
「はぁ……はぁ……これでもまだ倒せないか」
若干の魔力切れから来る息切れに予想以上の苦戦を強いられているのを確認してから目の前のゾンビを睨む。半分の力を発揮しても中の下程度の力しかないひなたには、あれだけの無茶な行動をさせられたら流石に魔力が切れかける。
魔弾をリロードしてから構え、ジリジリと後退していく。
ここは逃げたほうがいい。ここまで強いゾンビを相手取るのは今は不可能だ。ゾンビの性能が落ちた所で狙わないと……
だが、相手がそれを許さない。再び肉薄し、拳を振るってくる。
「ぐぅ!?」
それを辛うじて避ける。が、ゾンビは伸ばした手を曲げ、ひなたの首裏を掴むと、そのままひなたの体を寄せ、頭突きを繰り出した。それにひなたは声にならない悲鳴を上げる。
額が完全に割れ、血が噴き出す。しかし、ゾンビはそれを無視して離れようとするひなたの体と頭を無理矢理寄せ、口を開いた。
「おマエ……ソノ匂いハダレノモノだ……」
「ぅ、ぐあ……し、るか、よ!!」
額からズキズキと響いてくる痛みに喘ぎながらも拒否の言葉を放ち、零距離で魔弾を放つ。それによってゾンビの体がくの字に曲がるが、ゾンビはひなたから手を放すと、拳をひなたの顔面に繰り出した。が、ひなたはそれを避け、ゾンビの額に起爆銃の照準を合わせるが、それを外側から叩かれ、照準が明後日の方向を向く。
その隙を突いた拳が襲い掛かるが、それを首の動きで避け、再び照準を額に合わせる。しかし、それも内側から叩かれ、意味を成さない。
ガンカタ対徒手空拳。五感が強化されたひなただからこそ、ギリギリ反応の出来る速さで繰り返される拳と銃の応酬は完全に互角……いや、額が割れ、その痛みによる意識の混濁と流れる血による視界の遮りのせいでひなたの方が完全に不利だった。それでも、ガンカタをし続けれたのは、相手が本能で行動する故の動きの読みやすさと今まで戦ってきた経験故だった。
しかし、万全の状態ならまだしも、手負いのひなたではそれもタカが知れている。すぐにひなたは首を掴まれ右手を抑えられ、押し倒された。そして、馬乗りにされ、完全にマウントと優位を取られてしまった。
「答エロ……お前カラ匂ウもうヒトリの人間のニオイ……ダレの物ダ」
「もう、一人……? シャー、レイの事か……?」
小さく喘ぎながらもひなたは打開の策を考え、時間稼ぎくらいにはなるだろうと、ゾンビの質問に答えた。その答えにゾンビは何か思い出したのか、首を拘束する力が弱まった。
それでも抜け出すことは出来ないが。
「シャー、レイ……」
「ス、ラムに住ん……でた。シャロンってぇ……はぁ、女の子と、一緒に!」
「シャロン……? シャロン……」
そして、完全に拘束が緩まった。その瞬間、ひなたは腕を振り払い、自分の口に魔弾を作成し、噛み砕き、銃口をゾンビの右腕……未だ首を掴んで離さない手の付け根である肩に向けた。
「ジェノサイドバスター・ペネトレートォ!!」
そして放たれたジェノサイドバスターは何時もよりもビームが小さかったが、一瞬でビームを全て放出し、ゾンビの右手を型から完全に焼き切った。
ジェノサイドバスターのバリエーションの一つ、貫通力に重点を乗せたビーム、ジェノサイドバスター・ペネトレート。今のひなたなら人体を切断する程度は簡単だった。
「ウゥ!?」
「飛べ!!」
そして、腕が自分の近くに落ちたのを確認し、すぐにゾンビの眉間に照準を合わせてシューターを放ち、ゾンビを吹き飛ばした。そして、焼き切った手を起爆銃を持った手で掴み、立ち上がる。その時には、既にゾンビは立ち上がっていた。
だが、様子が変だった。ゾンビは頭を残った左手で抱えながら呻いている。
「……な、何だ?」
朦朧とする頭でひなたはその行動に疑問を持つ。
が、その答えはすぐにゾンビの口から放たれた。
「『シャロン』ハ…………『私』、だ!! 『シャーレイ』は、『家族』ダ!!」
「え……?」
その言葉にひなたの思考回路が完全にショートした。
目の前のゾンビは今、何と言った? シャロンは、自分だと? シャーレイと共に生きてきた少女、シャロンは自分だと……? まさか、そんな訳があるか。シャーレイ・ランフォードと共に生きてきたシャロンという少女は拳銃で殺されたんだ。決して、あの男に殺された訳ではない。
なのに、自分をシャロンだと言っている。
まさか、そんな訳が。そんな事があってたまるか。
だとすると、あの男達は……ボコるだけボコって放置しようとしたあの男達は。
――全ての元凶たるあの男に繋がっている事になるんだぞ。
そんな事が。そんな残酷な事があってたまるか。
シャーレイまでもが、あの男の毒牙にかかっていた……あの男の齎した災厄の被害者であった。
