とある島へ落下物語   作:【時己之千龍】龍時

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第01話 ながさ…いや、らっかして

 何も無い…何も見えない空間だった。

 

「ここは何処だ」

 

 すると龍燕の身体が何かに引っ張られた。

 

「…出口か?」

 

 引っ張られた先に一点の光があった。

 

 

 

 

 

─海岸

 

「暇ね…」

 

 まちは海を見ながら言った。

 

「何か起きないかしら」

 

 溜息をつきながら立ち上がる。すると何かが後ろにドスンと音を立て降ってきた。

 

「何?」

 

 振り返りながら反射的に構えるまち。

 

「痛つっ…」

 

「貴方…は?」

 

 降ってきたのは人だった。

 

「お前は誰だ?」

 

 空から落ちてきた人は立ち上がり、服についた砂を落とし始める。

 

「貴方は?」

 

「灼煉院龍燕だ」

 

「龍燕ていうの。何故空から?」

 

「遺跡の中にいた筈なんだが…何故か真っ暗なとこにいて、光を辿って来たら落下した」

 

「…そう」

 

 まちは言っている事がよく理解が出来なかった。

 

「とりあえず、オババのところに行きましょ」

 

「……わかった」

 

 オババの家に行くとそこには先客がいた。

 

 

 

 

「君は?」

 

「私はすず」

 

「東方院行人です。貴方もこの島に流れ着いたんですか?」

 

「正確には…落下した、と言うべきか」

 

「「落下?」」

 

 行人とすずは驚いたように復唱する。

 

「その話しは本当か?」

 

 オババは半信半疑で龍燕に聞く。

 

「彼が言っている事は本当よ。私が見たもの」

 

「そうか」

 

「しかし、なんというか…外にいる人達の目線が痛いな」

 

 龍燕が来た時既に集まっていたが、さらに集まって来ているようだった。

 

「そういえばこの島で行人以外の男性はまだ見ていないが…」

 

 龍燕はここまで歩いて来た道程には女性ばかりで男性は見当たらなかったことを思い出す。

 

「今いる男は、落ちてきたお主と流れ着いたお主だけじゃよ」

 

 オババは龍燕と行人を交互に見て言った。

 

「なん、だと?それは本当なのか?」

 

「本当じゃよ。ここいた男は皆、毎年行われていた『漢だらけの大船釣り大会』にの、丁度十二年前に起こった百年に一度級の津波によって島の外に流されてしまったんじゃよ」

 

 そのオババの話に龍燕は悩んだ。行人は驚きで言葉が出てこないようだった。

 

「まさかそんな島があるとは……。しかし、この視線はどうにかならないものか?」

 

 周りの女性の視線が殺気と間違いそうな感じに身体に突き刺さる。

 

「これは誰かの『モノ』にならんと治まらんじゃろ。まぁ半分ずつといってもいいんじゃがそれではいろいろとお主らも大変じゃろ?」

 

 後半の発言中オババは頬を赤く染め、横目で行人と龍燕を見てきた。

 

「いきなり何を言ってるんだ」

 

 龍燕は呆れたように言った。また帰り方がわからないため少し滞在することになっても、早く帰りたいと考えていた。

 

「しかしこのままで良いのか?」

 

 龍燕と行人は顔を見合わせ考えるが、良い案が浮かばなかった。

 

「何もないじゃろう?一度この島に入れば一生、外には出られないのじゃ……それにしても」

 

 オババは周りを見る。戸を少し開け見る者や障子に指で穴を開け覗く者、天井に隠れて見る者もいた。

 

「…まぁ、仕方ないじゃろ」

 

 龍燕と行人はオババに言われ外に出た。

 

「第一回!婿殿争奪おにごっこ大会を開催しよう!!!」

 

「「「「「いぇーいっ」」」」」

 

 オババの宣言の直後、さっきまでの緊張感はどこへ行ったのか、ほのぼのムードへと場が変わり、しかもなんか

いつの間にか『第一回婿殿争奪鬼ごっこ大会』と書かれた大幕……下の方には小さく『あいらん花ヨメの会』と書かれている――が現れていた。

 

「「って?ちょ、待てーいぃ!!」」

 

 龍燕と行人は声を合わせて怒鳴るとオババは「なんじゃ、婿殿?」と首を傾げて来た。

 

「婿殿言うな!っていうかなんでいきなり僕達が婿にならなきゃいけないんだよ!?」

「その通りだ!」

「お主らは、先程わしが言った事をもう忘れたのか?」

 

 オババの言葉に二人はっとした。

 

「先程も申した通り、この島には今おぬしら以外に男がおらん。じゃから自然とこういう流れとなるんじゃよ」

「だ、だからって……」

「納得できるわけはないだろう……」

 

 二人はオババにそういうとオババは二人に近づき、耳打ちをする。

 

「婿殿、娘達を見てみい」

 

 オババの耳打ちに従い、自分達の目の前に群がる娘達を見た。そこには、すずを除いた全員から何か嫌なオーラを感じ取れた。何かピンク色の殺気が混じったような……そう、言ってみれば男二人を草食獣とすれば彼女達の気配は獲物を見つけた肉食獣のそれだ。

 

 その光景を前に二人は絶句する。

 

「十二年間眠っていた女の本能が一気に目覚めたんじゃ、これはもう誰かのモノに決めなければ収まらんじゃろ」

 

 すると、行人はピシッと手を上げて言った。

 

「ぼ、僕は14歳!まだ結婚できる年じゃ」

 

「?行人」

 

 龍燕は行人の発言に首を傾げた。龍燕のいた国では十となれば結婚出来たからだ。

 

「何を言っておる?14、5で結婚は当たり前じゃろ?」

 

「そ、そんな……」

 

 オババの言葉に行人は唖然とした表情を見せる。

 

「だが、いきなり結婚もどうかと思うんだが……おにごっこ大会だったな?ならば、それに俺達が勝てばこの場は置いておく、という事にしてくれないか?」

 

「うむ。まぁお主らが選べないなら島民も増えるし、全員を嫁にしてもらってもいいと思ったんじゃがのう」

 

「全力にてお断り申し上げる!」

 

 にやにやと笑いながら言うオババに龍燕が間髪入れずに拒否する。そしてそのまま流されるようにおにごっこ大会が開始され、オババは全員の前に立って説明を始める。

 

「それではおにごっこ大会の説明を始める!規則は三つ!!一つ!範囲は島の西側のみ!特に東の森には入らぬこと!」

 

 オババは東の森に向け、ピシッと指をさす。

 

「二つ!制限時間は一番星が輝くまで!今の時期はあの辺!」

 

 オババがさらにビシッと大きな山へ指をさす。

 

「そして三つ!最初に婿殿に触ったものを勝者とする!ただし!婿殿同士が触った場合は勝者にはならずおにごっ

こは続行される!!」

 

「くっ…」

 

 龍燕は、最後に言ったオババの説明に釘を打たれたように感じた。オババは龍燕を見てニヤリと笑う。

 

「わしがその盲点に気づかんとでも思ったか?……以上!それ以外なら逃げる方も鬼もなんでもあり!!婿殿達が走り出した後、100数えたら鬼の開始じゃ!!」

 

 オババは説明を終了させ、改めて婿殿を向いた。

 

「それでは婿殿、開始の準備をしてくだされ」

 

「少し、待ってくれないか?作戦はもう一つあるのでな。行人に伝えたい」

 

 龍燕の言葉にオババは頷いた。

 

「わかった」

 

 龍燕はすぐに行人に、自分の考えたもう一つの策を伝えた。

 

「行人、始まりと同時に全力で走れ。俺は娘達を飛び越え、逆方向へ行く」

 

「え?」

 

 龍燕の作戦に行人は目を見開いた。

 

「どうして?自爆する気なのか?!」

 

「自爆?いや、二手に別れれば娘達も、もしかしたら半分となるだろう。そのあとは自分で対処をお願いする」

 

 行人は少し考えてから答える。

 

「……わかった。絶対に逃げ切って勝とうな!」

 

「ああ。勝って祝い酒を飲もう」

 

 俺は未成年だから酒は無理だけどと言いつつ、行人は龍燕の手を取り二人は握手を交わすとオババの方を振り返った。

 

「うむ、終わったかの?」

 

 オババの言葉に二人は無言で頷く。

 

「それでは……始めィ!」

 

 オババの声と同時に、行人は地面を蹴って前に飛び出した。それと同時にオババが「1、2、3」と数字を数えていく。

 

「龍燕殿は走らんで良いのか?まさか勝負を捨てたわけではあるまい」

 

「ああ。まだ結婚はしたくないからな」

 

 オババは、龍燕の言葉と行動の差に首を傾げながらも数を数える。

 

「…百ッ!始めィ!!」

 

 オババの叫びと同時に娘達が走り出した。

 

「一人は動いてねぇだ!」

 

「おらが頂くだ!」

 

「あたいだ!」

 

 そんな声が娘達から聞こえながら、龍燕に突進する。

 