正気を取り戻したゾンビが、シャーレイの身内だったなんて……そんなの、残酷すぎる。どうして、彼女はシャーレイを守ってなお、こんな残酷な事をさせられているんだ。
「ウウゥ…………アァァァァァァァァァァ!!」
直後、ゾンビは……シャロンは、己の持てる全ての力で飛び、近くの建物の屋根に飛び移ると、そのまま何処かへと去っていった。
「あっ! 待て!!」
そう口にしたはいいものの、ひなたにはシャロンを追う手立てがない。そのため、シャロンを追うことが出来ず……しかも、額からの出血に目まいを覚え、焼き切った手を持った手で自分の額を抑えた。
出血がひどい。何処かで治療しないと。せめて、この制約が解除されている状態で回復魔法を使って出血はどうにかしないと、何処かで気絶してしまう。すぐに回復の魔弾の作成に入り、手を片手にフラフラと近くの細い路地へ向かって歩みを進める――が。
「オラァ!!」
「あがっ……!?」
直後、後頭部に物凄い衝撃が走り、前のめりで倒れてしまう。
何でかシャロンの腕だけは抱えるように持っており、ひなた自身の意識はもう一割も残っていなかった。
「はぁ……はぁ……や、やった?」
「ど、どうやら限界だったみたいだな……」
ひなたを倒したのは、シャロンを呼んだ男達だった。既にその数を半分近くにまで減らした男達だったが、ひなたとシャロンの戦いに巻き込まれ、逃げるにも逃げれずにずっと縮こまっていたのだ。そして、シャロンが去ったのを見て男は近くに落ちていた石でひなたの後頭部を思いっきり殴りつけた。
その結果、もう限界の限界であったひなたは倒れた。腕を抱えて倒れたひなたは小さく動いてはいるものの、額を後頭部からの出血でもうマトモに動けないのは一目瞭然だった。
「……こいつ、どうする?」
「ボスの所に運んでもいいが……コイツのせいで俺達はド叱られたんだ。何したっていいだろ」
「犯すか?」
「幼女趣味はねえが……溜まってるし犯してやろうぜ。で、犯し尽くしたらそこら辺の野郎に売ればいい」
「いいねぇ、そうするか」
ひなたは先程よりもモゾモゾと動いていたが、そんなのお構いなしに男達はうつ伏せで倒れているひなたを蹴って仰向けにした。ひなたは自分の顔にシャロンの腕を押し付けていたが、それが不幸にも己の体を晒してしまう格好になっていた。
「おい、ナイフねえか。服を裂くぞ」
「持ってねえな……他は? …………ちっ、持ってねえってさ」
「んだよ、使えねえな……もういい、まずはローブから剥いじまうぞ」
そして、いとも簡単にローブは剥ぎ取られ、投げ捨てられた。ひなたはそれでも動かない。ずっと、シャロンの腕を顔に押し付けている。
「ん? 何だコイツの服。ヤケにしっかりとしてんな……」
「どうする? もう下だけ使えりゃ十分だし下だけ脱がせるか?」
「そうするか」
そして、男の手がひなたのショートパンツにかけられる。
このままひなたは男達の思い通りに好き勝手に体を弄ばれ――かと思われた。が、ひなたを囲んでいた男の一人が異常に気が付いた。それが何なのかを完全に理解すると、悲鳴を上げながら腰を抜かした。
「ひぃぃ!!? こ、このガキ……や、やべぇぞ!!?」
「おいおい、どうしたんだ?」
「あ、あれ……あれ見ろ!!」
男が指を指す。それは、ひなたの顔……正確には、口元だった。
それが最初は何なのか分からなかったが、それが理解できた人間からひなたから一気に距離を取った。
コイツはヤバい。近づいちゃいけない。いや、もう触っちゃいけない。真っ先に逃げないと、もしかしたら殺される。それを最後の一人が気が付いた瞬間。
「死ね、クソ野郎」
ひなたはシャロンの腕を投げ捨て、右手の起爆銃の照準を男の眉間に合わせると、そのまま引き金を引いた。
――それだけで、男の眉間を魔弾が貫き、男は一瞬で絶命した。
「こ、こいつ、簡単に人を殺しやがった!?」
「うっせぇ……お前らもやった事だろ……今更ビビるなよ。股間に玉付いてんのか……?」
ゆっくりとひなたは立ち上がった。その瞳は今までよりも色鮮やかな、しかしドス黒い紅に染まっており、まるで発光しているかのように綺麗に見えた。
「くくっ、はははは……もうさぁ、頭ぐわんぐわんしてなーんにも考えられないんだわ。けど、お前らを殺せば多少は気が晴れるってのだけは分かるの」
ひなたの目の前に一瞬で魔弾が作成され、リロードされた。完全に弾が込められた起爆銃を向けられた男達は悲鳴を上げながら逃げようとする。その姿を見ながらひなたは呟いた。
「さぁ……極刑の時間だよ?」
直後、鮮血が舞った。
あーもうひなたの正体バレバレだよ