「眞炎流歩法術……『蹴跳』」

 

 龍燕の呟きと同時に娘達の視界から消えた。掴もうと、触れようと手を伸ばしていた一部の娘達は急に龍燕が消えたため、倒れ込み、混乱し始めた。

 

「いい、イタタ?」

 

「いないだ?」

 

「どこ行っただ?」

 

「後ろにいただ!」

 

 娘達の一人が自分達のいたスタート地点を指差した。同時に娘達の六、七割が走り出した。

 

 龍燕は走りながら振り返り「えっ」と声を漏らした。

 

「な、なんでこんなに多いんだ?!」

 

 疑問に思いながら、龍燕は瞬動で移動し、娘達を混乱させた。

 

 無事逃げ切った龍燕は川を見つけた。

 

「川か」

 

 龍燕は川の水を手で掬い、喉を潤した。

 

「美味しい?」

 

「ああ、うま……?」

 

 声に気付いて振り返ると後ろでまちが座っていた。

 

「うふふ」

 

 まちは笑いながら龍燕を見据える。

 

「…何故俺の居所がわかったんだ?」

 

「それは…私が龍燕様を思う力よ」

 

「……」

 

 言葉の意味がわからず首を傾げる龍燕。

 

「…本当は式神を使って、手分けして龍燕様を捜したの」

 

「そうか。また、ぐぁ?!」

 

 振り返り瞬動で逃げようとした龍燕だったが、龍燕は予想外に吹き矢を放たれ背中に刺さった。同時に痺れて石の上に倒れた。

 

「これは……吹き、矢?」

 

「そうよ。私の作った、即効性の痺れ薬よ」

 

 まちはその場で頭を下げる。

 

「…改めてまちと申します。不束者ですがどうぞよろしく…うふふ」

 

 龍燕は能力を使い、癒し火で治そうとしたが集中しようとすると痺れが邪魔で集中できなかった。また脚にも、身体自体が痺れでうまく動かない。

 

 龍燕は(これは……詰んだか?)と心中で思った。しかし異変が起きた。

 

「あれ?痺れがひいた」

 

 龍燕の身体から痺れがひき、その言葉にまちは「あれ?」と声を漏らす。

 

「もしかして、即効なだけにひくのも即効なのか?それとも俺の身体の回復が早かったのか」

 

 立ち上がろうとした時、まちは再び吹き矢を構え撃ち放つ。それを龍燕は矢を手で払った。

 

「同じ手は二度も通じないよ」

 

 龍燕は石を蹴り、その場から瞬動で離脱した。

 

 

 

 

 夕方。空に一番星が上がり、龍燕は堂々とオババのところへ向かった。

 

「逃げ切る事に成功した」

 

「うむ」

 

「行人は?」

 

「あそこじゃよ」

 

 オババはすずと一緒にいる行人に顔を向けた。

 

「結果は?」

 

「無事逃げ切る事に成功したのは…龍燕。お主だけじゃよ」

 

「なに?じゃあ行人は……」

 

 オババは無言だった。龍燕は行人の方へ行く。

 

「行人…」

 

「あ、龍燕」

 

 行人は落ち込んでいた。

 

「残念、だったな」

 

「うん。僕はすずの家に住む事にはなったんだけど、龍燕が戻る少し前にすずが……僕の事、いらないって言って……」

 

「いらない?」

 

 龍燕は?を浮かべた。そこへ、龍燕は声をかけられた。

 

「あの龍燕様?よかったらうちのところへ泊まりに」

 

「いや、おらのところに!」

 

「あたいのところへ!!」

 

 龍燕のところへ駆け寄ってきた娘達が、次々と言う。悩んだ龍燕はそこから一歩下がり、娘達を落ち着かせようと声を上げる。

 

「ちょっと落ち着け!」

 

 しかし娘達の耳には届かなかったようで話が次に進む。

 

「!そうだ」

 

 娘達の一人が声を上げた。

 

「龍燕様が決めるってどうだ?」

 

 その発言で皆は納得し、再び龍燕を取り囲む。

 

「「「龍燕様!誰の家に(来るだか)(来ますか)?」」」

 

「え、と…」

 

 流された龍燕は仕方なくその問いに考える。そして娘達を掻き分け、一人の娘の前に立った。

 

「私?」

 

 まちは少し驚いた顔を見せる。

 

「家を作るまでの間、泊めてはくれないか?」

 

「はい」

 

 まちは喜んで答え、他の娘達は「そんな~」と力が抜けた様に地べたについた。

 

 

 

 

 


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